松原俊太郎×スペースノットブランクが豊橋で高校生と立ち上げる「ミライハ」 (2/3)

まずは高校生たちがアプローチ

──高校生たちはどんな様子で稽古に取り組んでいますか?

中澤 全体を、10個の小さな作品で構成されているものと捉えて、チーム分けしながら、いくつかの部屋に分かれて進めています。すでに1から10までの作品が立ち上がったので、これからそれをつなげて全体を作っていきつつ、冒頭からラストまで通していこうと。高校生たちも主体的に振りや発話について考えていて、スタッフの1人に、「ラップのシーンにビートを乗せたい」と頼んだら、稽古場にキーボードを担いできて、作曲してくれています。

プレ稽古の様子。©︎萩原ヤスオ

プレ稽古の様子。©︎萩原ヤスオ

──積極的ですね! スペースノットブランクとしては、普段のクリエーションと違うところはありますか?

中澤 最初は高校生たちがどう動いたら良いかわからなくなるんじゃないかと思って、具体的な構図や動き方など、いろいろ準備していたんですが……。

小野 3日間くらいはこちらで考えたやり方で進めてみたんですけど、私たちが何かを与えるより、高校生たちとその場で立ち上げていくほうが有意義なんじゃないか、という話になって。

中澤 なので、普段のクリエーションでダンサーや俳優の人たちと一緒に、作品に対するアプローチを発案していくように、高校生たちにも自分たちで考えて進めてもらっていて。もちろん最終的には、出てきたものを細かくディレクションしていくんですが、彼らが持っている性質や技術をまずは出してもらうようにしています。

──松原さんはお稽古を見学されたりは?

松原 毎日動画をもらっていて、たまに見ています。とにかくスペノの2人がめちゃくちゃ高校生たちと話している。ああ、本当に対話をやってるんだ、これはすごいなって(笑)。

中澤 そういうふうに見えるんですね(笑)。

小野 他愛もない話をしてることも多いですけど(笑)。

中澤 でも確かに、高校生たち全員、初めて一緒に作る人たちなので、その人たちが何をできるかということ以前にその人自身をよく知っておきたいと思って、どんどん対話は増えていきますね。

稽古の様子。©︎萩原ヤスオ

稽古の様子。©︎萩原ヤスオ

「何が出てきても大丈夫」と思える関係性

──スペノと松原さんは近年共作が続いていますが、お互いに対して感じる面白さはどんなところにありますか?

小野 直接言うのは恥ずかしいんですけど、私は松原さん自身にすごく魅力を感じています。これまでも、作品以前にその人自身に魅力を感じたり、「この人と一緒に作品を作ってみたいな」という気持ちからさまざまな方とご一緒してきました。松原さんに対しては「山山」を読んでそう感じて、その後、最初に書いていただいたのが「ささやかなさ」だったのですが、「山山」とはまったく違う印象で、びっくりしました。そういった多様な部分も魅力的だと思いましたし、私は松原さんの言葉のチョイスが好きです。単語もですが、単語が連なったときの言葉の並びが刺激的なので、作品でもその部分を探っていくのが楽しいと思っています。

中澤 僕も似たようなことを感じていますね。表面的には松原さんが書いてスペースノットブランクが演出して、と分業しているように見えると思いますが、僕らの感覚としては、松原さんが戯曲を書く前の段階から、つまり松原さんが高校生にインタビューしたり、ワークショップを見たりする中で、少しずつ戯曲が書き上がっていくところから、一緒に作っているという感覚があるし、そういった過程の時点で舞台に対する理念や考え方に通じるところがあると感じています。

また、最初に松原さんに戯曲をお願いしたときから、「松原さんが書くものは、どんなものが来てもとりあえずやれるだろう」と、いち読者として感じていたところがあります。松原さんの書いたものなら、スペースノットブランクが考えている身体性とか発話に純粋にアプローチできるんじゃないかと思ったんですね。さらに松原さんは松原さんで、対話しながら動きをどう戯曲に取り込むかということを深く考えてくれています。昨年上演した「光の中のアリス」ではまだ言葉が前景化している印象がありましたが、今回の「ミライハ」は、身振りがセリフと大きく関わり合うものになっている。もしかしたら今回の「ミライハ」が、スペースノットブランクが松原さんと作品を作る形として、最も“戯曲や言葉にのめり込むだけではない状態”で作れる作品になるんじゃないかなという気がしています。

稽古の様子。©︎萩原ヤスオ

稽古の様子。©︎萩原ヤスオ

小野 どの作品でもお互いが同じ形式ではなく、作品ごとに新しいことを追求し続ける姿勢を保つことができ、やりたいことをぶつけ合う関係性が保てるから一緒に作っていけるし、今の関係性があるんじゃないかなと思います。

中澤 そうですね。相手から何が出てきても大丈夫、という思いでいられるのは良いなと思います。本当に、松原さんの戯曲はまったく予想がつかないので(笑)。

小野 お互いに、かもしれませんけどね(笑)。

松原 ……照れちゃいますね(笑)。多くの演出家って、劇作家はある程度作品を残したら死んでもらって、あとは自分たちの好きに上演したいと思っているんじゃないかと思うんですよ。別役実もチェーホフも演出家とけんかしているし、それも醍醐味かなと思いますが、そうすると継続して制作することが難しくなっていく。でもスペノとはそうではない関係性が築けているなという感じがします。いつも「宿題投げてください」っていう感じで言われるんですね。そう言われるとまだやっていないこと、新しいことを、とやる気も出る。実際、スペノとの作品を振り返ってみると、新作を書くごとに新しい要素が加わっている。それは1人だけだとなかなか難しくて、外からアクションをもらえるありがたみを感じています。

さっき2人も言ってくれましたけど、僕も毎回、上演が楽しみなんです。全然予想がつかないから。毎回何かしらオリジナルな読みをして、それに強度のある身体を与えてくれる。だから初日は緊張と期待で手汗が止まりません(笑)。

稽古の様子。©︎萩原ヤスオ

稽古の様子。©︎萩原ヤスオ

作り手たちの“ミライ”は?

──今回は高校生たちがそれを具現化するということで、さらに想像を超えてくる可能性がありますね。この「高校生と創る演劇」シリーズは、高校生たちの将来がより豊かなものになることを目指して続けられているシリーズですが、これまで参加した演出家たちを見ると、演出家たちにとっても意味のある、未来へつながるシリーズになっているのではないかと思います。そこで伺いたいのですが、皆さんにとって今、“ミライ”はどのように見えていますか?

松原 戯曲や小説を書き続けてると、言葉が出てこなくなって、息が詰まることがあるんですね。もうちょっと気軽に言葉を出していければ、とは常々思っていて。移動するとか、映画の脚本や別の媒体を取り入れるとか、つらつら思ってるんですけど……でも基本的に先のことは考えないです、憂鬱になるので(笑)。今が最高です。

小野 最高です!(笑)

中澤 3・4年前から考えているのは、舞台芸術をツールとして捉えることです。僕は映像にも興味があって、小野はずっとダンスをやってきて、今は演劇を作っていますが、演劇だけに特化したいわけではありません。面白い演劇を作ること以上に、演劇を用いてどういう新しい形式が発見できるのか、これからの演劇にどんな影響を及ぼすことができるのかを考えています。そういう観点で、舞台芸術にさまざまなメディアやフォーマットを持ち込んで、いろいろな表現を模索したいと思っていますし、その一方で小野も僕もご飯が好きなので「レストランを作りたいね」っていう突飛な話もしていますが(笑)。

小野 銅像とか、物作りをしたいっていう欲求もあるんですよね(笑)。私たちのことを誰も知らないところで、ゼロから生まれる関係性の中で作品を作りたいという気持ちもあります。

稽古の様子。©︎萩原ヤスオ

稽古の様子。©︎萩原ヤスオ

中澤 そうですね。自分たちがこれまで積み重ねてきたものを1回横に置いて、また違う何かを積み重ねていくということを繰り返し続ける人生になるだろうなっていうことを、よく話しています。そうして漂いつつも、松原さんとのクリエーションのようなつながりがあれば、例えば松原さんの作品を舞台にするだけじゃなくて、映画を作ることになれば映画の脚本を書いてもらうこともできるし、俳優として舞台に出演してもらうことだってできると思っています。

松原 ずっと「出演してくれ」って言われてるんですよ(笑)。

中澤 言葉を文字として書くだけでなく、リアルタイムでしゃべるのも良いんじゃないかなって。そうやって松原さんの言葉を伝える方法もあると思っています。そう考えるとますますスタイルやレッテルにとらわれずに、ただただ継続していきたいというのが、今の理想です。

プロフィール

松原俊太郎(マツバラシュンタロウ)

1988年、熊本県生まれ。劇作家。神戸大学経済学部卒。「みちゆき」で第15回AAF戯曲賞大賞受賞。2019年、「山山」で第63回岸田國士戯曲賞を受賞した。主な戯曲に「忘れる日本人」「正面に気をつけろ」「ささやかなさ」「君の庭」「光の中のアリス」、小説に「ほんとうのこといって」「イヌに捧ぐ」など。2021年度セゾンフェローⅠ。

スペースノットブランク

小野彩加と中澤陽が2012年に結成。2017年に第8回せんがわ劇場演劇コンクールにてグランプリ受賞。2018年、下北ウェーブ2018に選出される。2019年、利賀演劇人コンクール2019にて優秀演出家賞二席受賞(小野彩加、中澤陽として)。2020年にロームシアター京都×京都芸術センター U35創造支援プログラム“KIPPU”2020年度上演団体に選出された。2021年、金沢21世紀美術館交流共催事業「アンド21」2021年度採択事業に選出されている。

小野彩加(オノアヤカ)

1991年生まれ。舞台作家・ダンサー。2016年から2019年まで多田淳之介率いるキラリふじみ・リージョナルカンパニーACT-Fに参加。またダンサー、パフォーマーとしてキラリふじみ・レパートリー「絵のない絵本」(構成・振付・演出:白神ももこ)、「6:30 AM─第二のバリエーション.」(演出・振付:黒沢美香)、月灯りの移動劇場「果てしない物語」(演出:浅井信好)、かえるP「スーパースーハー」(振付・演出:大園康司、橋本規靖)、「アフターフィルム」(脚本・撮影・編集:三野新)、「MI(X)G」(コンセプト・演出:ピチェ・クランチェン)などに参加した。

中澤陽(ナカザワアキラ)

1992年生まれ。舞台作家・パフォーマー。映像作家として、室伏鴻のアーカイブ映像の制作、中村蓉「リバーサイドホテル」「顔」などの作品に参加。パフォーマーとして、「SOMA プロジェクト」(構成・演出:ファビアン・プリオヴィル)、「A-S」(作・演出:藤田貴大)、ゆうめい「フェス」「〆」(作・演出:池田亮)、「アフターフィルム」(脚本・撮影・編集:三野新)、ヌトミック「ワナビーエンド」(作・演出・音楽:額田大志)、福井裕孝「デスクトップ・シアター(ワークインプログレス)」(演出:福井裕孝)、ウンゲツィーファ「ロイコクロリディウム」(脚本・演出:本橋龍)、「Uber Boyz」(作・演出・出演:池田亮、金内健樹、金子鈴幸、黒澤多生、中澤陽、本橋龍)などの作品に参加した。