広崎うらん×鶴見辰吾×丘山晴己が新たな息を吹き込むミュージカル「雪の女王」 (2/2)

県民キャストの姿を見て「初心に帰る」(鶴見)

──役の印象についても伺いたいです。雪の女王は、人びとに災いをもたらす鏡の欠片がカイの目に入ってしまったために、カイを城に連れ去ります。丘山さんは今、女王役をどのように捉えていますか?

丘山 これからお稽古が始まってまたどんどん変わっていくと思いますが、うらんさんと一緒に、今回だからこそできる雪の女王にできたらうれしいなと思っています。また女王が感じさせる恐怖を、ただの恐怖としてではなくより魅力的にできたら面白いんじゃないかと思っていて、そういった部分も楽しめたらいいなと思っています。

丘山晴己

丘山晴己

広崎 童話には人間がどうであるか、世界がどうであるかということが集約されているところがあり、美しさとは何か、人が惹きつけられるものとは何か、なぜつらい思いをしてまで友達を探しにいくのか……それぞれいろいろな解釈ができると思うのですが、雪の女王が負っている役割も、童話の世界にとどまらず、自然界や今の世界に通じるものがあると考えています。今回、そこにはるちゃんならではの魅力を加えてもらうことで、初演とはまた違う雪の女王の姿が見えてくるのだろうと思います。

──鶴見さんは初演に続き、語り手・魔女・山賊の頭領の3役を演じられます。ご自身は3役に何か共通点を感じていらっしゃるのでしょうか、あるいは独立したそれぞれの役として捉えていらっしゃるのでしょうか。

鶴見 それぞれ別の役として捉えています。語りは進行役で物語をしっかり進めていくという使命があり、その使命が重い分……というわけではないですが(笑)、魔女や山賊役では思いっきり楽しませていただいています。

──本作には県民の方がアンサンブルキャストとして出演されます。丘山さんはこれまで、県民の方と一緒に舞台に立たれたご経験はありますか?

丘山 初めてです。ただ一度だけ、武道館で行われたコンサート(TEPCO 一万人コンサート18th「世界劇 黄金の刻」2010年)で一般の方とご一緒させていただいたことがあるんですけれど、舞台が終わったあとの皆さんの目のキラキラがすごくて、「お疲れ様ですー」ってスッと帰るのが恥ずかしいなと思ったくらい、もっとキラキラしていたい!と感じたんです。今回、そんなキラキラするチャンスをいただいたと思っています。

鶴見 この公演は我々にとってもチャレンジの公演なのだけれど、私たち以上に一般参加者の方たちは緊張しているわけで、その姿を見ていると初心に帰るんですよね。「ああ、こういうことがしたくてこの仕事を始めたんだよな」と。それに、コンサートホールって嘘がつけない場所というか、生半可なことができない、がんばらざるを得ない場所。小手先で“俳優らしい何か”をやって済む場所ではないし、そういう意味ではオーディションで選ばれた人たちも私たちも同じ土俵の上、一緒なんです。そこがこの企画の面白いところじゃないですかね。だからほんとにね、感動の千秋楽ですよ。

鶴見辰吾

鶴見辰吾

丘山 鶴見さんがそうおっしゃるなら、僕なんかギャンギャン泣いちゃうかもしれないなあ。

一同 あははは!

広崎 本当に特別ですよね、コンサートホールという空間で一緒に空気を感じて、みんなで物語に没入していくことができる。今はいろいろなことが簡単にできてしまう時代ですが、その中で、ある意味アナログに、リアルに空気を共有してエネルギーを分かち合える劇場やコンサートホールは、貴重な体験の場だと思います。

童話が示唆するものから、私たちが何を受け取るか

──ハーモニーホールふくいの魅力についても教えてください。

広崎 福井の駅から単線の電車に乗っていくんですけれど、田んぼの中に大ホールと小ホール、2つの棟が綺麗に並んでいて、6月ごろだと水田の中を水の上を走っているようなイメージで、カエルの声がすごいんです。また見晴らしが素晴らしくて、ヨーロッパの劇場的と言いますか、エントランスに降り立って中に入るまでワクワクします。ホールには素敵なシャンデリアがあるのですが、これがウィーンの楽友協会に飾られているシャンデリアと同じものだそうなんです! 初めてハーモニーホールふくいに行ったときに「これ、ウィーンの楽友協会みたいですね」と言ったら「同じなんです」と教えてもらって驚きました。クリスタルがものすごい光を放っていて綺麗で、「雪の女王」のオープニングではこのシャンデリアを演出に使用しました。あと、ハーモニーホールふくいは日本で唯一、「世界の非常に美しいコンサートホール 25選」に選ばれたことがあるんです!

左から丘山晴己、広崎うらん、鶴見辰吾。

左から丘山晴己、広崎うらん、鶴見辰吾。

──丘山さんはこれまでハーモニーホールふくいに行かれたことはありますか?

丘山 いえ、初めてです。福井自体には、公演で行ったことがあるんですけど、その時はホテルと会場の往復だけだったので、今回は福井の良さをいっぱい知りたいなって思っています!

広崎 ミュージカル「刀剣乱舞」の「祝玖寿 乱舞音曲祭」(2024年)がサンドーム福井で行われたときは、チケットが即完だったそうですね。はるちゃんのファンは福井にもたくさんいると思うので、皆さん楽しみにしてくださっていると思います。ただ、はるちゃんはシングルキャストだから、公演中に休みがないですけどね!

一同 あははは!

──本作では脚本・作詞を高橋知伽江さん、音楽を笠松泰洋さんが手がけられています。美しさだけでなく、心に引っ掛かりのような余韻を残す楽曲になっていますね。

鶴見 そこはね、笠松さんとうらんさんが試行錯誤なさっていて。

広崎 アンデルセンのお話って悲しいところがあり、美しい思いや願いも描かれていますが、必ずしもハッピーエンドではない。そこがアンデルセンの魅力だと思うので、音楽面でもそういった部分をちゃんと表現したいと思っています。笠松さんとは何度もやり取りしていますし、高橋さんは作品が何を伝えたいかをしっかり判断して、意図が通じる言葉を音楽に乗せてくださる方なので、今回も素晴らしいお仕事をしていただいています。

──広崎さんは童話を元にした作品を度々手掛けていらっしゃいますが、童話が持つ力、魅力をどんなところに感じていますか?

広崎 たまたまではあるのですが、うれしいことに続いていますね。童話をアレンジして、エンタテインメントにしたものはいろいろありますが、元の童話の世界観をちゃんと生かしているものが好きなんです。宮崎駿さんが、ロシアのアニメ版「雪の女王」(1957年に製作されたレフ・アタマーノフ監督のアニメ作品)を観て刺激を受けた、というのは有名な話ですが、「雪の女王」の物語の根幹をしっかり拾いつつ、僕の考えだけじゃなくて、キャストやクリエイターなど一緒に作っていく皆さんから出てくる要素をプラスしながら、みんながそこで生きている、息づいているような作品を作れればと思っています。

広崎うらん

広崎うらん

丘山 僕はアメリカのハッピーエンディングで育ってきたのですが(笑)、最近、ハッピーエンディングじゃなくても魅力的なものがある、ということがわかってきました。今回はその魅力を引き出せるようにがんばります。

鶴見 童話が長く引き継がれてきた理由の一つに教訓が含まれている部分があって、人間はこういうことはしてはいけないとか、こうあるべきだというメッセージが含まれているんですよね。そのことを自分で考えたり判断しながら、どんな大人になっていくかということが重要なんじゃないかなと思います。たとえば子供の頃、「玉手箱は絶対に小さいものにしておこう」と思っていたかもしれないけれど、いつのまにか大きい玉手箱を選ぶようになっているんじゃないかとか(笑)、友達を大事にしようとか諦めない気持ちを持ち続けようという思いを、ずっと持ち続けているかどうかとか。

またアンデルセンのお話の中には超自然的なものがいろいろ描かれていて、本作にも女王のセリフで「太陽の王と私とで、この星のあらゆる命を守っているのだ。夏と冬の力がうまく釣り合ってこそ、季節はめぐり、命は芽吹き、育つことができる」という一説があるんですけど、そのバランスが今崩れ始めているということはみんな薄々感じていて、それをなんとかしなきゃいけないとも思うのだけれど、どうしたらいいかわからないというのが、今の状況なのではないかなと。このことに改めて向き合って、地球という限られた星が1000年後、2000年後もちゃんと人間が暮らしていける星でいられるかどうかをちゃんと考えなければいけない。ミュージカル「雪の女王」はそのきっかけの一つになると思うので、まずは劇場に来て、舞台に触れてみてほしいです。

左から丘山晴己、広崎うらん、鶴見辰吾。

左から丘山晴己、広崎うらん、鶴見辰吾。

丘山 (深くうなずいて)海外だと授業の一環で舞台を観に行って、舞台の見方を教わったりするんです。でも日本では舞台にタッチすること自体があまりない。「雪の女王」は舞台にファーストタッチするいいタイミングですよね。

鶴見 うん。そういう意味では、舞台を目的の1つにして、旅の計画を立ててみるのも面白いと思いますよ。劇場でお芝居を観て、現地のおいしいものを食べたり、ほかの観光地に寄ったりして帰ってくるという風にすれば、その旅行が今までとは違う面白さを帯びてくるんじゃないかなと。そのためには、通ったばかりの北陸新幹線で福井に行くのは、もってこいだと思います(笑)。さらに劇場は社交場なので、ぜひ皆さんもおしゃれをして、一番自信のある自分を演出して劇場にいらっしゃると、気分もとても上がって楽しめると思います。

広崎 本当に、福井はこの季節最高ですよ! (公演が行われる)2月はカニも魚も美味しいし、蕎麦もソースカツ丼も飽きることなく、お米もお酒も水ようかんも!(笑) 福井の旬が楽しめる時期なのでとってもオススメです。そして、このミュージカル「雪の女王」はパイプオルガンありきの作品なので、この素晴らしいハーモニーホールふくいで、ぜひ、“ここで観る”という特別な体験を楽しんでいただけたらと思います!

プロフィール

広崎うらん(ヒロサキウラン)

バラエティタレント、役者として、テレビ、ラジオ、舞台などで幅広く活動。蜷川幸雄演出「ロミオとジュリエット」出演を機に初めて演劇の振付師として起用される。その後もジョン・ケアードに見いだされ、辻仁成、堤幸彦、など多様な演出家の作品に数多く携わる。2012年秋より文化庁新進芸術家海外派遣員として渡欧。ダンスパフォーマンス・REVO主宰。現在は、演出家、コレオグラファー、ステージングディレクターとして演劇、ミュージカル、オペラ、コンサート、テレビなど多彩なフィールドで活動。

鶴見辰吾(ツルミシンゴ)

東京都生まれ。1977年、12歳でデビューし、以降、テレビドラマ、映画、舞台等で活動。近年の舞台出演作にミュージカル「ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~」、ミュージカル「ボニー&クライド」、ミュージカル「Once」など。ハーモニーホールふくいには、2014年「ハーメルンの笛吹きおとこ」、2016年「ブレーメンのおんがくたい」、2018年「ガリバー旅行記」、2022年「雪の女王」(初演)に引き続き5度目の出演となる。

丘山晴己(キヤマハルキ)

東京都生まれ。日本舞踊家の父とバレリーナである母を持つ。1999年に渡米。2008年にミュージカル「Radio City Christmas Spectacular」のオリジナルキャストとしてデビューし、2014年にブロードウェイで上演された「The Illusionists」に初の日本人キャストとして出演した。近年の主な舞台に「魔法使いの約束」オズ役、韓国発ミュージカル「INTERVIEW~お願い、誰か僕を助けて~」ユジン・キム役、ミュージカル「チェーザレ 破壊の創造者」ラファエーレ・リアーリオ役、「『HUNTER×HUNTER』THE STAGE」ヒソカ役など。