「彼方のアストラ」篠原健太(原作者)×安藤正臣(監督)対談|最後までネタバレを踏まないで! アイデアをギュッと詰め込んだSFサバイバル、アニメ化までの旅路を振り返る

宇宙への往来が当たり前になった近未来で、キャンプのためとある惑星に旅立った9人の少年少女を描く篠原健太のSFサバイバルストーリー「彼方のアストラ」。「マンガ大賞2019」大賞を受賞した本作がTVアニメ化され、いよいよ放送がスタートする。

コミックナタリーは放送開始直前のタイミングで篠原とアニメの監督を務める安藤正臣の対談をセッティング。連載当初はなかなか話題にならず苦戦していたという原作のアニメ化までの道のりや、「宇宙ものをやりたかった」という安藤監督が本作を映像化するうえでのこだわり、キャスティングの裏話などについて尋ねた。

取材・文 / 青柳美帆子 撮影 / 石橋雅人

「彼方のアストラ」

舞台は宇宙への往来が当たり前になった近未来。宇宙探検家になることを夢見る主人公のカナタ・ホシジマをはじめとした9人の少年少女は、学校行事の一環としてとある惑星にキャンプに訪れるが、謎の球体に飲み込まれてしまう。そして気がつくと、故郷からはるか彼方の宇宙へと放り出されてしまったカナタたち。果たして彼らは無事故郷へと帰り着くことができるのか……。

篠原健太(原作者)×安藤正臣(監督)対談

ジャンプを見返してやるって思っていたけど……

──「彼方のアストラ」のアニメが7月から放送されます。最初にアニメ化の話があったとき、どんな感想を抱きましたか?

左から篠原健太、安藤正臣監督。

篠原健太 アニメ化企画の話を初めていただいたのは連載中でした。でもアニメの企画って、お話があってから実際に本決まりするまでに、けっこう長い時間がかかるものなんですよ。「SKET DANCE」のアニメ化の際もそうだったんです。「企画が進んでいるらしい」「決まったみたい」という中間報告があっても、途中でお話がなくなってしまうこともありえるので……アニメ化が本決まりしたときの正直な感想は「ホッとした」でしたね。マンガ家にとって、アニメ化はひとつのゴールですから。

安藤正臣 アニメ化の話が来たのって、いつ頃だったんですか?

篠原 確か3番目の惑星のエピソードを描いているあたりで、プロデューサーから打診をいただいた記憶があります。まだ全然話題にもなっていない段階だったと思うので、お声がけいただいたのはうれしかったですね。そこからなかなか進まなかったんですけど(笑)。

──篠原先生は「マンガ大賞2019」の授賞式で「最初は手応えがなかった」「このまま話題にならないことも覚悟した」とおっしゃっていました(参照:「ジャンプ連載会議でボツだった」、篠原健太が「彼方のアストラ」誕生経緯明かす)。連載までの道のりを改めてお聞きしたいです。

「彼方のアストラ」1巻

篠原 「彼方のアストラ」は、最初週刊少年ジャンプ本誌での連載を目指していた企画でした。でも、連載会議で“完全ボツ”を食らってしまって。ジャンプでは、完全ボツを食らうとその企画はどんなに直しても連載させてもらえないんです。「彼方のアストラ」の世界に隠されている“秘密”も企画の初期段階から決まっていたので、自分の中では「後半のどんでん返しもあるし、面白いはずなのに……」とは思っていましたが、きっと最初に出したネームでは表現しきれていなかったんだと今では考えています。ジャンプでは連載ができないことになったけれど、時間もお金もかけていた企画だったので、捨てるにはしのびないという思いもあって。「成仏させたい」というか、せめて描き下ろし単行本3冊のような形でいいから出して終わりたい……と。そこでこちらから、ジャンプ+で出来ないかと提案して、連載会議を経て連載することになったんです。

安藤 カナタたちの旅と同様に、最初から波乱があったんですね。

篠原健太

篠原 連載が始まった当初は、「作品をヒットさせたらジャンプを見返せるぞ!」という気持ちもあったんですよ(笑)。でも、先ほどの話にもあったように、最初は全然話題にならず、コミックスも売れなかった。「ダメだったんだな……」と正直落ち込みましたね。夢が砕けた、というか。

──ですが、連載が進んで「彼方のアストラ」の世界の全貌が明らかになっていくにつれて、注目度が上がっていきました。2018年末に発表された「このマンガがすごい!2019」ではオトコ編の3位にランクインし、「マンガ大賞2019」では大賞を受賞しました。

篠原 こうしてアニメにまでなるとは……!

安藤 いま伺っていて、「最初は全3巻構想だったの?」とびっくりしました。

篠原 いや、3巻というのは「描き下ろしだったら、上・中・下巻構成がカッコいいかな……?」くらいのイメージです(笑)。ジャンプでの連載を目指していたときは、「何巻くらいで終わらせよう」ということは考えていませんでした。ジャンプ作品は展開や終わり方は連載しながら考えていくもので、最初に終わりを決めて始める作品や作家はほとんどないと思いますね。もしジャンプで連載して長く続いていたとしたら、カナタたちが旅する惑星の数はもっと増えていたかもしれません。

「彼方のアストラ」の場面カット。主人公のカナタ。

安藤 なるほど……僕は「彼方のアストラ」を完結した後に読んだんですが、完全に帰納法で作られている作品なんだろうと感じたんです。セリフ回しのひとつひとつがのちの伏線になっている。だから最初からお尻までカッチリ決まっている企画だと感じたんですよ。

カナタは1周回って今の時代に必要とされるキャラクター

篠原 企画の最初期は「お尻を決めずに」ですが、ジャンプ+で連載するという話になってから全体の長さは「4~5巻くらいにしよう」と決まったので、「帰納法で作った」というのは正しいかもしれません。伏線って、全体の長さが決まっていると実は仕込みやすいんです。話が長大だと忘れられてしまったり、途中でバレたりすることにヒヤヒヤしながら描くことになったりしますが(笑)、5巻くらいの長さだと「ここで仕込んでここで回収しよう」とコントロールがしやすい。

安藤 1話を読んだ印象と、最終話を読み終わった印象のギャップが面白い作品ですよね。最初は「あっ、『SKET DANCE』の人だ」「明るく元気なコメディマンガだな」「すごくジャンプっぽい」と読み進めていくと、だんだん「あれっ?」「いつの間にかすごくシリアスになっている……!?」と驚く。

「彼方のアストラ」の場面カット。朗らかで天然な性格のアリエスは、その発言で周囲から突っ込まれることも。

篠原 僕自身今1話を読み返すと「……ボケすぎたかな?」と感じます(笑)。「SKET DANCE」からの読者が入ってきやすいようにギャグを多めにしていたのですが、ちょっとやりすぎたかも……。

安藤 (笑)。でも、ストーリーの雲行きは怪しくなっていくけれど、最初に感じたキャラクターの元気の良さや楽しさというのは変わらない。ここ数年流行っているいわゆるデスゲームもののように、誰かが物語の途中で豹変してしまうかも……と心配になったのですが、「彼方のアストラ」のメンバーはネガティブにならずに危機に立ち向かっていくんですよね。下手にやったら古臭かったりウソっぽかったりする話になってしまうところを、「努力・友情・勝利」を屈折せずにやり通せる作品というか。一時期マンガやアニメにひねていたりいじけていたりする主人公が増えたこともありましたが、「彼方のアストラ」が評価されているのを見ると、1周回ってカナタのようにまっすぐ先頭を走れるキャラクターにニーズがある時代になってきているんだろうなという空気も感じています。

「彼方のアストラ」の場面カット。

篠原 初期案ではカナタが主人公ではなかったし、旅をするキャラクターも15人くらいいたんです。初期案の主人公は暗い少年で、「最初からリーダー」ではなく、「途中でリーダーになる」話をやりたいと思っていました。その案のまま進めていれば、もしかしたらもっと暗い展開もあったかもしれません。ただ、全5巻でいくということが決まったので、キャラクターを対立させたり不穏な空気にさせたりしている尺がなかった (笑)。カナタに引っ張ってもらって、前向きに前向きに……と展開を組み立てていったのが、「明るい」と評価されたのであればよかったです。

「彼方のアストラ」
放送情報

AT-X:2019年7月3日(水)より毎週水曜日21:00~ ※リピート放送あり

TOKYO MX:2019年7月3日(水)より毎週水曜日25:05~

テレビ愛知:2019年7月3日(水)より毎週水曜日26:35~

KBS京都:2019年7月3日(水)より毎週水曜日25:05~

サンテレビ:2019年7月3日(水)より毎週水曜日25:30~

BS11:2019年7月3日(水)より毎週水曜日25:30~

配信情報

地上波先行配信

dアニメストア:2019年7月3日(水)より毎週水曜日21:30配信

Amazon Prime Video:2019年7月3日(水)より毎週水曜日21:30配信

ほか配信サイトでも配信予定

スタッフ

原作:篠原健太(集英社ジャンプコミックス刊)

監督:安藤正臣

シリーズ構成:海法紀光

キャラクターデザイン:黒澤桂子

メイン総作画監督:黒澤桂子

サブ総作画監督:山本由美子

音楽:横山克、信澤宣明

アニメーション制作:Lerche

キャスト

カナタ・ホシジマ:細谷佳正

アリエス・スプリング:水瀬いのり

ザック・ウォーカー:武内駿輔

キトリー・ラファエリ:黒沢ともよ

フニシア・ラファエリ:木野日菜

ルカ・エスポジト:松田利冴

ウルガー・ツヴァイク:内山昂輝

ユンファ・ルー:早見沙織

シャルス・ラクロワ:島﨑信長

篠原健太(シノハラケンタ)
サラリーマン生活を経たのち、2005年に「レッサーパンダ・パペットショー」が赤マルジャンプ(集英社)に掲載されマンガ家デビュー。2007年から2013年まで週刊少年ジャンプ(集英社)にて連載した「SKET DANCE」が、2010年に第55回小学館漫画賞少年向け部門を受賞し、2011年にTVアニメ化されるヒット作となった。2016年から2017年に少年ジャンプ+にて発表した「彼方のアストラ」は「第3回 次にくるマンガ大賞」のWebマンガ部門で第5位、「このマンガがすごい!2019」オトコ編で3位、「マンガ大賞2019」で大賞を獲得している。
安藤正臣(アンドウマサオミ)
アニメーション監督、演出家。これまでの監督作品に「WHITE ALBUM2」「がっこうぐらし!」「クズの本懐」「ハクメイとミコチ」など。