Webマンガサイト・DREコミックスで、半二合が連載している「隠居暮らしのおっさん、女王陛下の剣となる」(以下「隠居暮らし」)の単行本1巻が、3月19日に発売された。原作は、TVアニメ化もされた小説「ナイツ&マジック」の著者、天酒之瓢の最新小説。竜種などの魔物が存在する世界を舞台に、鉄獣機(マシンスティール)と呼ばれる人型ロボットとそれを操縦する主人公のアラフォー男の活躍が描かれる異世界ロボファンタジーだ。
「アイマス」×「グルメマンガ」という異色の組み合わせの作品「アイドルマスター シンデレラガールズ After20」(以下「After20」)で人気を集めた半二合は、なぜ、まったく異なるジャンルでコミカライズを担当することになったのか。前作から定評のあるヒロインたちのかわいさに加え、異世界を舞台にした「ロボット」×「おっさん」の熱さも生き生きと描く半二合に本作との出会いから今後の展望まで語ってもらった。
取材・文 / 丸本大輔
「隠居暮らしのおっさん、女王陛下の剣となる」あらすじ
「ナイツ&マジック」の天酒之瓢が手がける最新作は、おっさんが娘のために奮闘する異世界ロボファンタジー!
オグデン王国の筆頭騎士を引退したアラフォー男のワット・シアーズ。引退後は最辺境の街フロントエッジシティで、巨大な人型機械・鉄獣機(マシンスティール)を操縦し、平和に貨物運びの仕事をしていた。しかし、自分の娘と名乗る少女アンナ・タリスと出会ったことから、ワットと専用機・ロードグリフォンの最強の騎士としての物語が再び動き出す。
娘のために、お父さんはがんばる姿を見せられるのか──!
小さい頃からロボットやメカは観るのも描くのも大好き
──アイドルからロボットへ、かなり大胆なジャンルチェンジかと思いますが「隠居暮らし」のコミカライズを担当することになった経緯を教えてください。
前作の「After20」のときに担当していただいた(編集者の)森さんから「半二合さんに向いている作品があるので、やってみませんか」という感じで、お声をかけていただきました。
(担当編集・森) この作品のコミカライズは半二合さんにしかできない。半二合さんにお願いできたら、間違いなくよいマンガになると思ってご相談しました。
ありがたい話です!(笑)でもロボットマンガって大変そうですからね。最初に話を聞いたときは一瞬、尻込みしました(笑)。
──かわいいアイドルたちのグルメマンガ「After20」を読んできた読者の中には、半二合さんの新作がロボットものということに驚いた人も多いと思います。もともと、ロボットやメカは興味のあったジャンルなのですか?
小さい頃からずっと、ロボットやメカは観るのも描くのも大好きでした。SNSなどにはイラストを出していないのですが、本当はそっちのほうが本領だったというか。逆に「After20」でかわいい女の子を描くことになったときに「どうしよう!」ってなりました(笑)。メカに女の子は付き物ですからイラストは描いたりしていたのですが、マンガでかわいい女の子を描くとなると、それは別の話ですからね。
──マンガの場合、描く数が違ってきますよね。
はい。それに「デレマス」(アイドルマスターシンデレラガールズ)のアイドルは190人いますから、個性や表情を描き分けたりするのは大変でした。ただ、前作の場合、(苦手意識のあった)かわいい女の子と一緒に、得意ジャンルの「お酒」があったので。お酒は大好きですから、「そっちは任せとけ!」って感じでした(笑)。
──では、「隠居暮らし」でメカを描くことは、新たな挑戦という感覚ではなかったのですね。
初めてマンガで描くジャンルなので、もちろん新たな挑戦ではあるんです。ただ、無理にがんばって描いているわけではなくて、前作とはまた別の好きなものを描けているという感じです。前作に関しても最初はかわいい女の子を描くことに不安もあったと言いましたが、もともと「アイマス」は大好きだったので、お話をいただいたときは本当にうれしくて飛びつきました。今回、メカを描けると聞いたときも本当にうれしくて。自分にできるかできないかという不安はありましたが、やりたいかやりたくないかで言えばやりたい気持ちしかなくて。やっぱり飛びつきました(笑)。
──原作を最初に読んだときの印象はいかがでしたか?
私はメカだけではなく、歯車とか蒸気があるスチームパンクな世界観も大好きなんです。石を燃やして、蒸気を上げながら動くロボットが戦うなんて素敵ですよね。それに、主人公が子持ちの中年というか、子持ちになる中年というのも好みで。読み始めたらすぐに引き込まれていきました。みことあけみ先生の挿絵も相まって世界観がすごく素敵で、この作品(のコミカライズ)を担当させていただけるのは、本当に光栄だなというのが最初の印象でした。
立体把握のために主人公機の模型を作った
──連載を始めるにあたって、どのような作業から始めたのですか?
まずは、どこまでを1話にするのかを考えました。原作小説も章ごとに分かれていますが、マンガとして新たにストーリーを区切るときにどこを膨らませて、どこに山場を持って来たら1話の中でも盛り上がりを作れるのか試行錯誤して。オリジナルエピソードを入れさせてもらいながら、構成を決めていきました。
──キャラクターやメカの設定などを描き起こしたりもしたのですか?
原作小説でイラストを担当するみこと先生からいただいた設定画がすごくわかりやすかったので、自分で設定を描いたりはせず、いただいた設定を見ながら描いています。ただ、鉄獣機に関してはすごく複雑な形をしてるので、頭の中ではわかっていてもポーズ人形みたいなものがないと描くのは難しいなと思って。1話を描いた後くらいに模型を作ったんですよ。(鞄を開きながら)今日、持ってきたのですが……。
──すごい! これは主人公機のロードグリフォンですね。関節が動くのですか?
関節も動くようにできています。ベースは別のプラモデルで、パテやプラ板を使って改造しました。これを作ったことで、より立体を把握できるようになりました。
──すごくお上手ですが、プラモデルが趣味なのですか?
ありがとうございます。プラモデルや模型は大好きです。この間も(「装甲騎兵ボトムズ ザ・ラストレッドショルダー」に登場する)スコープドッグ ターボカスタムを作って、「こいつの肩は赤く塗らねぇのかい?」とか言って遊んでいました(笑)。
──本当にロボットものがお好きなのですね(笑)。スチームパンクの世界観を描くうえでの資料を集めたりはしましたか?
本も読みましたが、一番役に立ったのは「アサシン クリード シンジケート」というゲームでした。世界観についてみこと先生とやり取りしたとき、「アサシン クリード シンジケート」は、舞台が19世紀のイギリス、産業革命の時代なので本作と合うかもと教えていただいたんです。
──「アサシン クリード」シリーズということは、3DCGで描かれた街の中を自由に歩けるわけですね。
はい。写真で見るのとは、実感が全然違いました。街の中に立っている感じとか。これぐらいぎっしりと人が住んでいたんだなとか、すごくイメージがつかみやすかったです。屋根に登ったりもできるので、「ロボットの視点は、これくらいかな」って想像したり。あとは、映画だと「ロボ・ジョックス」(アメリカの実写ロボット映画)を観直したりもしました。
──原作の天酒先生からも、何か資料などをもらったのですか?
キャラクターの生い立ちや大事にしていることなど、人物像の根っこになるようなことを、原作でもまだ書かれていないことも含めて教えていただいて。あとは、描かれない過去や正確な年齢などの設定的なものもいただいています。すごく助かりました。
──やはり、そのキャラクターの根っこの部分がわかるかわからないかで、描き方は変わってくるのですか?
はい。ただ、私が先走って「こういうキャラに違いない」と思って描いたら、(天酒先生から)直しが入ることもありました(笑)。
──違うところは、しっかりと直しが入るのですね。
最初にオリジナル展開のアイデア(ネーム)を出したときも快く快諾してくださって。直しは入ったのですが、「こういう展開をしたいなら、こういうふうにしたらどうですか?」という代案も出してくださったんです。そうやって直しているうちに、だんだん階層の深いよい話ができていったので、すごくありがたいなと思います。
──先ほど伺った話と重なるのですが、1話に限らず、オリジナル展開を入れる際の狙いは、各話ごとの盛り上がりを作ることですか?
はい。あとは、例えば原作ではワットの過去を一気に見せているのですが、マンガでそれをやると2話分くらいが全部、過去編になっちゃうんです。連載が始まってすぐに2話連続で過去編を描くのはどうなのかなと思ったし、マンガでは少しもったいぶってもいい気がして、ワットの過去の見せ方は組み替えています。天酒先生に相談して何度か直しもいただきながら描いたのですが、直すたびによくなっていって。最初は、知らなかったキャラクターの形がだんだん見えてくる感覚がありました。
──みこと先生からは、絵に関する直しなどもあるのですか?
それはないのですが、連載開始前に、私の方から鉄獣機のコックピットについて質問させていただきました。鉄獣機のコクピットには、魔獣の骨格が使われているという設定なのですが、最初にいただいた設定だけではどこにどう骨格が使われているのかがよくわからなかったので、メモのような感じでもいいので設定をいただけないかとお願いしたんです。そのとき、一緒にこういう書籍やゲームなどがイメージソースですということを書面で教えていただいて。さっきお話しした「アサシン クリード シンジケート」もその中にありました。
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主人公のワットを早く大暴れさせたい