音楽ナタリー PowerPush - ハンバート ハンバート
15年かけてたどり着いた場所
「これがフォークなのか」と思ってもらえればしめたもの
──そのほかに、これぞハンバート ハンバートの味だと気付いたことなどあります?
佐野 面白いおしゃべりをやっていこう、ってことですね。
佐藤 初回限定盤のDVDにはおしゃべりも入ってます(2015年9月19日の東京・日比谷野外大音楽堂のライブを収録)。
──なんたってライブ中のおしゃべりだけを集めたCD(会場限定で発売されている「THE LIVE MC」)が作られるほどですからね。2人のおしゃべりの面白さは細野さんのお墨付きでもあるわけで。
佐藤 ダラダラとしゃべっているだけなんですけど、あれが今や大事な要素になっていますからね。どうでもいい話をしゃべっている感じ。
──どうでもいい話ありきのハンバート ハンバートワールド。
佐藤 はい。でも、細野さんとも話したことだけど、これまでフォークデュオって呼ばれたくなくてここまでやってきたんですよね。日本で使われている“フォーク”という語感があまり好きじゃなかったもんですから。フェスとかに出演しても、みんな大きい音でガン!とやってるのに、俺らだけ音ちっちゃいし。
佐野 シャボン玉飛んじゃうし(笑)。
佐藤 芝生に寝っ転がってふわーっとしていて、昼寝しに来たのかなあって思うこともあったりして(笑)。いや、それでいいんですよ。ただほかのバンドと比べて「俺たち負けてるかな?」という思いはずっとあった。まあ、2人だけという強みも実際にあるわけで、その場で曲を決めてパッとやれたりもするし、曲をやらずにダラダラしゃべってもいいし、2人で客席に下りていっちゃってもなんとかなっちゃうし、工夫次第でいろんなことができてしまう。だから2人という利点を生かした音楽をやっているんですが、このアルバムに関して言えば、今どきギター1本でこんなフォークをやっている人たちっていないんじゃないか。だからずっとあらがっていたけど、開き直って「フォーク!」って言っちゃってもいいんじゃないかな、と思っていて。そんなわけで「FOLK」というふうにかなり大きく出たんですけどね。
──日本のフォークソングもかなり好きだよね。
佐藤 いわゆる四畳半フォークと言われるものも基本的に大好きなんですけどね。ただなんとなくイメージとして貧乏くさいというか、キャンプファイアーで踊るフォークダンスが浮かんでくるというか。
佐野 バンダナ巻いちゃってね。
佐藤 巻いちゃってね。あとフォークゲリラだとかあんまりカッコよくないイメージがある。でも今回は“フォーク”って掲げながらカッコいいものを作りたいなと思って。
──でもフォークってやっぱり、ウディ・ガスリーやレッドベリーなどに代表される市井の人々の生活の在り様をシンプルかつ詩情豊かにつづった歌のことでしょう? 高田渡や西岡恭蔵らの系譜に連なるミュージシャンとしてハンバート ハンバートを捉えている者にとっては腑に落ちるタイトルですけどね。
佐藤 フォークをカッコいいものと捉えている人はそうですよね(笑)。まあとにかく吉と出るといいんですけどね。
──でも世間的な肩書はやっぱりフォークデュオってことになるのかあ。
佐藤 これからはフォークデュオですよ! なんせフォークやってる2人組が「FOLK」ってタイトルのアルバムを出したんだから。
──ただ若いリスナーには「フォークとは何ぞや?」って人も多いと思うし、フィルターがかかることなくストレートに届けられるかもしれない。
佐野 そうですよね。新鮮に映るかもしれない。
佐藤 彼らに刷り込んでいければ。言ったもん勝ちだもん。「これがフォークなのか」と思ってもらえればしめたもんですよね(笑)。でも、本当にこれでよかったのか、って不安に思うところはありますよ。
──そういう気持ちがまだ拭い去れない?
佐藤 ありますね。
佐野 でも、ほかのミュージシャンは「やられたな」って思うんじゃないですかね。
──うん、僕もその意見に同意です。この際「フォークですけど何か?」みたいな態度でいいんじゃないですかね。実際のところ、これほどシンプルで力強いタイトルもないし。
佐藤 ま、基本弱気なんで(笑)。マスタリングが終わったあとは、反省と後悔の繰り返しの始まりですよ。もうできることがない!って。往生際が悪いんですよ。
「おなじ話」はいまだに歌うのが難しい
──ところで、2人の原点がこのアルバムにはある、と言い切ってしまってよいのでしょうか?
佐藤 原点ですね。なにしろこれまで出したアルバム8枚の中から自分たちの定番と言える曲を再録した作品ですから。
佐野 「おなじ話」はいまだに歌うのが難しいんですよ、私。
──掛け合いの部分が?
佐野 いや、音を外しそうになっちゃいます。
佐藤 いまだにいいリズムでギターを弾くのが難しいですね。今回はお互いそれぞれ部屋に閉じこもって真っ白になりながら……。
佐野 灰になりながら(笑)。
佐藤 もう無理だ!って叫びながら録ったわけですけど。でも、今までスタジオで8時間、10時間とかレコーディングしていたわけじゃないですか。アレってホント無理してたな、と今回の作業をやってみて思いましたね。なんとか時間内に収めなきゃいけないと思いながら、アドレナリン出しまくりながらやってたから疲れなんか感じなかったけど、集中力、注意力、体力がよく続いたな、と思って。自宅だと、もう限界だと思ったらすぐやめることができますからね。冷静になりながらやってみると、これ以上録り直しても全然よくならないってこともすぐにわかりますからね。
佐野 たかだか4分とかの話なんですけどね。この4分の集中力がもうもたない。
──和気あいあいとした雰囲気から見えてこない苦労があったんですねえ。
佐野 命を削りながら作りました。
──じゃあこちらも心して聴かねば。
佐野 いや、普通に聴き流してください(笑)。
次のページ » 「ほっこりしてますかあー?」と観客に言える姿勢こそ大人
- ハンバート ハンバート ニューアルバム「FOLK」2016年6月8日発売 / SPACE SHOWER MUSIC
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3240円 / DDCB-94011
- 通常盤 [CD] 2484円 / DDCB-14043
CD収録曲(カッコ内はオリジナルアーティスト)
- 横顔しか知らない
- N.O.(電気グルーヴ)
- 長いこと待っていたんだ
- プカプカ(西岡恭蔵)
- 夜明け
- 生活の柄(高田渡)
- 国語
- 待ちあわせ
- 結婚しようよ(吉田拓郎)
- おなじ話
- さよなら人類(たま)
- ちいさな冒険者
初回限定盤 DVD収録内容
2015年9月19日 東京・日比谷野外大音楽堂ライブ「二人でいくんだ、どこまでも」
- いついつまでも
- バビロン
- コックと作家
- さようなら君の街
- ロマンスの神様
- おかえりなさい
- まぶしい人
- ぼくのお日さま
- おなじ話
- アルプス一万尺
- ホンマツテントウ虫
- アセロラ体操のうた
- おいらの船
ハンバート ハンバート
1998年に結成の佐藤良成(G, Violin, Vo)と佐野遊穂(Vo, Harmonica)による男女デュオ。2001年にアルバム「for hundreds of children」でCDデビュー。2005年のシングル「おなじ話」が各地のFM局でパワープレイに起用されたのをきっかけに、活動を全国に広げ年間 100本近いライブを行う。海外の伝統音楽ミュージシャンたちとも多数共演。テレビや映画、CMなどへの楽曲提供も多く、2010年からオンエアされた「ニチレイアセロラ」のCMソング「アセロラ体操のうた」が話題になった。2016年6月には、デビュー15周年記念作品として弾き語りアルバム「FOLK」を発表した。フォーク、カントリー、アイリッシュ、日本の童謡などの音楽をルーツとした懐かしく切ない楽曲と、繊細なツインボーカルで支持を集めている。