映画「BETTER MAN/ベター・マン」大友しゅうま、サルとして描かれた大スターの波乱万丈な人生に感情移入

ミュージカル映画「BETTER MAN/ベター・マン」が、3月28日に公開される。

同作は「グレイテスト・ショーマン」などで知られるマイケル・グレイシー監督の最新作で、イギリスポップ界の大スター、ロビー・ウィリアムスの波乱万丈な人生を描いた物語だ。作中でのロビーは一貫して“サル”として表現され、スターダムに駆け上がる一方、常に人の目にさらされる葛藤や苦しみが、ロビー本人の目線で語られる。

映画の公開を記念し、ナタリーでは音楽・コミック・映画・ステージの4つのジャンルを横断した連載企画を展開中。コミックナタリーでは、映画紹介マンガで広く知られ、自身をゴリラとして表現するマンガ家・大友しゅうまに一足早く映画を観てもらい、その感想をインタビューした。映画を観るまでロビーを詳しくは知らなかったと言う大友。そんな彼が、「予備知識なしでも楽しめる」と感じたそのポイントとは。

取材・文 / 大谷隆之撮影 / 武田真和

映画「BETTER MAN/ベター・マン」予告編

英国のポップスターがサルに、実験的ながらエンタテインメントに振り切った作品

──大友さん、これまでロビー・ウィリアムスって聴いてこられました?

いえ、いろんなところで名前を目にしてきた程度で。“英国の有名ポップスター”という、なんとなくのイメージだけですね。なので、映画に出てくるいろんなヒット曲もほぼ聴いてなかったですし。決して裕福じゃなかった複雑な生い立ちとか、彼が「テイク・ザット」というボーイズグループの一員だったこととか。実はすべて、今回「BETTER MAN/ベター・マン」を観て初めて知ったんです。

──本国では文字どおり老若男女、誰でも知っている超セレブなんですよね。何しろ「イギリス音楽史上最も売れたアルバムトップ100」に、ロビー・ウィリアムスのアルバムが6枚も入っている。その圧倒的知名度と存在感は、日本にいると伝わりにくいかもしれません。ではロビーのファンではなく1人の映画好きとして、本作をご覧になった感想はいかがでしたか?

まず最先端のミュージカル映画として、すっごく面白かったです! 全編ものすごくスピード感があったし、音楽シーンの演出も凝りまくっていて。2時間16分、予備知識なしでもまったく飽きずに楽しみました。しかもスターのライフストーリーとしても、めちゃめちゃ波乱万丈じゃないですか。

大友しゅうま

大友しゅうま

──そうですね。波乱万丈を通り越し、ほとんどデタラメと言ってもいい。

貧しかった若者がオーディションきっかけでアイドルグループに抜擢され、あっという間に有名人になって。かと思えば酒とドラッグに溺れ、メンバーとも仲違いをして、どん底に突き落とされちゃう。家族や恋人との葛藤もあるし、何よりロビー本人の孤独感が凄まじくて。ほとんど思考が追いつかないくらいアップダウンが半端なかった。そういうのもすべて含めて、僕のように知識のない人がロビー・ウィリアムスを知る入門編としてもぴったりだと感じました。あとやっぱり手法として強烈なのは、サルですよね(笑)。

──はい。本作では終始、主人公ロビーがサルとして描かれます。CGとモーションキャプチャーを駆使した映像はあまりにリアルで、欧米では賛否両論を巻き起こしました。大友さんはどう感じましたか?

すごく正直に言うと、自分の中ではっきりした答えは見つけられなかったです。いろんな仮説みたいなものは浮かびつつ、終始「それにしても、なぜサル?」って思いながら観てました(笑)。ただ終わってみると、そのモヤモヤが逆によかった気もするんですね。この映画の作り手は一体、ロビーの半生を通じて何が語りたいんだろうかって。リアルに作り込まれた世界観に1人だけサルが混じってるおかげで、そう考えさせられている自分がいたと思いますし。それで2時間以上のドラマを保たせられる作り手さんが本当にすごいなと。

映画「BETTER MAN/ベター・マン」より。ロビー・ウィリアムスは、幼少期から青年期に至るまで、一貫してサルとして描かれる。
映画「BETTER MAN/ベター・マン」より。ロビー・ウィリアムスは、幼少期から青年期に至るまで、一貫してサルとして描かれる。

映画「BETTER MAN/ベター・マン」より。ロビー・ウィリアムスは、幼少期から青年期に至るまで、一貫してサルとして描かれる。

──ナチュラルさと違和感のバランスが絶妙だったと。

そうそう。常に「なぜサル?」って思いながら、ふと気付けばストーリーに没入している。たぶん自分の中で「BETTER MAN/ベター・マン」って、その繰り返しだったんですよ。しかも、そこまで斬新な手法を使いながら実験映画っぽい難しさはまったくなくて。むしろエンタテインメントに振り切った潔さがあるでしょう。こういう変わった雰囲気の作品は、初めてでした。

これはあくまで、“ロビー・ウィリアムスに見えている世界”のお話

──なるほど。サルの意味合いはともかく、具体的に好きだったシーンを教えていただけますか?

今パッと思い浮かぶのは物語の序盤。一躍人気者になったテイク・ザットの5人が、ストリートに飛び出して踊りまくる場面があるじゃないですか。まさに最新技術を駆使したミュージカルシーンというか、流れるようなカメラワークがとにかくカッコよくて。めちゃめちゃ気分がアガりました。楽曲もポップで、思わず身体が揺れちゃうリズムですよね。

──全英1位を獲った「ROCK DJ」(2000年)ですね。実はこれ、ロビーがテイク・ザットを脱退した5年後にリリースされたナンバーで。

へええ、そうなんだ! 知らずに楽しんでました。じゃあ劇中に出てくるほかの曲も?

──はい。実際の年代とは違って、かなり大胆に改変しています。

面白いですね。考えてみればこの映画って、冒頭からずっと、サルのロビーが自分の半生を物語っていく構成ですもんね。同じ音楽系でも、そこはクイーンを描いた「ボヘミアン・ラプソディ」(2018年)とか「ボブ・マーリー:ONE LOVE」(2024年)とは全然違ってた。

──確かに。劇中のナレーションにも徹頭徹尾、ロビー本人の肉声が使われてましたしね。

なるほどなあ。だとするとこれって、あくまで“ロビー・ウィリアムスに見えている世界”のお話なのかもしれないですね。そう考えると、出来事の順番が入れ替わっているのもわかる。さっきのストリートの場面に話を戻すと、場所の移動とかエキストラとの絡みもすごかったです。ロビーとメンバーが曲に合わせて踊りながら、いろんなお店にどんどん出入りして。通行人をからかったり、商品で悪ふざけしたりするのを、ワンカットでずっと撮っていくでしょう。カメラワークも寄ったり引いたり俯瞰になったりで、自由自在でしたし。何より映像と楽曲のリズムが完璧にシンクロしていて、けっこう感動しましたね。

大友しゅうま

大友しゅうま

──ロビー・ウィリアムスの公式YouTubeチャンネルや映画の公式サイトにもアップされていますが、あのシーンは夜のリージェント・ストリートを完全封鎖して撮影されたそうです。ロンドンで最も繁華な通りの1つ。強いて言えば日本の銀座に近いかもしれませんね。

そう考えると、とんでもないスケール感ですよね。あと個人的にびっくりしたのは、ストーリー部分と音楽シーンが完全にシームレスだったことかな。ミュージカルって普通は「はい、ここから歌が始まりますよ」って感じのものが多いじゃないですか(笑)。観る側もそこでちょっとモードを切り替えなくちゃいけないけど、この映画は一切それがなかった。とにかく流れがスムーズですし、字幕に出てくる歌詞もそのときのロビーの悩みとか葛藤としっかり重なっていて。むしろ感情移入が強まった。すごいテクニックだなと思ったんです。この監督さんって「グレイテスト・ショーマン」(2017年)の方なんですよね?

──はい。オーストラリア出身のマイケル・グレイシー監督。「グレイテスト・ショーマン」主演のヒュー・ジャックマンを通じてロビー・ウィリアムスと友人になり、今回の企画がスタートしたそうです。本作の振り付けも同じスタッフが担当していますね。

そうだったんですね。僕はコロナ禍をきっかけに映画にハマり、紹介マンガをアップするようになりましたが、「グレイテスト・ショーマン」はその当時、集中的に観た中の1本なんですよ。すごく面白かった記憶だけはありますが、正直ディテールまでは思い出せない。さっそく観返してみます。