アニメはとにかくのどごし
──そんな原作をアニメ化するにあたって、難しい点や苦労した点はあるのでしょうか?
安藤 難しいところだらけですよ……! 5冊の原作単行本をずっと行ったり来たりしています。こんなに難しい作品は、これまで自分が担当してきた作品でもなかなかありません……。
篠原 どこが難しいんでしょうか? 興味あります!
安藤 アニメでは、放送枠という「本数」「時間」という制限があるところに向けて、シナリオを再構成しなくてはいけないんですよね。原作は5巻にぎっしり情報量が詰まっているので、必要な情報量を収めるのがまず大変。それだけでも、たい焼きのギリギリまであんこが詰まっている……むしろすでにはみ出ている状態です。
篠原 確かに、アニメ化が決まったときに「1クールで入るかな?」とは思いました。原作も全5巻でまとめようと決めた段階で、ジャンプ用での長期連載用に考えていたアイデアを詰め込んでいるんです。映画で言えば長いフィルムをぎゅうぎゅうに編集したようなものですから、その原作をアニメ化にあたってさらに編集するのは大変じゃないかと……。
安藤 かといって、必要な情報だけで構成すると、キャラクターたちの会話のウィットがある感じや雰囲気がそがれてしまう。そこは今も悩みながら作っているところです(取材は6月上旬に行われた)。
──先ほども監督が言っていたように、何気ないセリフが重要な伏線だったりもしますからね。
安藤 それも、マンガとアニメというメディアの違いがあるなと思っていて。マンガは本人のスピードで読めますし、繰り返し読み返せますよね。5巻まで読んで、「1巻にこんなセリフがあった!」と確認することもすぐできる。でも、アニメは特性上、ほとんどが1回見たら終わり。巻き戻したり、観返したりしてくれる親切な視聴者ばかりを想定して作れないんです。
篠原 確かにそうですね。
安藤 僕は「アニメはのどごしだ」と思っています。繰り返し見てもらえれば“コクと深み”をわかってもらえたとしても、最初ののどごしが悪ければそもそも飲んで(観て)もらえない。どうすればスマートに伝えられるかの格闘ですね。
篠原 シナリオは全部読ませてもらったんですが、見事にまとめてくれていると思います! だから僕はもう、いち視聴者として安心して見るだけです。しかも初回は……。
安藤 そう……「どう収めるか」の判断の中で、初回1時間スペシャルが決まりました!
篠原 そうなんですよね。1時間なんだ、気合い入ってるな……というのが感じられてうれしかったです。
安藤 「機動戦士ガンダム」で言えば、物語はガンダムに乗ったところからが本格的なスタートじゃないですか。「彼方のアストラ」なら、やっぱりカナタたちの母船となる“アストラ号”が動くところで第1話を終わらせたいと思って、初回1時間放送が決まりました。1時間でもギリギリでしたが……(笑)。アニメの仕事を15年以上やっていますが、1時間という尺は初めて。30分の時間配分に慣れ切っている身体なので面白さがありました。
転んでもただでは起きない精神で伏線が積み重なった
──公開されているティザーPVは、宇宙空間に漂うアリエスのカットが中心で、かなりシリアスな雰囲気です。
安藤 「ついに宇宙ものをやるんだ……」という気構えで挑みました。
篠原 宇宙もの、やってみたかったんですか?
安藤 そうですね、「ガンダム」シリーズを見てアニメ業界に入った人間なので、宇宙ものは「ついにこういう題材をやらせてもらえるんだな」という気持ちになりました。SFってシンプルに、ハードルが高い。学園ものなら学園の設定をひとつ作ればいいですが、宇宙ものはいろいろなルール作りをしなくてはいけない。その時点でまず難しいです。
篠原 確かに。「SKET DANCE」はずっと学校の中でしたけど、「彼方のアストラ」は環境の違ういろいろな惑星を巡るので、背景も星ごとに変わっちゃいますからね(笑)。
安藤 さらに言えばアニメでの宇宙表現のレベルは上がりきってしまっている。実写でも素晴らしい作品がどんどん出ています。レベルの高い表現を目にしている視聴者に納得してもらうにはどうすればいいんだろう……と悩みますね。最近は「インターステラー」のようなSF映画を資料用に繰り返し見ています。
──アニメでは、メカニックデザインとして、「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」や「機動戦士ガンダム00」でメカニック作画監督を担当された有澤寛さんがクレジットされていますね。原作のSF世界をアニメにするうえで、どういうところにこだわっているのでしょうか?
安藤 原作のメカデザインはマンガの時点で成立しているので、いじるところはないと思っています。でも、アニメとして動かすことを考えるとちょっと違和感が出そうなところを少し変更しています。例えばアストラ号やカナタたちのヘルメットのデザインまわりですね。最初の打ち合わせで篠原先生が「変えていただいて大丈夫です!」と言ってくださったので、すごくありがたかったです。
篠原 ヘルメットはマンガの中でもコマごとにちょっとずつ大きさや形が変わってますからね(笑)。
安藤 変更するところは主に、マンガとアニメでの特性の違いによる都合ですね。CGも使って細かい部分をできる範囲でディテールアップしています。原作が圧倒的に支持されている作品ですから、原作からがらりと変えるわけではなく、ファンにも納得してもらえて、かつ収まりがよくて出来がいいものを作ろうと、メカデザイナーやメカアニメーターとともに1年くらいかけてやっています。
篠原 アストラ号もカッコよくなってましたね!
安藤 大丈夫でしたか、よかった……。あのデザインが個性であり親しみやすさですからね(笑)。初代ガンダムを最近のプラモデルの感覚でリファインするつもりでデザインするというか、元のよいデザインをどうディテールアップしていくかをギリギリまで粘っていました(笑)。
──原作はSFだけではなくミステリーの要素もあって、読者から支持されています。周囲のSFファンやミステリーファンから「すごい、どういうところからこの作品が生まれたんだろう……」という声を聞くことがあるのですが、篠原先生はもともとSFやミステリーによく触れていたのでしょうか?
篠原 好きですけども、「SFファン」「ミステリーファン」と名乗れるほど詳しいわけではなくて、映画館で面白い作品を見るくらいです。SFに関してはストーリー的にSF知識を用いたものはあんまりなくて、こちらは宇宙船で毎回違う星に行く “修学旅行”だと思って描いていました。
安藤 ミステリー的な要素はどうやって考えていったんですか?
篠原 作中のさまざまな謎は、これまで考えてきたネタをくっつけたりグレードアップしたりでああいう形になりました。かなり構想期間が長かったので、考えていたネタが世に出ているほかの作品とかぶってしまうことがしばしばあったんですね。そのたびに「変えなきゃ!」「でも、変えるからには意味のあるものにしないと」と、転んでもただでは起きない精神で考えていった結果、AとBが意外なつながりを持ったり、何気ない設定がのちの伏線になったりしました(笑)。けっこう僕は、物語を頭で作るタイプなんだと思います。
安藤 「彼方のアストラ」がいいのは、世界に秘められている”謎”や待っているどんでん返しが、キャラクターを表現するためにあるところだと思っています。謎があることで、キャラのまっすぐでポジティブな強さがより伝わってくるんです。
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「話し合い」で決まったキャスティング
- 「彼方のアストラ」
- 放送情報
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AT-X:2019年7月3日(水)より毎週水曜日21:00~ ※リピート放送あり
TOKYO MX:2019年7月3日(水)より毎週水曜日25:05~
テレビ愛知:2019年7月3日(水)より毎週水曜日26:35~
KBS京都:2019年7月3日(水)より毎週水曜日25:05~
サンテレビ:2019年7月3日(水)より毎週水曜日25:30~
BS11:2019年7月3日(水)より毎週水曜日25:30~
- 配信情報
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地上波先行配信
dアニメストア:2019年7月3日(水)より毎週水曜日21:30配信
Amazon Prime Video:2019年7月3日(水)より毎週水曜日21:30配信
ほか配信サイトでも配信予定
- スタッフ
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原作:篠原健太(集英社ジャンプコミックス刊)
監督:安藤正臣
シリーズ構成:海法紀光
キャラクターデザイン:黒澤桂子
メイン総作画監督:黒澤桂子
サブ総作画監督:山本由美子
音楽:横山克、信澤宣明
アニメーション制作:Lerche
- キャスト
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カナタ・ホシジマ:細谷佳正
アリエス・スプリング:水瀬いのり
ザック・ウォーカー:武内駿輔
キトリー・ラファエリ:黒沢ともよ
フニシア・ラファエリ:木野日菜
ルカ・エスポジト:松田利冴
ウルガー・ツヴァイク:内山昂輝
ユンファ・ルー:早見沙織
シャルス・ラクロワ:島﨑信長
©篠原健太/集英社・彼方のアストラ製作委員会
- 篠原健太(シノハラケンタ)
- サラリーマン生活を経たのち、2005年に「レッサーパンダ・パペットショー」が赤マルジャンプ(集英社)に掲載されマンガ家デビュー。2007年から2013年まで週刊少年ジャンプ(集英社)にて連載した「SKET DANCE」が、2010年に第55回小学館漫画賞少年向け部門を受賞し、2011年にTVアニメ化されるヒット作となった。2016年から2017年に少年ジャンプ+にて発表した「彼方のアストラ」は「第3回 次にくるマンガ大賞」のWebマンガ部門で第5位、「このマンガがすごい!2019」オトコ編で3位、「マンガ大賞2019」で大賞を獲得している。
- 安藤正臣(アンドウマサオミ)
- アニメーション監督、演出家。これまでの監督作品に「WHITE ALBUM2」「がっこうぐらし!」「クズの本懐」「ハクメイとミコチ」など。