(sic)boy「HOLLOW」特集 | ソロインタビュー&アーティスト7名からのコメント

(sic)boyが「CHAOS TAPE」「vanitas」に続く通算3作目となるアルバム「HOLLOW」をメジャー1stアルバムとしてリリースした。

ついに届けられたメジャーデビュー作ということで大きな注目を浴びる本作だが、いい意味で浮ついていない、これまでの(sic)boyのカラーをさらに突き詰めた作風に。メインプロデューサーも引き続きKMが務めており、2000年前後のミクスチャーやパンクといった音楽を今のヒップホップの感性で再解釈する手腕がさらに研ぎ澄まされている。客演として、ミクスチャーシーンのレジェンド・JESSE(RIZE、The BONEZ)や海外からVERNON(SEVENTEEN)、nothing,nowhere.が参加。さらにJUBEEやOnly U、Daichi Yamamotoといった国内ヒップホップ勢までエッジの効いたコラボレーション陣が脇を固めている。

音楽ナタリーでは、好きなこと、やりたいことをやったという(sic)boyに、本作を通して見えてくるミクスチャーやポップパンクといった音楽・カルチャーへのとめどない愛を存分に語ってもらった。また特集の後半では、彼と共演経験のあるBunta(TOTALFAT)や(sic)boyが敬愛するHYDE(L'Arc-en-Ciel、VAMPS、THE LAST ROCKSTARS)をはじめ、アイナ・ジ・エンド、Katsuma(coldrain)、くっきー!(野生爆弾)、小籔千豊、マキシマムザ亮君(マキシマム ザ ホルモン)といった異なるジャンルのアーティストから届いたコメントも掲載する。

取材・文 / つやちゃん

やりたいことを派手にやる踏ん切りが付いた

──今の赤いヘアスタイルがとても素敵なんですが、もしかしてhideのオマージュですか?

そうなんです(笑)。リスペクトを込めて。

──そして、TシャツはRage Against the Machineという(笑)。

もうファンでしかないですよね(笑)。

──最新作は、まさにそのあたりのミクスチャーな音楽が反映されていて。今作の構想はいつ頃から考え始めたのでしょうか。

2年前くらいから作り始めていました。だから、実は「vanitas」(2021年12月発売の2ndアルバム)より前なんですよ。そう考えると、けっこう長い時間をかけてますね。去年末のワンマンライブ(神奈川・KT Zepp Yokohamaで開催)のタイトルが「HOLLOW」だったんです。深い穴にどんどん落ちていくようなイメージを作り出したくて。それがうまくハマっていたので、アルバムも「HOLLOW」がいいんじゃないかということになり、1曲目の「hollow out(intro)」もその流れで作っていきました。この曲は、KMさんがもともと作ってくれていたライブのSEをブラッシュアップしていった感じです。

──「hollow out(intro)」に顕著ですけど、深い穴に落ちていくのと同時に、スペイシーな空気感も感じました。地下に引きずり込まれるダークな感じに加えて、宇宙のような果てしない開放感が広がっていくムードもあるというか。

まさに、ジャケットがスペイシーですよね。ブラックホールに吸い込まれるような、でもそこに興味があって覗いてみたいという気持ちを刺激するものになっていると思います。

──前作「vanitas」もそうでしたが、そこからさらにゴスのムードも強まっているように感じます。

ファッションもメイクも、やっぱりゴスの世界観が好きなんですよね。しかも、それをもっと派手にやっちゃっていいんじゃないかと思い始めてきた。今回アルバムジャケットに被写体として初めて自分を出してみたのも、そういった気持ちからです。これは別にメジャーデビュー作だからとかレーベルに言われたからとか、そういうわけではないんですよ。メイクをしていることについて、「ラッパーなのに」とか「男なのに」とか、今までいろいろ言われたこともあったんですけど、自分の中で踏ん切りが付いて、もっとやっちゃおうと思うようになった。

──前作「vanitas」で手応えを感じたというのも大きいんじゃないでしょうか。

そうですね。何より、前作で表現しきれなかった部分が今作では出し切れたと思います。

(sic)boy

クラブで聴けるポップパンク

──具体的な曲を手がかりに本作を紐解いていきたいんですが、まず、「shockwave」のようにポップパンクの再解釈をしたような曲がいくつかあります。いわゆるY2Kやリバイバルといった文脈については、(sic)boyさんは今回どのようなスタンスで向き合いましたか?

個人的に、リバイバルのカルチャー、中でもY2Kってすごく好きなんです。中学生のときからSum 41やBlink-182といったバンドに夢中だったので、今トラヴィス・バーカー(Blink-182のドラマー)がマシン・ガン・ケリーのプロデュースをすることでポップパンクをよみがえらせてるのがうれしくて。そういった長く親しんできた音楽やファッションといったカルチャーに、自分が関われること自体にワクワクする。ポップパンクって僕より少し上の世代、それこそKMさんとかがドンピシャの世代だと思うんですが、最近のリバイバルによって年齢関係なく初めて好きになった人もいると思うし、そういうのを見ていると自分はすごくポジティブな気持ちになるんです。

──(sic)boyさんとKMさんがやるポップパンクって、ローの音が分厚くてすごく立体的に刷新されていますよね。その点に関しては、マシン・ガン・ケリーよりもむしろ大胆だと思うんです。トラヴィス・バーカーがパンク寄りで、KMさんがヒップホップ寄りの人だからかもしれないですけど。

そうですよね。KMさんが作っているのは、クラブで聴けるポップパンクだと思います。

──「クラブで聴けるポップパンク」って、それ自体が2000年前後だったら考えられないフレーズですよ(笑)。

最初、「shockwave」のテンポの速度感のトラックにちょっと抵抗あったんですよ。「これ、どう合わせても普通のポップパンクにしかならないのでは?」と思って。それに、当初はもうちょっとシンプルなバンドっぽい曲調だったかな。でもKMさんと作り込んでいく中で、今の形に行き着きました。FPS(ファーストパーソンシューティングゲーム)っていうジャンルのゲームがあって、KMさんの息子さんもハマってるみたいなんですけど、ゲーマーの人たちが僕の曲をBGMとして使ってくださってるそうなんですよ。その中でも「shockwave」は特に人気らしいです。

──パンクといえば、「living dead!!」のようにポストパンク的なアプローチをしている曲もあります。あそこまでスカスカなサウンドはこれまで(sic)boyとしてはなかったんじゃないでしょうか。でもそこはやっぱりKMさんなので、途中から入る太いベース音がどんどん曲を立体的にしていくという。

これは今回のアルバムで最初に作った曲だったかもしれないです。ビートに間を持たせることで、自由にいろんなことができた。MVはOvercast(midwxstやglaiveといったアーティストの映像を手がけるアメリカ・アリゾナのコレクティブ)に撮ってもらって、カリフォルニア州のコンプトンに行きました。僕らの世代ってやっぱりOvercastの映像が大好きなんですよ。自分はこの曲では東京の疲れた感じを表すのに“living dead”というワードを使ってたんですけど、彼らはこのタイトルからそのままゾンビ映画をモチーフに撮ってくれました。そのシンプルさがよかったですね。

自分の感情に正直に

──本作ではリリックも少し変化したように感じました。例えば「(stress)2」では、「クロムハーツもっと / ジャラジャラさせたい」というラインが印象的です。自分の周りでは皆あの曲のことを「クロムハーツの曲」と言うので、それだけリリックが記憶に残るということですよね。

今まではリリックを何度も書き直していたんです。でも、あまりそこに時間をかけなくなった。勢いで自分の感情に正直になって書く歌詞が入っててもいいかなと思って。本来ならもうちょっと英語を混ぜて、印象を作っていくアプローチが普通なんでしょうけど、あのラインはあえて日本語だけでいきました。コロナ禍が明けたことで、こういった歌える歌詞が強い。お客さんと一緒に歌いたい、という思いが出たのかもしれないです。

──何気に、こういったど真ん中のトラップって(sic)boyさんの曲ではひさしぶりなように感じます。

ロックフェスに呼んでいただいたりすることも増えてきた中で、逆にトラップをひさしぶりにやりたいなと思ったんです。こういった曲がなくてもアルバムとしては成立するけど、「トラップがやりたい」とかそういう気持ちには正直になったほうがいいかなと。