ナタリー PowerPush - モーモールルギャバン
J-POPシーンの異端児が放つ 全力投球アルバム「BeVeci Calopueno」
これが俺の全力だ!
──ここからは、メジャー1stアルバム「BeVeci Calopueno」について訊かせてください。暗黒やカオスな部分と、身悶えるくらいの切なさや甘美をたたえた歌の融合密度が、今作でさらに高まったなと思いました。その結果、モーモールルギャバンの特異なポップミュージックの強度がグッと増していて。まず、これまでリリースしてきた作品を踏まえて、今作はどういう手応えがありますか?
ゲイリー まず「野口、久津川で爆死」(2009年11月リリースのインディーズアルバム)は、ライブをやりながら曲を作って、曲ができたらライブをやって、っていう中でできたもので。ホントに、ずーっとライブばっかりやっていたんですよ。2009年は121本ライブをやっていたんですけど。
──そんなに!? 3日に1回以上とは、プロレスの巡業並みですね。
一同 あははははは(笑)。
ゲイリー そういうテンションの中で、ライブバンドとしてライブでやっている曲の中から「これはイケる」っていう判断を1曲1曲していって。それでできたのが「野口、久津川で爆死」というアルバムなんです。
──ライブでやってきたことの総括というか。
ゲイリー はい。で、次に作った「クロなら結構です」は、モーモールルギャバンが「バンドとしてこういうことを伝えたい!」というものを出そうと思って。「モーモールルギャバンの心意気を知ってほしい!」みたいな。「野口、久津川で爆死」はライブのバーン!っていう感じを詰め込んだ爆発力があるんですけど、バンドとして何を伝えたいのかがいまいち表現しきれなかったという反省があったんです。で、「クロなら結構です」はミニアルバムというフォーマットの中で、全方位に振り切ったことをやりたいと思って。でも……やっぱり6曲という枠の中で伝えたいことが伝え切れなかったという意識がすごくあって。マイルス・デイビスとかサディスティック・ミカ・バンドとかの作品に感じるような「バンドの魂」を表現したいと思っていたんですけど。プロデューサーのヨシオカトシカズさんもちゃんと素材を活かす方向でミックスしてくれたんですけど、「モーモールルギャバンの心意気はこれだ!」っていうところはリスナーにあんまり伝わらなかったなと思って。
──ミニアルバムという性質も含めて?
ゲイリー ええ。曲数の制限があったり、あとどうしても歌詞の色モノさが先行して、そっちばっかりにリスナーの目がいってしまったり。「『野口、久津川で爆死』はいいけど、『クロなら結構です』はグッとこない!」っていうこともリスナーにすっごい言われたし。だから、伝えたいことを伝えるのはすごく大変なんだなってことを「クロなら結構です」を作って実感して。じゃあもう、この「BeVeci Calopueno」の制作期間は、毎日感性を研ぎ澄ませて、毎日ちゃんとミュージシャンとして成長しようという気持ちで過ごして。その上で「ここまでやったらどうだ!」「これが俺の全力だ!」っていう部分を限界まで出した。もう、全部の計算を捨てて、今あるものを全部出したんです。1曲も温存していないんです。
──その感じは伝わってきますね。そこまでやって、これまでにない充足感を感じましたか?
ゲイリー そこまでやらないと次の景色は見えてこないんだということがわかりましたね。全部入れちゃったら入れちゃったで、またそのときに人間って成長するんだなって。今は「よし、次はこれを超えよう」って落ち着いて思えるんですけど、これは完全に全力投球ですね。
ユコ どうしても今まではバンドのイメージであったり、キーワード的な部分が先行していたと思うんです。今回はもっと音楽的な部分でインパクトを与えたいなと思って、それができたと思いますね。
暗黒に憧れるけどポップになってしまう
──サウンド面では今回ファンクなアプローチが強く出ている曲が多いですよね。
ゲイリー そうそう、僕、もともと大学時代からファンクが好きなんですよ。でも、なんか今まであまり出す機会がなかったんですよね。
──なんで今回は出せたんですか?
ゲイリー なんでだろう? 逆にこの段階までよく出てこなかったなと思いますけどね。サークルの練習場で何時間もファンクのビートを叩き続けていたこともあったし。「ファンクの後ろのカッコいいノリが出ねえ! 出ねえ!」ってずっとあがいていたんですよ。まあ、いまだに出せないんですけど(笑)。でも、ようやく聴いていて不快じゃないくらいにはなってきたかなと思います。もっともっとカッコいいグルーヴを出したいですね。ファンクという意味では「パンティーくわえたドラ猫の唄」が特に僕のファンクエッセンスがバリバリですね。
──確かに。超バリバリですね。お魚じゃなくて、パンティーくわえちゃった猫のファンクネスっていう(笑)。
一同 (笑)。
──今回、最初の2曲を聴いたときは「おおっ、暗黒アルバムか!?」って思ったんですよ。
ゲイリー 暗黒は完全にユコ・カティワールドです(笑)。
ユコ はい(笑)。
──でも、やっぱり暗黒一辺倒にはならなくて。いろんなアプローチに振れていきながら、やっぱり最後はポップがすべてを包括していく。
ゲイリー やっぱり僕が作る曲は基本的にポップなのと、ユコも暗黒なものへの憧れはすごくあるけど、暗黒にいききれないんです。やっぱり絶対ポップな部分が残る人なんですよね。
ユコ 残っちゃいますねえ。そういうDNAですね。
ゲイリー 3人ともガーッといこうとしても、どうしてもガーッといききれない(笑)。
──モーモールルギャバンの多くの曲が、カオスだったり、暗黒だったサウンドがサビで転調して、一気に歌として開かれていくんですけど。この転調こそが、モーモールルギャバンのカタルシスの真髄だと思うんですね。
ゲイリー それはユコが弾くキーボードのメロディが大きいですね。
──このメロディにある原風景って何だと思いますか?
ユコ 自分のルーツを考えたときに、やっぱりクラシックだと思うんですよ。小6くらいでからJ-POPとかも聴くようになったんですけど、それまではクラシックしかやってこなくて。クラシックは自分のなかでロックなんです。クラシックにもピンからキリまでありますけど、良いクラシックはホントにロックだと思う。メロディも秀逸ですし。そういうメロディ感の影響は大きいと思います。でも、歌の泣きメロは彼(ゲイリー)のほうが好きなんですよ。
ゲイリー 歌のメロディはだいたい僕ですね。
ユコ メロディに対するこだわりは共通していて。
CD収録曲
- UWABURN
- BeVeci Calopueno
- Hello!! Mr.Coke-High
- ATTENTION!
- 変な人
- ワタシハワタシ
- Smells like SURUME!!
- 821
- パンティくわえたドラ猫の唄
- Kitchen
- 愛と平和の使者
- rendez-vous
- 美沙子に捧げるラブソング(※初回限定盤のみ収録)
初回限定盤特典内容
初回限定盤には特典として「モーモールルギャバン直筆の絵やコメントが入っているかもしれないオリジナルフォトカード」封入。
モーモールルギャバン
ゲイリー・ビッチェ(Dr, Vo)、ユコ・カティ(Key, Vo)、T-マルガリータ(B)からなる3ピースバンド。2005年4月に5人編成で活動を開始し、紆余曲折を経て現在の体制となる。関西地区を中心に活動を展開し、インパクトたっぷりのサウンドと破壊力抜群のライブパフォーマンスでリスナーを獲得。2009年3月にFM802主催の「MUSIC CHALLENGE 2008」でグランプリを獲得し、同年11月に初の全国流通作品となるアルバム「野口、久津川で爆死」をリリースする。2010年1月には第2回CDショップ大賞関西ブロックを受賞。同年6月にミニアルバム「クロなら結構です」をビクターエンタテインメント内のレーベル、Getting Betterからリリースした。