葦原大介のSFアクションマンガ「ワールドトリガー」(集英社)を原作にした「ワールドトリガー the Stage」(以下ワーステ)の最新作「『ワールドトリガー the Stage』ガロプラ迎撃編」が、10月から11月にかけて上演される。シリーズ第4弾にしてワーステ人気はさらに拡大し、東京・大阪に加え、初の福岡公演と、3都市4会場での実施が決まった。
「ガロプラ迎撃編」で描かれるのは、近界最大級の軍事国家アフトクラトルの従属国ガロプラとの戦いと、Bランク戦ROUND5の様子。ステージナタリーでは、2021年の初演からワーステの軸を担う空閑遊真役の植田圭輔、三雲修役の溝口琢矢にインタビュー。初演から絆を深め、“相方”や“相棒”という言葉がすっかり板に付いてきた2人に、「ガロプラ迎撃編」にかける思いを聞いた。
取材・文 / 興野汐里撮影 / 堀内彩香
“演劇的感覚”が合う2人
──インタビュー前に2ショットの撮影をしている際、溝口さんが「ワーステが始まった頃はまだ圭輔くんと肩を組んで写真を撮ることができなかった」とおっしゃっていましたね。ワーステも第4弾に突入し、お二人の距離がどんどん縮まっているように感じます。
溝口琢矢 圭輔くんとは人生で一番多く2ショットを撮った気がします。ワーステの現場が終わったらちゃんと先輩後輩の関係に戻るんですけど(笑)、今は相方として隣に立たせてもらっています。
植田圭輔 琢矢は素晴らしい相棒ですよ。なんと言うか、琢矢とは“演劇的感覚”が合うんです。自分がやりたい芝居のプランを明確に持っているし、周りのスタッフ・キャストの方としっかりとセッションしたうえで答えを出している。若い頃から芸能界にいるからなのかな。座組を引っ張る人間としての振る舞い方もよく知っていて、一緒にいるのがすごく楽なんですよね。おしゃべりではあるんですけど、役者としてセンスがないことは言わない。
溝口 うれしいです! ……でも、すごいプレッシャーだあ!(笑) 空閑遊真と三雲修として圭輔くんと2人でワーステを演じさせていただくことが決まったとき、正直、俳優としての意見の相違で衝突してしまったらどうしようという不安があったんです。でも、杞憂でしたね。2.5次元作品というのはもともと原作があるものだから、役の心情よりも原作の流れに沿ってお芝居をすることが大切な場合があって、ワーステに参加する前はキャラクターになりきることが一番大切なんじゃないかと思っていた時期もありました。さまざまな現場を経験している圭輔くんは、優れたバランス感覚を持っていて、原作の設定から外れずに演劇という表現方法で原作の魅力を伝える技術力がものすごく高いんです。2.5次元作品の黎明期からこのジャンルを支え続けてきた先輩としての強さを感じましたし、作品を立ち上げるにあたって何を優先すべきか、取捨選択をすることにも技術が必要だということを、ワーステを通して学びました。
──今、溝口さんが“ワーステで学んだこと”についてお話してくださいましたが、植田さんがワーステを通して学んだことはありますか?
植田 バトルシーンが多く、さまざまな戦術が登場する「ワールドトリガー」という作品を、演劇作品としてどのように成立させるのか。ワーステの象徴ともいえる“フィジカライブ”(Physical×Live performance)(編集注:俳優の身体能力を駆使したダンサブルなパフォーマンスと、リズミカルな音楽を取り入れた演出方法)から、座組全体の舵の取り方まで、中屋敷(法仁)さんから演出の無限の可能性を学ばせていただきました。自分も演出をすることがあるので、俳優としてではなく、演出家の目線で見ている部分もあるかもしれないですね。初演から第2弾へ、第2弾から第3弾へと、回を追うごとに作品がどんどん進化していっていますし、上を目指すスタッフ・キャストが集まると、作品を成長させながらシリーズを継続していくことが可能なんだ、ということもワーステを通じて学んだことの1つです。お客様から本当に愛していただいている作品なので、これからも僕たちがしっかりとこのシリーズを守っていきたいと思っています。
敗北を知り、悔しさを共有した「B級ランク戦開始編」
──2023年に上演されたワーステ第3弾「B級ランク戦開始編」では、空閑、三雲、雨取千佳が所属する玉狛第2(三雲隊)がA級昇格を目指してランク戦に挑み、諏訪隊、荒船隊、那須隊、二宮隊、影浦隊、東隊と交戦する様子が描かれました。第3弾の公演を経て、ご自身が演じるキャラクターや玉狛第2のメンバーが成長したと感じる部分を教えてください。
溝口 修としては、改めて自分の無力さを感じさせられる公演だったと思います。作戦を練り、遊真や千佳に指示を出したけれど、負けてしまった。しかも修自身は早々に戦線を離脱してしまっている。これまで修は、自分のことをあまり弱いと思っていなかったし、もっとやれると思っていたけど、空閑や千佳の力で勝てていたのであって、修の力ではない。それを思い知った絶望感が大きかったと思います。ランク戦での1敗がどれだけ重いことなのか、それをしっかりと受け止められるか。「玉狛第2は負けたんだ」ということを公演が終わってから実感するというか、自分としてはあまりスッキリしないまま終わった印象がありますね。
──俳優さんとしては、1つの公演が終わったらやり切ったと感じることが多いのかと思っていたのですが、演じるキャラクターの心情によっては不完全燃焼だったと感じる公演もあるのですね。
溝口 ハッピーエンドな物語だけを演じているわけではないので、わりと皆さん感じることもあるんじゃないでしょうか。バッドエンドの作品だけど、やり切ったと感じる方もいれば、キャラクターの気持ちを引きずってしまう方もいると思います。
植田 自分からすると、「B級ランク戦開始編」はかなり責任重大な公演だったと感じていて、もし「俺にはできません」と言っていたら、カンパニー全体の動きが止まってしまうくらいの役割を任せていただいたと思います。でも、自分1人では到底やり切れないとわかっていたから、スタッフ・キャストの方々に全力で甘えることを選択しましたね。そうやって支えてくださる仲間との関係値を築いてこられていたことが大きな財産になったと思いますし、皆さんに感謝してもし切れません。なので、自分としては「無事に終われて良かった」という達成感があった公演でした。先ほど琢矢が言っていたように、玉狛第2としては、敗北を知ったこと、悔しさを共有できたことが大きな収穫になったんじゃないかと。また、玉狛第2以外のチームにとっても、今後につながるような公演だったと思います。
溝口 原作を読んでいて思うんですが、「ワールドトリガー」にはネガティブな挫折の描写がほとんどない気がします。
植田 そうだね。みんな、失敗を前向きに捉えて次に生かしていると思う。
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“生”の力に勝るものはない