ナタリー PowerPush - Dragon Ash

純度100%ミクスチャーロック! ニューアルバムが浮き彫りにするバンドの核心

ストレートに三振を取るほうがカッコいい

──いろんな音楽を折衷して、昇華して、血肉化してきたDragon Ashほど本質的な意味においてのミクスチャーを体現してきた、かつその音楽をポップフィールドにも乗せてきたバンドはいないわけで。近年は、よりそのことに自覚的になっていたと思う。ライブのMCでも「ミクスチャー」ってキーワードを、あえて声高に叫んでいますよね。

Kj うん。

──ミクスチャーロックという言葉が、誤解を恐れずに言えば死語になった、形骸化してきている中で、このアルバムをリリースするのは使命感の表れだと思いました。

Kj 90年代とか2000年代初頭なんかは、ミクスチャーのフェスなんじゃないかというイベントがゴロゴロあったわけで。今はロックフェスといっても、柔らかい感じのバンドが多いから、ミクスチャーバンドは絶滅危惧種なわけだけど。だからこそ、吠えたくなるっていうのはあるよね。自分たちがミクスチャーロックをカッコいいと思ってることだけは間違いないから。過去3枚は自分たちのフォーマットを崩して、遊んできたけど、今はストレートに三振を取るほうがカッコいいんじゃねえかっていう美学が高まってるのは確か。

──ソングライターとしてはどうですか。一時期はDragon Ashとは別に、nido名義の活動などでエレクトロニカ、ミニマルミュージック寄りのアウトプットをしていましたけど。月1レコーディングのときはDragon Ashのモードにうまく切り替えられるものですか?

ライブ写真

Kj それがまた月1レコーディングの妙なんだよね。Dragon Ashとは別の個人的なアウトプットもありつつ、月1回Dragon Ashに集中することで、音楽としての懐の広さ、ポピュラリティは失っている部分もあるとは思うんだけど、どちらのアウトプットもピュアなものになっていると思う。それが良いんだよね。俺だけじゃなくて、みんなDragon Ash以外にそれぞれのアウトプットがあるしね。Dragon Ashは完全に俺が舵をとってやってるから。ほかのメンバーはここでは舵をとる楽しさや快感は味わえないわけで。あと、メンバーが7人もいると頼れる部分も大きいから。例えばライブ中に俺が背中を向けて水を飲んでいても、お客さんはそのまま身体を動かしている。それはなんでかって言ったら、ダンサーがいるからだろうし。俺が水を飲んでいるときにこいつらが飲んでないということだから。逆もしかりだしね。そうやって、背中を任せられる人がいないところで自分を磨くのは大事なことだと思うんだよね。ミュージシャンも所詮人の刀じゃなくて、自分の刀で音を斬らなきゃいけないわけだから。その刀を持ち寄って、Dragon Ashをやっているんだよね。ときに個人の力量の差も出てくるし、それは個人個人が磨かないと。バンドがどうにかできるものではないから。だから、個人活動はすごくいいことだと思う。

自分たちの得意技と必殺技を惜しみなく出した

──今話してくれたことは、理想のバンドの在り方のひとつを示していると思います。

ライブ写真

Kj まあ、わがままなんだよね。わがままなミュージシャンだからクリエイティブって言えるんでしょ(一同笑)。文句を言わず、ちゃんと月に何曲も作っているバンドもいるし、毎年アルバム出してるバンドもいるわけだから。

──でも当初からそういうのは放棄してるバンドじゃないですか、Dragon Ashって。

Kj 放棄って言うな!(一同笑) まあ、そこはガンズ(GUNS N' ROSES)にやられちゃってるから(笑)。活動20年、アルバム5枚みたいなさ。でも、それは良いと思うんだ。要は、自分たちにあったスタイルを見つけることが大事だと思うから。月1回しかレコーディングしないんだったら、それまですげえ練習して次のリハまでに完璧に弾けるようにしておこうと思う人もいれば、Dragon Ashでは出せない感性を表現してみようって思う人もいて。

──その先に、こういうバンドとしてのアイデンティティが露になったアルバムが生まれるというのは、痛快ですよね。

Kj 今回は必殺技を惜しみなく出そうと思って。自分たちが得意だと自覚していることを、ほかのバンドにはできないやり方で出す。それが俺らなりのミクスチャーだから。構成とかリズムなんて、言っちゃえば変幻自在のバンドだからね。

──スキルフルではあるけれども、ポップのフォーマットにも乗っていると思う。

Kj 聴こえ方がそうなっているのは良いことだと思うよ。あんまり技術的なところにフォーカスしているようには聴こえないけど、実際はスキルフルというのが一番カッコいいから。そういうことはできていると思う。

──今作も桜井さんのビートとか、そこだけ抽出したら、とんでもないことになっていることが多々あって。

Kj ふふふふふ。あるよね。

桜井 まあ、それは建志独自のグルーヴ感がデカいんですよ。

──でも、その要求に応えるには相当なスキルが求められるでしょう?

Kj うん、ハンパじゃないと思う。

桜井 やるのみですけどね。

──プレイヤーとしての喜びも相当あるだろうし。

桜井 もちろんそうっすね。それを一番認めてくれるのも建志だから。振られたものに100で返すのは当たり前という姿勢でいかないとダメなんです。結果的には120で返さないと。それが自分のスキルアップにつながっているので。もう、良いことづくめですよ。

──それは7人全員に言えることですよね。

(全員で頷く)

Dragon Ashに永久就職した

──で、最初に桜井さんが言っていたとおり、このアルバムはライブで鳴らして、初めて完結するものですよね。

Kj そりゃそうですよ。カフェで流れるような音楽じゃないですから。汗びっしょりになって聴く音楽ですから。特にギターなんて密に話し合って、パートをしっかり分けて作ってるし。今までかなりシーケンスを研究してきたけど、そのスキルがついたところでもう1回生でやってみるっていう。この感じが楽しみですよ。

──このアルバムが、シーンやほかのロックバンドにどういう影響を及ぼせたらいいと思いますか。

Kj それは不可抗力だからアレだけど、俺らみたいな15年くらいやってるバンドが守りに入らずに攻めているのに、おまえらは守ってていいのか?とは思うけどね。それは、ミクスチャーバンドに限らずだけど。ホントに、ここからロックがガチッと盛り上がるか否かは、今第一線でやってるロックバンドにかかってると思うから。その責任感から音楽をやってるわけではないけど、絶対俺らの手にかかってる部分も少なくともあるからね。

ライブ写真

──めちゃめちゃある。

Kj 俺らからは旗は降ろさないよってことは、このアルバムで伝わると思う。

──あと、この人たち、20年後もこういう音を鳴らしてんじゃねえかって思わせてくれるアルバムだなと。

IKUZONE ……俺、そのころは60(歳)だけどね(一同爆笑)。

桜井 赤いちゃんちゃんこ着ながらライブ!

──ああ、画が見えますね(笑)。

Kj でもさ、馬場さんも実際20年前は20年後バンドやってるとは思ってなかったでしょ?

IKUZONE 全然思ってなかった! だって、Dragon Ashの前に組んでたバンドは、もって半年とか1年くらいだったから。準備期間入れて3カ月で解散とかね(笑)。

──高校生カップルみたいですね(笑)。

Kj ホントだよ(笑)。

IKUZONE 10年以上続いてるということは、Dragon Ashに永久就職ですよ。さかのぼって思うと、Kjが16歳くらいのときに会って、ホントにヤバいなと思ったもんね。Dragon Ashのベーシストオーディションを受けるときにテープをもらって、この曲、ホントに自分で作ってるのかな?って。別の人が作った曲を歌ってるだけじゃないの?って。あのとき受けた衝撃は今も変わらない。10年経とうが、これから20年経とうが。俺の周りにいるどんなやつよりすごいと思ったから。俺、天才だと思う人が3人いて。1人はTHE MAD CAPSULE MARKETSのTAKESHI(UEDA)くん、1人は、cali≠gariの(桜井)青くん、もう1人がKjですね。いまだに毎回曲をもらう度に衝撃があるなんて、幸せだよね。

──Kjはどうですか、その言葉を受けて。

Kj メンバーにそう思われ続けるのは手を抜けないということですから。そう思ってくれているメンバーとずっとバンドをやれていることは幸せなことですよ。そういう信頼関係を築けるのは、ジョークではなくガチで音楽をやってる証拠だからね。その衝動が今も続いてるっていうのがいいよね、このバンドは。

ライブ写真
Dragon Ash(どらごんあっしゅ)

Kj、桜井誠、IKUZONEの3人で結成されたミクスチャーロックバンド。現在はBOTS、HIROKI、DRI-V、ATSUSHIを含む7人編成。1997年2月にミニアルバム「The day dragged on」でメジャーデビューを果たす。1999年に発表したシングル「Let yourself go, Let myself go」が大ヒットを記録し、一躍有名に。2002年にはシングル「Fantasista」がサッカーワールドカップのFIFA公式テーマソングのひとつに抜擢された。その後もオルタナティブロックやヒップホップ、ラテンなどさまざまなジャンルを取り入れたミクスチャーサウンドで、独自の活動を続けている。 2007年にはデビュー10周年を記念するベストアルバム「The Best of Dragon Ash with Changes Vol.1」「同 Vol.2」を2枚同時リリース。現在も常に新しい音楽を追求し続ける姿勢が、多くのリスナーに支持されている。またKjをはじめとするメンバーは、それぞれソロやユニットとして多方面で活動中。