第2回コミナタ漫研レポート(ゲスト:水城せとな)【4/5】

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ていねいな描写の積み重ねで、ストーリーの説得力が増す

唐木 もうひとつ「ガンスリ」を魅力的にしている要素として、描写のリアルさが挙げられると思います。さきほどご紹介したアマティのバイオリンとか、そこに物があるという事実が一個一個とてもはっきりとしてますよね。それを特に象徴しているのがこのシーンです。

サンマルコ広場での突入シーン

サンマルコ広場での突入シーン[拡大]


水城 水位が上がってる状態のベネチアのサンマルコ広場での、突入シーンですね。アクションシーンなんですけど、飛び立つ鳩が背景に描いてあります。ことさらに強調するわけではないけど、きちんと描かれている。

唐木 戦闘シーンのバックに鳥を描くって、まるで現場を見てきたようですよね。

水城 戦闘が始まる前から鳥が飛んでいたので、当然存在するものとして描かれたと思うんですけど、とてもていねいな作業ですよね。そういった描写を積み重ねることでお話の説得力も増します。

唐木 これ、あくまでも架空世界じゃないですか。こんなかわいい顔した女の子が、マシンガン振りかざして突入なんて。

水城 かなり突飛な嘘ですよね。なのに、鳥が飛んでいるっていうことで、この臨場感が醸し出されているわけですよ。大きな嘘をつくときにこそ、精緻でていねいな表現が絶対必要になるんです。

作り手の頭の中で、キャラが生活してる

唐木 もうひとつ、とても精緻に描かれているシーンを。トリエラをできるだけ長生きさせるって決意したヒルシャーさんが、クリスマスの街でパネトーネを買って帰る場面です。話の進行上はあまり必然性のない必要はないエピソードですよね、これ。

パネトーネのエピソード

パネトーネのエピソード[拡大]


水城 そうですね。ここはいかようにも描き方はあったと思うんです。ぼーっと描いてたら、ふつうに街を歩いてる場面にしちゃってたかもしれないし、それでぜんぜん困らないんですよ。ただここは敢えてパネトーネを買わせて。

唐木 ホテルに帰ってきてトリエラに食べさせてあげるんだけど、彼女は味が分からない。

水城 そう、味覚が働かなくなっている。それが義体の寿命が近いという事実を匂わせます。パネトーネを買って帰らなかったらその描写には行き着かなかったですよね。きちんと心の動きに合わせた行動を細かく入れていくことで、自然と話の深みが増す。ページ数や派手なコマ割りに頼らなくてもこういう形で厚みを加えていけるのは、作り手の集中力の賜物だと思うんです。

唐木 そんな集中力のサンプルをもうひとつ。これも同じように、精緻で密度の高い描写が冴えている場面です。

ジャンの裸

ジャンの裸[拡大]


水城 赴任地から送還されてきたジョゼさんを出迎える妹エンリカちゃんとジャンさん。ここでジャンさんは、裸でどかどか出てくる。ドアの向こうには、婚約者ソフィアの姿も裸で見えてて、お前らなにしてたんだっていう。ジャンさんの日々のリア充っぷりがね、見てとれるわけです。

唐木 すごく小さいコマだけど。

水城 そう、ほんとちっちゃいコマなんですけど……これ別に、ふつうの格好で出てきてもいいじゃないですか。裸である必然性はない。でもこういう小さいコマから、ジャンさんはこのとき幸せだったんだ、ってことが読み取れる。

唐木 これはやっぱり相田先生の頭の中で、ジャンは裸で出てきたんでしょうね。

水城 そう、わざわざ描かなくても、相田先生の頭の中でみんなが生活してるってことだと思うんですよ。そういう細かいとこまで拾い上げていくのは作者さんの集中の賜物。キャラクターを描写する際に手抜きがない。12巻まできてこの集中力、すごいなって思います。(つづく)

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