光を放ち続けるために…茅野イサム&松崎史也が語る、ウィズコロナ時代の演劇 (2/2)

公演中止を覚悟し、それでも作り続ける

──期待されている作品だからこそ、昨今の新型コロナウイルスの影響でやむを得ず公演中止・延期が続いてしまっていることは、作り手にとっても観客にとってもつらい状況だと思います。お二人もたびたび中止や延期を経験されていると思いますが、一番最初に当事者となったときはどんなお気持ちでしたか?

松崎 僕は2020年3月に、新型コロナウイルスによって中止公演が増え始めた頃に「『FINAL FANTASY BRAVE EXVIUS』THE MUSICAL」(参照:「FINAL FANTASY BRAVE EXVIUS」ミュージカル化、脚本・演出は松崎史也)に関わっていて、初日4日前の3月2日に全公演中止になりました。プロデューサーが稽古場に来て、みんなで円座になって話したんですけど、作ってきた演劇が上演されないということが人生で初めてだったので、やっぱり最初は理解ができなかったです。現実的にだったり、情報としては理解してるんですけど、それまでは何があっても幕を開けるのが演劇だと思ってきたので、感情的に理解できなくて。でも無観客で1公演だけ配信上演することになり、俳優たちも本番を1回でもやれると気持ちの“逃しどころ”が作れたというか。だからあのとき1公演でもできたのは良かったと思います。それ以降は、公演中止の可能性をいつも考えるようになりました。そうやって予防線を張っていないと、カンパニーとしても自分としてももたないところがあるので、幕を無事に開けたいという思いと、中止になっても受け止めようという、両方の思いを常に走らせるようになりました。

──それは厳しい状況ですね。

松崎 でも、もはやそういう感覚でもなくなってきていて。ある意味、「何があっても幕を開ける」と盲目的になっていた状況から、健全になったような感覚もあります。ただこれは作り手側の問題で、お客さんにとって公演中止は、また別の問題。その責任の重さは忘れてはいけないと思っています。

「『FINAL FANTASY BRAVE EXVIUS』THE MUSICAL」メインビジュアル©2015-2020 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.©FFBE THE MUSICAL 製作委員会

「『FINAL FANTASY BRAVE EXVIUS』THE MUSICAL」メインビジュアル©2015-2020 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.©FFBE THE MUSICAL 製作委員会

茅野 僕の最初の公演中止体験は、2020年3月の「ミュージカル『刀剣乱舞』 ~静かの海のパライソ~」(参照:刀ミュ「静かの海のパライソ」凱旋公演中止、中継やBD/DVD化も見送りに)でした。政府からの外出自粛要請で中止になって、あのときの気持ちは全然思い出せないんですが、再開できると思っていたんですよね。でもどんどん世の中がそういう状況ではなくなってきて。僕自身、コロナは得体が知れなくて怖かったです。あの頃よく僕らは「不要不急」って言葉を浴びせられましたが、実は僕も「そうだな」って思っていました。「今は演劇を観るべきとき、やるべきときじゃないな」って冷静に思っていたし、普段からそう思っているんですよ。僕の愛知の幼なじみには、一生に一度もお芝居を観ないであろう人もいて、でもお芝居に出会わずとも楽しく生きている。だから何も絶対にお芝居が必要だとは思わない。でも僕には必要で、きっと僕と同じような方もいらっしゃるだろうから、そういう方とはつながっていたいなという気持ちはありました。

その思いがさらに強くなったのは、半年後に「ミュージカル『刀剣乱舞』 ~幕末天狼傳~」(2020年)(参照:激動の幕末へ!刀ミュ「幕末天狼傳」ライブパートを一新した2020年版が開幕)が中止になったときです。まだ感染状況が落ち着かない中、それでも何とか公演をやろうと、僕らもキャストも制作陣もとにかく感染者を出してなるものかと取り組んでいたんですが、東京公演の序盤で感染者が出てしまって。何がつらかったかって、感染してしまったメンバーが「自分のせいで中止になってしまった」と、ものすごく申し訳なく感じていることで、その人自身は症状のつらさに苦しみつつ精神的にも苦しんでいるし、でも自分も同じ立場だったら同じように思うだろうなと感じたし、カンパニー全体は意気消沈しているし……すごくつらかったですね。結局、東京凱旋公演はなんとか再開できたのですが、(松崎に)「こうまでして演劇ってやるものかな」って思わなかった?

松崎 はい。そもそもスタートを切っていなければ……と思ったりもしました。

茅野 そうだよね。

「ミュージカル『刀剣乱舞』 ~静かの海のパライソ~」より。©NITRO PLUS・EXNOA LLC/ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会

「ミュージカル『刀剣乱舞』 ~静かの海のパライソ~」より。©NITRO PLUS・EXNOA LLC/ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会

松崎 公演中止になったときの悔しさは、カンパニーのメンバーそれぞれが家に持ち帰って自分で処理するものだと僕は思っているのですが、お客さんに対しては本当にどうしようもなさすぎて……。この状況になって約2年半経ちますが、いつ公演中止になるのかわからない状況なのに劇場に来てくださるお客さんには、「本当にありがとうございます」と深く感謝しています。カンパニーとしては、1公演でも多く、自分たちができる最大に幸せなものを作り続けるというところから、思いが変わっていません。

茅野 僕も、公演中止の覚悟みたいなことは常にしていますが、やっぱりお客さんに対しては申し訳なさすぎて。僕らにできるのは、本当にもしものときは少しでも早くお客さんにお知らせできる体制にしておくことだと感じています。でも幸せな場所を作りたいと思って舞台をやっているのに、公演中止になると悲しみを生んでしまうこともあって、そこが本当に難しい。「じゃあやらなきゃ良いのか」と言うと、「そうではない、作り続けていきたい」とも思いますし。

それに僕は、「ミュージカル『刀剣乱舞』」の主催会社の1つでもあるネルケプランニングのことも心配でした。これだけ公演中止が続いても、例えば僕らはアルバイトをすればなんとかなる。でもこの状況が収まったときに、作品を作る母体の制作会社がなくなってしまったら、僕らは何もできないわけです。ネルケに限らず、演劇文化を育ててきてくれた制作会社がなくなったら大変だと思い、何とか演劇を支えていかなければという思いで始めたことの1つが毎回配信です。けれど、毎ステージ配信してもお客さんに観てもらえなければ意味がないですよね。何度でも観たいと思ってもらえる、何度観ても新しい発見や感動が生まれる映像配信にしなければならない。そのために今までやってこなかったような、撮影方法やスイッチングなどに挑戦しました。この点については撮影・配信チームが本当にがんばってくれました。うれしいことに、SNSで「あのカット割が良かった」とか「あのカメラアングルが良かった」と皆さんが話題にしてくださって、それを見た配信チームのモチベーションがさらに上がるという、予想外の相乗効果が生まれました。皆さんの応援してくださる気持ちがひしひしと感じられてありがたかったです。そして、遠方の方とか、チケット代がハードルになっていた学生さんとか、これまで観てほしいと思っていた人たちにも観てもらうことができて、本当にうれしかったです。

演劇の強さを実感した2年半、そしてその強さを形にする使命感

──コロナが長引くにつれ、劇場から足が遠のいてしまっている人も多いと聞きます。実際、作品や劇場によってはこれまでより空席が目立つ公演もあり、コロナ以前のような状態にはまだ戻っていないことを実感しますが、刀ミュとエーステについては変わらず人気を博しています。エンタテインメント性や非日常感が強い両作品だからこそ、今、観客に求められているのではないでしょうか。

松崎 光を放ち続ける、ということはカンパニーのみんなと大事にしています。お客さんが客席ですごく幸せそうに観てくれている、その状況は未来の演劇にもつながっていくと思いますし、続けている間はとにかく光を放ち続けたい。エーステはそういう場所であろうと、役者とも思いを共有しています。

茅野 松崎さんが今おっしゃった「光を放ち続ける」という言葉、すごく良いですね。「ミュージカル『刀剣乱舞』」も、コロナ禍において手を抜くどころか舞台美術も衣裳もどんどんグレードを上げていて(笑)、それは僕の思いだけじゃなく、スタッフたちの思いから実現していることなんですね。以前、「刀剣乱舞 ONLINE」の原作元の方が「世の中には優しい言葉をささやいたり、プレイヤーを励ましてくれたりするゲームもあるけれど、『刀剣乱舞』はただただ刀剣男士たちが戦っている姿を見せ、その姿を見たプレイヤーが『自分も明日はちょっとがんばってみようかな』と思えるような、そっと背中を押すようなゲームにしたい」とおっしゃっていて。それがまさに、「ミュージカル『刀剣乱舞』」の出発点なんです。だからこの状況下でも、少しでもクオリティが高いものをお客さんに観てもらうことでお客さんの背中を押せたら良いなと。エーステもそうだと思いますが「ミュージカル『刀剣乱舞』」のメンバーもみんな思いを共有していますし、その思いをお客さんも感じてくれているから共鳴が起き、大きく広がっていくのだろうなと思います。

──お二人が、常にカンパニーの一員として作品を語っていらっしゃるのが素敵だなと思いました。

茅野 だって演出って、結局何もやっていないんですよ(笑)。絵も描けないし、曲も作れないし、照明も当てられない。

松崎 本当にそうですね。すごい人たちの力をお借りしています(笑)。だから(拳を上に掲げて)ここにいるように見えて、仕事するのは(両手を上下に広げて)ここ。みんなと一緒に作っているんですよね。

松崎史也

松崎史也

──第7波の影響で、7月以降、公演規模やジャンルを問わず公演中止が続いています。「MANKAI STAGE『A3!』ACT2! ~SUMMER 2022~」(参照:エーステACT2!「SUMMER 2022」一部公演が中止に)も「ミュージカル『刀剣乱舞』 鶴丸国永 大倶利伽羅 双騎出陣 ~春風桃李巵~」も、一部の公演が中止になるなど、演劇界には厳しい状況が続いていますが、それにもかかわらずお二人が舞台に臨まれるのはなぜですか?

茅野 これもやはり、自分にとって必要だからということにほかならないんですよね。コロナって時間遡行軍みたいだなと思っていて……つまり今に干渉して未来を変えてしまうんです。今、僕は若い人に教えたりもしているんですが、リモートの授業が多いし、接触を避けているのでこれまでのようなレッスンができない。というかそもそも演劇をやろうという人も減っているし、演劇をやろうとして学校に入学してもこの状況では希望が持てなくて、辞めていく人が多いんですよね。その中には10年後、20年後の日本のエンタテインメント界を支えるような人材がいるかもしれないのに、その未来が今、塗り替えられている。そのことが心苦しいです。そういう意味でも、自分の手が届くところではがんばりたいし、僕らが続けていればみんなも希望が持てると思うんです。「こんな状況でもお客さんが入ってくれる」とか「こんな状況でも面白いものが作れる」とか。その使命は少なからず僕にもあると思っているので、「俺、今やらなきゃだめでしょ」と思っています。

松崎 この仕事をやる以上、“一生この仕事をする”という気持ちと、“いつでも辞める”という気持ちの両方を持っていて。というのは、1本でも面白くない作品を作ってしまったら引退すべきだという考えを持っているんですね。だから、コロナのせいで面白い舞台が作れなくなったら考えるとは思いますが、自分が演劇を続けるかどうかに対して、コロナの問題は関係ないというか。むしろこういう大きな不条理の波があるということは、ちょっと不謹慎かもしれませんが、いつかの財産になるとも思っていて。何か問題が起きて、そこから何を考えるかで人間は良くなるはずだと思うんです。だからいつかこの状況から抜けたときのために演劇は続けていきたいし、そもそも演劇の強さをさらに実感した2年半だったとも思います。僕の感覚からすると、こんなにもみんな辞めないんだなって(笑)。この時期を経て、「演劇は強かった」ということがわかって良かったです。

「ミュージカル『刀剣乱舞』 鶴丸国永 大倶利伽羅 双騎出陣 ~春風桃李巵~」より。©NITRO PLUS・EXNOA LLC/ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会

「ミュージカル『刀剣乱舞』 鶴丸国永 大倶利伽羅 双騎出陣 ~春風桃李巵~」より。©NITRO PLUS・EXNOA LLC/ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会

「MANKAI STAGE『A3!』ACT2! ~SUMMER 2022~」より。©Liber Entertainment Inc. All Rights Reserved.©MANKAI STAGE『A3!』製作委員会

「MANKAI STAGE『A3!』ACT2! ~SUMMER 2022~」より。©Liber Entertainment Inc. All Rights Reserved.©MANKAI STAGE『A3!』製作委員会

新しい楽しみを、これからも次々と

──刀ミュ、エーステ共に、秋以降にまた新たな作品が控えています。刀ミュは12月から2023年1月にかけて「ミュージカル『刀剣乱舞』 江 おん すていじ」(参照:“江”の刀剣男士が集結!刀ミュ「江 おん すていじ」東京・大阪で開催)、2023年9月には刀ミュの8周年を記念した「ミュージカル『刀剣乱舞』すえひろがり乱舞野外祭らんぶやがいまつり」(参照:刀ミュ「すえひろがり 乱舞野外祭」富士急ハイランドで開催決定)が山梨の富士急ハイランドで開催され、エーステは11月に「MANKAI STAGE『A3!』ACT2! ~AUTUMN 2022~」(参照:新生秋組描くエーステACT2!「AUTUMN 2022」ビジュアル公開、追加キャストも明らかに)が上演されます。

茅野 「ミュージカル『刀剣乱舞』」はおかげさまでこの先もいろいろと決まっていて、お客さんが息切れしないか心配なくらいなんですが(笑)、とにかく僕らは変わり続けていくということがテーマなので、新しいことに挑戦していきたいなと。「江 おん すていじ」については、たぶん今皆さんが想像されているものとはまったく違うものになると思いますので、皆さん「そう来たか!」って思ってくれるんじゃないかな。新しいものを作るリスクはひしひしと感じつつも、攻めていきます。「㊇ 乱舞野外祭」については、8周年にふさわしいワクワクすることをやりたいなと思っています。9月の野外祭なのでご心配もおかけしていますが、いろいろと対策を練っていますので。大切なものは守りつつ、新たな楽しみをどんどん作っていきたいですね。

松崎 トップランカーの先輩が、使命感を持ってこれからも作品を切り拓いていこうとされていることが今日はっきりとわかって、すごくうれしかったです。エーステも進化し続けることが使命だし欲求なのですが、そう思うようになったのはお客さんに対する信頼と敬意があるからなんです。逆にそう作らなければ満足してもらえないだろうと思っていますし、高い要求をしてもらえることがありがたいなと。自然と進化が義務付けられているのは作り手としては楽しいわけで(笑)、今回のACT2!秋組単独公演も今までのエーステでは観たことがないようなものをお見せしたいな……お見せするだろうな、と思っています。

──両作品とも、お客さんが本当によく作品を観て分析していらっしゃいますよね。公演後のSNSでのやり取りを見ると、素晴らしいレポートを書いているファンの方がいたり……。

松崎 「1回の観劇でなんでそこまで観られるの?」って思うこと、ありますよね?

茅野 ある! 本当にすごいと思う。僕らはそういうお客さんに育てられているし、ちょっとでも油断したらお客さんに追い抜かれそうで、お客さんと常に競争している感じです。絶対に抜かれないようにしないと! それが僕の原動力になっています。

左から茅野イサム、松崎史也。

左から茅野イサム、松崎史也。

プロフィール

茅野イサム(カヤノイサム)

演出家。1986年、善人会議(現・扉座)に俳優として入団。2002年に上演された「そらにさからふもの」より、演出家としての活動を開始する。近年の主な演出作に「舞台『東京喰種トーキョーグール』」「ミュージカル『刀剣乱舞』」「犬夜叉」など。

松崎史也(マツザキフミヤ)

1980年、東京都生まれ。脚本・演出家、俳優。2002年に俳優・演出助手として活動を開始し、2010年に演出家としてキャリアをスタートさせた。2014年、自身が主宰を務めるSP/ACE=projectを結成。近年の主な演出作に「MANKAI STAGE『A3!』」シリーズ、「『FINAL FANTASY BRAVE EXVIUS』THE MUSICAL」など。