この10年20年、こんなに「ヤバイ」アルバムは見たことがない
──そんな紆余曲折を経てアルバムが完成したわけですが、感想はいかがですか?
今回はこういう出来事が途中にあったっていうことを抜きにしても、普通に聴いて「ヤバイ」アルバムだと思いますね。アルバムが完成したあと、参加しているミュージシャンが集まって試聴会があったんです。で、17曲終わったら、そこらじゅうですすり泣きが聴こえるんですよ。僕は我慢して泣かないようにしましたけども。
──やっぱりいろいろな思いが込み上げてきますもんね。
でも例えば音楽的な面白さだけに限って言っても、この10年20年、こんな内容のアルバムは見たことがないですね。そのバリエーションと、1つのところに向かっていく強さみたいなのと。それと今54歳の桑田さんがその年齢で歌う歌っていうのはたまらないですね。54歳じゃなきゃ歌えない言葉がたくさん登場します。
──ソロならではの力強いメッセージがありますよね。
そうですね。アルバムの一番最後に「月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)」という曲が入ってるんですけど、要するにこれはTHE BEATLESのことを歌った歌なんです。桑田さんが小学生のときにTHE BEATLESが来日して、台風が来てたもんだから遅くなって夜中の3時ぐらいに羽田空港に到着したんですよ。で、厳戒態勢で日本の警察のパトカーに先導されながらキャピトル東急まで行ったという、その日の出来事をモチーフに書いてるんです。言ってみれば桑田さんにとって、その出来事があったから今の自分がいるんだっていう歌なんですけどね。ビートルズと自分との関係性っていうのを、見事にその1つの歌にしてるんですよ。それ聴いただけでもちょっと震えが止まらなくなるような。17分の1ですけれども。日本の頂点にいる桑田さんがそれを今歌ってるっていうことの意味は大きいと思いますね。
桑田さんは先輩風を吹かせる“フリ”をするんです(笑)
──そもそも桑田さんと誠さんは大学の先輩と後輩なんですよね。
はい、最初に出会ったのは1977年です。それからずっと先輩と後輩っていう関係ですね。
──30年以上経っても、学生時代の先輩後輩の間柄が生きてるんですか。
それはもう圧倒的に(笑)。でもあんまり世の中にないですよね。ミュージシャン同士のつながりだけでもないし、大学の先輩後輩だけでもないしっていう。確かに独特かもしれないですね。
──仕事的にはやりやすいですか? それともやりにくいものですか?
両方ありますけどね。でもやっぱりやりやすいほうが強いかな。後輩で良かったと思うのは、常に緊張してるっていうところなんです。言い方変えれば常にビビってるっていうか。この歳になって、僕も53歳になりましたけど、いまだにビビってるっていうの、ちょっといいもんですよ(笑)。慣れ合いたいけどそれができない、みたいなところはありますね。
──かと言って桑田さんが先輩風を吹かせるというわけでもないんですよね?
先輩風を吹かせる“フリ”をするんです(笑)。「おまえナントカのくせに」みたいな言葉をわざと使ったりするんですよ。「小心者のくせに」とかね。そうすると僕もちょっとゲームみたいなものに乗っかって「いや、そうなんです。ここんとこ全然ダメで」みたいな話をしたりして。そういう独特なユーモアが常にある。とにかく僕は出会いのときから桑田さんに何を一番教わったかというと、音楽のことよりも、人付き合いですよね。たぶん僕高校卒業して大学入ったときにけっこうトゲトゲしかったと思うんですよ。そういう自分に優しく接して丸くしてくれたのが桑田さんであり、その音楽サークルの先輩たちだったんですね。
──楽しいサークルだったんでしょうね。
桑田さんといるときに感じるその雰囲気っていうのはいまだに変わんないですからね。
──我々ファンから見ても、桑田さんが大物ぶったり、貫録をアピールしているところっていうのは想像できないです。
そうですね。あの、わかんないですけどカッコ悪いと思ってんじゃないですか。そのスーパースター像を。昔からTHE BEATLESにしてもTHE ROLLING STONESにしても、ホントのスーパースターってもちろんものすごく巨大で近寄りがたい存在なんでしょうけども、でもそこに必ずギャグがあったり、インタビューでもまったく関係ないくだらないことで答えを返したりする。そういう歴史があったと思うし、僕たちはそっちを大事にしてたんですよね。「俺は知らねえよ」っていうタイプのロッカーではなく。
──誰もが認める国民的アーティストなのに、いつまでもハゲヅラ被ってシモネタ言ってますもんね。
だから僕らにとってはそこはそんなに驚きじゃないんですよ。ただそれをよく何万人の前でやるなとは思いますけど(笑)。
──あはは(笑)。
大学の学食にいた頃と変わらないんです。ただその優しさがすごく大きくなってるってことなんでしょうね。
斎藤誠(さいとうまこと)
シンガーソングライター/ギタリスト。1958年東京生まれ。青山学院大学在学中に音楽サークル「Better Days」で桑田佳祐・原由子らと出会い、音楽活動をスタート。1983年のデビュー以来これまでにアルバム12枚をリリース。1994年に行われた桑田佳祐のソロツアーにギタリストとして参加し、以降サザンオールスターズのサポートギタリストとしても活躍。2010年夏に桑田佳祐が病気療養で音楽活動を休止した際には、桑田のラジオ番組「桑田佳祐のやさしい夜遊び」のパーソナリティを代役として務めた。
収録曲
- 現代人諸君(イマジン オール ザ ピープル)!!
- ベガ
- いいひと ~Do you wanna be loved ?~
- SO WHAT ?
- 古の風吹く杜
- 恋の大泥棒
- 銀河の星屑
- グッバイ・ワルツ
- 君にサヨナラを
- OSAKA LADY BLUES ~大阪レディ・ブルース~
- EARLY IN THE MORNING ~旅立ちの朝~
- 傷だらけの天使
- 本当は怖い愛とロマンス
- それ行けベイビー!!
- 狂った女
- 悲しみよこんにちは
- 月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)
初回限定盤DVD収録内容
- アルバム「MUSICMAN」の楽曲が生み出される制作現場に密着したドキュメント映像や、ミュージックビデオの撮影風景に加え、新たに撮り下ろした楽曲を含む、ミュージックビデオ6曲を収録!!
初回限定盤BOOK収録内容
- "MUSICMAN'S NOTE" 桑田佳祐本人による全曲セルフライナーノーツ、最新インタビューを収録!! さらに、参加ミュージシャンやエンジニア、スタッフによる、ここでしか知り得ないレコーディング秘話も掲載。全104ページに及ぶボリュームで、アルバム「MUSICMAN」を追求!!
桑田佳祐(くわたけいすけ)
1956年2月26日生まれ。神奈川県茅ケ崎市出身。
1978年サザンオールスターズ「勝手にシンドバッド」でデビュー。デビューして以来フロントマンとして、またソロアーティストとして常に日本のミュージックシーンのトップを走り続けている。
ソロ名義では、1987年リリースの「悲しい気持ち(JUST A MAN IN LOVE)」で活動を開始。以降ソロ活動も精力的に続けており「波乗りジョニー」「白い恋人達」「明日晴れるかな」などヒット曲も多数。2011年2月23日には約9年ぶりのオリジナルソロアルバム「MUSICMAN」をリリースする。