音楽の話をしているときは2人とも中学生みたい
──亀田さんから見て桑田さんはどういう方ですか?
とにかく偉大な方であり本当に魅力的な方ですよね。僕がそのバンドで一緒にリハーサルやってたときに、何がすごいと思ったかというと、桑田さんは誰よりも早くリハーサルスタジオに入ってるの。で、1人1人に「よっ! おはよう!」と挨拶をしてまわるんです。そういう姿を見て、本当になんていうんだろう……この人、音楽が好きなんだなあって思いましたね。そして人を楽しませる音楽を作るためには、まず一緒に音を出す仲間を大事にしなきゃいけないってことを肝に銘じてるんだなって。それって自分が普段からしていることに限りなく近いんですけど、それを大先輩の桑田さんがなさってるっていうことに感動したというか、背筋が伸びる思いがしたというか。桑田さんくらいのレベルになっても、こうやって1つのステージを作るために、みんなが1つになるためにこんなに心配りをし、こんなに努力をするんだっていう。
──桑田さんとは普段どんな話をされるんでしょうか?
そうですね、あるときはリハスタで桑田さんが「亀ちゃんはさ、どういう音楽好きなの?」って声かけてくれて。「僕は70年代の全米TOP40が大好きで……」なんて言ったら「俺もそう! 俺も大学時代さ、コーラの配達のバイトしながらラジオでFENの全米TOP40聴いてたのよ」なんて言って、桑田さんはSTEALERS WHEELっていうバンドの曲を「俺この曲が好きでさ」って歌ってくれたりするんです。それで「俺のiTunesの中に入ってますよ! 聴きましょう!」って、一緒にMacのスピーカーから流れる音楽聴いて「いいねー!」なんて言って。そしたら「俺んちにジュークボックスがあるから、今度一緒に飲みながら音楽聴こうよ!」って誘ってくれたんですよね。もう音楽が大好きでしょうがないっていう気持ちを共有できることがすごくうれしくて。
──トップアーティスト2人の会話というよりは、単に音楽好きの少年2人みたいな。
ふふふ(笑)。本当にそう。大人になって歳を重ねてるけど、2人とも中学生のときのような会話をずっとしてて。
──それはアーティストとかプロデューサー目線の会話じゃないわけですよね?
うん、そんなに高尚な話じゃなくて「この曲ワクワクするよね!」っていうだけ。あの時間は楽しかったなあ。
──このインタビューはシリーズでいろんな方に登場していただいてるんですけど、桑田さんの人柄についてお話を伺うと、本当に偉ぶらない、大物ぶらない方なんだというのを実感します。
うん。偉そうにしている姿なんて見たことないですね。僕らに対してもスタッフさんに対しても。実るほど頭を垂れる稲穂かな、じゃないですけど、決して偉ぶらないし音楽一筋にかけている感じが強くて。もう国宝って言っていいんじゃないかな(笑)。
桑田さんの中にはジョンとポールの両方が存在してる
──人間的にも本当に素晴らしい方だと思うんですけど、どうでしょう、“プロデューサー亀田誠治”からみて“アーティスト桑田佳祐”は、どういう才能ですか?
んー、いろんな切り口があると思うんですけど、「日本人である」っていうことを最大の武器にして音楽を作られてる方だと思いますね。
──それはどういう意味でしょう?
まず、日本語を自分なりの解釈で歌詞にしてメロディにはめるということを発明した1人だと思うんですよね。上手な方はほかにもいっぱいいますよ。桜井(和寿)くんも上手だし、椎名(林檎)さんも上手ですけど、その先駆けであったっていうことはたぶん間違いない。
──はい、あのボーカルスタイルは衝撃的でした。
音楽のスタイルもそうですよね。J-POPでしかあり得ない混ぜ方をしてると思うんです。昭和歌謡っぽかったりするかと思えば、むちゃくちゃ乾いたアメリカンロックだったり、THE BEATLESみたいなのが出てきたり。この極東の島国でしかあり得ないブレンドの仕方をしてる。そのブレンド感覚のセンスがハンパなくハイレベルなんですよね。
──確かに桑田さんの音楽は1つのジャンルでは括れないですよね。
ロックだとかブルースだとか、いろんなものを全部吸収してらっしゃるはずなんですけど、そういうジャンルに自分を落としこまない。逆に、音楽を桑田佳祐というアーティストに落としこんでいく、つまり、ポップスの確信犯ですよ。
──なるほど。歌詞とサウンドの両面で日本人的であると。
はい、あと一番大きいのがその日本的な価値観だと思います。今回のアルバムでも「蓮の花」とか、以前の作品にも出てきますけど「逢瀬」とか、そういうすごく日本っぽいキーワードをたくさん使ってる。日本っていう国が持つ文化とか日本民族の歴史みたいなものを、桑田さんはごく自然に音楽の歌詞としてまとめあげてるんじゃないかっていう気がするんですね。
──桑田さんご自身は洋楽どっぷりだったはずなのに、その表現は誰よりも日本的だというのが面白いですね。
やっぱりポイントはわびさびの加減だと思うんです。いつも思うのはね、桑田さんの中にはジョン・レノンとポール・マッカートニーの両方が存在してる気がするんですよ。いわゆるジョンのディープな精神性と、ポールのポップな音楽性。その両方が絶妙にブレンドされてる。だから桑田さんの音楽が何に一番近いかっていったらやっぱりTHE BEATLESなのかなあって。スピリットの部分でそう感じますね。
桑田さんに恩返ししたいっていう気持ちがある
──最後の質問なんですが、もし亀田さんが桑田さんをプロデュースするとしたら……。
おこがましいー! いや、ほんとおこがましいです!!
──あはは!(笑)
おこがましいですが(笑)、もし僕が一緒に作れるのであれば、やっぱり桑田さんが今一番やりたいことを最大限の力学で遠くに飛ばすっていうことをやってみたいですね。僕が思いっきり弓を引っ張る役目をやって、その曲をボーンと飛ばすっていうイメージかな。
──ぜひ実現させてほしいですね。
でもほんとおこがましいですよ。言葉にすると夢が逃げそうな気がする(笑)。
──人生を変えてくれた相手ですもんね。
うん。桑田佳祐 & SUPER MUSIC TIGERSというバンドに参加したときもそうですし、この取材もそうですけど、本当に常日頃から桑田さんに恩返ししたいっていう気持ちがあって。それぐらい敬愛してるんです。早く桑田さんの家でジュークボックス聴きたいんですよね。
亀田誠治(かめだせいじ)
1964年、米ニューヨーク生まれ。1989年よりアレンジャー、プロデューサー、ベースプレイヤーとして本格的な音楽活動を始める。椎名林檎、平井堅、スピッツなど数多くのアーティストの作品にプロデュース&アレンジで参加。2004年からは椎名林檎らとのバンド・東京事変のメンバーとしても活躍中。
収録曲
- 現代人諸君(イマジン オール ザ ピープル)!!
- ベガ
- いいひと ~Do you wanna be loved ?~
- SO WHAT ?
- 古の風吹く杜
- 恋の大泥棒
- 銀河の星屑
- グッバイ・ワルツ
- 君にサヨナラを
- OSAKA LADY BLUES ~大阪レディ・ブルース~
- EARLY IN THE MORNING ~旅立ちの朝~
- 傷だらけの天使
- 本当は怖い愛とロマンス
- それ行けベイビー!!
- 狂った女
- 悲しみよこんにちは
- 月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)
初回限定盤DVD収録内容
- アルバム「MUSICMAN」の楽曲が生み出される制作現場に密着したドキュメント映像や、ミュージックビデオの撮影風景に加え、新たに撮り下ろした楽曲を含む、ミュージックビデオ6曲を収録!!
初回限定盤BOOK収録内容
- "MUSICMAN'S NOTE" 桑田佳祐本人による全曲セルフライナーノーツ、最新インタビューを収録!! さらに、参加ミュージシャンやエンジニア、スタッフによる、ここでしか知り得ないレコーディング秘話も掲載。全104ページに及ぶボリュームで、アルバム「MUSICMAN」を追求!!
桑田佳祐(くわたけいすけ)
1956年2月26日生まれ。神奈川県茅ケ崎市出身。
1978年サザンオールスターズ「勝手にシンドバッド」でデビュー。デビューして以来フロントマンとして、またソロアーティストとして常に日本のミュージックシーンのトップを走り続けている。
ソロ名義では、1987年リリースの「悲しい気持ち(JUST A MAN IN LOVE)」で活動を開始。以降ソロ活動も精力的に続けており「波乗りジョニー」「白い恋人達」「明日晴れるかな」などヒット曲も多数。2011年2月23日には約9年ぶりのオリジナルソロアルバム「MUSICMAN」をリリースする。