Cornelius「夢中夢 -Dream In Dream-」インタビュー|6年ぶりオリジナルアルバムで描く“夢の中の夢”

Corneliusから6年ぶりとなるオリジナルアルバム「夢中夢 -Dream In Dream-」が届けられて約3週間が経った。電子音と生音を融合させたシグネチャーとも言えるサウンドの中で歌われる、小山田圭吾という1人の人間のパーソナリティが色濃く表れた歌詞、自分自身の内面を深く見つめ直したシンガーソングライター的な内容に驚いたリスナーも少なくないはずだ。

「夢中夢 -Dream In Dream-」は、小山田が作詞作曲を手がけたMETAFIVEの楽曲「環境と心理」、歌唱にmei ehara、作詞に坂本慎太郎を迎えて制作された「変わる消える」のセルフカバーを含む10曲入り。このうち「変わる消える」とインストゥルメンタル以外すべての楽曲の作詞を小山田自身が手がけている。

Corneliusはなぜ本作を、自身のパーソナルをさらけ出した“歌モノ”としてパッケージしたのか──。そこにはこの6年間に起きた、自身の過去の出来事を発端とした騒動、コロナ禍での生活、敬愛するミュージシャン / クリエイターの死などがあったという。音楽ナタリーでは、その制作背景を探るべくインタビューを実施。彼は空白の期間に何を感じ、どのようにアルバム制作を進めていたのか、また小山田圭吾というボーカリストは“歌う”という行為を今どのように捉えているのか話を聞いた。

取材・文 / 小野島大

騒動の中で

──6年ぶりのアルバムリリースですが、曲作りはいつ頃から始めていたんですか?

2019年の終わり頃かな。アルバム制作というか、なんとなく曲を作り始めたのがそのくらいです。

──当時は漠然とでも「こういうアルバムにしよう」という構想はあったんですか?

いやもう全然何もなく、ただ曲を作っていたという感じですね。

──最初にできた曲はなんだったんですか?

「環境と心理」か「変わる消える」ですかね。「変わる消える」は2021年7月にmei eharaさんのボーカルで出したんですけど(※Amazon Music先行で発表されたが、リリース直後に配信停止。2022年7月に各ストリーミングサービスで再配信された)、作っていたのはたぶん2020年の頭ぐらいだったと思います。「環境と心理」もちょうどコロナに入った頃にできた曲で、METAFIVEの2ndアルバム「METAATEM」を作ってる最中でした。で、本格的に「夢中夢 -Dream In Dream-」の制作を始めたのが、去年の頭ぐらいです。

Cornelius

Cornelius

──METAFIVEが「環境と心理」を発表したのが2020年7月で、そのあと高橋幸宏さんの手術でアルバムの完成が少し遅れて。でも2021年夏には出る予定だった。順調ならMETAFIVEのアルバムが出て、オリンピックの音楽を担当して、2021年の秋頃からはCorneliusのアルバム制作に入る、という予定だった?

そうですね。なんとなくそういうスケジュールを考えていたけど、中断してしまって。しばらくは楽曲制作に何も手がつかない感じでした。同時に進めていたいくつかのプロジェクトも全部なくなって、去年はもう本当にこのアルバムのことだけを考えて制作していたんです。たぶん何事もなければまだアルバムは完成していなかったんじゃないかな。

──逆に中断があったおかげでアルバムが完成したと。

そうですね。ここまでアルバム制作に集中したのは本当にひさしぶりなんです。前作の「Mellow Waves」もいろんなプロジェクトの間に少しずつ進めていたら11年もかかっちゃったし。

──なるほど。じゃあ例のオリンピックの騒動の前に、アルバムの方向性はどこまで見えてたんですか?

もう全然、方向性みたいなところまではたどり着いてなくて。全部で4、5曲はあったのかな。

──あっ、そんなものだったんですか。

そうですね。で、去年に入ってたくさん作って、たぶんアルバム収録曲の倍ぐらいはストックがあったんじゃないかな。制作途中でなんとなくアルバムの方向性が見えてきて、その世界観に合いそうな曲を選んで完成させたっていう。

なぜ“歌モノ”なのか?

──「夢中夢 -Dream In Dream-」は“歌モノのアルバム”と言っていいと思いますけど、そういった方針が定まったのも、この1年ぐらいですか?

そうですね。ただ、最初は坂本(慎太郎)くんに歌詞を書いてもらう流れも考えていました。「変わる消える」もそうだし、前作の「あなたがいるなら」も、坂本くんと一緒にやるとすごくいいものができるので、またやりたいなとも思っていて。ただ、途中でシンガーソングライター的な方向性もありなんじゃないかと思い始めて、だったら作詞も自分で全部やったほうが説得力が出るなと。

──そう思い始めたのはいつ頃ですか?

そうですねえ……去年の頭ぐらいにはなんとなく思っていましたけど。その前に「環境と心理」をMETAFIVEで作ったときに、自分の中に手応えを感じてたのも大きかったですね。

──「環境と心理」は、小山田さんがMETAFIVEで初めてリードボーカルをとった曲ですよね。

「環境と心理」は歌詞も曲も僕が作ったんですけど……自分の内面的なことをわりと素直に曲にすることができたなと思っていて。今までは言葉をデザイン的に扱ったり、そういう作詞法が多かったんですけど、「環境と心理」ではわりと普通のポップソング的なソングライティングができた。

──それはどういうきっかけで?

METAFIVEで2ndアルバムを作っているときに、最初にみんなで曲を出し合ったんだけど、わりと前作を踏襲したようなニューウェイヴファンク的なものが多かったので、少し違う方向性の曲があっても面白いかもなと思ったんです。で、ちょうどコロナに入った頃にポロッと「環境と心理」ができた。今までは曲を作るときはスタジオに行って、パソコンを立ち上げて、テンポを決めて、ちょっとコードを入れてみて、という作り方だったんです。でも「環境と心理」を作っていた頃はまだ在宅ムードみたいなのがあって、家でなんとなく楽器を弾きながら鼻歌で作ったんですよ。

──シンガーソングライターっぽく?

そうそう。Corneliusを始めた頃はそういう曲の作り方もしてたんだけど、最近はあんまりやってなかった。それでわりと自分で手応えを感じたんで、その感じでアルバム1枚いけないかなと思って。

──なぜそんな曲をMETAFIVEに使ったんですか(笑)。自分のアルバムに取っておこうとは思わなかった?

(笑)。ちょうどMETAFIVEの作曲期間中だったし。幸宏さんがこういう少しセンチメンタルなポップソングを歌ったら似合うんじゃないかと思って。そしたら幸宏さんも気に入ってくれて、「次のシングルはこれでいこう」と言ってくれたんです。自分でもすごく手応えを感じていた曲だったんですけど、METAFIVEもいろんなことがあって活動できなくなっちゃって。もともと自分がシンガーソングライターっぽい感じで作った曲だし、この曲をこのままやらないのはもったいないし、Corneliusで歌ってもいいのかなと思ったんです。

──ギターをかき鳴らしながら鼻歌で作る、というやり方はひさしぶりですよね。以前別のメディアでお話を聞いたときは「自分でやってもいいものはできないと思うな」と言ってましたけど(笑)。

うふふふ。いや、それはそれで曲を作れるよね(笑)。なんかこう、スルッと出てくる感じが気持ちいいなと思って。この感覚はひさしぶりでした。

普遍的なポップソングへと昇華するために

──そのあたりから歌モノのポップソング集という考えが……。

「環境と心理」を出した頃はそこまで考えてなかったけど、オリンピック関係の騒動があって、やっぱり自分自身のことを鑑みる機会も増えて。自分の内面を表現するようなことをやりたいと思ったんです。それにはシンガーソングライター的なやり方が合うんじゃないかと。

──自分自身を内省的に見つめて、そこから曲を作り出すって、今まではあまりやってなかったですよね?

うん、そうですね。

──騒動によって自分の中の内省があって、それによってやりたいこと、やるべきことが整理された?

うん、それはきっとすごく大きいと思いますね。ただ、その内省的な見つめ直しみたいなのも、ただやるだけじゃしょうがない。それを普遍的なポップソングに昇華することが、自分の中では課題でした。

──自分の内面から出てきた歌詞をポップソングとして普遍化して自分で歌う。以前ナタリーで取材したとき、「自分が歌いたいって思ったことは一度もないですね。っていうか、なるべくそういうことはしたくない」と言い切ってましたけど(参照:Cornelius「Constellations Of Music」インタビュー)。

あははは!

──今はそんなこと言わないですよね?(笑)

……うん(笑)。今回はやっぱりこういうアプローチをやってみたいなと思いました。

──そこでご自分が歌う際に、何か注意したこと、心がけたことは?

なんでしょう……平常心かな(笑)。あんまり感情を込めすぎないというか。でも、感情をまったく込めないのも違う。ちょうどいいバランス。それは一番意識したかもしれないですね。

自分のことを歌ってるようにしか思えなかった

──これまではメロディにしても歌詞にしても、トラックが全部できあがってからピースをはめるように作り上げていったわけですよね。今回は歌詞やメロディはどの段階で出てきたんですか?

曲によって全然違うんですけどね。「無常の世界」や「環境と心理」「火花」は楽器を持って鼻歌で作るみたいな古典的なやり方で進めていきました。「変わる消える」とかはトラックとして作っていったと思います。だから歌の打点とかがあんまり生理的に来ない位置に入っていたりする。

──「変わる消える」はmei eharaさんが歌ったバージョンが最初に出ましたが、今回は小山田さんのボーカルになってますね。

「変わる消える」は騒動のあとに聴くと、自分のことを歌ってるようにしか思えないというか。そういう予言的な内容で。それで、これは自分が歌うべきかなと思ったところもありますね。「火花」もだいぶ前に作った曲なんですけど、出たときにはみんなにそういうふうに言われたりしました。

──騒動のあとに書いた詞はどの曲になるんですか?

「無常の世界」「DRIFTS」「時間の外で」「蜃気楼」ですかね。

──それらの楽曲には、心境の変化みたいなものは投影されてるんでしょうか?

騒動のことを直接歌っている曲はないんですけど、もちろん影響はあると思います。「無常の世界」とかはそういうことも影響してるし、作ってる最中に坂本(龍一)さんや幸宏さんが闘病中だったので、そんなことも考えながら作っていました。制作が終わってまもなくお二人が亡くなってしまって。