ナタリー PowerPush - モーモールルギャバン

J-POPシーンの異端児が放つ 全力投球アルバム「BeVeci Calopueno」

音楽は“お薬”、自分の魂を浄化してくれる

──やっぱり泣きメロにはどうしようもなく惹かれますか?

ゲイリー 惹かれますよ、やっぱ。自分が歌っていて泣けるなんて最強じゃないですか。僕は音楽において、そこにすごく救われているので。このアルバムの「rendez-vous」って曲とか、できたころはもう、歌うと泣いちゃうからまともに歌えなかった。

インタビュー風景

──この曲はモーモーならではのソウルミュージックですよね。

ゲイリー この曲は自分で汚したくないと思ってユコに歌ってもらったんです。

──こういう曲ができると音楽に救われていると実感しますか。

ゲイリー そうですね。いつも部屋でギターを弾き語りながら曲の原案を作っているんですけど。これは、歌いながらボロボロ涙が出てきて。「名曲だ、これ! ありがとう音楽!」って思って。もう、好きとかじゃないんですよ。たぶん音楽って“お薬”なんです。自分の魂を浄化してくれる。自分で作った歌で泣けるというのは、そういうことだと思います。

ユコ それはすごくわかるなあ。

絶望よりも希望で共感してほしい

──ゲイリーさんの歌詞って、ほぼすべて登場人物が報われてないし、不条理にまみれているけど、絶望してないんですよね。

ゲイリー そうですね。

──今言ったことはそういうことにもつながってくるのかなって。

ゲイリー そうですね……歌詞は基本的に歌いたいことを書いているだけなんですけどね。今はそれをどう伝えるか考えて、すごく言葉を選んでいて。

──前は選んでなかった?

ゲイリー 昔は選んでなかったんです。「野口、久津川で爆死」に入っている「ユキちゃん」とかは思いのままにポーン!と書いた歌詞で。茶化すような歌詞ってテキトーでもいいんですけど、思っていることをちゃんと書きたいなと思ったときに、やっぱり言葉を吟味しなきゃなって。昔作った曲を今聴くと「お前もっと言い方あんだろ!」っていう反省がありますね。みんなは今でも「『ユキちゃん』の歌詞いいねえ!」って言ってくれるんですけど。僕、自分の若気の至りはあんまり好きではないので(笑)。

──どうしたって報われないなあという思いや孤独感、あるいはそれが暴走していく描写は一貫していると思うんですけど。それは常に根源で渦巻いているものですか?

ゲイリー うーん……なんていうか、人間って悲しい生き物じゃないですか。たった30年の人生ですけど……ねえ? いろんなものを失っていくじゃないですか。「ああ、悲しいなあ」って思いますよね。でも、一度きりの人生だし、楽しくやらなきゃ損だよな、やりたいことをやろうっていう。そういう気持ちなんですよね。

──だから、絶望しない。

ゲイリー うん。絶望で共感してもらうより、希望で共感してもらったほうがいいじゃないですか。そういう思いは常にあって、特に今作はそのカラーが強いと思います。希望にもっと焦点を当てようって考えましたね。

──それはなぜですか?

ゲイリー いろいろあるんですけど、単純に自分の信じるカッコいい大人になりたいというか(笑)。「俺はもうダメだー!」って叫んでそれで共感してもらって涙を流すよりも、「ラブ&ピース!」って叫んで涙を流してもらうほうが人間としてカッコいいなってここ1年くらいですごく思って。

──ポジティブなものをリスナーに差し出すためにも、その前に孤独ときっちり向き合う。サウンドもまさにそういうものですよね。

ゲイリー ありがとうございます。そういうことだと思います。

──「愛と平和の使者」なんか特に。

ゲイリー ああ。これはね、もともとサビで「あいつはゲイだった」なんて歌えるのってモーモールルギャバンだけだろっていう悪ノリからはじまったんですけど。3年くらい前に、ゲイの友達カップルが家に泊まりにきたことがあって。「よし、じゃああいつらを褒めたたえる曲でも書いてやろう!」ってなって。でも、本気で歌詞を書き直したらマジな曲になっちゃって。「あれ? でも、今の気持ちで歌詞を書いたら確かにこうなるよな」って。

丸裸でお客さんと向きあわなきゃいけない

──ライブについても訊きたいんですけど。ライブの最後に絶対やる、お客さんに「パンティコール」を求めて、ゲイリーさんが脱ぐという行為も含めて、やっぱりこの人たちは裸のコミュニケーションを求めているんだなって思うんです。

一同 (笑)。

──いや、でもマジで。歌詞にも「パンティー」や「裸」ってよく出てきますけど、そこに対する執着も含めてそう感じる。

ゲイリー やっぱりね、ステージに立つ人間は、丸裸で、全力で自分の言葉と音を届けて、丸裸でお客さんと向き合わなきゃいけないと思うから。それでみんながひとつになって昇天するのがいちばん大事だと思っているんです。後ろで腕を組んで観ていた人が思わず踊り出しちゃうような、そういうライブをしたいと思いますね。ステージに立つ人間はそういうやつじゃないとダメだというこだわりはずっとあります。

──最後にこのアルバムをリスナーにどう響かせたいと思っていますか?

ゲイリー 今ってiTunesに1万曲入ってるみたいな人って結構いるじゃないですか。そういう意味でみんないろんな音楽を知っているけど「それ、ちゃんと全部聴いてないでしょ?」って思うんですよ。「音楽詳しい気になって、自己満足してるだけじゃないの?」って。そういう人たちも巻き込んで「なんかこのアルバムは何回も聴いちゃうんだよねえ」って言わせたいですね。僕にとって音楽が絶対必要な“お薬”であるように、誰かにとってもこのアルバムが“お薬”になったらすごく幸せです。

インタビュー風景

ニューアルバム「BeVeci Calopueno」 / 2011年3月16日発売 / ビクターエンタテインメント

  • 初回限定盤[CD] / 2500円(税込) / VICL-63718 / Amazon.co.jpへ
  • 通常盤[CD] / 2500円(税込) / VICL-63719 / Amazon.co.jpへ
CD収録曲
  1. UWABURN
  2. BeVeci Calopueno 試聴する
  3. Hello!! Mr.Coke-High 試聴する
  4. ATTENTION! 試聴する
  5. 変な人
  6. ワタシハワタシ 試聴する
  7. Smells like SURUME!!
  8. 821 試聴する
  9. パンティくわえたドラ猫の唄 試聴する
  10. Kitchen
  11. 愛と平和の使者
  12. rendez-vous
  13. 美沙子に捧げるラブソング(※初回限定盤のみ収録)
初回限定盤特典内容

初回限定盤には特典として「モーモールルギャバン直筆の絵やコメントが入っているかもしれないオリジナルフォトカード」封入。

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モーモールルギャバン

ゲイリー・ビッチェ(Dr, Vo)、ユコ・カティ(Key, Vo)、T-マルガリータ(B)からなる3ピースバンド。2005年4月に5人編成で活動を開始し、紆余曲折を経て現在の体制となる。関西地区を中心に活動を展開し、インパクトたっぷりのサウンドと破壊力抜群のライブパフォーマンスでリスナーを獲得。2009年3月にFM802主催の「MUSIC CHALLENGE 2008」でグランプリを獲得し、同年11月に初の全国流通作品となるアルバム「野口、久津川で爆死」をリリースする。2010年1月には第2回CDショップ大賞関西ブロックを受賞。同年6月にミニアルバム「クロなら結構です」をビクターエンタテインメント内のレーベル、Getting Betterからリリースした。