“仲良し兄妹”原田優一&愛原実花が舞台愛届けるPAT Company“ヒューマンミュステリー”ミュージカル「眠れぬ森のオーバード」

2020年、新型コロナウイルスの感染拡大によって、多くの舞台が公演中止・延期を余儀なくされる中、1つの明るいニュースが飛び込んできた。鯨井康介の呼びかけに応じて、原田優一、オレノグラフィティ、小柳心が集結。4人はPAT Companyを立ち上げ、プロデュースを鯨井、脚本を小柳、演出を原田、音楽をオレノが手がけるオリジナル舞台製作プロジェクトを始動させた。彼らはYouTubeでの配信を通じて企画会議を重ね、同年12月に“小劇場の聖地”である東京・本多劇場でミュージカル「グッド・イブニング・スクール」を上演(参照:PAT Company「グッド・イブニング・スクール」開幕、新人教師を軸にした夜間学校の物語)。その後、2021年8月に東京・オルタナティブシアターでミュージカル「眠れぬ森のオーバード」を上演することを発表した。

「眠れぬ森のオーバード」は、山奥の不気味な館に集まった6人の男女と探偵たちを描く“ヒューマンミュステリー”。多彩なキャストがそろった本作には、2012年の「ラ・カージュ・オ・フォール 籠の中の道化たち」で原田と共演した愛原実花が名を連ねている。演出家としてPAT Companyをまとめる原田、今作で原田の演出を初めて受ける愛原に、PAT Companyが作り出す作品の魅力を語ってもらった。

取材・文 / 興野汐里 撮影 / Junko Yokoyama(Lorimer)

「ラ・カージュ」以来の共演、今でも“仲良し兄妹”は健在!

──原田さんと愛原さんが舞台で共演されるのは、2012年の「ラ・カージュ・オ・フォール 籠の中の道化たち」で恋人役を演じて以来、約9年ぶりになります。

愛原実花 「ラ・カージュ」は宝塚(歌劇団)を退団してまもない頃に出演した作品で、当時は右も左もわからなくて。

原田優一 “(生物学的に)男性”の相手役をやったのは、「ラ・カージュ」が初めてだったよね。

愛原 そうそう!

原田優一

原田 (当時のビジュアル撮影の様子を再現しながら)みなこちゃん(愛原の愛称)、カメラマンさんから「もうちょっと原田さんにくっついてもらえますか?」って言われてた気がする(笑)。

愛原 慣れてなかったからドキドキだったんだよー! 「ラ・カージュ」では、優ちゃん(原田の愛称)に本当にお世話になりました。いつも開演前に「みなこちゃん、ヘアスプレー貸してもらえる?」って楽屋に来て、「あのシーン、大丈夫だった?」「今日もよろしくね」って話しかけてくれるんです。ヘアメイクさんから借りることもできたと思うんですけど、私の緊張をほぐすために気を遣ってくれて……。宝塚は上演前に楽屋あいさつをする決まりがあるんですけど、外部の場合は人によって違うので、そういった舞台のいろはを一から教えてくれたのが優ちゃんでした。決して上からじゃなく、寄り添いながら一緒に考えてくれて。でも、自分では覚えてないくらい自然にそういうことができちゃうんでしょ? いい男だなあ(笑)。

原田 ね! いい男だなあ、僕! ……でも、スプレーを借りに行く口実で楽屋に行ってたのはすごく覚えてるよ(笑)。

──「ラ・カージュ」以降もそれぞれの出演作をご覧になっていると思うのですが、俳優としてお互いにどのような印象を持っていますか?

愛原 すべての実力が高くて、「ああ、これが本物なんだ!」って思いました。最初からすごい方の相手役をさせてもらったんだなって。プラス、絶妙なバランス感覚や、演出もできる人間力を兼ね備えている人。とにかく愛があって、情に厚い方ですね。それがお芝居にも表れていて……本当に大好きなお兄ちゃんです!

原田 「大好き!」って思ってくれてるのが、こちらにもすごく伝わってくるんですよ。それくらい素直で正直。みなこちゃんは一見、フワーッとしてキラキラしてるように見えるけど、とても芯がある方なんです。彼女のほうが歳下なんですが、いつもかわいいみなこちゃんが、たまに“頼もしいみなこお姉さん”に変わる瞬間があって、それが不思議だしすごく面白い。「眠れぬ森のオーバード」の脚本を書くにあたって、小柳心くんから「愛原さんの役はどうやったら面白くなるかな?」って聞かれたときに、「真っ当なときに、真っ当なことをド直球で言わせたらすごく面白くなると思うよ」って答えて。「眠れぬ森のオーバード」では、みなこちゃんと可知寛子さんに女子部を担ってもらうんですけど、可知寛子演じるリンのほうがサバサバ系のしっかり姉さんかと思いきや、実は、みなこちゃん演じるヒロイン・モエのほうがガツガツしているところがある。それが本人のキャラクターともピッタリだなって思って。

──愛原さんは今回、PAT Companyの皆さんから出演オファーを受けていかがでしたか?

愛原実花

愛原 本当にうれしかったです! ご一緒できることはもちろん、優ちゃんの演出を現場で体験できることもすごく楽しみで。

原田 「ラ・カージュ」時代から考えると、僕がみなこちゃんに演出をつけるなんて想像できないもんね。

愛原 そうなの! 「ラ・カージュ」のときは大御所の方が多かったけど、「眠れぬ森のオーバード」は同年代の方が中心じゃない? そういう意味でもまだ想像がつかなくて。だからこそすごく楽しみなんだけれど!

──原田さんはPAT Company以外でも、ミュージカルレビュー「KAKAI歌会」やオフブロードウェイミュージカル「bare -ベア-」、ミュージカル「デパート!」といった作品を演出されています。ご自身から見て、“俳優・原田優一”と“演出家・原田優一”、演劇に対するアプローチの仕方にはどのような違いがあると考えていらっしゃいますか?

原田 僕、基本このままなんですよ。演出するからといって特別何かが変わるわけじゃない。灰皿投げたりしないし!(笑)

愛原 ははは!

原田 5月17日の配信に出てくれた椎名鯛造くんからも「どういう感じで演出されるんですか?」って聞かれたんだけど、プロデューサーの鯨井康介も「彼はこのままです!」って答えてて(笑)。「なるほど。そういう考え方もあるよね。じゃあこうしていこうか」という感じで演出をつけていくことが多いかな。

愛原 今回は自分も出演するし、いつもより難しいんじゃない?

原田 そうだね。出演するのと演出するのって、入れるスイッチがまったく違うから。演出席に座って正面から稽古を見ていると、それが楽しすぎて、「出たい!」と1mmも思わなくなるんだよね。皆さんがそれぞれアイデアを持ち寄って、どんどん具現化していく。それを見ていられるなんて、こんなに楽しい仕事ないな。このままずっと見ていたいな、ってなるの。

愛原 へえー! そういうものなんだね。でも、自分の出番になったら役者として稽古に入っていくわけでしょう?

原田 ある程度、大枠を作ってからね。最終的には自分も入るけど、それまでは演出席で“ムフフな作業”をしてるかな。

愛原 “ムフフな作業”!?(笑)

原田 自分の中だけで考えていたことを形にする、おままごとの延長みたいな感じ。

──今はどちらのモードですか?

原田 難しいですね。自分の考えをプレゼンする演出家モードと、それを実際に口にする──パフォーマンスする俳優モード、どちらも混在している状態です(笑)。

左から原田優一、愛原実花。

絶妙なバランスのPAT4、心強い助っ人たち

──PAT Companyの公演では、プロデュースを鯨井さん、脚本を小柳さん、演出を原田さん、音楽をオレノグラフィティさんが手がけています。それぞれクリエイターとしての役割分担があると思いますが、クリエイティブ以外の面ではどのようなパートを担っているのでしょうか?

原田 PAT4パットフォーの4人は全然違うタイプなんですけど、「今度こういうお芝居をやろうか」となったときに意見が一致するのが早かったり、面白いと思う感覚や考え方が似てるんですよね。オレノさんはすごく穏やかに、かつ確実に釘を打っていく人。心くんはムードメーカーで盛り上げ隊長。0から1を生み出して、道なき道を突き進んでいく姿が清々しいほどに潔くてカッコいいんです。鯨井は4人を出会わせてくれた要であり、チームの頭脳ですね。「僕がこの企画をやるにあたって譲れないところはここです」っていう確固たる意思を持ってる人。3人の考えを一身に受けてまとめるのが僕、という感じですね。プロデューサーの鯨井が慎重派なので、「これで良いんじゃない?」って背中をポンッと押す役でもあります。

愛原 バランスの良い4人なんだね。ビジュアル撮影でお会いしたときも、PAT4の皆さんがお互いを尊敬し合ってるんだなというのが伝わってきました。今からお稽古が楽しみです。

原田優一

原田 PAT Companyの稽古って、「ねえ、みんな、大丈夫!?」って心配になるくらい笑いが絶えないの(笑)。というのも、楽しみながらも、どんどん作品を作っていけるキャスト・スタッフが集まっているからなんですけど。演技力はもちろん大事ですが、それ以上に人間力を重視しているっていうのかな。ポジティブな思考を持っていて、「その手があったか! やってみよう!」というふうに盛り上がれる人とご一緒したいと思っていて。あとPAT Companyの作品って、キャストやスタッフの思いつきでシーンが追加になることがあるんですよ。オレノさんなんて「グッド・イブニング・スクール」のとき、台本1ページぶんくらいの長ーいアドリブを考えてきたし、心くんも本番1週間前に1シーン書き足したことがあって(笑)。

愛原 1週間前に!? すごい!(笑)

原田 PAT Companyの何が強いかって、プロデューサー、脚本家、演出家、作曲家が同じ現場に全員そろってることなんだよね。例えば、「このシーンに、この音を足したらどうだろう?」ってリクエストすると、稽古が終わったときには完成していたりして。

──さすが、“パッと”できてしまうんですね。

原田 PAT Companyは、クリエイターにとってものすごく恵まれた環境だと思います。だからといって、そこに甘えないようにしたいですが。

──今作「眠れぬ森のオーバード」では、山奥の不気味な館に集まった6人の男女と探偵たちの物語が描かれます。今回の題材を“ヒューマンミュステリー”に設定したのは、どのような発想からなのでしょうか?

原田 「第2回公演の題材はどうしようか?」と話し合っているときに、心くんが「ミステリーをやってみたい」と提案してくれたんです。ほかの3人も「いいね、いいね! ミステリーをミュージカルにするなら、“ミュステリー”にしちゃおう!」なんて盛り上がって。でも実際やってみると、ミステリーとミュージカルの相性が悪い悪い!(笑) 密室劇だと、同じ屋根の下、同じメンバーで過ごすから、歌う理由があまりないんですよね。どうやって物語をうねらせるか4人で頭を悩ませた結果、「まさか!」というところに着地することになったので、楽しみにしていてください(笑)。

──とある高校の定時制夜間クラスを舞台にした前回公演、ミュージカル「グッド・イブニング・スクール」では、ポップなナンバーやロック寄りの楽曲が多く使用されていましたが、今回の“ミュステリー”はどのような音楽性の作品になるのか、今からとても楽しみです。

原田 多彩なジャンルを得意とする“オレノグラフィティ色”を生かして、山奥の館に合うような大正ロマンテイストの楽曲や、グランドミュージカルを彷彿とさせるようなナンバーを作ってもらう予定です。もちろんキャスト全員にソロを歌っていただきます!(笑)

愛原 えっ! そうなの!?

原田 そうだよ。ちゃんとみなこちゃんのソロもあるよ!

──今作のキャストには愛原さんをはじめ、鳥越裕貴さん、椎名鯛造さん、可知さん、THE CONVOYの舘形比呂一さんと、グランドミュージカルから2.5次元ミュージカルまで、幅広い分野で活躍されている俳優・ダンサーの方々がそろいました。今、お話を伺っていて、愛原さんのポジティブな物事の捉え方が、PAT Companyの理念にピッタリ合致したんだと感じました。

原田 そうですね。こんなに綺麗なのに、こんなに明るくてオープンで、そんな人ってなかなかいないじゃないですか。すごいよ! みなこちゃんは。

愛原実花

愛原 ありがとう!(笑) そんなふうに言ってもらえてうれしい。でも優ちゃんがいるから、私も自然体で振る舞えるんだと思うよ。

──相思相愛ですね。愛原さんは今回、プライベートでも親しい可知さんと親友同士のモエとリンを演じます。プロットを拝見したところ、モエは鳥越さん扮する探偵・ホムロとも関わりがあるようですが……。

原田 モエはリンと一緒にいるときもあるし、ホムロと行動を共にすることも多いかな。鳥越とみなこちゃん、出自がまったく違う2人なので、どんな化学反応が起こるか楽しみです。

原田愛原 (顔を見合わせながら)「♪育ってきた環境が違うから〜……」

原田 同じこと考えてた!(笑) 1人ひとりのキャラクターを立たせたいので、あえてお互い歩み寄らず、自分のポジションを死守しながらぶつかり合うのも見てみたいですね。一緒に舞台上にいるのに、一緒にいるようには見えない、みたいな。それぞれ別の思惑を持った登場人物たちが一つ屋根の下に集まっているのが、今作の見どころの一つだと思います。

──シリアスな題材を扱いながらも、PAT Companyらしい軽やかなタッチで描かれる「眠れぬ森のオーバード」。今回も笑顔あふれる現場になりそうですね。

愛原 そうですね。お客様に「ああ、本当に楽しかったな」とか「明日から前を向いて歩いていけそうだな」という気持ちになってもらうためには、作り手の私たちが良い雰囲気でなければいけないなと思っていて。今、演劇の世界に暗い霧が立ち込めていますが、こんなふうに素敵な作品に参加させていただける幸せを噛みしめながら、まずは自分自身が楽しみながら臨めたらと思います。

原田 コロナ禍で、PAT Companyの旗揚げ公演、ミュージカル「グッド・イブニング・スクール」を上演して改めて気付いたのは、「生の演劇はみんなにとって必要なんだ」ということでした。配信や円盤で演劇を観ることもできるけど、もし劇場に来ていただけるのであれば、“人が作品を作って、人が観る”、その素晴らしさをぜひ同じ空間で体感してほしいですね。作品を通して伝えられるもの、人の力を通して伝えられるもの、劇場でやるからこそ伝えられるもの……さまざまな形の舞台愛を、愛あふれる方々と一緒にお届けして、お客様の生きる糧になれたらうれしいなと思います。

左から原田優一、愛原実花。