芝居、ダンス、音楽のセッションが劇場中に広がる作品に
──「シアター・デビュー・プログラム」では、通常の演劇公演に比べると、長い時間をかけて断続的なクリエーションが行われることが特徴です。今年1月から共演者の金子清文さん、古澤裕介さん、我妻さんと共に行われているワークショップに参加されて、南さんはどのような印象を受けましたか?
南 普通のお芝居だと、台本があって、読み合わせをして、ディスカッションをしながら立ち稽古に入っていきますが、ペヤンヌさんが考えるシーンを、「決め込まずに動いてみましょう」という感じで、今は場面を作っています。その様子を観たペヤンヌさんが「ああ、そうか」なんて言いながら進めていくのですが、私も器用なほうではないので、時間をぜいたくに使って少しずつ作品を自分に浸透させていくのが心地良いです。
ペヤンヌ 大まかな構成がある中で、細かい部分を作っていくときに、こういったワークショップではその人ならではの表現を知ることができるので、それを観てどう反映しようかと考えるのが面白いですね。
──音楽監督を務めるピアニストで作曲家の林正樹さんは、「書く女」(2016年)や「オーランドー」(2017年)、新国立劇場バレエ団の「DANCE to the Future 2019」(2019年)など、舞台音楽にも造詣が深いですが、今回はジャズを劇中で使うそうですね。
ペヤンヌ 私はジャズに詳しいわけではないのですが、林さんにお聞きしたら、ジャズにもいろいろな“範囲”があって、クラシカルなジャズのほかにも、誰もが知っている音楽をアレンジするジャズもあるそうなんです。私がジャズに惹かれたことの一つが即興性です。林さんの、相手の動きやセリフに合わせて音を生み出すという相互性が作品のテーマにも合っていると思いましたし、シーンによっては我妻さんの踊りも即興、林さんの音楽も即興というライブ感があるものを作りたいんです。遊び心がある空間では、最初からきちんと作られたものを観たり聴いたりすることとは違う受け取り方ができるだろうし、演劇と生演奏だからこそできる醍醐味なのではないかなと。
南 そうですよね。決まったオケだと、楽譜の中で着地しなければいけないというルールがあるけれど、こちらの呼吸やいろいろなものと呼応できる生演奏は、とっても楽しい。今回は、ピアノ、ギター、コントラバス、チェロと、使われる楽器も多彩で幅が広がりそうだなと期待しています。バンドと一緒にライブで歌うのってすごく楽しいんですよ!(編集注:南はニコチャンズというアマチュアバンドでも活動) ジャズはセッションを楽しむ音楽。東京文化会館はクラシック音楽の殿堂というイメージがありますが、今回の舞台では、お芝居、ダンス、音楽によるセッションが劇場中に広がって、子供たちにとってもほかの場所では体験できないものになるのではないかと思います。
すぐなのか、ずっと先なのか…新たな視点が生まれる時を待つ楽しみ
──木と人間の共生、ジャズというライブ感がある音楽が、舞台上でどのように膨らむのか期待が高まります。上演に向けて、あらためて作品の見どころを教えてください。
ペヤンヌ あまり難しく考えずに、身体を空っぽにして、生演奏や舞台上のやり取りから感じ取ってもらえるような作品にしたいと思っています。私はもともと難しいことが苦手で、訳がわからないものは頭に入ってこないタイプなんです。今回は樹木との共生や伐採問題を難しく捉えるのではなく、エンタテインメントとして楽しめることを前提に作りますので、劇場で作品に身を委ねていただけると良いなと思います。
南 私ね、この作品に携わってから、近所にある大きな木が電線に絡んでいるのがすごく気になるようになったんです。今までは、木が絡まっている電線が風が吹くと切れてしまう恐れがあるから、「この木を切るしかない」と思っていたんですよ。でも今は、「電線をどこかにどかせば良いのでは」っていうふうに感じ方が変わって(笑)。その変化があったことが自分自身すごく面白かったですし、別の角度から物事を見る視点を得られることがお芝居の良いところですよね。子供たちや父兄の皆さんが、「木のこと」を観終わったあと、身近な景色に1つ違った視点ができるかもしれないですし、それがすぐなのか、ずっと先のことなのかはわからない。でも、何かを経験した自分が、それ以前の自分ではいられなくなっているというのが演劇だと思います。小学生の皆さんがその体験をできる機会はとても貴重ですし、私もすごく楽しみにしています。
プロフィール
ペヤンヌマキ
1976年生まれ、長崎県出身。劇作家・演出家・脚本家・映画監督。演劇ユニット「ブス会*」主宰。早稲田大学卒業後、2010年に演劇ユニット「ブス会*」を立ち上げ、“自分ごと”を起点に現代を生きる女性たちに焦点を当てた作品を発表してきた。2014年の「男たらし」、2015年の「お母さんが一緒」が岸田國士戯曲賞最終候補作品に選出。近年の作品にブス会*「The VOICE」(構成・演出)、asatte produce「ピエタ」(脚本・演出 / 原作 大島真寿美)など。テレビドラマやドキュメンタリーなどの映像作品も手がけ、2022年の杉並区長選挙に立候補し現職区長を破った岸本聡子と彼女を草の根で支えた住民たちに密着したドキュメンタリー「映画 ○月○日、区長になる女。」(現在全国公開中)を監督。著書に半自伝的エッセイ「女の数だけ武器がある」など。
南果歩(ミナミカホ)
1964年、兵庫県生まれ。映画「伽耶子のために」(1984年)のオーディションで2200人の中から選ばれ、女優デビュー。1986年、坂東玉三郎演出「ロミオとジュリエット」で初舞台。個性的な魅力で、テレビドラマ、映画、舞台と幅広く活躍する。舞台出演作に、「パーマ屋スミレ」「オイディプスREXXX」「夏の夜の夢」、<花鳥風月>春夏秋冬 参加劇作家による「カミの森」と同テーマの新作書下ろし リーディング二作品連続上演「聖地と流血」「アナタの声で眠らせて」、tsp NextStage「『これだけはわかってる』~Things I know to be true~」など。著書に絵本「一生ぶんの だっこ」(講談社)、「乙女オバさん」(小学館)など。2011年東日本大震災以降、東北、熊本、能登など被災地に向けての絵本の読み聞かせを続けている。
KahoMinami南果歩 (@kaho_minami) | Instagram