コミックナタリー PowerPush - 「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編]叛逆の物語」
浅野いにおが「完璧」と語る「魔法少女まどか☆マギカ」の魅力とは
2011年に放映され、一大ブームを巻き起こしたTVアニメ「魔法少女まどか☆マギカ」の続編となる映画「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編]叛逆の物語」が公開された。TVシリーズ全12話を再編集した劇場版「[前編]始まりの物語」「[後編]永遠の物語」に続く第3作であり、劇場版初の完全新作だ。
そこでコミックナタリーでは公開前のある日、「おやすみプンプン」などで知られる浅野いにおへインタビューを実施。「魔法少女まどか☆マギカ」への思い入れや、今回の劇場版に向けての期待を語ってもらった。
取材・文/安井遼太郎 撮影/唐木元
アニメには拒否感があった
このインタビュー、どうして僕が選ばれたんですか?
──第一には、以前、月刊!スピリッツ(小学館)で魔法少女ものの読み切り(『朝のにおいは魔法少女を二度殺す』)を描かれましたよね。あれで「まどか☆マギカ」がお好きなんじゃないかと思ったからです。
あれだけで? そうかー、薄い動機ですね(笑)。てっきり編集さんか誰かから聞いたのかなーと。
──ということは、ビンゴだったということですか?
はい。それにメーカーの方から、劇場版のBlu-rayセットをお送りいただいた恩もあったりしますので(笑)、あんまりほかの人の作品を褒めるのは得意じゃないんですけど、「まどか☆マギカ」ならと思って引き受けました。
──あと第二の理由として、コミックナタリーで浅野さんの人気は高いですから、浅野さんの言葉なら読者に響くんじゃないかとも思いまして。ガチでアニメ業界の人がアニメを褒めても「ふーん」で終わっちゃうかなと。
なるほど。ただアニメってほんと、好きな人はものすごく好きだから。そういう人たちから「浅野いにおがいまさら何語ってんだ」みたいに思われたりするのが、プレッシャーですね。
──でもうちはアニメサイトじゃないですから、アニメファンへというよりは、浅野さんのマンガの読者に向けて、「こういう面白いアニメがあるんだよ」って話していただければ。
わかりました。そもそも僕はいままで、アニメってほとんど通ってきていないんです。ほんと子供のときから観てなくて、ここ10年のTVアニメはそれこそ「けいおん!」と「まどか☆マギカ」ぐらい。それはやっぱりアニメに対して拒否感があったからだと思うんですね。
──拒否感?
マンガもそうですけど、アニメって独特な文化の積み上げがあって、ある程度は予備知識や適性がないと観られない部分があると思うんです。アニメだからこのキャラクターはこう、っていうお約束みたいな部分もあるじゃないですか。それが自分にある程度は備わっていないと、たとえ作品の骨格がよくできていたとしても、観ていて違和感があるというか……。
──しんどくなっちゃいますよね。
ただ僕が以前連載していた雑誌の担当編集で、アニメとか声優とかアイドルとか、僕が避けてきたものを全部網羅してる人がいて。ぱっと見、そうは見えないんですけど(笑)。編集者だから言語化して説明するのが上手で、魅力をめちゃくちゃわかりやすく教えてくれるんですよ。それで、自分がそういった文化を敬遠してきたのって、そういうのが好きになる理由をしゃべってくれる人がいなかったからじゃないかと。
──ただ「好きだー!」って声高に言う人は多いけれども。
そうなんですよ。けどその人がちゃんと魅力を説明してくれたので、こっちも観てみようかなって気になって。それで、そのときにちょうど人気だった「けいおん!」を観たんです。そしたらものすごく面白くて。ただそこから、次はどれ観ようっていう広がり方はせずに、「しばらくは『けいおん!』だけでいいや」って、ずーっと「けいおん!」をリピートしてました。
──(笑)。
そのまましばらくして「まどか☆マギカ」がテレビでやってるときに、話題だけは耳に入ってきたので、「なんかすごいことになってるんだろうな」とは思ってたんですけど、なかなか観るきっかけがなくて。TVシリーズのDVDが全巻出揃ったぐらいにまとめて買って、一気に観たんです。
ジャンルを一度解体して、再構築してくれた気がする
──「まどか☆マギカ」は誰かに布教されたわけではないんですか?
そうですね。ちょうどアニメや、そういう文化にまた触れてみたいなと思ってる時期に一番話題になってたのが「まどか☆マギカ」だったんですよね。
──「まどか☆マギカ」を観るまでは、ほかに何もアニメは観ていなかった?
はい、「けいおん!」以降はまったく(笑)。「まどか☆マギカ」の場合は脚本に重きを置いて作られている部分もあったので、1回観たら結構お腹いっぱいになったんですけどね。それで去年、映画になったときも観に行った感じです。
──映画も自ら観に行ったということは、TVシリーズがやっぱり面白く感じられたということでしょうか。
はい。最後まで一気に観て、「いや、これは面白かった」っていう感想を抱きました。さっき言ったみたいに、僕はアニメの慣例のようなものに元々拒否感があるのに、どうして面白いと思えたのか……。後から考えてみたんですけど、「まどか☆マギカ」は魔法少女ものというジャンルを一度解体して、魔法少女ものらしい表現にどのように至ったかを説明しつつ、再構築してくれているように思えて。観る側と出来上がった作品の間で、キャラの配置や髪の色とか、「あえてこういう前提で作られている物語なんです」っていう距離を作ってくれていたというか。だから納得して観られたのかなと。
──メタ視点ということ?
そういうことですね。「新世紀エヴァンゲリオン」とかも、ロボットものというジャンルを解体して再構築した作品だと思うんですが……。僕は基本的にそういうものしか観られないのかもしれません(笑)。
- 「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編]叛逆の物語」
- 「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編]叛逆の物語」公開中
キャスト
鹿目まどか:悠木碧
暁美ほむら:斎藤千和
巴マミ:水橋かおり
美樹さやか:喜多村英梨
佐倉杏子:野中藍
キュゥべえ:加藤英美里
百江なぎさ:阿澄佳奈
スタッフ
原作:Magica Quartet
総監督:新房昭之
脚本:虚淵玄(ニトロプラス)
キャラクター原案:蒼樹うめ
監督:宮本幸裕
キャラクターデザイン:岸田隆宏、谷口淳一郎
総作画監督:谷口淳一郎、山村洋貴
エフェクト作画監:橋本敬史
副監督:寺尾洋之
異空間設計:劇団イヌカレー
異空間美術:南郷洋一
美術監督:内藤健(stちゅーりっぷ)
美術設定:大原盛仁
色彩設計:日比野仁、滝沢いづみ
ビジュアルエフェクト:酒井基
撮影監督:江藤慎一郎
編集:松原理恵(瀬山編集室)
音響監督:鶴岡陽太
音響制作:楽音舎
音楽:梶浦由記
主題歌:「カラフル」ClariS、「君の銀の庭」Kalafina
挿入歌:「misterioso」Kalafina
アニメーション制作:シャフト
配給:ワーナー・ブラザース映画
(C)Magica Quartet/Aniplex・Madoka Movie Project Rebellion
浅野いにお(あさのいにお)
1980年9月22日茨城県生まれ。2000年、ビッグコミックスピリッツ増刊Manpuku!(小学館)にて「普通の日」でデビュー。2001年、月刊サンデーGENE-X(小学館)の第1回GX新人賞に「宇宙からコンニチハ」が入選、翌年より同誌で「素晴らしい世界」の連載を開始。個々の短篇からひとつのストーリーを紡ぎ出す構成力と抒情的な作風に定評があり、週刊ヤングサンデー(小学館)にて連載された「ソラニン」は、バンド経験を持つ作者によるインディーズバンドのリアルな心理描写で人気を博し、映画化もされた。2013年まで、週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて「おやすみプンプン」を連載。