音楽ナタリー Power Push - Cornelius

“頼まれ仕事”から浮き上がる小山田圭吾の本質

Corneliusの新作「Constellations Of Music」が8月19日にリリースされる。この作品はリミックス、プロデュース、共演、共作など近年の彼の仕事をまとめた編集盤だが、単なるコンピレーションではない。アルバム全体に確固としたイメージと流れが設定され、それに沿う形でCorneliusの新曲2曲、salyu×salyuの新録曲1曲、さらにBuffalo Daughterの大野由美子に小山田圭吾が自らオファーした新曲などが配置されており、編集盤でありながらも最近のCorneliusの音楽世界を的確に凝縮した、ある種のオリジナルアルバムとしても聴けるものに仕上がっているのだ。

「攻殻機動隊」シリーズの音楽を担当し新境地を切り開いた近年のCorneliusだが、それらのダークでハードな世界観とは異なる、より肩の力の抜けた作品集である。また、配信やアナログのみで発売された初CD化楽曲も含む今作は、コレクターズアイテムとしての側面もある。この作品について小山田に話を聞いた。

取材・文 / 小野島大 撮影 / 佐藤類

1曲目は僕は何もしてない

──今作は近年のCorneliusのワーク集と説明されています。従来の「CM」シリーズの続編的なものと考えてもいいんでしょうか。

「CM」はリミックス集なんですけど、今回はリミックス以外にも、コラボレーションだったりフィーチャリング的なものとか、新曲も入ってたりするのでタイトルを変えました。

──今作も頭文字は「Constellations Of Music」で“CM”ですからね。2005年から2015年にかけての作品が集められています。

最近の仕事全部というわけではなくて、その中からピックアップしてアルバムにしたという感じですね。

──その取捨選択の基準は?

1つテーマになってるのが……もともと六本木の東京ミッドタウンにあるガレリアのBGMの選曲をやってて(参照:東京ミッドタウンオフィシャルサイト)、それをまとめたアルバムを作ってくれって依頼があって。そこで選曲した自分が関わった曲が何曲か入ってます。あとは1枚のアルバムにするときに必要な曲を、バランスを考えて適宜選曲したって感じかな。点として存在していたものを繋げて1枚の作品にしたってことで「Constellations Of Music(音楽の星座)」という。

──個々の作品としてはバラバラに作られたものだし、それぞれの制作意図も違うけど、こういう曲順でつながることで1つの流れができる。

そうです。で、1曲目に、この作品をまとめていく上で何か曲が欲しいと思って、大野由美子さんにお願いして曲を作ってもらったんです。僕は何もやってないけど(笑)。

──冒頭の「Escalator Step」ですね。あれ、小山田くんは何もしてないんですか?

Cornelius

僕は何もしてない(笑)。ただ大野さんに「こういう曲を作ってください」ってお願いしたの(笑)。注文だけ出して。

──自分のアルバムなのに人が作った曲を入れる(笑)。なぜ自分で作らなかったんですか。

大野さんが作ったほうがいいと思ったから。イメージしたのが、大野さんがソロアルバムや劇伴でやってきたような感じの曲なんです。ショッピングセンターにBGMで流れているような、60年代のMOOGのインストゥルメンタルみたいなイメージの曲。そういう曲を作れる人を探していたら、すごく身近にすごい人がいたんで(笑)、お願いしてみたんです。

──ご本人はどんな反応だったんですか。

「いいよー」(大野の口真似で)って(笑)。

──そのときの様子が目に浮かびますね(笑)。じゃあそのミッドタウンのBGMのアルバムを作る話が発展して。

そうです。きっかけはそれだったんだけど、だんだんそこから逸脱していって、こういうアルバムになった。全然そこでかかってなかった曲も入ってるし。

「攻殻」ほど世界観が限定されてない分、自由なアプローチができた

──このアルバムのテーマ、コンセプトのようなものは何かあったんですか。

あまり肩肘張らないで聴けるようなもの、というイメージがあって。自分のオリジナルアルバムだともうちょっと力が入っちゃうというか、緊張感が出てきちゃうけど、もうちょっとリラックスしたもの、という考えはありました。でも、ここ最近の自分のサウンドの傾向はなんとなく表れてるかな。

──録音の時期の違いもありますが、「攻殻機動隊」でかなりハードでダークで緊張感の高いものを作っていたので、その反動というか、違う面が出ている気がします。

うんうん。でも反動っていうのはないかな。「攻殻」はもともと世界観がはっきりあったから、ああいうものになったし。今作もほとんどの曲が依頼があって、それに対応していっただけだから。まあ、どっちがニュートラルかって言ったら、こっちかなって感じはするんですけど。「攻殻」ほど世界観が限定されてない分、自由なアプローチができたから。

──各楽曲についてお聞きします。Corneliusとしての新曲が2曲、それからsalyu×salyuの新録曲も入っています。

salyu×salyuは新録の「May You Always」も、もう1曲の「Hammond Song」も両方ともカバーで、ライブのレパートリーとしてやってた曲なんです。「Hammond Song」はThe Rochesっていうロバート・フリップがプロデュースしていた3姉妹のグループのカバー(1979年)。salyu×salyuの「話したいあなたと」(2011年)っていうシングルのカップリングだった曲です。「May You Always」はThe McGuire Sistersのカバーで(1959年)、今回のために新録した曲。salyu×salyuのバンドメンバーと、ほぼ一発録りで作った曲ですね。

──Corneliusの2曲は?

「Holiday Hymn」は、もとは無印良品に依頼されて作った曲で、無印良品のお店とかWEBで流れてるんですね。もともとループで作った曲なんだけど、このアルバム用に展開を加えてもう少しポップソング風に作り変えたバージョン。「Tokyo Twilight」は完全な新曲です。次のオリジナルアルバムをずっと作ってるんですけど、それ用に作っていた曲から、今作に足りない要素として持ってきて、完成させたものですね。

──いつごろの曲ですか。

2~3年ぐらい前ですかね。

──これは待っている読者のためにぜひお聞きしなきゃいけないんですが(笑)、次のオリジナルアルバムの制作はどれぐらい進んでるんですか?

40%ぐらいかな? これから集中して仕上げて、なんとか来年ぐらいには出したいと思ってます。

ニューアルバム「Constellations Of Music」
2015年8月19日発売 / 2700円 / Warner Music Japan / WPCL-12154
収録曲
  1. Escalator Step / 大野由美子
  2. 幽霊の気分で(Cornelius Mix)/ 坂本慎太郎 feat. Fuko Nakamura
  3. Heart Throbs And Apple Seeds / The Bird And The Bee and Cornelius
  4. Hammond Song / salyu×salyu
  5. Holiday Hymn / Cornelius
  6. Try Anything Once(with Cornelius)/ Korallreven
  7. Night People / Cornelius
  8. Solaris(Cornelius Mix)/ Penguin Cafe
  9. Eyes Wide Open(Cornelius Remix)/ Gotye
  10. Plastic Sex / The End
  11. Music(Cornelius Remix)/ サカナクション
  12. Tokyo Twilight / Cornelius
  13. May You Always / salyu×salyu
Cornelius(コーネリアス)
Cornelius

小山田圭吾によるソロユニット。1991年のフリッパーズ・ギター解散後、1993年からCornelius名義で音楽活動を開始する。アルバム「THE FIRST QUESTION AWARD」「69/96」は大ヒットを記録し、当時の渋谷系ムーブメントをリードする存在に。1997年の3rdアルバム「FANTASMA」、続く4thアルバム「POINT」は世界21カ国でリリースされ、バンド「The Cornelius Group」を率いてワールドツアーを行うなどグローバルな活動を展開。2006年のアルバム「Sensuous」発売に伴う映像作品集「Sensurround + B-sides」は米国「第51回グラミー賞」最優秀サラウンド・サウンド・アルバム賞にノミネートされた。現在、自身の活動以外にも国内外多数のアーティストとのコラボレーションやリミックス、プロデュースなど幅広いフィールドで活動を続けている。2015年8月には、近年手がけた楽曲を自身のセレクトで厳選収録した編集盤「Constellations Of Music」をリリース。