音楽ナタリー Power Push - Cornelius

“頼まれ仕事”から浮き上がる小山田圭吾の本質

自分が歌いたいって思ったことは一度もない

──自分で作る場合のお題はどういうきっかけで出てくるんですか。

特に決まってないですね。最初にお題を考える、ということすらしないですね。まず音を出してみるってところから始める。

──あるインタビューで坂本慎太郎さんが「自分はメロディが最初に出てくるけど、小山田くんはメロディが最後にできる。それが自分とは全然違う」と言ってましたね。実際そういうことが多いわけですか。

Cornelius

そうですね。メロディはだいたい最後ですね。そのほうがいい曲ができるから。コードに対してどういうメロが入っていくのか、バックの、例えばベースラインとボーカルの関係性とか、打楽器とメロディの関係性とか、そういうところでメロディを決めていったほうが面白いものができるから。

──漫然とギターをかき鳴らして鼻歌で作るやり方ではない。

全然そうじゃないですね。

──となると、確かに「自分が歌いたい」という衝動ではなく、最後のパーツとして歌がある、という感じになりますね

自分が歌いたいって思ったことは一度もないですね。っていうか、なるべくそういうことはしたくない、って。

──フリッパーズの頃から?

うん。フフフフ(笑)。

──ここ最近じゃなくて?

いやもう、ずっとですよ。

──なぜ?

自分の歌なんて聴きたくないし(笑)。人前で歌を歌うなんてとてもとても……。

──じゃあなぜ歌ったの?

フリッパーズですか? まあしょうがなく、ですよね(笑)。やる人がいなかったから。歌モノを作るのは好きなんですよ。でも自分が歌がうまいとか全然思ってないし、うまく歌えないのはホントに不自由だなと思ってるし。ギターを弾くのは楽しいですけど、歌を歌うのが楽しいと思ったことはないですね。

──じゃあCorneliusを始めたときに、いいボーカリストと組んでみるとか……。

いやあ、それも……めんどくさいじゃないですか(笑)。バンドになると人間関係とかも大変だし、機嫌もとらなきゃいけないし。もちろん楽な部分もあると思うんですよ。自分があまり前に出なくていいとか。だけどずっと続けていくには、1人のほうが楽かなと。

──歌いたくないって気持ちが根底にあるから、だんだんボーカルナンバーが減っていったということですか。

うーん、それもあるかもしれない(笑)。

歌がうまかったら今みたいな音楽はやってない

──話を戻すと、「いいメロディ」の基準ってなんですか。

それも難しいけど……安定と意外性の組み合わせというか案配というか。具体的にいうと、和音とメロディの関係、リズムとメロディの関係とか、そういうところで決まってくる。予定調和で来たときに、1音だけ全然違うところにいくとか。そういうことで僕はけっこうぐっとくるんです。

──それも鳴ってる楽器との関係性によって変わってくる。

うん、変わってくる。

──じゃあ極端にいうと、ここのメロディを自分はこうしたい、という欲求よりは、ほかの楽器や和音やリズムなどとの関係性によって、こうしたほうが気持ちよく聞こえるからこうするんだ、というジャッジなんですか。

うん、そうです。

──そこで「俺はこう歌いたいからこうする」じゃなく。

うん。歌いたい、って感覚よりも、音がどういうふうに響くか考えて作るというか。メロディって音程とリズムじゃないですか。それをどの位置に持っていくかっていうことなんですよ。

──で、そうやって作ったメロディを、さてどうやって歌うか、という順番になる。

そうです。

──例えば最近のCorneliusの曲では一番歌モノっぽい「Sensuous」収録の「MUSIC」は?

あれはね、そうやって考えながらも、自分っていう不自由なボーカリストが、楽に歌えそうなメロディというのも考えて作ってるんで(笑)。Corneliusの場合はそういう制約が自分の中である。自分が楽に安定して声が出せる音域の中で作るっていう。でもsalyu×salyuの場合は、そんなこと一切考えないで作れる。

──なんでも歌えますからね、彼女は。

うん。でも逆に制約があったほうが面白いという部分もあって。なんでもできてなんでもやれたらいいかって言ったらそうでもない。制約があることでトーンとかカラーがはっきり決まるってこともあって。

──小山田くんがめちゃくちゃ歌のうまいボーカリストだったら、今みたいな音楽をやっていたと思いますか?

(即答で)ああ、それはないですね(笑)。想像もつかないけど、もっとR&Bみたいなのやってたかもしれないな……。

Cornelius
ニューアルバム「Constellations Of Music」
2015年8月19日発売 / 2700円 / Warner Music Japan / WPCL-12154
収録曲
  1. Escalator Step / 大野由美子
  2. 幽霊の気分で(Cornelius Mix)/ 坂本慎太郎 feat. Fuko Nakamura
  3. Heart Throbs And Apple Seeds / The Bird And The Bee and Cornelius
  4. Hammond Song / salyu×salyu
  5. Holiday Hymn / Cornelius
  6. Try Anything Once(with Cornelius)/ Korallreven
  7. Night People / Cornelius
  8. Solaris(Cornelius Mix)/ Penguin Cafe
  9. Eyes Wide Open(Cornelius Remix)/ Gotye
  10. Plastic Sex / The End
  11. Music(Cornelius Remix)/ サカナクション
  12. Tokyo Twilight / Cornelius
  13. May You Always / salyu×salyu
Cornelius(コーネリアス)
Cornelius

小山田圭吾によるソロユニット。1991年のフリッパーズ・ギター解散後、1993年からCornelius名義で音楽活動を開始する。アルバム「THE FIRST QUESTION AWARD」「69/96」は大ヒットを記録し、当時の渋谷系ムーブメントをリードする存在に。1997年の3rdアルバム「FANTASMA」、続く4thアルバム「POINT」は世界21カ国でリリースされ、バンド「The Cornelius Group」を率いてワールドツアーを行うなどグローバルな活動を展開。2006年のアルバム「Sensuous」発売に伴う映像作品集「Sensurround + B-sides」は米国「第51回グラミー賞」最優秀サラウンド・サウンド・アルバム賞にノミネートされた。現在、自身の活動以外にも国内外多数のアーティストとのコラボレーションやリミックス、プロデュースなど幅広いフィールドで活動を続けている。2015年8月には、近年手がけた楽曲を自身のセレクトで厳選収録した編集盤「Constellations Of Music」をリリース。