河原に現れた若い男女。彼らは劇団員で、次の公演のためにホームレスを取材しに来ていた。河原で四股を踏み、「邪気を払って大地を清めている」と言う女ホームレス・馬場マチコ（広岡由里子）の言葉に導かれて、2人が向かった先にはトシちゃんとBBの姿が。劇団員の男は猫のフンを踏んだことにショックを受けて帰ってしまうが、残った若手女優ナオ（成海璃子）は2人の生活に興味津々。そして3人の長い夜が始まった……。

episode1では劇団員たちの取材を通して、ホームレス生活のいろはが描かれる。空き缶集めの仕事や、河原で作物を育ててはいけないこと、乾かした茶葉には深みと渋みが増すといった生活の知恵などだ。同時に、トシちゃんとBBの性格も明らかになる。記録写真にカッコつけたポーズを取ってしまうBBの様子や、ナオに「朝までここにいたい」と言われ、黙って酒を注がれるトシちゃんの表情には、一瞬だが彼らの性格が見て取れておかしい。また、ホームレス生活に至った経緯を聞かれるとサッと目を逸らす2人。「成り行きでここに来ちまった」「人生はな、大半が成り行きなんだ」という含みのあるセリフが印象的だ。

なお、ナオと一緒にやって来る劇団員の男・柏崎を、イキウメの大窪人衛が演じている。

ある朝、BBが空き缶集めを終えて小屋に戻ると、見ず知らずの女が寝ているのを発見する。ペマ子と名乗る女（小泉今日子）は、祖国のクーデターを逃れ、行方不明の王子を、1人国境を越えて日本に探しにやって来たという。彼女は福祉課職員・佐藤（山内圭哉）のことを国際的組織の人間で、祖国の資産を狙っていると信じている。逃げ足が早く、血の気の多いペマ子の話を面白半分で聞き出そうとする、トシちゃん。BBは、祖国の隠し資産の在りかを知る王子の話に、思わず身を乗り出してしまう。ペマ子の物語は果たして真実なのか？

episode2はアメコミのようなアクションシーンが盛り込まれ、まるで映画のように展開する。加えて、物腰は柔らかいが話をまったく聞かない福祉課職員・佐藤の登場により、ホームレスに国籍不明の人が多くなってきている現状や、生活保護や自立支援を勧める役所のサポートについてなども描かれ、役所とホームレスそれぞれの正義が明らかになる回でもある。

小泉は堂々とした“王族然”な演技が似合う一方で、いつから追手に追われているのかと記憶をたどる様子には切なさをにじませる。ペマ子とトシちゃん、BBが夜に語り合う姿には、生の舞台を観ているかのような臨場感も。また、組織を捕まえた報酬で何を買うかという問いに対するトシちゃん＆BBの答えには、“豊かさとは何か”を考えさせられる。なお、ペマ子が行方を探す王子はなぜか俳優の山中崇にうり二つで、王子役の山中が“お札”になっているさまは必見だ。

空き缶を拾って来たBBは、ゴミ収集所でホームレスたちとちょっとした諍いになる。そこに現れたのは、シルクハットをかぶったチャメさん（岸部一徳）。困った問題もチャメさんの鶴の一声で解決することもある、多摩川河川敷界の“大岡越前”だ。そんなチャメさんのもとを、娘・優子（臼田あさ美）が訪ねて来る。聞けば、結婚の報告に来たとか。「自分のせいで破談になるだろうから、行方不明にしておけ」と複雑な表情で告げるチャメさん。トシちゃんとBBはその様子を遠くの階段から双眼鏡でのぞき見していて……。

episode3ではトシちゃんとBBの悲喜こもごもから少し離れて、チャメさんとその娘の物語にフォーカスが当てられる。「娘の結婚式には出席できない」と言うチャメさんに、トシちゃんとBBが畳み掛けるように出席を促す、息の合った掛け合いは、“綾ベン企画”の真骨頂。親に向いていない人間で、勝手気ままに生きて来たと自分をとがめるチャメさんを、2人は温かく肯定する。この回では、チャメさん親子がお互いの生き方を尊重する独立した人間として描かれる。「弁護士と役人と銀行は信用しないほうがいい」を座右の銘とするチャメさんを深みのある演技で魅せる岸辺。優子役の臼田との静かなやり取りからは、家族とは何か、生き方とは何かを考えさせられる。また、チャメさんを訪ねて来る大洗の食品加工会社の社長・桜井役で出演する落語家・瀧川鯉昇も要チェックだ。

手作りの将棋駒が混じった碁盤で対局するトシちゃんとBB。トシちゃんは敗勢の局面で「待ってくれ」とBBに懇願する。しかし、「待ったはしないと2人で決めた」とBBに拒否されてしまう。するとトシちゃんは川に視線をやり「何かはねた」とごまかしながら、かつてBBのために立て替えた見舞金の話を持ち出す。こじれた2人の対局は、いつしか大げんかに発展してしまうのだった。

ゲストが登場せず、トシちゃんとBBの掛け合い＆モノローグをたっぷりと堪能できるepisode4。ぶつぶつと文句を言いながらも、台風で錦鯉を逃がしてしまったBBのために「錦鯉の飼い方」の本を開くトシちゃん。一方、BBは腰を痛めているトシちゃんのために、拾ったコルセットを探す。けんかの最中なのに、2人の仲の良さが透けて見えるのがにくい。碁盤をいじられないように監視カメラを設置したり、起動してない拾ったスマホで「カシャ、カシャ！」と言いながら碁盤を撮影するふりをする姿は、まるで子供のようだ。歌舞伎の見えを切るようなモーション、西部劇のような対峙シーンなど、演出面でも工夫が凝らされている。

「待った待ったで、そのうち何待ってんのかわかんなくなるから」とBBは対局中に言うが、けんかしている間に“なんだかよくわからなく”なってしまう2人の姿は、観る者のほほを緩ませる。

夜、川辺に1人の美しい青年が思い詰めた表情で佇んでいる。トシちゃんによると、昨日もそこにいたらしい。心配になった2人は、彼に声をかける。するとそのとき、洪水警報が鳴り響く。大雨の中、鈴木と名乗るその青年（山田裕貴）を連れて、急いで避難所の集会所へ向かうトシちゃんとBB。避難所には、他人の顔を指差して「恨まれてるよ」と言い続ける女、「複合的にしくしくと、調子が悪い」と鈴木に絡む酔っ払いの男など、さまざまなホームレスたちが集っていた。鈴木の話を聞き出そうとするトシちゃんに、BBは「聞いたってわかんねぇんだよ、人のことなんか」とやめさせようとする。そこに、「なんだかわからないけど、こんなことになっちまった」と、頭と足から血を流した怪我人が運ばれて来た。すぐには到着しないという救急車を待つ中、「僕、診ましょうか」と鈴木が応急処置を買って出る。

episode5で展開するのは、トシちゃんとBBが雨の日に出会った、不思議な青年の物語。長塚が脚本を担ったこの回は、ほかのepisodeとは少し趣の異なる、ミステリー仕立てになっている。“素性のわからなさ”を、黒い瞳を大きく見開き、硬い表情で表現する鈴木役の山田。最初は何も語ろうとしなかった鈴木が、おせっかい程度にしか追求しないトシちゃんに次第に心を開き、やがてけがをしたホームレスの処置を通して己と対峙するまでの心境の変化を想像しながら観てほしい。結局は何も語らなかった鈴木の姿には、「その人にどんなわけがあるのか、当事者以外にはわからない」というこの作品のメッセージが込められている。河川敷で暮らし、世俗を離れたトシちゃんとBBだからこそ、鈴木の思いをすくい取れたのかもしれない。

また、episode5には、舞台で活躍する俳優たちが多数出演している。椿組主宰の外波山文明と阿佐ヶ谷スパイダースの伊達暁はコンビのホームレスとして物語の良いスパイスに。また、無名塾の渡辺梓、元劇団東京乾電池の劇団員で現在は城山羊の会などに出演する岡部たかし、拙者ムニエル / またはブライアンの加藤啓がホームレス役で、ナイロン100℃の村岡希美が謎めいた着物姿の女として登場する。どこに誰がいるのか、お見逃しなきよう。

今日は伝説のホームレス・聖（ひじり）さん（倍賞美津子）の命日。トシちゃんとBB、仲間のホームレスたちが、聖さんの木碑に花を手向けにやって来た。河川敷のゴルフ場建設に最後まで反対したり、自らおとりとなって、ホームレス狩りをする少年たちを撃退したり、“ジャンヌダルク・ホームレス”と呼ばれた聖さんは伝説の存在だった。佐藤やチャメさん、そしてナオも参加し、思い出話に花を咲かせ穏やかな夜が過ぎていく。

彼らがどのような最期を迎えるのか、考えさせられるepisode6。無理をしてでも病院に連れて行って治療させるべきか、生き方同様、死に方も本人の自由を尊重すべきなのか、その答えは出ない。彼らは聖さんのことを「どこまでも自由でいたかったのだ」と納得するが、このepisodeではキレイ事だけではなく、ホームレスの現実にも言及している。また、ホームレスのグローバル化が進んでいるとしてドイツ人が登場し、佐藤がよどみなくドイツ語を話し出す姿も面白い。

ゲストとして登場する倍賞は、強くたくましい聖さんの姿で物語に華を添える。この回には、有薗芳記、猫のホテルの千葉雅子、うずめ劇場のペーター・ゲスナーも出演。オリジナル舞台の登場人物・馬場マチコ役の広岡も味のあるホームレス姿を披露している。