ナタリー PowerPush - BRAHMAN
フロントマンTOSHI-LOWが語る 5年ぶりアルバム「超克」
BRAHMANの実に5年ぶりのニューアルバム「超克」が、本日2月20日にリリースされた。
3.11以降、大きく変わってしまった世界。その世界に生きる私たちの心のありようと魂の行き先を照らし出す、まさに渾身の13曲である。震災後リリースされた2枚のシングル「霹靂」「露命」も収録されるが、アルバムの流れの中で新たな生命を持って鳴っている。また70年代アメリカの伝説的女性シンガー、ジュディ・シルのカバー「Jesus Was a Cross Maker」が収録されており、アルバムに彩りを添えている。待望のアルバムを完成させたフロントマンのTOSHI-LOWに話を聞いた。
取材・文 / 小野島大
最近レコーディングするのも楽しくなってきた
──5年ぶりのアルバムですね。もともとBRAHMANはアルバムリリースの間隔が長めではありますし、その間に本当にいろいろなことがあったでしょうから、これぐらいの時間がかかっても不思議じゃないとは思いますが、まずはそのあたりの経緯からお教えいただけますか。
出さなくていいなら、まだ引っ張りたいです。
──あ、そうですか。
アルバムをすごく作りたい、という衝動があまりないというか。
──もともとですか?
はい。ライブでやる曲を作れればいいので。アルバムを念頭に活動してない。そもそも考え方として、リリースを軸に活動してないんですよ。だからいまだに活動の中心に入ってこないですよね、曲作りとか。
──じゃあ曲作りはどんなタイミングでやることが多いんですか。
なんか、新しいのやる?ぐらいの(笑)。気になることがあれば、こういうのがあるんだけど、と。なんかこう……ふんわりとした形のものが散らばってはいるんですけど、形になるまで突き詰めるのに、大の男が4人ぐらいで作業するといちいち疲れるんですよ、ああでもないこうでもないって言い合って。「お前なんだよその言い方」とか、なってくるじゃないですか(笑)。些細なことですごく。そういうせめぎあいするのはちょっと……長くやってると、できるだけ温和にいきたいなと(笑)。
──ああ、大人同士が付き合うとき、お互い徹底的に踏み込むとややこしいことになりそうですね。
でも音楽を作るときは徹底的に踏み込まなきゃいけないから。リリースをいつにしようって決めて、最後全員で踏み込んでガーッとやっていく。締め切りがあるのは大事だなと思いますね。
──となると、曲を作ってリリースすることの積極的な意味合いというのは。
ライブの曲を(客が)知ってたほうがいいじゃないかっていうのがひとつ。あとは名刺代わりみたいなもの。でもやっぱり録音する楽しみをあまり知らなかった……ていうか苦手だし。演奏うまくないし……レコーディングで正確にやることとライブでやってることのズレというのもある。衝動みたいなものはCDではあまり伝わらないってジレンマがすごいあったし。だけど最近はレコーディングするのも楽しくなってきた。自分の声とかも好きじゃなかったから、冷静に聴くのが。けど、だんだん慣れてきた。やっと(笑)。
カラダで覚えこませないといけない
──今回このタイミングでアルバムを出そうと思ったのは?
シングル2枚出して、曲も揃ってきたし。シングル3枚出すのも……。そもそもシングルって考え方があまりないんですけど。でもタイミング的に“作品”として届けたいと思うときもある。それも最終的にはライブにつながっていくんですけどね。
──じゃあアルバムの曲もシングルの曲も、すでにライブでやっているものが多い。
そういうことが多いですね。ただアルバムとかになると、まっさらな状態でやりたいっていうのもある。だからあえてライブでやらなかったりもする。誰も聴いたことのない曲がアルバムに入ってるといいなと。自分が客の立場ならそうだといいなと思うから。もちろん全部じゃないですよ。ライブでやりながら修正していくこともあるし。
──先行シングルの曲がカップリングも含めて全部入ってますね。シングルでリリースした3曲は、アルバムのために再レコーディングしたとか。これは……。
いや、先行シングルじゃないんですよね。たぶんそういう感覚がないから、誤解されるんだろうなっていう。むしろシングルは、3曲入りの作品だったと思ってもらえれば。
──それはそれで完結しているものであると。
うん、そのときにしか出せない、そのときだけのものだから。そのときに3曲しかないから3曲なんであって、12曲あったらアルバム出しますよ(笑)。作品的なものを出したくなるときもあるし。
──シングルを2枚出して、それはそれでひとつ完結しているものである。それをアルバムに組み込んで出すとき、何かニュアンスは変わってきますか?
変わりますね。アルバムはタームを表すものだと思うんですよ。前のアルバムから何年、次のアルバムまでの何年かのターム。今は自分たちの中で「超克」っていう時代が来てるんですよ。前の「ANTINOMY」を出してからのタームを、今回のアルバムでは表している。そのときにしか表せない空気感ってありますからね。俺は「B面」って感覚がないので。数合わせで曲を入れるって感覚もない。すべての曲が重要だし、意味がある。だからその時期のシングルの曲も全部入ってくるんです。ただ、2回レコーディングできる曲もあるから。そのときに気付くこともありますね。シングルのとき締め切りがあって、間に合わせなきゃいけなかったけど、もう一度録り直すことで突き詰めることができる。するとより深く自分たちの楽曲を知ることになるので。
──ライブで繰り返し演奏することでも変わってきますよね。
そうですね。外のものがだんだんカラダの中に入ってくるというか。俺なんか音楽的才能が少ないので、やっぱりカラダで覚えこませていかなきゃならないから。だから単純に言えば量的にどんどん歌ってカラダに入ってきたことでスーッとするときもある。歌詞に追われてるような感覚のときはまだダメだし。そのためにツアーみたいな長いタームで、同じ曲を何回も繰り返して、自分たちのカラダに刻み込んでいって、やっと何も考えないでもスパーンとできるようになって初めて楽曲の持ってる本当のものが出てきたりすることもあるし。耳聞こえがいい曲もあるから、初めから盛り上がる曲もあるんだけど、何年かやってると、ぜんぜん違うものが自分の中で湧き上がってくることもあるし。10年前には気付かなかったなあ、とか。それは長くやっててよかったと思う楽曲との付き合い方ではありますよね。この曲はしょせんB面、みたいな考え方だったら一生やらないかもしれないけど。俺たちはそうじゃない。どの曲でもやるし。
- ニューアルバム「超克」 / 2013年2月20日発売 / NOFRAMES
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3500円 / TFCC-86425
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3500円 / TFCC-86425
- 通常盤 [CD+DVD] / 2625円 / TFCC-86426
- アナログ盤 [アナログ] / 3000円 / PPTF-3859
BRAHMAN (ぶらふまん)
1995年に東京で結成された4人組ロック / パンクバンド。ハードコアと民族音楽をベースにしたサウンドを特徴とする。1996年に初めての作品として「grope our way」をリリース。1998年に発表した1stアルバム「A MAN OF THE WORLD」はトータル60万枚以上のセールスを誇り、90年代後半にひとつの社会現象になったパンクムーブメントにて絶大なる人気を集める。ライブを中心とした活動を行っており、日本以外にもヨーロッパやアジアでもツアーを行うなどワールドワイドな活躍を見せている。2011年3月11日の東日本大震災以降よりライブ中にMCを行うようになり、震災の復興支援を目的とした活動を積極的に展開。2011年9月にシングル「霹靂」、2012年9月にシングル「露命」を発表し、いずれも強いメッセージと圧巻のサウンドがリスナーに受け入れられた。2013年2月に5年ぶりとなるアルバム「超克」をリリース。