ここではキャストの岡本健一、浦井健治、中嶋朋子、ソニンの4人が2作品で演じる役のこと、さらに稽古場の様子について、メールインタビューで答えてくれた。
岡本健一(アンジェロ / フランス王)
──岡本さんは、「尺には尺を」ではウィーンの公爵ヴィンセンシオに代理を任されたアンジェロ、「終わりよければすべてよし」ではルシヨン伯爵夫人の息子バートラムの後見人となるフランス王を演じられます。それぞれの役について、どんな人物と捉えていますか?
アンジェロは、自分の与えられた任務に対して、実直に情を捨て法律に準じて職務を果たそうとするが、貞淑な乙女との出会いにより、本能が露わになり、愛と権力、法と罪などの人間が作り上げた道徳に狂わされてしまう印象。フランス王は老いと病いに逃れられない死をなんとか受け入れ、自分の人生、自国のこれからのために、良い終活を望むのだが、なかなかうまくいかないのが人生なのでは。
──稽古の中で印象に残ったエピソード、あるいは鵜山さんや共演者の方々の言葉で印象的だったことがあれば教えてください。
稽古場では毎回、新たな発見の連続で、鵜山さんからは想像を超えたアイデアをいただき、それに応える心から信頼する共演者の方々のシェイクスピア作品を現在の私たちの物語にさせてしまう抜群な演技に感情が揺さぶられています。日々の稽古でより自由に進化し続けているので、劇場でお客様と共有したときに、どんな世界になるのか、非常に楽しみでなりません。
──これから観劇されるお客様にメッセージをお願いします。
無理して両作品を観る必要はありません。ただ同じ役者が違う作品を2作同時公演するので、まずは内容と直感を信じて、どちらか1つでも観劇していただけたらと思います。なぜシェイクスピアがこの作品を書き、私たちが演じてあなたが客席にいるのかを劇場で体感してくれたらと願っています。問題作と言われているので!
プロフィール
岡本健一(オカモトケンイチ)
1985年にテレビドラマ「サーティン・ボーイ」で俳優デビュー。1988年に男闘呼組のメンバーとして歌手デビュー。近年は演出家としても活動。第12・17回読売演劇大賞優秀男優賞、第26回読売演劇大賞最優秀男優賞、第45回菊田一夫演劇賞、第55回紀伊國屋演劇賞個人賞、第71回芸術選奨文部科学大臣賞(演劇部門)を受賞。2022年春に紫綬褒章を受章。新国立劇場では「リチャード二世」「ヘンリー五世」「ヘンリー四世」「リチャード三世」「ヘンリー六世」などに出演。2024年2月にシアター風姿花伝プロデュース「夜は昼の母」に出演予定。
浦井健治(クローディオ / バートラム)
──浦井さんは「尺には尺を」では姦淫罪によってアンジェロから死刑を宣告されるクローディオ、「終わりよければすべてよし」ではルシヨン公爵夫人の一人息子でヘレナに慕われる青年バートラムを演じられます。それぞれの役について、どんな人物と捉えていますか?
どちらの作品も、実は女性によって変化させられ影響を受ける役で、さらにはどちらともに、その手のひらの上で転がされています。
権力、死、というものも突きつけられる役で、抗いながらも、どこかクズで、救いようのない自己中のどうしようもない男を演じます。また、僕の演じる二役には、独白がありません。長ゼリフも全部、人に向かってぶつける。ある意味、それが役の“らしさ”なのかもしれません。
──稽古の中で印象に残ったエピソード、あるいは鵜山さんや共演者の方々の言葉で印象的だったことがあれば教えてください。
最後は愛によって昇華される。丸く収めることが出来ることが願い、ということでしょうか。
あとは幾多の作品をこなされてきた先輩方でさえも、ベッドトリックの問題劇を同時にやることに、頭こんがらがるよね、と言っていたのも印象的でした。
──これから観劇されるお客様にメッセージをお願いします。
同じ問題劇でベッドトリックでと思うかもしれません。しかし、かなり毛色も違いますし、登場人物の演じる役者がどこかリンクしている役を2作で演じます。
あとはどちらかがしっかり出ている役であれば、役者陣、もう一方では出番が少なめだったりするので、どちらかを観るだけだと、あれ?となることもあります。
例えば木下さん演じる公爵は、これでもかと膨大なセリフ量だったりします。
2作同時に観ていただくとより楽しみが増える気がします。
プロフィール
浦井健治(ウライケンジ)
2000年にテレビドラマ「仮面ライダークウガ」でデビュー。2004年にミュージカル「エリザベート」のルドルフ皇太子役に抜擢された。以降ミュージカル、ストレートプレイなど幅広く出演。第44回紀伊國屋演劇賞個人賞、第17回読売演劇大賞杉村春子賞、第22回読売演劇大賞最優秀男優賞、第67回芸術選奨文部科学大臣新人賞(演劇部門)などを受賞。新国立劇場では「リチャード二世」「ヘンリー五世」「ヘンリー四世」「リチャード三世」「ヘンリー六世」などに出演。2024年3月にブロードウェイミュージカル「カム フロム アウェイ」に出演する。
中嶋朋子(マリアナ / ヘレナ)
──中嶋さんは「尺には尺を」でアンジェロの許嫁マリアナを、「終わりよければすべてよし」ではバートラムに身分違いの恋をするヘレナを演じられます。それぞれの役について、どんな人物と捉えていますか?
ヘレナ、マリアナどちらの役にも等しく在るのは、「生きることへの正直さ」
思考、あるいは心よりも先に、感知している“生き物”としての感覚に身を委ねている──そんな力強さを感じます。
それを愛と呼ぶのか、エゴと呼ぶのか。
私は、生きることへの光を、彼女たちに見い出しています。
──稽古の中で印象に残ったエピソード、あるいは鵜山さんや共演者の方々の言葉で印象的だったことがあれば教えてください。
女性キャストが、役に関する恋や愛についての感覚を語りだすと、鵜山さんはひたすら静かな聴き手になります。いつもは軽快に、突飛とも思えるアイデアを繰り出し、役者を鼓舞する鵜山さんが、小さな声で「なるほどー」と言って深く思考する姿に、この作品が内包する“愛”というテーマの大きさを感じます。
──これから観劇されるお客様にメッセージをお願いします。
人生は冒険です! 自分の思いを遂げるにしても、新たな自分に出会うにしても!
生きることに対する、人それぞれの想い、熱望、渇望が交差する2つの舞台には、あなた自身の姿も映し出されるに違いありません。これは遠い世界のお話ではなく、私たち自身の物語なのです。「人生は舞台、人はみな役者」と、シェイクスピアは語っています。私たちと一緒に、そんな冒険の舞台へ!
プロフィール
中嶋朋子(ナカジマトモコ)
1981年からのテレビドラマ「北の国から」で蛍役を務める。第44回紀伊國屋演劇賞個人賞、第17回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞。12月に出演映画「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」が公開。2024年3月に自身がプロデュースする朗読企画が予定されている。新国立劇場では「リチャード二世」「ヘンリー五世」「リチャード三世」「ヘンリー六世」などに出演。
ソニン(イザベラ / ダイアナ)
──ソニンさんは「尺には尺を」でクローディオの妹でアンジェロに恋慕われるイザベラ、「終わりよければすべてよし」ではバートラムに言い寄られるダイアナを演じられます。それぞれの役について、どんな人物と捉えていますか?
「尺には尺を」のイザベラ、「終わりよければすべてよし」のダイアナ共に、初めて読んだとき、何度も読んだ後、皆様との本読み時、立ち稽古時、すべて人物像の印象が違い、今も変化しています。イザベラの自己と神、そして親族と敵に対しての慈悲、ダイアナの自己と男女、そして母親。イザベラのストイックさと強さと成長、ダイアナの貞淑の定義、女の強さと愛の変化。そんな印象が渦巻いています。
──稽古の中で印象に残ったエピソード、あるいは鵜山さんや共演者の方々の言葉で印象的だったことがあれば教えてください。
とにかく皆様の読解力と見解には驚きとリスペクトで常に学びの稽古場です。無理難題な演技演出を突如発言する鵜山さんに毎回、笑い、頭悩ませ、感嘆しながら、頭のエクササイズと共にこの会わなかった期間の私の経験と成長を試されている気分です。
──これから観劇されるお客様にメッセージをお願いします。
まずシェイクスピア2作品を同じカンパニーで上演されているのを同時に観られることは滅多にないということ、そして問題劇である2作がどうつながっていて、足りない部分や疑問に思う箇所が補い合って、見えてくるものがあるかというパズルのような快感を体験できるということ。この2作って実は、一緒に観るべきものだったんじゃないかと思ってもらえるようになれば、我々にとってこの上ない喜びかもしれません。限りない可能性を秘めたこの2作品を我々は最後の最後まで追求して仕上げますので、ぜひご観劇お待ちいたしております!
プロフィール
ソニン
2000年に音楽ユニットで歌手デビュー。2002年にソロデビュー。第40回ゴールデンアロー賞音楽新人賞を受賞。2012年に文化庁新進芸術家海外研修制度で研修員としてニューヨークに渡る。第41回菊田一夫演劇賞、第26回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞。新国立劇場では「フリック」「三文オペラ」「ヘンリー六世」に出演。また近年では「となりのチカラ」「大病院占拠」など映像作品にも多数出演。