ステージナタリー Power Push - コドモ発射プロジェクト「なむはむだはむ」

谷川俊太郎×岩井秀人

言葉のほどき方を谷川俊太郎に習う

「子供が書いた台本をプロがよってたかって演劇にすることはできないだろうか?」という東京芸術劇場 芸術監督・野田秀樹の発案のもと、ハイバイの岩井秀人と森山未來、そしてシンガーソングライターの前野健太が創作するコドモ発射プロジェクト「なむはむだはむ」。“子供向けに「おりてない」”、子供も大人も楽しめる舞台作品を目指す彼らにとって、幅広い世代に愛される詩や絵本を多数生み出してきた谷川俊太郎は、あまりに偉大すぎる“先輩”だ。緊張しながら谷川邸へ向かった岩井だが、ひとたび創作について語り始めると、2人はすぐに打ち解け合い、会話が止まらなくなっていた。

取材・文 / 熊井玲 撮影 / 平岩享

「なむはむだはむ」には、みんなに共通する何かがある

──岩井さん、さっき「んぐまーま」(文:谷川俊太郎、絵:大竹伸朗、クレヨンハウス)を読みながら笑っていましたね。

岩井秀人 うん、笑っちゃいました。僕、言葉にはほどくためのものと縛るためのものがあるような気がしてるんですけど、谷川さんのこういった絵本はほどきまくりというか、本当に外で大きな声で読みたくなるような言葉がいっぱいあります。谷川さんはどういうタイミングで、こういう言葉を書くようになったんですか?

谷川俊太郎

谷川俊太郎 ノンセンスの面白さに気づいた頃からでしょうね。90年代に「不思議の国のアリス」なんかが流行った時期があり、哲学者の鶴見俊輔さんが「ノンセンスは存在の手触りをわれわれに教える」と発言して、僕もそういうものに影響を受けたんです。ノンセンスなものって、初めはぽこっとなんとなく一種の勘みたいなもんで出てくるんです。朗読会のときには絵をプロジェクターで映して読むんですけど、声に出して読むとみんな笑ってくれます。日本語を解体するっていうのかな、今のガチガチのデジタルな意味過剰の言語から言葉を解放したい、みたいな気持ちはずっとあるんですよ。

岩井 で、「んぐまーま」を読み始めたら、「なむばなならむ」って出てきて……(笑)。

谷川 似てますよね(笑)。

岩井 実は「なむはむだはむ」っていうタイトル、夏に小学生の子たちとやったワークショップの中で出てきた言葉なんです。子供たちに考えてもらったストーリーの1つで、“主人公のお父さんかお母さんが死んじゃった、なむはむだはむ”っていうのがあって。それがすごく腑に落ちる音で面白かったからタイトルにしました。どこか南妙法蓮華経に似てるってこともあるかもしれない、でもそれだけじゃなくて多分、生まれたときから音としてみんなの中に共通されている何か、みたいなものが、「なむはむだはむ」にはあると思ったんですね。

谷川 なるほど。

──ただ、谷川さんは「んぐまーま」を、子供とお話しながら創作されたわけではなくて……。

谷川 全然。僕はよく言うんだけど、人間も木の年輪と同じでね、真ん中に0歳の自分がいて、だんだんと太くなっていき、最後にあるのが今の自分だって。これにはきっと、中のほうにいる幼児みたいなものが、出てきてるんですよね。普通、大人の社会にいるとどうしても抑圧するじゃないですか、自分の中の幼児性を。それを我々みたいな人間は、ちょっと出せるんですね、作品として。

岩井秀人

岩井 あと、子供のときに自分で作った言葉がそれぞれあったりして、読みながらそれを思い出したりするんじゃないかな。そういえばうちの子でもあったな、いろんなものの意味が全部含まれてて、おんぶもお母さんもお兄さんも全部「だっちょ」っていう……。実は今回、子供にむちゃくちゃ書いてもらったお話をもとに台本にする、っていうことをやろうとしてて。

谷川 すごくいいね。

岩井 僕が台本担当で、ワークショップで子供たちにごく短いお話を作ってもらったんです。そうしたら6歳くらいの子が、「えっとね~……野菜が、バン!って生えている」とだけ言って。

谷川 あはははは!

岩井 それがすごい面白くて。ただ、舞台にするにはもう少し長さがあって、程よくめちゃくちゃで……と求めてしまい、今度はもう少し長い文章を書いてもらったんですね。で、上がってきた文章を見ながらうーむって考えてたら、たまたま見学に来ていたシンガーソングライターの前野健太くんが、「今日のワークショップ横で見てたけど、本当に面白かった!」と言っててハッとして。僕は子供たちが書いたお話を文章として読んでしまったけど、前野くんは「長い毛」とか「母だった」という言葉だけに反応したり興奮したりしてて、それまで文章の羅列だったものが、急に違って見えてきたんです。で、前野くんに「あなたにはこの企画にいてもらわなきゃ困る!」って急遽参加してもらうことになって。

谷川 彼は詩を書く人?

岩井 歌詞も書くし、曲も作りますね。

谷川 短い言葉に感応するっていうのはすごく詩人的なんですよね。そこから1つのシーンが生まれるっていうのはよくあることなんです。

岩井 そうなんですねぇ。

コドモ発射プロジェクト「なむはむだはむ」

コドモ発射プロジェクト「なむはむだはむ」

2017年2月18日(土)~3月12日(日)
東京都 東京芸術劇場 シアターウエスト

原案:こどもたち
つくってでる人:岩井秀人、森山未來、前野健太
そもそもこんな企画どうだろうと思った人:野田秀樹

チケット情報

東京芸術劇場ボックスオフィス
チケット好評発売中

谷川俊太郎(タニカワシュンタロウ)

1931年東京生まれ。詩人。1952年に第1詩集「二十億光年の孤独」を刊行。1962年「月火水木金土日の歌」で第4回日本レコード大賞作詞賞、1975年「マザー・グースのうた」で日本翻訳文化賞、1982年「日々の地図」で第34回読売文学賞、1993年「世間知ラズ」で第1回萩原朔太郎賞、2010年「トロムソコラージュ」で第1回鮎川信夫賞など、受賞・著書多数。詩作のほか、絵本、エッセイ、翻訳、脚本、作詞など幅広く作品を発表。近年では、詩を釣るiPhoneアプリ「谷川」や、郵便で詩を送る「ポエメール」など、詩の可能性を広げる新たな試みにも挑戦している。

岩井秀人(イワイヒデト)

1974年東京生まれ。劇作家、演出家、俳優。2003年にハイバイを結成。2007年より青年団演出部に所属。東京であり東京でない小金井の持つ「大衆の流行やムーブメントを憧れつつ引いて眺める目線」を武器に、家族、引きこもり、集団と個人、個人の自意識の渦、等々についての描写を続けている劇団ハイバイの主宰。2012年にNHKBSプレミアムドラマ「生むと生まれるそれからのこと」で第30回向田邦子賞、2013年「ある女」で第57回岸田國士戯曲賞を受賞。代表作に「ヒッキー・カンクーントルネード」「おねがい放課後」「て」。


2017年2月15日更新