ザコというより下戸
──では、皆さんのプライベートでのリアルなザコエピソードを教えてください。
川本 僕の一番のザコエピソードは、この作品に出られないことです。企画が動いたときは出られる予定だったんですが、時期が変わって自分のソロ公演とかぶってしまったんです。全く同じ時期に中野で一人芝居をやるんですよ。もう1人でザコやろうかな……“出れないザコ”として。
川尻 ザコネタをね。
磯貝 本番中に生中継とかできないんですか?
川本 それ良いね! ザコ中継。
川尻 1日だけ会場を入れ替えます? 成さんがGロッソでやって、こっちが中野MOMOでやる。
川本 俺Gロッソで、お客さん25人ぐらいしか入ってないっていうね……(笑)。川尻くんのザコエピソードは?
川尻 僕はよく、うんこ漏らしますね。
一同 (笑)
川本 うんこザコだ。
川尻 ギリギリの見極めが下手なんですよ。間に合わないのが確定してるから、もう死に場所を探すしかない……駅の片隅とか。
川本 汚い話だな(笑)。磯貝くんのザコエピソードは?
磯貝 最近はお酒の席で、ゆーっくり吐いちゃいますね。
川本 何言ってるの……。
磯貝 オエエエエエエエエエエエエエ……って。
川尻 エクトプラズムみたいな。
磯貝 30歳になって、だんだんお酒弱くなってきちゃって、吐く勢いもなくなってきて……。
川尻 ザコというより下戸。
川本 下戸ザコ……。ザコエピソードといえば、今回オープニングで「愛をとりもどせ!!」を歌ってくださるクリスタルキングのムッシュ吉﨑さんが、「僕はザコ歌手ですから」とおっしゃって、びっくりしちゃって(笑)。
──ムッシュ吉﨑さんが歌う「愛をとりもどせ!!」で幕が開くんですよね。
川本 ご本人が歌うアニメ主題歌から始まるというのも、この舞台のひとつの説得力になっています。
川尻 ナレーションがアニメと同じ千葉繁さんとか。
川本 原先生にも公認していただいてますし、変な話、公式を利用して遊べるっていう(笑)。非常に贅沢な話です。
川尻 オープニングにはA応Pさんも出ます。メンバーの水希さんには劇中にも女ザコとして登場していただいて。原作では女性はさらわれたり、囚われたり、弱き者として描かれてるんですが、ザコ軍団に取り入ってた女だっていたはずなんですよね。したたかに生き延びるために。
──そういえば最近、原作者の武論尊さんが故郷の長野県佐久市に4億円を寄付されたという“まったくザコじゃないエピソード”が報道されていました。
川尻 この舞台にもどうか4億円の寄付を……(笑)。
川本 お客さん0人でも成立しちゃうよ。
川尻 そうなったら客席の頭上から、現金が降ってくるシーンを追加したいですよね。
ザコは世紀末のサラリーマン
──続いて、皆さんの考える“ザコの定義”について教えてください。
川尻 ザコは主役を輝かせる存在です。自分がザコであることで誰かが輝けばいいんですよ。自分で輝こうと思ったら大変ですけど、ザコがみんなで手を組んで1人を輝かせることは可能だと思うので。
川本 大体主役なんてやってるやつは自分のことしか考えてないんだから。
川尻 ケンシロウだってザコが派手に死んでくれるから輝けるんです。ザコがみんな自宅に帰ってからこっそり死んでたらケンシロウも大したことないやつだと思われますよ。
磯貝 ザコの定義ですか……。ザコはお米ですかね。おかずがあってのお米。でもお米がなくなったら寂しいよっていう。
川尻 お米だけでもよく噛んでいくと甘みが出るんだけどね(笑)。あと「北斗の拳」のザコの定義としては、名前のある・なしですよね。原作でもちゃんと名前で呼ばれるやつはスターですから。結構目立ってるザコでさえ“でかいババア”って呼ばれてたりとか。舞台ではザコをメインに描くので全員に名前があります。
川本 ザコって我々に近い存在なんですよね。現実世界でも99パーセント、大多数の人がザコなわけで。毎日つらいけど生きていかなきゃならないとか、ザコに共感できる部分はたくさんあるはずです。
川尻 ザコは世紀末のサラリーマンだと思ってるんです。お勤めに行って略奪をしないと彼らも家族を養えないし、愛する人も守れない。生活が維持できないから、彼らは彼らで必要で自分たちのためにやっていることが、たまたまケンシロウ側から見ると悪党という括りになっている。核でめちゃくちゃになる前は普通の生活をしていて、幼少期からのモラルは僕らと一緒のレベルで。一変してしまった世界にがんばって対応していってる人たちなんですよね。
磯貝 でもザコたちってなんで拳王軍に入ったんですかね。「人を殺すだけの簡単なお仕事です」って言われて入ったのか。そこに至るまでの経緯とかも今回はお見せできるはずです。
お客さんもザコの1人
川本 キャッチコピーが「全員悪人」の映画、「アウトレイジ」って、アウトローな人たちがどんどん無残に殺されていくんだけど、監督の北野武さんは死に方から考えていったらしいんですよ。
川尻 こっちは登場人物「全員ザコ」です(笑)。ザコにもいろんな死に方がありますが、死ぬ直前までヘラヘラしてるザコもいますよね。
磯貝 原作でも、奴隷を解き放って目隠し鬼で遊んでたザコのところにラオウが来て、そのザコは目隠ししたまま「やけに大柄な女だな」ってまさぐってたら、ビンタでやられたり。
川本 大したことない死に方するのも味のあるザコですよね。
川尻 秘孔を突かれて爆発するなんてエリートの死に方ですよ。今回の舞台は死に方にもいろんなバリエーションが出てきます。
川本 客席に何かすごい汚物を撒き散らして死ぬとかいいかもしれない。肉片とか。
磯貝 背脂とか。そういえばステージエリアの一部を解放してる1万9999円の席(リングサイドシート)があるじゃないですか?
川本 そのエリアにいるお客さんたちにザコを殺してもらうってのはどうですか?
磯貝 いいですね!
川尻 1人につき1人殺せますよって。
川本 チケットの半券と交換で殺せるとか。
川尻 舞台上にザコがたくさんいるときは、目印がついてるザコは急に殴ったりしてもいいとか(笑)。
川本 観客参加型じゃないけど、客席全体が拳王軍みたいになったら面白いよねって話は出ていて、お客さんも全員ザコになって「拳王様! 拳王様!」って全員でコールできたらいいなって。
磯貝 お客さんも全員ザコなんですね。
──この“ザコ舞台”では「北斗の拳」という土台の上でザコの魅力を徹底的に描くんですね。
川尻 そうですね。「北斗の拳」は本来、圧倒的にスターの物語で、“強い奴=すごい”という男のロマンなんです。舞台ではザコを描くことで、そんなスターたちのすごさも描けると思います。ケンシロウたちがどれだけ手の届かない存在だったかっていうのをザコサイドから見せたいんですよ。
川本 ザコを描くけど、ケンシロウやラオウの存在もより一層大事にしたいですよね。
川尻 「全然ケンシロウが出てこない!」って、ある種のストレスを与えたい。原作でずっとケンシロウを見られてたことって、すごくありがたいことだったんだと。なので舞台では徹底してザコサイドを描きます。
──これから稽古も佳境に入るわけですが、最後に、この“ザコ舞台”にかける意気込みをお聞かせください。
川尻 脚本は書き終わっていて、演出家の村井雄さんにバトンタッチする段階ですが、お客様から「ちゃんとザコだったね。こんなにザコな舞台ないね」という感想が聞けたら、最高の褒め言葉だと思います。
川本 原作ファンの期待以上のものを作りたいですし、原作を読んだことない方も楽しめるものにしたいです。お客さんも一緒になって、この“ザコ舞台”を楽しめればと思います。
磯貝 「これは舞台なのか?」と思われるぐらい奇想天外な作品に仕上げたいです。ただただ作品を汚さず、いや、ザコだからこそ汚す! そんな勢いで常にお客様をびっくりさせる気持ちでがんばります!
- 舞台「北斗の拳―世紀末ザコ伝説―」
- 2017年9月6日(水)~10日(日)
東京都 東京ドームシティ シアターGロッソ
-
原作:「北斗の拳」(原作:武論尊 漫画:原哲夫)
脚本:川尻恵太(SUGARBOY)
演出:村井雄(KPR/開幕ペナントレース)
出演:磯貝龍虎、河合龍之介、寿里、花園直道、林野健志、水希蒼(A応P) / 青山フォール勝ち(ネルソンズ)、キャベツ確認中(キャプテン★ザコ、しまぞうZ)、街裏ぴんく / 大岩主弥、福島悠介、吉野哲平 / 円盤ライダー(渡部将之、冠仁、賢茂エイジ、森田和正)、KPR/開幕ペナントレース(高崎拓郎、G.K.Masayuki、森田祐吏)
ジャギ役トリプルキャスト
角田信朗:9月6日(水)、7日(木)夜、9日(土)昼
山本圭壱(極楽とんぼ):9月7日(木)昼、9日(土)夜、10日(日)夜
武田幸三:9月8日(金)、10日(日)昼OPENING LIVE「愛をとりもどせ!!」:クリスタルキング(ムッシュ吉﨑) with A応P
声の出演:千葉繁
©武論尊・原哲夫/NSP 1983, ©北斗の拳-世紀末ザコ伝説-製作委員会2017 版権許諾証GP-907
- 磯貝龍虎(イソガイリュウコ)
- 1987年北海道出身。「ミュージカル『テニスの王子様』」の千歳千里役で注目を集め、その後コメディ、朗読劇など数々の舞台に出演。ブレイクダンスやアクションなどにも定評があり長身を生かしたパフォーマンスと瞬発力のあるアドリブを得意とする。また2016年には東京・俳優座劇場で初脚本・演出の「上手」を上演した。音楽活動にも力を入れており2017年6月には自身が参加する音楽ユニット・メンズヘラクレスの1stミニアルバムをリリースしている。好きなザコは“でかいババア”。
- 川尻恵太(カワジリケイタ)
- 1981年北海道出身。脚本家、演出家、俳優。SUGARBOY主宰。2000年に札幌で劇団ギャクギレを旗揚げ、2010年の解散まで、ほぼすべての作品の脚本・演出を担当。2006年に上京し、ラーメンズ及び小林賢太郎作品の演出補、エレキコミック、エレ片の構成作家を務め、お笑いから演劇に至るまで幅広く作品を発表。近年では、乃木坂46出演の舞台「じょしらく弐 ~時かけそば~」や、「ミュージカル『青春-AOHARU-鉄道』2 ~信越地方よりアイをこめて~」、「おん・すてーじ『真夜中の弥次さん喜多さん』双」などの脚本・演出を担当している。好きなザコは“「息をするのもめんどくせぇ」って言うやつ”。
- 川本成(カワモトナル)
- 1974年鳥取県出身。欽ちゃん劇団1期生在籍。1994年あさりどを結成。主な出演番組として、「笑っていいとも!」9代目いいとも青年隊、「王様のブランチ」、「スタイルプラス」、ドラマ「真昼の悪魔」、アニメ「テニスの王子様」など。近年の主な出演舞台は、ブルドッキングヘッドロック「おい、キミ失格!」、男子はだまってなさいよ!「聖バカコント」、月刊「根本宗子」の「もっと超越した所へ。」「忍者、女子高生(仮)」、劇団鹿殺し 電車2部作「電車は血で走る」「無休電車」など。自らも時速246億を主宰し、毎回多彩な作家・演出家を迎え、ジャンルにとらわれない作品をプロデュースしている。2016年には細川徹(男子はだまってなさいよ!主宰)を作・演出に迎え、SFコメディ「バック・トゥ・ザ・ホーム」を上演。2017年9月には、自身のソロ公演第3弾「独走」の上演が決定している。好きなザコは“「汚物は消毒だー!」と火炎放射器を振り回すやつ”。