なんで日本人がこんな音出せるんだ

──では、その新作についても伺っていきましょう。細野さん、今回の作品は前作「Heavenly Music」から4年半ぶりになります。前作はカバーアルバムですから、オリジナルアルバムと謳う作品としては前々作の「HoSoNoVa」(2011年リリース)から6年半ぶりです。

細野晴臣「HoSoNoVa」ジャケット

細野 え、そうなの? そんなに経つのか。あっと言う間になりますね(笑)。

──ちなみに4年半前は、ネバヤンはまだ結成していませんね。

安部 そうですね(笑)。

細野 いなかったんだ……そうか(笑)。

安部 新作を聴かせていただいて気になったんですけど、細野さんは今回はどんなスタジオで録ったんですか? 実は最近僕、自分の音楽の接し方にいろいろ悩んでいて、長野とか福岡とかの山の中の木造の小屋とか宅録ができる機材をそろえて、そこで気長に音楽をやろうかな……など考えていて。

細野 そうなんだ。木造の小屋、いい音しそうじゃない。今回使ったスタジオはいくつかあるんだけど、昔から使っている音響ハウスってスタジオとか。築地にあるんだよ。そこが“昔の音”がするって言うか、いい空気の響きが録れる。二十代の頃から使っているところ。昔と同じと言うか、いい感じで残っている。そんなスタジオは珍しいんだよね、今。ほとんどデジタルレコーディング向けにデッドに作られているからね。ちなみに最近では、ライブハウスもデッドなスタジオみたいな響きのところがあって。それ、すごい嫌なんですよね。やりにくい。

安部 わかります。すごくやりにくいですよね。音が伸びなくて。倍音のキレイな膨らみとかが潰れてしまうんです。

細野 そうそう。膨らみ、ないよね。爆音でやるならいいんだろうけど。演奏していて寂しい気持ちになるんですよ。

安部 スタジオとかで練習しているときの音みたいな。だからライブをやっていて、「これでお金取っていいのかな?」って思うこともあります。お客さんに申し訳ないと言うか。

細野 ライブってことで言うと、僕も最近、けっこうライブが多くて。ライブでやった曲をレコーディングするとやっぱり違うね。The Beatlesに影響されてのことだと思うんだけど、僕は“スタジオで音を作っていく”っていうのが出発点だから、もともとライブには全然興味がなかったんです。でもこの10年くらいでライブをやり始めて、そうすると今までとは全然曲の作り方が違ってくる。今まではスタジオで作ったものをライブでやっていたんだけど、今は逆で。ライブでやり続けたものをスタジオで録ると、音がすごくいいってことに気が付いたんです。

細野晴臣「Heavenly Music」ジャケット

──今回のアルバムのDISC 1には、前作「Heavenly Music」をリリースした直後からライブでやられている曲もたくさんありますよね。

細野 そう、飽きずにずっとやってますね。

安部 そうなんですね。僕、今回のアルバムを聴いて「日本人の人がこんな音出せるんだ……なんで? すげえ!」って思いました。

細野 DISC 1は、最近ライブでやっている曲を集めていて。だから演奏がこなれていて、すごいと思えるものもあるんだよね。録音時の環境にもよるけど。音がしょぼかったら絶対そういうふうには聞こえないし、録る人によっても違うし。いろいろな要素がしょっちゅう変化するから、まあタイミングだよね。そういう意味では一番いいときに録れたのはラッキーだった。凝りに凝って準備して録るとけっこうダメなんだよ。難しい。

──そういうものなんですね。

細野 あとで自由が効かなくなっちゃう。ミックスのときとか、音の処理が難しい。

やっと録れたな

──細野さん、今作もすべてご自身でミックスしているんですよね。

細野 そうです。ここにこもって。そういうポストプロダクションって映画と同じでね……映画監督なんかは編集が好きなんだよ。素材はたくさん撮って、あとは編集だっていう人もいる。音楽もそうなの。録るときは楽に録れる。ワンテイクとか2テイクくらいで録っちゃうから。その素材をしばらく放っておくんだよね。今回僕は2、3年放っておいた(笑)。それを改めて聴いてみると、録ったときのマイクのセッティングなんかでもう音が決まっちゃっているわけ。3年前はアンビエント(部屋の鳴り)なんかも含めて、トータルの音像を計画的に録ったんだろうね。でもそうやって録ってしまうと、ミックスのときに崩せなくなっちゃうんだよね。全体の音像を狙って録っているから、例えばそこからアンビエントマイクを抜いてしまうと、1個1個の音がしょぼくなっちゃって「なんだこれ?」ってなったりして。そういう意味で今回はちょっと苦労したかな。

──今のお話だと、今回のレコーディングは3年前には始まっていたわけですね。

細野 うん。でもまちまちですね。一気に録ったわけじゃないから。1曲1曲、時間も場所も違う。

──ちなみに最初に録り始めたのは?

細野 なんの曲だったかな……覚えてないね。印象に残っているのは、京都精華大学に佐久間正英が作ったスタジオ(Magi Sound Studio)があって、そこを使ってくださいって言われて。使ってみたらすごくよかったの。そこで録ったトラックがベストになっちゃったんだよ、結局。なんか楽だったんですよね。あれはいつだっけ? 2014年?……そんな前か。不思議(笑)。DISC 1の1曲目(「Tutti Frutti」)とか2曲目(「Ain't Nobody Here But Us Chickens」)とかは、精華大学で録った曲。

細野晴臣

──響きはタイトな感じで、ガシッとしたバンドの演奏に合ったサウンドです。

細野 うん、そうですね。それがあってね、今まで考えすぎていたことがバカバカしくなってきちゃった。2007年に出した「フライング・ソーサー 1947」っていうアルバムを作るとき、ちょっと意気込んで、ここにあるようなリボンマイクをそろえて、ほとんどそれで録ったんですけど。

──当時細野さんは、バンドの演奏をリボンマイク1本で一発録りするようなレコーディング方法にも取り組まれていました。

細野 そうそう。そういう曲もありましたね。楽器ごとにブースを分けないで、広いところで同時に演奏してね。昔ふうに録ってみたり……でも、うまくいかないんだ。ノウハウがないんだよ。世代が途切れている。50年代以降、機材もレコーディングの方法も変わっちゃったから。それを知っている人もいないし。

──なるほど。

細野 あの頃はね、演奏も小慣れていなくて……なんて言うんだろう。ミュージシャンはどうしても、“今のスタイル”で演奏しちゃう。そうするとニューミュージックになっちゃうの。それを古い音で録ってもしょうがない。だから、古い音楽をやるなら1つの要素だけ真似てもだめ。全体的に成熟しなきゃ録れない。で、それがやっと録れたなって思ったのが今回の作品。

──それを聞いてすごく納得です。DISC 1は、なじみのメンバーたちと共にライブで繰り返しプレイすることで楽曲を熟成させて、それを狙いのある音像でパッケージしたものだなと感じました。

細野 そうです。でもね、自分では全部が好きってわけではない。まあ、作るのに苦労したのでいろいろな気持ちはあるけど。その中でも1、2曲目は楽しくミックスできたので、それで満足はしちゃっている。だから「もうブギはいいや」って思ってるんです。

──あれだけライブでやっているのに。

細野 まあ、録りためているブギの曲はまだ数曲あるんです。それも出さなきゃいけないかなとも思うんだけど、まだ手を付けてない。

細野晴臣「Vu Jà Dé」
2017年11月8日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
細野晴臣「Vu Jà Dé」

[CD2枚組]
3564円
VICL-64872~3

Amazon.co.jp

DISC 1「Eight Beat Combo」
  1. Tutti Frutti
  2. Ain't Nobody Here But Us Chickens
  3. Susie-Q
  4. Angel On My Shoulder
  5. More Than I Can Say
  6. A Cheat
  7. 29 Ways
  8. El Negro Zumbon(Anna)
DISC 2「Essay」
  1. 洲崎パラダイス
  2. 寝ても覚めてもブギウギ ~Vu Jà Dé ver.~
  3. ユリイカ 1
  4. 天気雨にハミングを
  5. 2355氏、帰る
  6. Neko Boogie ~Vu Jà Dé ver.~
  7. 悲しみのラッキースター~Vu Jà Dé ver.~
  8. ユリイカ 2
  9. Mochican ~Vu Jà Dé ver.~
  10. Pecora
  11. Retort ~Vu Jà Dé ver.~
  12. Oblio
細野晴臣(ホソノハルオミ)
1947年生まれ、東京出身の音楽家。エイプリル・フールのベーシストとしてデビューし、1970年に大瀧詠一、松本隆、鈴木茂とはっぴいえんどを結成する。1973年よりソロ活動を開始。同時に林立夫、松任谷正隆らとティン・パン・アレーを始動させ、荒井由実などさまざなアーティストのプロデュースも行う。1978年に高橋幸宏、坂本龍一とイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)を結成し、松田聖子や山下久美子らへの楽曲提供を手掛けプロデューサー / レーベル主宰者としても活躍する。YMO「散開」後は、ワールドミュージック、アンビエントミュージックを探求しつつ、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。2016年には、沖田修一監督映画「モヒカン故郷に帰る」の主題歌として新曲「MOHICAN」を書き下ろした。2017年11月に6年半ぶりとなるアルバム「Vu Jà Dé」をリリースし、同月よりレコ発ツアーを行う。
細野晴臣 アルバムリリース記念ツアー
  • 2017年11月11日(土)岩手県 岩手県公会堂 大ホール
  • 2017年11月15日(水)東京都 中野サンプラザホール
  • 2017年11月21日(火)高知県 高知県立美術館ホール
  • 2017年11月23日(木・祝)福岡県 都久志会館
  • 2017年11月30日(木)大阪府 NHK大阪ホール
  • 2017年12月8日(金)北海道 札幌市教育文化会館 大ホール
never young beach(ネバーヤングビーチ)
never young beach
安部勇磨(Vo, G)、松島皓(G)、阿南智史(G)、巽啓伍(B)、鈴木健人(Dr)からなる5人組バンド。2014年春に安部と松島の宅録ユニットとして始動し、同年9月に現体制となる。2015年5月に1stアルバム「YASHINOKI HOUSE」を発表し、7月には「FUJI ROCK FESTIVAL '15」に初出演する。2016年には2ndアルバム「fam fam」をリリースし、さまざまなフェスやライブイベントに参加。2017年7月にSPEEDSTAR RECORDSよりメジャーデビューアルバム「A GOOD TIME」を発表した。

2017年11月20日更新