Galileo GalileiがNHK Eテレで放送中のアニメ「青のオーケストラ Season2」のオープニングテーマとして、新曲「アマデウス」を書き下ろした。
これまでも「夏空」「青い栞」「クライマー」などの楽曲をテレビアニメのテーマソングとして提供し、作品の世界観に寄り添いながら自分たちの確かな個性を発揮するソングライティングの手腕を見せてきたGalileo Galilei。「アマデウス」は高校のオーケストラ部が舞台の「青のオーケストラ」と、尾崎雄貴(Vo, G)が吹奏楽部に所属していた中学時代の記憶を重ね合わせて制作され、全編にストリングスを取り入れた壮大な仕上がりとなっている。
音楽ナタリーでは前編・後編の2本立てでGalileo Galileiを特集。前編では雄貴のソロインタビューで、新境地と言える「アマデウス」のクリエイティブを紐解く。後編は雄貴ともう1名のメンバーを迎え、バンドの“これから”について話を聞いた。
取材・文 / 森朋之撮影 / 笹原清明
「なぜ表現のツールとして音楽を選んだのかな」
──新曲「アマデウス」はアニメ「青のオーケストラ Season2」のオープニングテーマです。制作は原作を読むところから始めたんですか?
はい。原作のマンガを読んで、アニメのシーズン1を観させてもらって。「青のオーケストラ」は高校のオーケストラ部が舞台なんですけど、僕自身、中学のときに吹奏楽部に入っていたので、なんとなく雰囲気がわかったんですよ。例えばパートの取り合いだったり、コンクールに向けた練習のことだったり。自分の経験と照らし合わせながら面白く読めたし、「こういう曲がいいかもな」とすぐに思いつきました。
──楽曲を作るときは、「青のオーケストラ」のどういう部分にフォーカスしたんですか?
ただ譜面を追って演奏するだけではなくて、「その作曲家がどういうタイミングで、どんなイメージを持って書いた曲なのか?」「それをどうやって自分たちの演奏に乗せるか?」を考えるシーンがあるんですよ。その場面を読んだときに僕自身、ハッとさせられたところがあって。中学生の頃はそんなことまったく考えてなかったし、譜面通り、顧問の先生が指示する通りに演奏して、作曲家のことなんて気にしていませんでした。「そういう発想があったら、もっと楽しめたかもしれない」と思って、そこからいろいろ考えて……。今は僕自身が曲を作って届ける立場ですけど、ときどき「なぜ表現のツールとして音楽を選んだのかな」と考えることがあるんです。僕は「音楽には優劣がある」と思っていて。たぶん吹奏楽を経験したからだと思うんですけど、音色や表現にはうまい、下手がある。当然、自分よりも優れている人たちがたくさんいるのに、それでも音楽を続けているのはどうしてだろう?って。
──すごく根元的な問いですね、それは。
そうですね。しかも「自分はこれが優れている」と思うことをやるだけではなくて、周りに合わせたり、求められるものに応えたりする必要もあって。音楽だけじゃなくて、すべての芸術はそういうジレンマを抱えている。僕はそれが面白いと感じているし、やりがいにもつながっています。「青のオーケストラ」の原作を読んでそのことを改めて実感したし、それをテーマにして曲を作ってみようと決めました。あと、オーケストラ部の部員同士がお互いの才能に嫉妬し合うところも「わかる!」と思って。ちょうどGalileo Galileiを結成した2007年前後って、イギリスを中心に若いバンドがどんどん出てきてたんですよ。Bombay Bicycle ClubやCajun Dance Partyがそうなんですけど、どちらも10代後半の僕らと同世代で。めちゃくちゃ聴いて研究したし、憧れもありつつ、どこかに嫉妬もあった。明らかに音楽的素養が違うし、「スタート地点が全然違うんだな」という思いを勝手に抱えちゃったんです。もちろん僕らは邦楽のシーンにいて、イギリスのバンドとはすごく距離があるのに、それでも「ぜんぜん敵わない」と思ってしまって……。
──確かにデビュー当初のGalileo Galileiは、同時代の洋楽からの影響をどう昇華するか?が1つのテーマだった気がします。
もちろん自分がやっていることに誇りを持っていたけど、すぐに壁にぶち当たりましたね。「もっといいものを作りたい」と思ってる人は必ずそうなるだろうし、それでも続けることで、少しずつ納得できるものができてきて。いろいろ悩んだり迷ったりすることもあったけど、今は「それを含めて愛したい」と思えているし、そのことを改めて曲にしたいと思って作ったのが「アマデウス」かもしれないですね。
──雄貴さん自身の音楽遍歴も込められているんですね。
「夏空」(アニメ「おおきく振りかぶって~夏の大会編~」オープニング曲)もそんな曲でした。中学のとき、野球部の試合の応援団として演奏したことがあって。同級生がピッチャーだったんですけど、そいつとはあまり仲がよくなかったんです(笑)。でも、一生懸命ピッチングしている姿を見て「こいつ、カッケーじゃん」と思ってしまって、僕も必死でトランペットを吹いて。「夏空」はその思い出がもとになっているし、今回の「アマデウス」も中学の頃の記憶を引っ張り出しながら作りました。
サリエリがモーツァルトに感じていた嫉妬や憧れ
──「アマデウス」というタイトルについては?
吹奏楽部の顧問の先生が、音楽の授業のときに映画「アマデウス」(1984年製作)を見せてくれたんです。映画の中で作曲家のアントニオ・サリエリがモーツァルトに感じていた嫉妬や憧れが、この曲のテーマに合うなと思って。授業中に映画を観るなんて本当はダメだと思うんですけど(笑)、面白い先生でしたね。
──雄貴さんは映画「アマデウス」にも影響を受けているんですか?
ずっと心に残ってるし、たまに観直すこともあります。モーツァルトが病に伏しているときに、サリエリが曲を書かせるシーンがあって。モーツァルトが頭の中で流れている旋律を言葉で指示して、サリエリが楽譜を書く、その場面がめちゃくちゃ好きなんです。僕も疲れたときに、ソファに寝転んだままメロディを口ずさんで、和樹(尾崎和樹 / Dr)に打ち込んでもらったりするんですけど、「これ『アマデウス』じゃん」と思ったり(笑)。大人になってから観ると、モーツァルトとサリエリのライバル関係がよりリアルに感じられます。岩井(郁人 / G)くんもある意味、僕にとってライバルなんですよ。負けたくないし、一番評価している人でもある。そういう関係でいられるのもすごくいいなと思ってます。
──なるほど。ちなみに吹奏楽部でトランペットを担当したことで、音楽的な基礎を学べたところもある?
バッハが作り上げた対位法(複数の独立した旋律を組み合わせて楽曲を構成する作曲技法)の影響はあるかもしれないです。音楽理論は全然わからないし、全部見よう見まねなんですけど、1つのメロディに対して違うメロディを合わせるのが好きだし、「これは気持ち悪いな」「これはハマってる」と感覚的に判断できるのは吹奏楽部にいたおかげかなと。当時も楽譜が読めなかったので、指番号(バルブを押さえる指の組み合わせを記した番号表)で吹いてたんですよ。理論で音楽をやりたくないというのは、今も変わってないですね。
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Galileo Galileiの曲はストリングスが合う