春組のルーキーズは染谷俊之が演じる、大人でミステリアスな雰囲気を持つキャラクター・卯木千景。染谷はエーステ加入後、うわさに聞いていた「エーステは楽しい」をすぐさま実感したと振り返る。
大人気イケメン役者育成ゲーム「A3!」を原作に、2018年に舞台化された「MANKAI STAGE『A3!』」(通称エーステ)。春・夏・秋・冬という4つの組に所属する劇団員たちの日常や舞台に懸ける思いが、劇中劇・歌・ダンスを交えてみずみずしく描かれる本作は、原作が持つ魅力はもとより、“舞台愛”あふれる亀田真二郎の脚本、松崎史也の演出、多彩なキャストの演技によって舞台ファンの心をアツくしてきた。2024年10・11月には、そんなエーステ待望のライブ公演「MANKAI STAGE『A3!』~Four Seasons LIVE 2024~」が、約4年ぶりに開催される。
ステージナタリーでは、2022年スタートの「MANKAI STAGE『A3!』ACT2!」より加入した新劇団員を演じる染谷俊之、新正俊、吉高志音、輝馬にインタビュー。エーステのキャラクター29人が一堂に会するライブ公演に初参加する心境を聞いた。さらに特集内では、4人が観客や共演者へのメッセージを込めてブーケを作る企画も。それぞれのキャラクターのモチーフフラワーの本数を自身で選んでもらい、伝えたい思いがある相手にメッセージを贈ってもらった。祝祭的なライブ公演でキャストと共に“満開”な笑顔の花を咲かせるべく、まずは4人の思いに触れてみよう。
取材・文 / 大滝知里撮影 / 藤記美帆
ヘアメイク / 中元美佳[染谷俊之]、齊藤沙織、木下恭子スタイリスト / 小田優士
「カントク!オレたちを…咲かせてください!」をキラーフレーズに、役者たちを育成する「A3!」は、2017年にリベル・エンタテインメントよりリリースされたアプリゲーム。東京郊外にある演劇熱にあふれた街・天鵞絨町を舞台に、かつての栄光を失った借金まみれのボロ劇団、MANKAIカンパニーを再建するためのストーリーが展開する。ゲーム内では、失踪した父親を探す中でMANKAIカンパニーを訪れ、ひょんなことから主宰兼“総監督”を任された元舞台役者の立花いづみが、“監督”となり物語が進行する。劇団員たちのほのぼのとした日々のやり取りや、彼らが抱える問題、葛藤のエピソードを交えながら公演を重ね、人気劇団へと育てていく。現在はメインストーリーとなるACT4!が配信中で、ダウンロード数は800万を超える。
ゲームリリースの翌年となる2018年には、さまざまなメディア展開をする中、舞台版が誕生。観客を監督に見立てた設計で、春組と夏組を軸にした「MANKAI STAGE『A3!』~SPRING & SUMMER 2018~」が上演された。以降、現在までに計21作品が上演される、2.5次元舞台界のビッグタイトルへと成長。2.5次元舞台作品初となるテレビ・WEB・映画館の同時中継実施や、ラジオ番組の放送など、多方面で革新的な歩みを見せる。また、2021・2022年には実写映画「MANKAI MOVIE『A3!』」が2部構成で公開され、ステージを飛び出したエーステキャラクターたちがリアルな街の景色の中に息づくという新たな展開でファンを増やした。
共通項は“舞台が好き!”、観客と情熱でつながるエーステ
「A3!」に登場するキャラクターは、強い個性の持ち主ばかり。謎に包まれた異国の留学生(実は王子)、さんかくのことしか考えていないピュアな変わり者、劇団の経理を担当するエリートヤクザ、記憶喪失で行き倒れていた正体不明の男といった、現実にはなかなか出会えないようなキャラクターもいるが、彼らは共通して舞台に対する情熱を持っている。そしてそんな突拍子のない設定のキャラクターでも、舞台俳優の身体を介すことによって、いち人間としてのさまざまな側面が立ち上がり、どこか共感できるところを持った“身近な”人物として捉えられるようになる。
さらにエーステの“演劇愛”は、舞台ファンの心をわしづかみにする、構成の巧みさからも感じ取れる。日常風景や稽古シーンと歌満載の劇中劇が順に展開し、そしてラストのショーパートと、劇団員たちが芝居・歌・踊りに奮闘する姿がテンポよく描かれているのはもちろん、監督(観客)は劇団員たちが目の前のステージに向かって切磋琢磨し、絆を深め、きらめく笑顔を見せるまでの“成長の過程”を、1つの物語の中で共に体験することができる。“演劇が好き!”を原動力に生きるキャラクターの思いと、監督自身の舞台への思いが重なって、演劇の素晴らしさを再確認し合うようなエネルギーとパッションの循環が生まれる。“舞台愛”を共通言語に、エーステは舞台ファンに愛されるべくしてヒットした舞台シリーズだと言えるだろう。
そんなエーステのライブ公演「Four Seasons LIVE 2024」では、本公演とは異なり、過去の作品を彩る楽曲の数々がライブ形式で披露される。さらに今回は、2025年3月に始動する「MANKAI STAGE『A3!』ACT3! 2025」を目前に、「MANKAI STAGE『A3!』ACT2!」シリーズの集大成となる内容が繰り広げられ、エーステ初となる、春・夏・秋・冬の組をまたいだ劇団員のミックス公演が計6作(「ウラオモテTEACHER」「駆け巡る」「The Luminous Circus」「ラスト・ランウェイ」「陰陽の宵」「Scarlet Mirror」)、回替わり上演される。また、冬組・御影密役に新たにキャスティングされた木津つばさが、このライブ公演で初登場する。
エーステでは2021年8月から2022年2月にかけて、トルライこと「MANKAI STAGE『A3!』Troupe LIVE」が各組持ち回りで実施された。トルライも公演楽曲を楽しむことができるライブ公演だったが、新型コロナウイルス感染症予防対策により監督の声出しはできなかった。今回の「Four Seasons LIVE 2024」が、エーステにとって声出し解禁後初のライブ公演となる。そんなお祭りのような公演で、エーステのキャストと共に心ゆくまで歌い、叫び、目いっぱいの“舞台が好き!”を体感しよう。
千景はライブをしなさそうなタイプ、でもそこは監督さんへの感謝の気持ちで
実は、エーステの夏組・秋組のメンバーとは、まだ作中で共演したことがないので、今回、彼らと一緒に出演できることがうれしいですね。千景はどこか影があるキャラクターで、ライブなんて絶対にしなさそうなタイプ(笑)。少し難しさも感じていますが、日頃の監督さんへの感謝の心でカバーして、みんなと一緒に、千景なりに盛り上がれたらと思っています。
僕が千景としてエーステに参加してから2年、役に対する印象も、自分自身にも、変化があったと感じています。登場時の千景には、当時は植田圭輔くんが演じていた御影密に復讐するために、“MANKAIカンパニーをぶっ壊すんだ”という気概がありました。でもその気持ちも、ストーリーが進むうちに解けていき、最後は千景が春組の“家族”の一員になる。次に出演した冬組単独公演(「ACT2! WINTER 2023」)ではもう、千景がシトロンを全力で助ける役回りになり、180°人が変わったようなんです(笑)。2023年の春組単独公演(「ACT2! SPRING 2023」)では、かなり“なじんだ”感覚がありました。“なじんだ”のは僕自身もそうで、エーステに携わる前は、俳優仲間に「エーステは楽しい」と聞かされていて、「何がそんなに楽しいんだろう?」と不思議でした。でも、千景役でエーステに参加して感じたのは、キャストが素敵で、2018年から上演されているシリーズだけあって、スタッフ、俳優、クリエイターの絆が強く、何より作品に愛があふれていたことでした。本当に「エーステって楽しい!」でしたね(笑)。
今回は、千景の入団のきっかけとなった密と第六回ミックス公演「Scarlet Mirror」に挑戦します。新たに密を演じる木津つばさくんは、器用で、アツくて、礼儀正しくて、面白いうえにセンスもあって、僕は大好き。ひっきりなしに舞台に出演されている理由がよくわかる、素敵な俳優さんです。どんな化学反応が起こるのか、楽しみですね。
千景はライブをやらなさそう、とは言いましたが、一番大事なのは、来てくれた監督さんにいかに楽しんでもらえるか。エーステの普段の公演では、僕らの日常を客席からのぞき見るような特殊な感覚がありますが、ライブ公演では舞台上と客席の一体感がより増すんじゃないかなと思っています。それに、実は春組以外の公演でも、千景はそのとき姿が見えないだけで、劇団の寮にいたり、監督さんが観ているシーンの少し前までリビングにいたりする。ライブ公演では劇団員が一堂に会し、彼らの生活が具現化されるので、実際のMANKAIカンパニーの姿をお見せできるのが今から楽しみです。
ルーキーズが思いを重ねて花束に
染谷は卯木千景のモチーフフラワー、すずらん3本分のメッセージを贈ってくれた。
気楽で元気に見えて実は繊細な部分がある、夏組ルーキーズの兵頭九門。九門のような明るさをたたえながら笑顔でインタビューに応えた新正俊は、夏組参加で「俳優としての新たな武器を手にした」と話す。
エーステで“アドリブ武者修行”を完遂、夏組のみんなとライブでカントクを笑わせたい!
僕はエーステの楽曲がすごく好きで、初めて出演した公演ですごくたくさんの歌を歌わせていただけたことが、とても幸せでした。今度はライブ公演で、エーステの楽曲をどんなパフォーマンスでお見せできるのか。客席で声が出せない状況も落ち着き、昨年の夏組公演で初めてカントクの声を聞くことができたので、より大きい会場で新たに出会うカントクの声を聞けることが、楽しみで仕方がありません。
2021・2022年に行われた各組のトルライでは、ステージ上のみんながすごく楽しそうだったのが印象的でした。今回は4組24人がそろうので、どんなライブになるのかとドキドキしています。僕は歌手のライブ映像を観るときに舞台機構や照明、演出など細かい部分に目が行ってしまうのですが、今回のライブ公演でも面白い演出があれば良いなと。もしポップアップ(飛び上がるための装置)があるなら、九門は誰よりも高く飛べると思います(笑)。
最初から夏組のみんなが僕を支えてくれようとしている気持ちは感じていたのですが、僕自身が本当に“溶け込めた”と実感したのは、2作目の秋組単独公演(「ACT2! AUTUMN 2022」)に夏組全員がゲスト出演したとき。5分のアドリブシーンを31公演、毎回内容を変えてやったんです。夏組6人で間を持たせなければいけないのに、台本に書かれたネタをやったのは本読みのときだけで、本番では毎回自分たちで決めてやりました(笑)。そのとき、“九門と、九門を支える夏組メンバー”という構図から、全員で横一列のスタートラインに立てた気がしたんです。僕はもともとシェイクスピアなどの古典をやってきて、台本の一言一句を変えないように教わってきましたが、この秋組単独公演で苦手だったアドリブも克服できた気がします。その後、2023年の夏組単独公演(「ACT2! SUMMER 2023」)では、「SHI★NO★BI珍道中」で事前打ち合わせなしのアドリブをしたんです。どうすればカントクや共演者を笑わせられるか、本番中もずっと考えていて。斑鳩三角役の本田礼生くん、三好一成役のともちゃん(赤澤燈)が僕のアドリブに本気で笑う姿を見て、より自信が付きました。今ではアドリブも“どんと来い”です(笑)。
今回は、春・夏・秋・冬の組がそれぞれ別の方向性でライブ公演を盛り上げると思います。夏組はただ騒がしくしているだけでその空間を成立させてしまう、明るさとパワーが魅力。九門が入る前の夏組5人時代の曲を歌うのならば、そこに混ざって散らかしていきたいですね(笑)。6人体制になって夏組の中の関係性も変わり、過去の楽曲にも変化があるかもしれない。6人になった夏組のライブ公演をみんなで楽しみたいです。
ルーキーズが思いを重ねて花束に
兵頭九門のモチーフフラワー、アサガオを1本だけ選んだ新。1本のアサガオに込めた大きな思いとは。