100年企業を目指します
松田 “100年企業”を目指そうという話もしているんだよね。舞台の制作会社が100年もったらすごいことだし、今後の演劇界、エンタメ界にとっても良い目標になれるんじゃないかなと。
野上 まだ“演劇サークル”から“演劇部”になったくらいの会社ですけど(笑)、目標は100年企業です。
松田 今、野上に課しているミッションは次の社長を探すことだよね。
野上 私と松田にそれほど年齢差がないから、今から急いで探さないといけないんですよ。
松田 そういうサイクルでタスキを渡していく感じだよね。それが100年企業を目指すってことだと思う。100年企業と言葉にした瞬間、自動的にそうするための考え方をするようになるし、システムを作らないといけなくなる。
野上 ただ私はタスキを渡すときに松田と違って未練が残るかもしれない。現場に出たい気持ちが本当に強いので。すごく寂しいですが、現場から離れる練習をしていかないと……。ただうちの社員は本当に仕事ができる人が多いので任せられる。みんな元気だし、自分の人生にちゃんと楽しいことがあって。私の知っていることをどんどん伝えて、自分なりのやり方でステップアップしてもらいたいです。
──野上さんが社員の方たちに仕事に関して伝えるとき、どんなことに重点を置いて話しますか?
野上 結局「愛を持って仕事をする」という話をいつもしてしまいます。それに尽きるのかなと。あと、月に一度全社員が参加する朝礼では「ありがとう」「ごめんなさい」「いやだ」をちゃんと言ってね、とよく話します。仕事の基本になることって大体保育園や幼稚園で習うことなんですよ。でも仕事の場面になると忘れてしまうことも多い。「あなたがそれを言ったとき○○ちゃんはどう思ったかな?」って先生に聞かれたりもしますよね。これは「相手の立場に立って考えていますか?」ということなので、制作会社としてすごく大事なことだと思います。基本的なことができていると気持ちよく現場が進んだりするんですよね。
日本のコンテンツで海を渡りたい
──現在の2.5次元業界、演劇業界、さらにエンタメ業界全般をどんなふうに見ていらっしゃいますか?
野上 2.5次元が、さまざまなエンタテインメントにお客様が足を運ぶきっかけの1つになったとは思っていて。
松田 「演劇の初めの一歩を作ろう」というのをネルケのスローガンにしてきたよね。今まで劇場に来たことがない人が来てくれて、そこからグランドミュージカルとか宝塚とか小劇場とかディープなところに行ってくれたら良いなと思っていたし、実際にそうなっている。
野上 そうですよね。お相撲とかスポーツも含めてお客様の心を動かすものはどのジャンルもつながっていると思うので、一緒にがんばりたいし、応援していきたいです。この前、下北沢の100人に満たない客席数の劇場でものすごいパワーの舞台を観て感動して。エンタテインメントを観てウキウキしたり、笑ったり泣いたりすることは人生にとって必要なことだと改めて思いました。
──松田さんはこれからエンタテインメントとはどう関わっていかれるのですか?
松田 グローバルなことをやりたいと思っています。もちろん2.5次元にも芝居にも関わっていくんですけど、芝居だけにこだわらず、日本のコンテンツが世界で闘えるようにしたい。野上には芝居を中心に国内でがんばってもらうので、縄張りを分けたような感じですね。フリーランスの立場になるので、もう少し広い視野でやれるのかなと。ネルケのコンテンツを海外に持って行くことも当然あると思いますよ。
──K-POPや韓国ドラマが世界を席巻していることは刺激になりますか?
松田 なりますねえ。「日本にも素晴らしいコンテンツがこんなにいっぱいあるのに! 悔しい!」と思っています(笑)。日本のコンテンツで海を渡ることが、これからの自分の人生における目標の1つですね。
──これまでも2.5次元で海外公演をされてきましたし、「ライブ・スペクタクル『NARUTO-ナルト-』」などの世界配信も開始されました(参照:舞台NARUTO、ヒロステ、セラミュー、全5作品を世界各国で配信)。
松田 はい。でもそれだけではだめだというのもわかっているんですよ。ほかにも“作戦”が必要なんです。
野上 海外公演で1回の大花火は打ち上げられるんですよね。それをレギュラー化するのはまだまだこれからで。
松田 大きい一歩ではありましたが、まだ記念公演の段階。次のステップではきちんとビジネスとして成立することを目指さないと。海外公演となると総勢80人くらいで移動することになるので、絶対に持ち出しになる。僕たちのように何十年後のことを考えて投資する気持ちがなければやらないですよ。でもビジネス構造が組み立てられて成功例を作れたら、ほかにもやる会社が増えてくると思う。なので芝居の形だけにこだわらず、普段やっているものを変化させることで面白さを伝えて、根付かせる術を探っています。例えばテーマパークみたいな形とか、短いショーとその内容に関係する食事ができるレストランとかならファミリーで気軽に来てくれるかもしれないですよね。もちろん、これまでのように海外公演もやったほうが良い。それだけだと時間がかかるから、ということです。
野上 今国内だけで上演している作品の中にも海外のお客様に喜んでいただけるものがたくさんあるので、そこは協力し合っていきたいです。
松田 そうだね。海外配信も続けたほうが良いし、やれることは全部やったほうが良い。あの手この手で何でもやらないと!
次世代のクリエイターに出会いたい
──今後の2.5次元にはどんなものが必要だと思われますか?
野上 次世代のクリエイターとさらにたくさん出会わなければいけないと思っています。演出家、音楽家、振付家、衣裳家……今も特筆すべき方が何人もいますが、その方たちが引退する前に、と。現役の方たちにも、もっとこのエンタテインメントが元気になるために手を貸してほしい、素敵なクリエイターがいたら紹介してほしいと伝えているんですが、皆さん共感してくださって。彼らも自分のイズムを継いでくれる人を育てたい、チャンスを渡したいと思っている。そこからまた新しい作品が生まれて、新しいお客様に来ていただける……そうやってずっと活性化していったら良いですね。先ほど話した子供たちに良いエンタメを観せていくことにも関係してくると思います。次の世代にどんどんつなげていきたい。
──そういう子供たちの中から次のクリエイターが出てくるかもしれませんね。
野上 そうですね。心が動いたら、自分も何かをやりたいと思うはずなんですよ。お芝居に限らず、サッカー選手とかアイドルとか、私たちの作るものを観て何かやりたいと思ってくれたらうれしいですね。
松田 僕も次の世代を探すことが重要だと思っていて。実際、まだ現場経験の浅い演出家や若手のスタッフにお願いしてみようという空気はあるよね。失敗するかもしれないけど、やってみることで芽が見えてくる。あと僕は自分がいなくなったあとのエンタメ業界のことを考えてしまうから、やっぱりプロデューサーが必要だと思う。演劇が好きな人はいるけど、今日何度も言っているようにビジネスのことも考えられる人を探すのは簡単じゃない。ビジネスばっかりで演劇が好きじゃない人もだめだしね。何と言われようと、良いものを作って、ちゃんとビジネスとして成立させられる人が必要だなと。まだ僕たちも何かを成し遂げたわけではなくて、発展途上なんですけどね。
──3年ほど前には「今は2.5次元のバブルだ」という話をされていましたが、弾けた感じはしないですよね。
松田 そうですね。今2.5次元は“停滞期”に差し掛かっている。“新しくて面白いジャンル”から“当たり前のジャンル”になったので、ここからもっと刺激的なことをやっていかないと。
野上 2.5次元もそうですし、演劇自体がだいぶ市民権を得ましたからね。ここからだなと思います。
松田 演劇界の大先輩である宝塚歌劇団さんや劇団四季さんを見ていると、本当にアグレッシブにいろいろなことにチャレンジしていて、お客様に新たな刺激を与え続けている。本当にすごいなと思います。トップを走っている人たちが挑戦し続けているんだから、ネルケもチャレンジし続けないとね。
野上 本当にそうですね。がんばります!
プロフィール
松田誠(マツダマコト)
演劇プロデューサー。一般社団法人 日本2.5次元ミュージカル協会の代表理事、ネルケプランニング現・代表取締役会長。
野上祥子(ノガミショウコ)
ネルケプランニング現・代表取締役社長。1998年、同社へ入社し、2016年に代表取締役社長に就任。