二山治雄の“今しか観られない”「星の王子さま」がホクト文化ホール開館40周年を飾る、池上直子が作品に込めた思いとは? (2/2)

これまで積み重ねた経験が、自分の宝になる(二山)

──長野公演では、バレエを習っている地元の子供たちを対象に、4月と5月に1度ずつ、コンテンポラリーダンスのワークショップが行われました。池上さんは若手アーティストの育成や支援の活動にも力を入れられていますが、ワークショップでの子供たちの様子はいかがでしたか?

池上 かわいかったです(笑)。初回では二山くんが踊るオープニングの王子さまのルーティンをテーマにしたのですが、最初はガチガチに緊張していた子供たちが、火山の炭掃除をする振りを振り移ししながら「この振りはこういうセリフなんだよ」と教えると、「ああ!」とすぐに理解して、「よし、山を登るぞー」と楽しそうに挑戦してくれました。コンテンポラリーは敷居が高いとか、コンクールのバリエーションの1つだけだと捉えられがちですが、ワークショップを通して、踊ることの面白さや表現の自由さをお伝えできたのではないかなと思います。

二山 海外ではコンテンポラリーはバレエと半々でやるくらい主流になってきましたが、日本ではまだマイナーなイメージがあるので、こういうワークショップは子供たちにとっても貴重な経験になりますね。

池上 最後に親御さんを交えてワークショップの感想を話し合ったのですが、そのときにバレエを続けていくうえでの悩みなども共有できたので、良い時間だったと思います。

左から二山治雄、池上直子。

左から二山治雄、池上直子。

──では、「星の王子さま」を楽しみにしている皆さんに、ぜひ観てもらいたいシーンや二山さんお気に入りのシーンを教えていただけますか?

二山 ラストシーンですね。王子さまがいろいろな星を旅するお話ですが、この「星の王子さま」では原作の“その後”が描かれるんです。これまで訪れた星が、王子さまと分身たちによって積み上げられて、1つの大きな星が出来上がるのですが、その過程で各シーンの振りをオムニバス的に展開しながら、大切に積み上げていきます。1つの塊になったときに「やりきった!」という感覚と、これまでの王子様の歩みがよみがえることに特別な思いがして、一番好きです。

池上 原作では王子さまは蛇にかまれて死んでしまうんですが、私はそれが悲しくて嫌だったんですよ。星のカケラのオブジェを使って、最後に1つの大きな円にする。そこに刺したバラを王子さまが見つめているという幕引きにしたくて。余白を残すことで、最後の画を観たお客さんに単なる“死”以上のメッセージを持ち帰ってもらいたかったんです。

──王子さまが星のカケラを積み重ねて大きな星を作るように、二山さんがこれまでのバレエ人生を振り返る瞬間はあるのでしょうか?

二山 このシーンを踊りながらは、さすがに難しくてできないですけど(笑)。そうですね、ダンサーをはじめ、どんな職業でも、何かを極めている人には1つひとつ、これまでの積み重ねがあって、活躍につながっていると思うんです。経験しないとわからないことってたくさんあるので、どんなことにも挑戦して経験することが大切。そういったさまざまな経験が、自分の中での宝として生きると思っています。

プロフィール

二山治雄(ニヤマハルオ)

1996年、長野県生まれ。白鳥バレエ学園で塚田たまゑ・みほりに師事。2014年、ローザンヌ国際バレエコンクール第1位、ユース・アメリカ・グランプリ(YAGP)15~19歳男子部門第1位を獲得した。2016年、ワシントン・バレエ団スタジオカンパニーに入団、2017年にパリ・オペラ座バレエ団に契約団員として入団。2020年に帰国し、現在は日本を拠点に多数の公演に出演する。8月に「SHIVER Premium 2023」への出演が控える。

池上直子(イケガミナオコ)

1975年生まれ。2010年、コンテンポラリーダンスカンパニー・Dance Marchéを立ち上げ。モダンダンスを本間祥公、クラシックバレエを高木俊徳に師事。モダンダンスからコンテンポラリー、バレエまで、国内外の振付家の作品を踊る。2016年文化庁在外研修員としてドイツレーゲンスブルク歌劇場ダンスカンパニーに研修。2019年以降、海外のダンスカンパニーに倣い、ダンサー育成プロジェクトを展開。若手ダンサーが踊りに専念できる環境を提供している。代表作に「Carmen」「ジョルジュサンドの手紙」「牡丹灯篭」「ファントム」など。