ヨネダコウが語る「アウトレイジ 最終章」|刮目して見よ、男たちのナルシシズムの極北を!

ヤクザとして身を立てる男たちのエクストリームな生き様を描いた北野武監督による映画「アウトレイジ」シリーズが、10月7日全国公開の「アウトレイジ 最終章」でついにフィナーレを迎える。

このたび、お笑い、ステージ、コミック、音楽、映画の各ナタリーによる5ジャンル横断企画が始動。第3弾となるコミックナタリーでは、ヤクザ若頭・矢代と、元警官・百目鬼(どうめき)の抜き差しならない関係を描いたBL作品「囀る鳥は羽ばたかない」で知られるヨネダコウへのインタビューを実施した。男たちの嫉妬うずまくリアルなヤクザの世界を美麗な筆致で綴るヨネダは「アウトレイジ 最終章」をどう観るのか?

取材・文 / 的場容子

ヤクザは真面目に描こうとすればするほど滑稽になる

──まさに今「アウトレイジ 最終章」を観ていただいたわけですが、いかがでしたか?

「アウトレイジ 最終章」より、ピエール瀧演じる花田。

面白かったです。ちょっと滑稽さが際立ってたかな……要所要所で笑っちゃって(笑)。花田(ピエール瀧)、最高でした。

──ピエール瀧さん自身も、「顔面世界遺産とも言える役者陣の“顔バトル”はとにかく必見です!」とおっしゃっていました。

基本的に「アウトレイジ」はヤクザの抗争を描いているので、シリアスな世界だと思うんですけど、そのシリアスさが笑いを誘うというか滑稽というか。ヤクザの世界のルールみたいなものって、独特だけど会社員的なところがありますよね。シリーズ通して観ていますが、今回は一番「会社員」感が強かったと思います。本音を隠しつつ、長いものに巻かれたり出し抜いたりしながら、自分のメンツも守りたいという。サラリーマンが上司の悪口を言うように、ヤクザだって無条件に「親分!」と敬うとは限らないんですよね。親分にも肝っ玉の小さい人、いつもビクビクしている人だっているだろうし。子分たちは子分たちで、影では親分の悪口を言ってるということもあるわけですから。ヤクザって「疑似家族」っていう独特の美学がありますけど、同時に会社員的でもあるから、それを真面目に描こうとするとどうしても無理がでちゃって……。

──真面目に描こうとすればするほど、滑稽さが際立つ。

そうです。でもヤクザものを描く上では「任侠」が大事じゃないですか。ビートたけしさんが演じる大友の存在が、まさにそれなんですよね。大友以外の全員が、欲やらしがらみやらを抱えてる中で、唯一大友だけは任侠や義理みたいなものを守ろうとしている。でも、大友に共感できるかと言われると、全然できないんですけどね(笑)。「アウトレイジ」って誰ひとりとして共感できる存在がいないんです。私がヤクザを描くときは、一応読む人が共感できるように描いているんです。「みんないろいろな過去があるんだよ」って。でも、誰の心にも寄り添えないですよね、「アウトレイジ」は(笑)。それでも楽しめるんだっていうのは目から鱗です。

──唯一、共感できそうな大友にも。

「アウトレイジ 最終章」より、ビートたけし演じる大友。

できないですよね。いくら仁義を通すにしても、あそこまで片っ端から殺していく必要ないですもん(笑)。

──シリーズを通して、誰ひとりとして、共感できる過去のエピソードを持つ人がいないわけですもんね。

でも「アウトレイジ」は、あえて共感しないように作ってるんじゃないかな、と思います。そこがいいんです。今までの北野映画で言うと、「HANA-BI」はつらい過去があったことも描かれてますよね。暴力を繰り返しながらも湿っぽさもあって、根底には愛とか情とか普遍的な部分で共感できるようになってる。でも「アウトレイジ」は、そういう意図をあえて排除していて、観る人に暴力やヤクザ独特の会話術とかコミカルな部分を客観的に楽しんでほしいんじゃないかなと思います。

水野萌え!「囀る」に影響を与えた名シーン

──「最終章」では、北野さん演じる大友をはじめ、西田敏行さん、塩見三省さんといった、おなじみの「アウトレイジ」シリーズのメンバーが総出演しています。

今回は女性キャラがいっさい出てこないですからね。北野映画って、女性に対する照れがすごく感じられます。男性だったらどんな汚い内面でも描けるのに、女性の狡さも汚さもどちらもあまり描こうとはされないところに少年っぽさを感じるんですよね。三池崇史監督の作品にも共通しますけど、男っていうものに対するナルシシズムがすごい。究極のナルシシズムがヤクザ表現になっちゃったんだな、って感じます。

──……いい言葉をいただきました。

ただ正直、今回キレイどころがいないのが惜しい! とは思いましたけど(笑)。

「アウトレイジ」より、椎名桔平演じる水野(右)とビートたけし演じる大友(左)。

──「最終章」にも魅力的で個性的なキャラがたくさん出てきますが、シリーズを通して、ヨネダさんの印象に残っているキャラはいますか?

椎名桔平さん演じる水野が良かったです! 警察署の前でタバコを投げるシーンにすっごい萌えました。ボケーっと棒立ちしてる警察官に向かって、タバコをポンポン投げる。しかもニヤニヤしながら。

──どのへんが萌えるポイントだったんでしょうか?

「囀る鳥は羽ばたかない」2巻より。

ただ単に私の萌えなんですけど(笑)、おまわりさんをいじって遊んでる水野にグッときまして。「無骨で動かない人に対して、イタズラしてるヤクザ」っていう。そのあと別の刑事に恫喝されて、その刑事が走り去って行くのを追いかけて……子供なんですよね。かわいらしいというか色っぽいというか、面白いですよね。実は私、あのシーンを観て、「囀る」で似たようなシーンを描いたんです。2巻の冒頭で、警察のコスプレした百目鬼の股間を、矢代がつま先でいじってるっていう。

──「アウトレイジ」が矢代と百目鬼のプレイに影響していたとは驚きです。

「アウトレイジ 最終章」
2017年10月7日(土)全国ロードショー
「アウトレイジ 最終章」
ストーリー

元はヤクザの組長だった大友は、日本東西の二大勢力であった山王会と花菱会の巨大抗争のあと韓国に渡り、歓楽街を裏で仕切っていた。日本と韓国を股にかけるフィクサー張のもとで働き、部下の市川らとともに海辺で釣りをするなど、のんびりとした時を過ごしている大友。そんなある日、取引のため韓国に滞在していた花菱会の幹部・花田から、買った女が気に入らないとクレームが舞い込む。女を殴ったことで逆に大友から脅され大金を請求された花田は、事態を軽く見て側近たちに後始末を任せて帰国する。しかし花田の部下は金を払わず、大友が身を寄せる張会長のところの若い衆を殺害。激怒した大友は日本に戻ろうとするが、張の制止もあり、どうするか悩んでいた。一方、日本では過去の抗争で山王会を実質配下に収めた花菱会の中で権力闘争が密かに進行。前会長の娘婿で元証券マンの新会長・野村と、古参の幹部で若頭の西野が敵意を向け合い、それぞれに策略を巡らせていた。西野は張グループを敵に回した花田を利用し、覇権争いは張の襲撃にまで発展していく。危険が及ぶ張の身を案じた大友は、張への恩義に報いるため、そして山王会と花菱会の抗争の余波で殺された弟分・木村の仇を取るため日本に戻ることを決めるが……。

スタッフ

監督・脚本・編集:北野武
音楽:鈴木慶一

キャスト

大友:ビートたけし
西野:西田敏行
市川:大森南朋
花田:ピエール瀧
繁田:松重豊
野村:大杉漣
中田:塩見三省
李:白竜

白山:名高達男
五味:光石研
丸山:原田泰造
吉岡:池内博之
崔:津田寛治
張:金田時男
平山:中村育二
森島:岸部一徳

※「アウトレイジ 最終章」はR15+作品

ヨネダコウ「囀る鳥は羽ばたかない④」
発売中 / 大洋図書
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ヨネダコウ
ヨネダコウ
12月28日生まれ。2007年にデビュー。執筆作に「どうしても触れたくない」「囀る鳥は羽ばたかない」など多数。現在、ihr HertZ(大洋図書)にて「囀る鳥は羽ばたかない」、BE・BOY GOLD(リブレ)にて「レイニーデイズ、イエスタデイ」、イブニング(講談社)にて「Op -オプ- 夜明至の色のない日々」を連載中。「囀る鳥は羽ばたかない」5巻とファンブックが11月30日、「Op」1巻が2018年1月23日に発売。また画業10周年を迎え原画展などが催される。

2017年10月6日更新