コミックナタリー PowerPush - 「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編]叛逆の物語」

浅野いにおが「完璧」と語る「魔法少女まどか☆マギカ」の魅力とは

「まどか☆マギカ」は構造的に完璧なんですよ

──読み切り作品「朝のにおいは魔法少女を二度殺す」は、やっぱり「まどか☆マギカ」の影響を受けて描かれたんでしょうか。

あれはですね、ちょうど観てて面白いなーと思ってた時期だったので、魔法少女をテーマに、とりあえず描いてみるかと。雑誌に特集ページとかも載って、割と心血を注いだんですよね(笑)。ああいうの、誰も読んでくれないんじゃないかと不安でしたが……。

──当時の記事(参照:月スピに浅野いにお読み切り&魔法少女とクレイジーな対談)では、結構反響が大きかったですよ。

「朝のにおいは魔法少女を二度殺す」が掲載された、月刊!スピリッツ2011年12月号

あー、そうなんだ。よかったです。あれは魔法少女ものの前提知識を、マンガのネタとしてうまく取り入れられないかなと思って。ちょうどその頃、僕が今まで避けていたアニメ文化や、あといわゆる腐女子の文化とかにすごく興味を持っていた時期で。たまたま知り合った腐女子の子に話を聞いたりもしたんですが、やっぱり自分には、同じような楽しみ方はできないなと。

──浅野さんはそういう方たちのように、キャラクターに入れ込むことができない?

そうなんですよね。でも作品全体の構造とかパッケージングの妙みたいなものが、ちゃんとできていれば、それは媒体もジャンルも問わずいいものだと思う。だから「まどか☆マギカ」については、アニメの中で一番好きというよりは、マンガも映画も、全部ひっくるめたエンターテイメント全体の中で、自分の記憶に残るいい作品だったなと思ってますね。ほんと構造的に完璧なんですよ。全体のバランスを見てもそうだし。

──「完璧」とは、どういうことですか?

「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編]叛逆の物語」より。

例えば、1,2話はもう徹底して“ほのぼの魔法少女もの”に見せて視聴者の導入に使った上で、3話目でひっくり返して、それがまた途中でさらにひっくり返って。で、最後になってくると、まどか以外の第2の主人公みたいなのがちゃんといて、とか。そういう気の利いたストーリーテリングっていうのが、ちゃんと破綻なく集約されてる感じが、僕は完璧だなって思ったんですよね。

──それはやっぱり、自分も作家だから、そういう技巧とか手練手管の部分に目が行くところもあるんでしょうか?

そうですね。たぶん作家の人はみんなそうだと思いますけど、そこしかもう僕は観られないんですよ。

コマと絵さえあればマンガになるんだなと

浅野いにお

──「まどか☆マギカ」と、浅野さんが描かれている作品との共通点ってありますか。

「まどか☆マギカ」は、メタ視点を持っているということ自体が、今までのアニメ作品に対する批評性みたいなものを孕んでいると思うんですよね。同じように僕がいま描いている「おやすみプンプン」という作品も、元々は「マンガって変だよな」っていう発想からきてるんです。例えばマンガには、吹き出しっていうものが当然のようにあるじゃないですか。あれだって、誰かが決めたものであって、みんなそれの慣例に倣って読んでるけど、なんか変じゃないかっていうのがちょっとあって。

──確かにマンガを読む上で当たり前になってるけど、よく考えたら変なことっていっぱいありますよね。

だから「プンプン」を始める前に、どこまで崩すとマンガじゃなくなるんだろう、逆に最低限なんの要素があればマンガになるんだろう、って考えてたんですよ。結論としては、究極セリフはなくてもよくて、コマと絵があればマンガになるんだなと。だからプンプンは吹き出しは使わずに、モノローグでしかしゃべらない。それでもマンガとして読めるんですよね。

「おやすみプンプン」12巻

──「プンプン」の場合、主人公が普通の人間の格好をしてないですよね。それも1つのチャレンジということですか?

そうですね。例えば少女マンガとかだと、絵としてはかわいく描かれてるのにモテないとかいうことがある。そういうものだって思って読めばなんの問題もないんですけど、やっぱりなんか変じゃないかって思っちゃうんですよね。だから「変だけど、そういうものなんだ」って思えば、主人公のルックスは何に置き換えようと別にいいんじゃないかと。むしろそれでこそできる話があるんじゃないかとか、そういうふうに思って始めたのが「プンプン」で。なので、「まどか☆マギカ」のような批評性は「プンプン」にもあると思います。

──その見地で観たら、確かに「まどか☆マギカ」もすごく興味深い物語だと改めて思います。

ええ。だから例えば、蒼樹うめさんと虚淵玄さんの組み合わせっていうのも、恐らく計算の上でやってらっしゃるんだと思うんです。ストーリーはハードだけど、その一方でキャラクターの良さっていうのも絶対必要だと思うし。それをちゃんと両立できていて……。

蒼樹うめがカバーイラストを担当した「小説 魔法少女まどか☆マギカ」。

──キャラクターの面では、蒼樹さんの貢献は大きいですよね。

蒼樹さんも自分のかわいい絵柄が、そういう批評的な仕掛けに使われるっていうことに理解がある方なんだなあ、と。だから作ってる方たちについては、「大人だな」って思うんですよ。マンガは作家1人だけどアニメは集団作業だし、チャレンジングなものっていうのはリスクがあるからやりづらいっていう部分があると思うんですが、ちゃんと世に出てるっていう。またそれをちゃんと受け入れられるぐらい観る側っていうのも成長していて。

──確かにこれが、10年前にやったら理解されたかっていうと未知数ですね。

だからある意味、すごく成熟したアニメ文化のおかげで、今があるっていう感じがするんですけどね。

──それもメタ的な視点ですね(笑)。

結局僕はもう、そうじゃないと観れないんです(笑)。やっぱりアニメファンにはなれないでしょう。20年間ぐらい観てないわけだから、今更追いつけないなっていうのもあるので、「アニメ」というよりエンタメのひとつとして楽しむしかないと。でもそういう見方もできるから「まどか☆マギカ」は、ふだんアニメを観てない人への入口にもなると思います。

「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編]叛逆の物語」
「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編]叛逆の物語」公開中
キャスト

鹿目まどか:悠木碧
暁美ほむら:斎藤千和
巴マミ:水橋かおり
美樹さやか:喜多村英梨
佐倉杏子:野中藍
キュゥべえ:加藤英美里
百江なぎさ:阿澄佳奈

スタッフ

原作:Magica Quartet
総監督:新房昭之
脚本:虚淵玄(ニトロプラス)
キャラクター原案:蒼樹うめ 
監督:宮本幸裕
キャラクターデザイン:岸田隆宏、谷口淳一郎
総作画監督:谷口淳一郎、山村洋貴
エフェクト作画監:橋本敬史
副監督:寺尾洋之
異空間設計:劇団イヌカレー
異空間美術:南郷洋一
美術監督:内藤健(stちゅーりっぷ)
美術設定:大原盛仁
色彩設計:日比野仁、滝沢いづみ
ビジュアルエフェクト:酒井基
撮影監督:江藤慎一郎
編集:松原理恵(瀬山編集室)
音響監督:鶴岡陽太
音響制作:楽音舎
音楽:梶浦由記
主題歌:「カラフル」ClariS、「君の銀の庭」Kalafina
挿入歌:「misterioso」Kalafina
アニメーション制作:シャフト
配給:ワーナー・ブラザース映画

(C)Magica Quartet/Aniplex・Madoka Movie Project Rebellion

浅野いにお(あさのいにお)
浅野いにお

1980年9月22日茨城県生まれ。2000年、ビッグコミックスピリッツ増刊Manpuku!(小学館)にて「普通の日」でデビュー。2001年、月刊サンデーGENE-X(小学館)の第1回GX新人賞に「宇宙からコンニチハ」が入選、翌年より同誌で「素晴らしい世界」の連載を開始。個々の短篇からひとつのストーリーを紡ぎ出す構成力と抒情的な作風に定評があり、週刊ヤングサンデー(小学館)にて連載された「ソラニン」は、バンド経験を持つ作者によるインディーズバンドのリアルな心理描写で人気を博し、映画化もされた。2013年まで、週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて「おやすみプンプン」を連載。