うたかた模糊＆担当編集者インタビュー

王道のバトルマンガが夢であり申した

──うたかた模糊先生がインタビューを受けられるのは今回が初めてということで、本日は先生ご自身のこともお聞きできればと思うのですが、これまでプロフィールもすべて非公開で活動されていますよね。今日もライオンの被り物をされていますし……。

うたかた模糊　自分のことは何も知られたくないんです。性別も年齢も。なので、このインタビューも個人の特定につながる部分はナタリーさんのほうで書き換えてほしいんです。例えばそうですね、一人称は……吾輩で。語尾も適当に付けていただけますか？

──えっ、こちらで付けてしまっても大丈夫なんですか？ ではそのように配慮させていただきます。そもそも「うろんミラージュ」という作品はどのように誕生したのでしょう。

うたかた　王道のバトルマンガを描くことはもともと吾輩の夢であり申した。前作の「夢幻（むげん）のマグリット（※）」は奇をてらった邪道系の作品だったので、次は自分が憧れた熱いマンガを描こうと決意して企画を練った次第でござる。

※電子版少年ジャガーに掲載された読み切り作品。

──「夢幻のマグリット」を改めて読むと今とは作風がかなり違うので、「うろんミラージュ」から先生のファンになった人は驚かれるかもしれませんね。「うろんミラージュ」は「アバウトな設定」「曖昧なセリフ」「煙に巻く演出」が特徴とされていますが、こういった方向性で作品を執筆することにしたのはどうしてですか？

うたかた　吾輩が好きな映画「このアレを誰に何する？」の影響が強いと思うでござる。展開の予想がつかない作品が好きなので、「うろミラ」も情報の出しどころなど自分なりに考えてはいますがなかなか難しいなり。

──なるほど。ただ連載当初は「分からないことが多すぎる」という理由から、多くの読者が離脱してしまったと聞いています。当時の読者の反響や意見などを聞いた際に不安はなかったのでしょうか。

うたかた　もちろん不安はありましたし、編集部からの指摘もあり申した。すごく落ち込んで、もうこのマンガを読んでる人なんかいないんだろうなと思っていたでござる。でも吾輩には確信があり申した。このマンガのやり方こそ今の時代に合っていると。おかげさまで今では離れた読者も帰って来てくれ、ありがたいと思って候。

──その後「うろんミラージュ」はアニメ化を果たしました。アニメ化が決まったときのうたかた模糊先生や担当編集者さんの感想を教えてください。

うたかた　もう本当にうれしくて、まさかここまで来るなんて！という驚きと、とにかく本当に支えてくださった読者の皆さまに感謝でござる。

担当編集者　あとは皆さんも気になると思うんですけど、漠（ばく）の声がいったいどう表現されるかとか気になってます。

──確かに漠の声は今後アニメの楽しみの1つですね。

主人公コンビのモデルは……

──「うろんミラージュ」といえば多くのキャライラストがSNSに投稿されて人気を博していますよね。キャラクターについても話を伺えればと思うのですが、そもそも主人公の空（うつろ）や朧（おぼろ）はどのように生まれたキャラクターなのでしょう。

うたかた　吾輩の幼なじみの男の子2人がモデルになってるでござる。今は……理由があって……その二人とも音信不通なんでござるが……。すみませんこの話はちょっと。

──……はい。えー第2回の人気投票ではそんな空や朧を抑えて狭霧が1位を獲得しました。狭霧の人気についてどのように考えていますか。

担当編集者　僕は登場当初から絶対人気が出ると思ってました。でもうたかた先生は違ったんですよね？

うたかた　主人公コンビの人気を超える可能性があるのは斑（まだら）だけだと思ってましたが、そうでもなかったでござる（笑）。

──「曖昧なセリフ」が特徴として挙げられているように、「うろんミラージュ」の魅力の1つはセリフ回しですよね。おふたりが「これは会心の出来だった」というセリフや演出を挙げるとしたらどれになりますか。

担当編集者　僕はやっぱり伝説の49話ですね。作中最大の謎が1つ明かされる展開をあのセリフとあの構図で表現するとは……！ 編集部で1人泣きました。

うたかた　同じく49話なり。

──セリフ回し以外にも、空の「了解！」というセリフに「イエッジャー」というルビが使用されるなど細かいワードや、ザック・バランなどキャラの名前も独特ですが、ルビやキャラの名前などはどのように考えているのでしょう。

うたかた　読者は意外とキャラの名前を覚えてなかったりするものであるが、世界観を固めるのはまず名前なんでござる。独特で引っかかる、それでいて口に出したい言葉などを意識的に入れるようにしてる次第。読者がキャラを名前で呼び出したら作品が定着してきたなって思えてうれしいでござる。

──ちなみに普段の打ち合わせはどのようにされているのでしょうか？

担当編集者　電話ですね。連載作家さんとの打ち合わせは担当が自宅や仕事場に伺うのが通常ですが、うたかた先生は家に入れてくれなくて……。

うたかた　担当どころか何人（なんぴと）も家には入れたくないでござる。

──個人の特定に気を使っているうたかた先生らしいですね（笑）。担当編集者さんから見て「うろんミラージュ」という作品や、うたかた模糊先生が描くマンガの魅力はどういった部分にありますか？

担当編集者　行き当たりばったりなようでいて計算だったり、理詰めかと思ったら偶然だったり、いい意味で天然なところですね。その振り回される感覚がやみつきになる魅力を生んでいて、うたかた先生ご本人の人柄とも地続きだと思います。うたかた先生は初めてお会いしたときはびっくりしましたもん。まさかこんな方が……。（ドスッ）うっ。