近界民と呼ばれる異世界からの侵略者と戦う防衛組織・ボーダー隊員たちの姿を描いた葦原大介のSFアクションマンガ「ワールドトリガー」(集英社「ジャンプSQ.」連載 / ジャンプ コミックス刊)。同作を原作にした「ワールドトリガー the Stage」(以下ワーステ)は、2021年に中屋敷法仁の演出で舞台化され、俳優の身体能力を駆使したダンサブルなパフォーマンスとリズミカルな音楽を取り入れた表現方法“フィジカライブ”(Physical×Live performance)で話題を呼んだ。
4月12日に開幕するワーステ第5弾「『ワールドトリガー the Stage』B級ランク戦最終決戦編」では、佳境を迎えたB級ランク戦最終決戦の様子が描かれる。力を合わせ、共にランク戦を勝ち抜いてきた玉狛第2(三雲隊)のキャストたちは今、何を思うのか。稽古も大詰めに入った3月下旬、空閑遊真役の植田圭輔、三雲修役の溝口琢矢、雨取千佳役の其原有沙、ヒュース役の山本一慶、宇佐美栞役の茜屋日海夏に公演にかける思いを聞いた。
取材・文 / 興野汐里
制作チームの愛を感じる、各隊のビジュアル
──今回は、ワーステの主軸を担う玉狛第2のキャストより、チームのエースを務める攻撃手・空閑遊真役の植田さん、チームの指揮を執る隊長・三雲修役の溝口さん、修の幼なじみで膨大な量のトリオンを持つ狙撃手・雨取千佳役の其原さん、新たに玉狛第2に加入したヒュース役の山本さん、戦闘員をサポートするオペレーター・宇佐美栞役の茜屋さんにお集まりいただきました。
近界民に連れ去られた千佳の友人と兄・雨取麟児を助けるため、近界へ向かう遠征部隊入りを目標に掲げた遊真、修、千佳の3人は玉狛第2を結成。遠征部隊入りの条件となるB級ランク戦2位以内を目指して、ボーダーB級部隊と激しい交戦を繰り広げ、勝ち上がってきました。ワーステ第5弾「B級ランク戦最終決戦編」では、B級ランク戦の集大成となるROUND6からROUND8までの様子が描かれます。
其原有沙 ワーステ初期の頃と比べると、女の子のキャラクターが増えて華やかになりましたよね。
溝口琢矢 “フィジカライブ”がシリーズの代名詞になっているワーステですが、今回は特に、カンパニー全体のダンスや殺陣のスキルがグッと上がった気がします。(王子隊隊長・王子一彰役の)滝澤(諒)くんが「僕は今回がワーステ初参加なので、過去作から出演しているキャストの方々に早く追いつかないといけない。だからとにかく一生懸命取り組んでいます」と言っていて、ハッとしました。新キャストの方々もそのぐらいの意気込みでワーステの稽古に臨んでいるので、自分たちも必死にやらないと!と改めて感じましたね。「B級ランク戦最終決戦編」には、これまでのワーステシリーズで一番と言っていいくらい、玉狛第2のメンバーで集まるシーンが多く登場するので、いつも以上にメンバー間でコミュニケーションを取りながらシーンを作っていっています。
其原 玉狛第2のメンバーって、5人中2人が演出家の経験があるんですよ。演出家の視点を持ち合わせている植田さんと一慶さん、視野の広い溝口くんと日海夏ちゃんにはお稽古でいつも助けてもらっていて、本当にありがたいです。
溝口 玉狛第2キャストの中で、有沙ちゃん自身は何担当だと思う?
其原 私は……癒やし担当!(笑)
其原 玉狛第2のメンバーはもちろん、ワーステカンパニー全体に言えることなんですが、本当に温かくてチームワークが良いカンパニーなんです。今回、各隊によるダンスシーンがあるんですけど、それぞれのカラーが出ていて本当にカッコいいので、ぜひ注目してもらいたいです!
溝口 ワーステシリーズをご覧になったことがある方の中には「今回、あの隊とあの隊は登場しないんだ。寂しいな」と感じる方がいるかもしれないんですけど、実は各隊の音楽がアレンジされてBGMとして使われているんです。「あっ! この曲、聴いたことがあるかも! 懐かしいな」と思っていただけるような、ワーステの軌跡をたどることができる満足度が高い構成になっているんじゃないかなと思います。
植田圭輔 「B級ランク戦最終決戦編」の上演に向けて、登場人物が全員集合したメインビジュアルやキャラクタービジュアルのほかにも、二宮隊、影浦隊、生駒隊、玉狛第2、王子隊、東隊、鈴鳴第一、弓場隊、それぞれのビジュアルを作ってもらって、制作チームの愛を感じました。僕は特に弓場隊のビジュアルが好き! 影浦隊のロックミュージカルっぽいビジュアルも良いよね。
山本一慶 鈴鳴第一と二宮隊のビジュアルは雑誌の表紙みたいだよね。
溝口 二宮隊、ダンディでめっちゃ良いですよね!
其原 王子隊はチェスをモチーフにしてるんだって!
山本 東隊はアクションゲームみたいな世界観をイメージしてるのかな。
植田 と言いつつ、玉狛第2の“ザ・ワーステ”なビジュアルもやっぱり良いよね。
玉狛第2は本当に強くなった
──前作となる第4弾「ガロプラ迎撃編」では、近界最大級の軍事国家アフトクラトルの従属国ガロプラとの戦いと、B級ランク戦ROUND5の様子が描かれました。ボーダーの捕虜として玉狛支部に預けられているアフトクラトルの近界民ヒュースが、自身を母国へ送り届けることを条件に玉狛第2へ加入し、チームに大きな変化が訪れます。2021年のワーステ初演から玉狛第2のメンバーを演じている植田さん、溝口さん、其原さん、茜屋さん、そして2024年上演の第4弾から新たにワーステのメンバーに加わった山本さんから見て、玉狛第2はどんなチームですか?
溝口 キャストのことで言うと、みんなに可愛いがられてきた末っ子の有沙ちゃんが、自分から「自分は癒し担当です」なんて言うようになって感慨深いですよ(笑)。
其原 私のことをこんなにいじり倒すカンパニーはほかにないです!(笑)
植田 B級ランク戦ROUND1からROUND5に至るまで、さまざまな戦いを乗り越えて、玉狛第2は本当に強くなったと感じます。初めは空閑が中心となる戦い方をしていましたが、修と千佳がどんどん力をつけたところに、戦闘力の高いヒュースが加入して、空閑が戦っていないシーンが増えたんですよ。最初の頃から考えるとびっくりですよね。あとはやっぱり、栞ちゃんが戦いの場にいてくれると安心するなあと今回改めて実感しました。日海夏ちゃんが声の出演だけだったとき、「ああ、ほかの隊にはオペレーターがいてうらやましいなあ」って思ってたもん(笑)。
溝口・其原 わかるー!
山本 自分は第4弾からワーステに参加したので、カンパニー内の関係値がある程度できあがったところにどうやって合流するかを考えていたんですけど、ヒュース自身も玉狛第2に途中参加するポジションだったこともあり、ヒュースと同じような心境でカンパニーに加わることができてありがたかったです。みんなが作り上げてきた玉狛第2の色に溶け込む努力をするというより、自分がヒュースとしてドシッと構えていれば、みんながよきように料理してくれるだろうという信頼感がありました。
其原 玉狛第2の歩みを振り返っていたら、今回の公演もすぐ終わっちゃうのかなと思ってなんだか寂しくなってきちゃいました……一旦、稽古お休みにしませんか?(笑)
溝口 こらこら!(笑)
──先ほど植田さんが「玉狛第2は本当に強くなった」とおっしゃっていましたが、B級ランク戦での戦いを重ねる中で、ご自身が演じるキャラクターの成長や変化を感じる場面はありますか?
溝口 修はもちろん精神的には成長していると思うんですけど、物理的にはあまり強くなっていないんじゃないかなって。空閑や千佳、ヒュースの強さを生かして戦えているから、自分も強くいられる気がしているけど、修は途中でベイルアウトしていて、最後まで戦えたことがないんです。でも、修は千佳のように生まれ持ったトリオン量は多くないかもしれないけど、そこで諦めるんじゃなくて、「千佳のお兄さんである麟児さんを助けたい」という強い思いを持って突き進んでいる。マンガの主人公にはよく隠れた才能があったりしますが、修にはない。だからこそ、自分は修というキャラクターが好きなのかもしれません。
植田 近界からやって来た空閑は、修や千佳が生まれ育った三門市の人々と比べると、元からズバ抜けて強かったので、“ここでの戦い方に適応できてきた”という表現が正しいような気がします。ここ最近の戦いでは特に、戦った相手の技をトレースして、しっかりと自分のものにできている実感がありますね。でも、個人戦で強い者が団体戦でも強いとは限らない。それが「ワールドトリガー」におけるチーム戦の面白さの1つなんじゃないかと思います。
溝口 玉狛第2の中で一番強いのは千佳じゃない?と思いながら演じているんですが、みんなはどうですか?
其原 トリオン量でいうと、確かに千佳ちゃんが一番強いかもしれないんですけど、千佳ちゃん自身は、トリオン任せで戦いたくないところがあるんじゃないかなって。あと、さっき溝口くんが修は強くなっていない気がすると言っていたけど、修くんは戦術を考える素晴らしい才能があるし、全然そんなことないのに!って思います。
植田 自分の魅力に気付かない感じというか、ストイックに考えすぎるのが琢矢っぽいし、修っぽくて可愛いんだよなー。琢矢も修も良い意味で本当に頑固。
其原 ははは!
山本 ヒュースはアフトクラトルの遠征部隊に所属していたこともあり、もともと強い力を持っていて、トリオン量でいうと千佳の次に多い。でも空閑と同じく、個人の力では優れているかもしれませんが、チーム戦で隊員たちと一緒にどう戦うかが大事なんじゃないかと思っています。ヒュースはクールにしてるけど(笑)、仲間と助け合う必要があること、信頼関係がないと勝てないことをしっかり理解しているから、大人だなーと感じます。
溝口 原作に登場するヒュースのあのセリフ、ヤバくないですか!? 「オレは付き合いは短いが 千佳が仲間のために自分を駒として使えるということは知っている」って。言うなれば「オレも千佳と同じで、自分を駒として使える」ということじゃないですか。カッコよすぎますよ!
植田 強くて悲しき男だよね、ヒュースは。
山本 相当ドライだよね。戦争を通じて大変な光景をたくさん見てきたんだろうね。いろいろなことを受け入れながら、自分の大切なものを捨てて戦い続けてきた人間が、仲間と協力しているからこそ、ヒュースの姿を見ているとグッとくるんじゃないかな。
溝口 宇佐美先輩は離れた場所から玉狛第2のメンバーをサポートするポジションですが、「B級ランク戦最終決戦編」ではけっこう走り回ってますよね?
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途中加入だからこそ得られた視点