「消えていくなら朝」蓬莱竜太×大谷亮介×大沼百合子×関口アナン×田実陽子×坂東希×松本哲也 座談会  (2/2)

新たな柱が立ち上がりつつある2025年版、初演との違いを楽しんで

──蓬莱さんの演出経験者は坂東さんのみですが、皆さん、蓬莱さんの演出にはどんな印象をお持ちですか?

関口 一緒に作っている感覚がとてもあります。アクティングエリアを蓬莱さんが1人で歩いている姿が印象的で、きっと役の気持ちを考えながら動き回られているのだと思うんですけど、そのように一緒にやりながら考えてくれているなと感じます。

大谷 いろいろと丁寧に考えてくださるのが、すごい安心感ですね。これだけ大人数の人たちが同じ部屋で話すわけですから、当然全然しゃべらない時間もあるわけですが、そのときにどこにいたらいいかといったことまで一緒に細やかに考えてくださいます。

坂東 アンカルのときにも感じたことですが、蓬莱さんは私たちと同じ目線に立ってくださり、違和感があるときに「どうだろうね、これは」とご自分の意見を言ってくれたり、一緒に考えてくれたりするんです。そうやって同じ目線に立ってくださるから、「なるほど」とスッと納得することが多いし、稽古が楽しいです。

大沼 蓬莱さんは、優しいと思います。どんな些細なことでも私たちの意見を一旦受け止め、受け入れてくれるから意見しやすいですし、一緒の感覚で考えてくれるから、「こんなこと聞いてもいいのかな」と思うようなことも図々しく聞けてしまう(笑)。……ということを一言で表すと、“優しい”ってことだと思います。

左から大沼百合子、松本哲也。

左から大沼百合子、松本哲也。

松本 蓬莱さんはそんなに細かく返し(稽古し)たりはせず、あるブロックをバッと流して、後からフィードバックをくれるのですが、一緒に“感じてくれている”印象を受けるので、こちらも相手役に対してしっかり反応したり感じたりしながら提示しなきゃいけないなという感覚にさせてくれます。いい意味での緊張を感じながら稽古しています。

田実 台本を持ちながらの稽古段階ですでに濃厚な演出をつけてくださっているので、それによってこの家族が身体になじんできた感じがします。ここからもっと稽古が進んでいったらどうなっていくんだろうと、ワクワク感と怖さがあり面白いですね。

蓬莱 稽古って、最終的に自由になっていくためにやっているんだと思うんです。最終的には、見たい人を見たり、気になる人を気に掛けたりしながら会話ができるようになって、そこからいろいろなことを感じられるのが良いと思っていて。それに向けて今、僕も含めて、夢中で手探りしている状況なんです。だから演出としては今が一番楽しいししんどいときだし、今後はどんどん役者がしんどくなっていくことが望ましい形だと思っています。

──2025年版は、初演とはまた違った作品として立ち上がりそうですね。

蓬莱 個人的には、この作品が全部終わった後に、初演を見返したいなと思っていて。「俺たちはこう作ったけれど、初演ではどう動いていたんだろう」とか、初演にはなかったエピソードが一部出てくることで、登場人物や作品の見え方がどう変わるのかとか、見てみたいなと。ただ、今稽古をしながら、本当に初演とは全然違う作品になるんじゃないかなと思っています。初演を楽しんでくださった方にとっては、それが楽しいことになるのかどうかわからない部分もありますが、演出や役者が違うというだけではなく、作品が持っている大きな柱が初演とは違うのかなという気がしています。でもそういった違いが生まれるのが演劇の楽しさだし、初演をご覧になった方にも初めてご覧になる方にも、ぜひ今回の上演を観ていただきたいなと思っています。

左から坂東希、松本哲也、大沼百合子、関口アナン、大谷亮介、田実陽子、蓬莱竜太。

左から坂東希、松本哲也、大沼百合子、関口アナン、大谷亮介、田実陽子、蓬莱竜太。

プロフィール

蓬莱竜太(ホウライリュウタ)

兵庫県生まれ。劇作家、脚本家、演出家。1999年、劇団モダンスイマーズの旗揚げに参加。以降、全作品の作・演出を手がける。第53回岸田國士戯曲賞、第20回鶴屋南北戯曲賞、第27回読売演劇大賞優秀演出家賞、第6回ハヤカワ「悲劇喜劇」賞、2024年度バッカーズアワード演劇奨励賞を受賞。劇団外公演や自身がプロデュースする演劇ユニット・アンカルの作・演出、映画やテレビドラマなど映像作品でも幅広く活動している。11月に脚本を手がけた「醉いどれ天使」が上演される。

大谷亮介(オオタニリョウスケ)

兵庫県生まれ。俳優、演出家。1977年、オンシアター自由劇場に入団。1986年に東京壱組を旗揚げし座長を務める。第28回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞。近年の主な舞台出演作に「エドモン」「海を行く者」など。

大沼百合子(オオヌマユリコ)

東京都生まれ。俳優。1988年、宝塚歌劇団を退団。以降、テレビドラマ、映画、舞台で活動。近年の舞台出演作にぽこぽこクラブ「天才バカボンのパパなのだ」、ティーファクトリー「路上7 インパーフェクト・デイズ」、露と枕「橘に鶯」など。

関口アナン(セキグチアナン)

東京都生まれ。2016年にテレビドラマ「僕のヤバイ妻」で本格的に俳優デビュー。近年の主な舞台出演作に加藤健一事務所「グッドラック、ハリウッド」、小松台東「デンギョー!」、「まるは食堂2024」、ゾノノキカク「Crash」など。

田実陽子(タジツヨウコ)

大阪府生まれ。俳優。2005年に劇団方南ぐみに入団。近年の主な舞台出演作に「ガチゲキ!!復活前年祭」、アポックひとり芝居フェスティバル「APOFES2025」、東京タンバリン「猫と小判」など。

坂東希(バンドウノゾミ)

東京都生まれ。ダンス&ボーカルグループのFlower、E-Girlsの元メンバー。2012年、テレビドラマ「GTO」に出演し本格的に俳優として活動を開始。近年の主な舞台出演作にアンカル「昼下がりの思春期たちは漂う狼のようだ」、舞台「破天荒フェニックス」「芸人交換日記」など。

松本哲也(マツモトテツヤ)

宮崎県生まれ。日本映画学校・俳優科を卒業し、2010年に小松台東を旗揚げする。以降、全編宮崎弁で書かれた「デンギョー!」をはじめとする劇団公演や外部への書き下ろし・演出・出演、テレビドラマの脚本なども手がける。近年の主な舞台出演作に、作・演出も手がけた小松台東「デンギョー!」「ソファー」など。