音楽ナタリー Power Push - Cornelius
“頼まれ仕事”から浮き上がる小山田圭吾の本質
サカナクションのリミックスは普通と逆
──サカナクションの「Music(Cornelius Remix)」(2014年)。これはサカナクションの編集盤「懐かしい月は新しい月」にも収録されてますが、素晴らしいリミックスですね。
これは去年のシングルのカップリング用に作った曲ですね。山口くんは札幌出身なんだけど、「POINT」のツアーの札幌公演で警備員のバイトやってたって(笑)。で最初は違う曲を頼まれたんだけど、僕が「こっちの曲がいい」って言って変えてもらった。自分の息子が小学生のときに部屋で「Music」を爆音で聴いててさ(笑)。唯一ちゃんと知ってる曲で、すごくいい曲だと思ってたから。Aメロの淡々としてる感じが好きかな。あとブレイクの感じとか。
──かなり細かくいじってるんですよね。
これは元のトラックはほとんど使ってないです。歌もメロを1音変えて、コードも変えて、コーラスもいじって。原曲はエレクトロニックな、ダンスぽい、ロックっぽい感じだったんですけど、逆をやってみたいと思って。生音中心のアコースティックぽい音にして、ベースだけ生からシンセに変えた。なのでオリジナルとまったく逆のアプローチのトラックになりました。ああいうダンスっぽい曲だけど、ベースになってるのはちょっとフォークっぽいものだという気がして。
──山口一郎の歌が中心にありますよね。
うん、歌。サビで爆発したりする感じがちょっとダンストラックっぽくない感じがして。逆にフォークっぽいトラックの方がいい気がしたんですよ。
──彼の歌の本質に近付いている気がします。
うんうん。なんかそういう感じになるかなと思って。
──山口くんが絶賛してましたよ。
あ、そう。ならよかった。まあ普通のダンスミュージックのリミックスじゃないからね。逆にそういうものを元に戻すリミックスだから(笑)。普通のロックやポップスをダンスミュージックに変えるのがそもそものリミックスの始まりじゃないですか。でもこれは逆にダンスミュージックを……まあ「元」はないんだけど。
──山口くんがこの曲を作ったとき、おそらく最初はギターの弾き語りみたいな形で、それを打ち込みを使って楽曲を仕上げていったんじゃないかと思うんですよ。だから今回のリミックスで、元の形に戻ったといえるのかも。
うんうん、そんなイメージでやってみました。
頼まれ仕事だから自分のやりたいことができないわけじゃない
──で、私がこのアルバムを聴いてまず思ったのは、フリッパーズ・ギターの1st(「three cheers for our side~海へ行くつもりじゃなかった」1989年)ってどんな感じだったっけ、という(笑)。
あはははは!(笑) どんなんだっけ?
──つまり、これは新しい形のネオアコじゃないかと。小山田圭吾のネオアコ回帰。
ああ……うん(笑)。
──で、聴いてみたんですよ、20年ぶりぐらいに(笑)。
はははは!(笑)聴かないでいいですよ(笑)。
──当然やってることは全然違うし、今のほうがはるかに洗練されてるんだけど、全体の夏休みっぽい感じというか。暑い夏のビーチで鳴ってるような、ある種のリゾートぽい雰囲気というか。そういう共通点がある気がしました。
うんうん。それ、なんとなくわかる。フリッパーズの1stの最後の曲って確かカバーだったんだよね。
──「レッド・フラッグ」ですね。
ロバート・ワイアットとかがやってる曲で。で、今作もカバーで終わってるもんね。
──フリッパーズの1stを作ったときってどんな気持ちだったんですか。
気持ちですか? どんなだったろう……。
──まだメンバーが5人編成だったころですよね。
そうそう、いっぱいいた。けっこう大変だったね。誰それがバイトで忙しくてなかなか来ないとか(笑)。
──アマチュアっぽい。
もう完全にアマチュアですよ(笑)。ロクに楽器も弾けないし……。
──あの学生っぽい、青春っぽい、ある種のピュアさも含めて、本作にもそういう雰囲気が漂ってるかなと。
なるほどねえ。ネオアコっぽいといえば確かにネオアコっぽいなあ……。
──チェリー・レッド(1980年代英国の代表的なネオアコレーベル)っぽい感じ。すごく洒落ている。そういう点も似ている。
うん、チェリー・レッドのコンピ(「Pillows & Prayers」1982年)みたいな感じかな(笑)。
──なので単なる頼まれ仕事集というよりは、意外と小山田さんの本質的なものが出たアルバムという気がします。
うん。ここに入っているのは確かに頼まれ仕事が多いけど、でも頼まれ仕事だから自分のやりたいことができないわけじゃない。ただ最初のきっかけというかお題がほかから出されるかどうかという違いしかないんだよね。例えば「攻殻機動隊」だったら、あの世界観があって、こういうシーンにこういう音楽が欲しい、という具体的なオーダーがある。今回だったら原曲の持ってる世界観にどうアプローチしていくか。でも自分で作る場合は何もないから、まず、どういうものを作るかってところから始める、という違いですね。
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- ニューアルバム「Constellations Of Music」
- 2015年8月19日発売 / 2700円 / Warner Music Japan / WPCL-12154
収録曲
- Escalator Step / 大野由美子
- 幽霊の気分で(Cornelius Mix)/ 坂本慎太郎 feat. Fuko Nakamura
- Heart Throbs And Apple Seeds / The Bird And The Bee and Cornelius
- Hammond Song / salyu×salyu
- Holiday Hymn / Cornelius
- Try Anything Once(with Cornelius)/ Korallreven
- Night People / Cornelius
- Solaris(Cornelius Mix)/ Penguin Cafe
- Eyes Wide Open(Cornelius Remix)/ Gotye
- Plastic Sex / The End
- Music(Cornelius Remix)/ サカナクション
- Tokyo Twilight / Cornelius
- May You Always / salyu×salyu
Cornelius(コーネリアス)
小山田圭吾によるソロユニット。1991年のフリッパーズ・ギター解散後、1993年からCornelius名義で音楽活動を開始する。アルバム「THE FIRST QUESTION AWARD」「69/96」は大ヒットを記録し、当時の渋谷系ムーブメントをリードする存在に。1997年の3rdアルバム「FANTASMA」、続く4thアルバム「POINT」は世界21カ国でリリースされ、バンド「The Cornelius Group」を率いてワールドツアーを行うなどグローバルな活動を展開。2006年のアルバム「Sensuous」発売に伴う映像作品集「Sensurround + B-sides」は米国「第51回グラミー賞」最優秀サラウンド・サウンド・アルバム賞にノミネートされた。現在、自身の活動以外にも国内外多数のアーティストとのコラボレーションやリミックス、プロデュースなど幅広いフィールドで活動を続けている。2015年8月には、近年手がけた楽曲を自身のセレクトで厳選収録した編集盤「Constellations Of Music」をリリース。