モンゴルとイギリスをつなぐプロデューサー
バイラ・ベラは、モンゴルおよびイギリスで活動する俳優・プロデューサー。「モンゴル・ハーン」ではプロデューサーを務める傍ら、英語上演版「モンゴル・ハーン」で、アーチュグ・ハーンの妃であるツェツェル正妃役を演じており、10月の日本公演にも同役で出演する。ベラは、イギリス・ロンドンの王立中央演劇学校(Royal Central School of Speechand Drama)でスクリーン演技を学んだのち、ロンドンで活動していた。コロナ禍、家族の体調不良によりモンゴルに帰国した際に、モンゴルのローカルプロダクションが上演していた「State Without A Seal」を観劇。「State Without A Seal」は「モンゴル・ハーン」のもとになった作品で、楽屋あいさつへ行った際、ベラは「モンゴル・ハーン」の演出家であるバートルと出会った。
ベラは当時を振り返り、「バートル監督とお話しする中で、『モンゴル・ハーン』をヨーロッパで上演したいという話が持ち上がりました。これを受けて、私はロンドンへ戻り、ウエストエンドの演劇事情についてリサーチをすることになったんです。そうして私は、本作のプロデューサーを務めることになりました」と説明。また、ツェツェル正妃役を演じることになった経緯について、「英語上演版『モンゴル・ハーン』でツェツェル正妃役のキャストに欠員が出たため、バートル監督から『演じてみないか』とオファーをいただきました。ツェツェル正妃という役柄は、非常に難しい役どころではありますが、挑戦しがいのある役。初めは悪女のような印象を受けるかもしれませんが、結果的に彼女も犠牲者だったのではないかと考えています。アーチュグ・ハーンからの愛を求めるもかなわず、エゲレグ首相につけこまれてしまい、最後に悲劇が訪れます。『モンゴル・ハーン』に出演するにあたって本作の映像を初めて観たとき、ツェツェル正妃が、自身とエゲレグ首相の間に産まれたアチール王子と、アーチュグ・ハーンとゲレル側妃の子であるクチール王子をすり替えるシーンで、心が震えました。ツェツェル正妃が我が子にキスをして別れを告げるシーンは、今でも毎回演じながら涙してしまいます」と役への思いを語った。
“100万の星を観るホテル“へ足を運んで
出演者の視点から見た「モンゴル・ハーン」の魅力について尋ねると、ベラは「バートル監督は映像監督としても活躍されているので、美しい映像が舞台の背景に投影されたり、非常にシネマティックな仕掛けが多くなされている作品だと感じます。“モンゴルのシェイクスピア“と呼ばれたバブー・ルハグヴァスレンによる壮大な物語、詩的な響きを持つ美しいセリフの数々、ウィリアム・シェイクスピア作品を演じるような俳優たちの演技、50人を超えるパフォーマーによるダンサブルなパフォーマンス、約3000年前の民族衣裳をベースにしたコスチューム、精巧な作りの小道具、イギリスチームによりデザインされた音響・照明、モンゴルの伝統芸能を用いた生演奏・生歌唱……加えて、劇中のとあるシーンで香りが漂う演出が施されていたりと、『モンゴル・ハーン』は五感を刺激する総合芸術と言えるのではないでしょうか。『モンゴル・ハーン』の1シーンに巨大な獅子のパペットが登場しますが、日本にもパペットを用いた文楽という素晴らしい伝統芸能がありますので、日本の観客の方にも親しみを持っていただけるのではないかと思います」とアピールする。
さらに日本の観客に向けて、ベラは「『モンゴル・ハーン』をきっかけにモンゴルに興味を持ってもらい、ぜひとも私たちの母国へ足を運んでほしいと願っています。モンゴルへ来たら、馬に乗って草原を駆けてみてください。モンゴルの草原では馬に乗って50km走っても誰とも遭遇しないことがあり、まるでほかの惑星に来たんじゃないかというような気持ちになるでしょう。夜になったら星空を見上げてみてください。モンゴルの草原は“100万の星を観るホテル“と呼ばれていて、夜空に輝く星々を非常に美しく観察することができます」と笑顔で呼びかけた。
プロフィール
バイラ・ベラ
Maktub Productions創設者&CEO。イギリス・ロンドンの王立中央演劇学校(Royal Central School of Speechand Drama)にて、スクリーン演技の修士号を取得。俳優・プロデューサーとして活動し、「モンゴル・ハーン」のプロデュースを担当。英語版「モンゴル・ハーン」にはツェツェル王妃役として出演している。Amazonオリジナルシリーズ「The Power」、Netflixドラマ「マルコ・ポーロ」、映画「Sacred Blood」に出演するなど、世界を股にかけて活躍中。2019年、イタリア・フィレンツェの国際女性映画祭にて、主演映画「Blue Destiny」で最優秀女優賞を受賞した。2021年、ハリウッドプロフェッショナル協会(Hollywood Professional Association)に所属。コロナ禍において、イギリス・ロンドンで短編映画「Kintsugi」、モンゴル・ウランバートルで短編アニメーション「Shadow」をプロデュースするなど、クラウド技術を活用した映像制作を推進している。モンゴル文化と映画の国際的な発展に貢献し、2019年に「Hollywood in Mongolia」国際映画祭を創設。教育活動にも携わっており、演技指導者イヴァナ・チャバックの著書「The Power of the Actor」をモンゴル語に翻訳し、出版した。モンゴル国家映画審議会のアドバイザーを務めるほか、ゲーム「リーグ・オブ・レジェンド」のキャラクター設計に文化コンサルタントとして関与。社会貢献活動にも積極的に取り組み、2017年に国連REDD+モンゴル環境大使に就任、2024年にモンゴル文化親善大使に任命された。モデルとしても活動し、2014年の「ミス・インターナショナル」、2015年の「ミス・アース」、2016年の「ミス・ワールド(DC大会)」にモンゴル代表として出場。「ミス・ワールド」ではトップ11に入り、ミスタレント賞およびPeople's Choice賞を受賞した。
「モンゴル・ハーン」の中心人物となるのは、古代モンゴル帝国を統治するフン族の王アーチュグ・ハーン、アーチュグ・ハーンの側近であるエグレグ首相、アーチュグ・ハーンの妻であるツェツェル正妃とゲレル側妃、そして、エグレグ首相とツェツェル正妃の間に産まれたアチール王子、アーチュグ・ハーンとゲレル側妃の子であるクチール王子だ。どちらの王子がアーチュグ・ハーンのあとを継ぎ、王位を継承するのか。陰謀が渦巻く中、エグレグ首相の策略により、まだ幼い2人の王子はすり替えられてしまう。
「モンゴル・ハーン」モンゴル凱旋公演を観劇後、作品の軸を担うアーチュグ・ハーン役のエルデネビレグ・ガンボルド、エグレグ首相役のボールド・エルデネ・シュガーにインタビューを実施した。なお2人は、モンゴル凱旋公演に続き日本公演にも出演する。
エルデネビレグ・ガンボルド(アーチュグ・ハーン役)
エルデネビレグ・ガンボルドは、モンゴルで最高位の民間功労賞アルタンガダス勲章(極星勲章)を受章したモンゴルの俳優。「モンゴル・ハーン」では、国を統べる王として、そして1人の父として苦悩するアーチュグ・ハーンを演じている。
ガンボルドは「バートル監督から信頼を寄せていただき、これまでの俳優としての経験を生かして、自分なりにアーチュグ・ハーンの役作りをすることができました」とバートルとの信頼関係を明かし、「ハーンというのは、たとえるなら“国の父”であると言えるでしょう。アーチュグ・ハーンという役を演じるとき、自分自身が子を持つ父であることを意識しました。子の父である自分と役を重ね合わせながら、“国民を愛する父”としてアーチュグ・ハーンという役柄を立ち上げていきました」とこだわりを明かす。
日本公演に向けて、ガンボルドは「キャスト・スタッフの皆さんと協力して、これまでイギリス・ロンドン公演やシンガポール公演を作り上げてきました。10月に日本で上演されることをとても楽しみにしていますし、多くの方に『モンゴル・ハーン』を観てもらいたいと思います」と期待を込めた。
プロフィール
エルデネビレグ・ガンボルド
これまで60以上の演劇作品や17の映画作品で主要な役や脇役を演じ、カザフスタンや日本映画にも出演経験がある。Belgute Picturesの代表を務め、監督兼プロデューサーとしても活動しており、モンゴルの芸術功労者として最高位の民間功労賞アルタンガダス勲章(極星勲章)および労働功績赤旗勲章を受章した。俳優としては、2003年の「ゲゲーン・ムザ年次舞台賞フェスティバル」で最優秀若手クリエイター賞、2009年の「Silver Tree フェスティバル」で最優秀俳優賞、2011年の同フェスティバルで最優秀男性主演賞を受賞。監督としては、2015年の「Mongolian Academy Awards」で最優秀監督賞を受賞している。
ボールド・エルデネ・シュガー(エゲレグ首相役)
ボールド・エルデネ・シュガーは、モンゴルの芸術功労者として労働功績赤旗勲章を受章した経験のある俳優。「モンゴル・ハーン」では、アーチュグ・ハーンの側近で、策略家のエグレグ首相を演じている。またシュガーは、「モンゴル・ハーン」モンゴル公演の会場となった国立アカデミックドラマシアターの所属俳優で、同劇場をホームグラウンドとしている。
「モンゴル・ハーン」のキャストの中でも国立アカデミックドラマシアターを熟知したシュガーは「いつも開演の数時間前に劇場入りし、自分の身体に少しずつ役を入れていく作業を、毎公演欠かさずにやっています。これは私が学生時代に教わったことなのですが、50%は自分としての意識を保ったまま、残りの50%は役になりきって、100%の力を発揮できるように気をつけながら演技をしています。もちろん、ステージの上では疲れることもあるし、身体のどこかが痛むこともある。けれども、こうして過去の教えを大切にしながら、俳優という仕事を30年以上続けてきました。その選択に後悔はありません」と晴れやかな表情で語る。また、「バートル監督やキャスト・スタッフの皆さんとの間には絶対的な信頼関係がありますので、皆さんと相談しながら、『モンゴル・ハーン』という作品をもっと良くするために、日々一生懸命取り組んでいます」と作品にかける思いを述べた。
プロフィール
ボールド・エルデネ・シュガー
「モンゴル・ハーン」モンゴル公演の会場である国立アカデミックドラマシアターに所属する俳優。モンゴルの芸術功労者として労働功績赤旗勲章を受章し、俳優として「ゲゲーン・ムザ年次舞台賞フェスティバル」にて、三度、最優秀男性主演賞と最優秀助演男優賞を獲得している。G.Dorjsambuu記念最優秀役賞や、「Silver Treeフェスティバル」で二度の最優秀俳優賞、「Mongolian Academy Awards」で最優秀男性主演賞と最優秀助演男優賞を受賞。70 以上の舞台作品と20以上の映画で主役や助演を務めるほか、自ら監督した長編映画もある。