「YPAM2022」台湾の振付家ブラレヤン・パガラファが語る「LUNA」からフリンジまで (2/3)

タイトルの「LUNA」に込められた多重の意味

──本作の衣裳は、裸に近いような非常にシンプルなものになっていますね。ただ冒頭では、ダンサーがみんなヘッドライトを着けて登場します。その様子は森の中を進んでいるようにも、海の中を進んでいくようにも見えて非常に美しいと思いました。

乗越さんがヘッドライトからそのように感じられたのは面白いですね。ヘッドライトは、現在のブヌン族のハンターたちが実際に狩猟の際に使っているんです。

本作のタイトル「LUNA」は、集落の名前の羅娜(Luluna)にも関連しますが、イタリア語でLUNAと言えば月の光の意味です。また「LU」は漢字で「路」と書き、「道」の意です。「NA」は漢字に直すと「吶」で、これは「叫ぶ」という意味のほか、心の表現とか、報告する、あるいは諦めずに努力していくという意味合いがあります。つまり「LUNA」は、ブヌン族のハンターたちによる、自分たちの権利に対する叫びとも言えます。「LUNA」というタイトルやヘッドライトにはいろいろな意味が含まれていますが、観客の皆さんはさまざまに解釈していただきたいですね。

「LUNA」より。(Photo by Lafun Photography)

「LUNA」より。(Photo by Lafun Photography)

「LUNA」より。(Photo by Lafun Photography)

「LUNA」より。(Photo by Lafun Photography)

──またダンサーたちの身体能力の高さに驚きました。どんなトレーニングをされているのですか?

普段、例えば月曜は朝10時半から民族の歌の練習をしていて、火曜は10時半から12時半まではヨガやコンテンポラリーダンスをやって……というように、平日の午前中はそれぞれメニューが決まっています。午後は演目の稽古や現地調査のために山や海へ行くこともあります。メンバーのオーディションでは、どんなに身体能力が高くても歌ができない人はダメです。歌もダンスもできて、さらに演技もできる人ではないと私たちのカンパニーのメンバーにはなれません。

「LUNA」より。(Photo by Lafun Photography)

「LUNA」より。(Photo by Lafun Photography)

──民族舞踊とコンテンポラリーダンスを結びつけるうえで、ブラレヤンさんがポイントとしていることはどんなことですか?

伝統舞踊も歌も、もちろん一番良いのは現地で観ることです。舞台ではその美しさを100%再現することは不可能です。それを踏まえたうえで私が1人の振付家としてやるべきことは、さまざまな民族の歌や文化をクリエーションの出発点として自分自身の表現をすることだと思っています。私たちのカンパニーは伝統舞踊専門のカンパニーではありませんからね。過去と現在を結びつける表現の可能性を、常に模索していくことが使命だと思っています。

クラウドゲートの功績、そしてブラレヤン・ダンスカンパニーが拓く未来

──ブラレヤンさん個人のことについてお伺いします。ブラレヤンさんは台北芸術大学のご出身ですが、大学ではどんなダンスを学んだのですか?

メインはバレエやコンテンポラリーダンスなどの西洋舞踊で、民族舞踊については少しやっただけという感じです。1973年にクラウドゲート舞踊団(雲門舞集)が設立されたので、そのメソッドも習いました。

「LUNA」より。(Photo by Lafun Photography)

「LUNA」より。(Photo by Lafun Photography)

──ブラレヤンさんご自身も、かつてクラウドゲート2に在籍されていました。2020年に引退した、創立者で芸術監督のリン・ファイミンさんは、台湾のダンス界にとってやはり非常に大きな存在だったのでしょうか。

クラウドゲートは来年で創立50周年を迎えます。もしクラウドゲートがなかったら、私を含めてこんなに早く台湾の人がコンテンポラリーダンスに触れることはなかったでしょう。クラウドゲートは、台湾の文化をより多くの人に観てほしい、自分たちの声をもっと多くの人に聞いてほしいという目標を立て、台湾に留まらず世界へ活躍の場を広げていきました。それは今の私の思いと同じところがあると思います。

またクラウドゲートは1999年にクラウドゲート2を立ち上げて、この約20年でたくさんの若手振付家を育成しました。振付家を育成するのは本当に大変なことです。しかしクラウドゲート2は私以外にも、現在のクラウドゲートの芸術監督チェン・ツン・ランさんやB.DANCEの主宰者ツァイ・ボーチェンさんといった振付家を輩出しています。そういった点でも、クラウドゲート舞踊団の功績はやはりすごく大きいと思います。

──ブラレヤン・ダンスカンパニーは来年、パイワン族に焦点を当てた新作を台湾国立劇場で発表されるなど、ますます活躍が期待されますが、改めて「LUNA」日本初演に向けた思いを伺わせてください。

「LUNA」はアメリカやカナダ、シンガポールなど各地をツアーしてきた作品です。今回ようやく日本で上演の機会を得ました。台湾の観客は、舞台を観る前に歴史的背景や作り手のバックボーンなどはあまり考えず、スッと劇場に入って、そこで感じたものを持って帰ります。日本の観客も台湾の原住民族や歴史など、何も知らなくても構いません。舞台上の私たちをそのまま観ていただきたいです。作品から何が伝わるのか、私たちも楽しみにしています。

「LUNA」より。(Photo by Lafun Photography)

「LUNA」より。(Photo by Lafun Photography)

「LUNA」より。(Photo by Lafun Photography)

「LUNA」より。(Photo by Lafun Photography)

プロフィール

ブラレヤン・パガラファ

台東嘉蘭地区生まれのパイワン族。12歳でダンサーを志し、15歳のとき、漢名の郭俊明を名乗り進学のために故郷を離れた。台北芸術大学でダンスを学んでいるとき、パイワン族名のブラレヤン・パガラファに戻し、卒業後はクラウドゲート2(雲門舞集)に加わった。1998年、アジアン・カルチュラル・カウンシルのフェローシップを受けニューヨークで学ぶ。クラウドゲート、クラウドゲート2、米国マーサ・グラハムダンスカンパニーなどに招聘されて振付を担当した。また2015年には自身が主宰するブラレヤン・ダンスカンパニーを設立。国内外で作品を発表し、高い評価を得ている。

乗越たかお(ノリコシタカオ)

1963年、東京都生まれ。作家、ヤサぐれ舞踊評論家。

2022年11月28日更新