ナタリー PowerPush - Dragon Ash

純度100%ミクスチャーロック! ニューアルバムが浮き彫りにするバンドの核心

シーンを悲観するよりロックバンドの魅力を伝えたい

──そして、やはり決定的な1曲としてアルバム全体のメッセージを包括しているのがラストの「ROCK BAND」で。山嵐のSATOSHIさんとGNz-WORDのKO-JI ZERO THREEさんが参加されているのも象徴的です。この曲はどういう流れで生まれたんですか?

Kj 「ROCK BAND」ができたのはいつだったっけ?

ライブ写真

桜井 「SLASH」のあとだと思う。

Kj じゃあ去年の6月頃か。この曲は……なんか、いちばん虚勢を張っているべきであるロックバンドの人たちが、例えば音楽誌のページをめくれば、3ページに1回はインタビューで不景気を嘆いていたりとか、CDが売れないとか、そういう話をしていて。俺はそれを傍観していたんだけど、そんなことを悲観するならもっとロックのカッコ良さを伝えたほうがいいのにってずっと思っていて。そのほうがロックバンドとして魅力的だと思うし。

──傍観するのをやめて、その思いを音楽で鳴らそうと思ったのはどうしてですか?

Kj 今またアイドル全盛の時代になって、それが人を惹きつけているという現実があって。俺はそれは悪いことではないと思うんだよね。音楽への購買意欲があるという証拠でもあるし。

──そうですね。

Kj でも、当たり前だけど、アイドル文化にはない、ロックバンドだけが表現できる魅力が確実にあるから。それをわかりやすく高らかに歌ったほうが前向きだと思ったんだよね。で、そういうことを歌えるくらいバンドが歩んできた轍は長くなっているから。

──うん。

Kj それはDragon Ashもそうだし、山嵐もそうだし。ミクスチャー創世記からいるバンドとして、いろんな新しいバンドが出てくるのも見てきたし、いろんなレジェンドが消えていくのも見ている。でも、俺たちはずっと歌い続けている。そういうラプソディを作ろうと思ってできたのが「ROCK BAND」なんだよね。で、それをいつか出すであろうアルバムのラストの曲にしようって最初から決めていて。

──もう最初から決めてたんだ。

Kj うん。SATOSHIくんは俺の1コ上で、KO-JIは俺と同い歳だから、大阪、湘南、東京で、同じようなカルチャーに魅了されて、同じように音楽をがんばってきた同志だと思っていて。それぞれの視点はちょっと違うんだけど、同じ頂上を見てると思うから。それがチョモランマ側なのか、エベレスト側なのか、ぐらいの違いで。登り方もそれぞれのスタイルだけど、結局同じところを見ている3人で「ROCK BAND」というタイトルの曲を歌おうと。その曲でアルバムを終えようと。

これからも戦っていくために、轍を振り返る

──これは30代の今だから歌える曲ですよね。

Kj うん、そう思う。こういう歌にかぎってはキャリアがないと歌えないからね。今こういう歌を歌えるようになったのは、自分たちにとって喜ばしいことだし、この曲を良いと思って胸を打たれる同志がいっぱいいることも喜ばしいことだよね。

──今まで培ってきた経験が、そのままこの曲の説得力になっていて。だからこそ、強く響く。

Kj また戦っていくために、こうして轍を振り返ることは全然悪いことじゃないと思うから。リリックを読んでもらえれば、攻めの姿勢でこれを歌ってるってわかってもらえると思うしね。この曲は、これからまた戦っていくという意思表明だから。大きな存在だよね、このアルバムにとっても。

──Dragon Ashというバンドは、10代、20代、30代でそれぞれ異なる戦い方をしてきたし、しようとしていますよね。

ライブ写真

Kj そうだね。

──これまでと違うのは、今回の戦っていく意思表明は明らかに下の世代を鼓舞するものにもなっていて。

Kj そうなのかな?

──例えば「SKY IS THE LIMIT」のリリックなんてまさにそうでしょ。「出る杭になればいい」とか。

Kj ああ、そうだね。

──かつて強烈な“出る杭”だったDragon Ashだからこそ、Kjだからこそ、揺るぎない説得力をもって書けるリリックだと思う。

Kj うん、そうかもね。ロックバンドにDJがいることに対して、初めは「なんでDJがいるの?」ってみんな思っただろうけど、何年かしたら誰もそんなこと言わなくなって。「なんでダンサーいるの?」って言っていた人も、「FREEDOM」までの過去3枚のアルバムをリリースして、ツアーをやって、野外のフェスでライブを観てもらうことで、違和感を覚えなくなったと思うし。そうやって、いろんなことに決着をつけて、活動を続けているわけだけど。そこである程度の手応えを見い出せたからこそ、もう1回スタンダードなところに立ち返って、“ディス・イズ・Dragon Ash”というものを鳴らしたくなったのかもしれないね。無意識ではあるんだけど。

Dragon Ash(どらごんあっしゅ)

Kj、桜井誠、IKUZONEの3人で結成されたミクスチャーロックバンド。現在はBOTS、HIROKI、DRI-V、ATSUSHIを含む7人編成。1997年2月にミニアルバム「The day dragged on」でメジャーデビューを果たす。1999年に発表したシングル「Let yourself go, Let myself go」が大ヒットを記録し、一躍有名に。2002年にはシングル「Fantasista」がサッカーワールドカップのFIFA公式テーマソングのひとつに抜擢された。その後もオルタナティブロックやヒップホップ、ラテンなどさまざまなジャンルを取り入れたミクスチャーサウンドで、独自の活動を続けている。 2007年にはデビュー10周年を記念するベストアルバム「The Best of Dragon Ash with Changes Vol.1」「同 Vol.2」を2枚同時リリース。現在も常に新しい音楽を追求し続ける姿勢が、多くのリスナーに支持されている。またKjをはじめとするメンバーは、それぞれソロやユニットとして多方面で活動中。