「家族のはなしPARTⅠ」草彅剛インタビュー|人生の波が来てるなって感じる

達人たちに、僕は僕で返していく

──これまで草彅さんは、どちらかと言うとシリアスな物語や、非日常的な世界観の舞台に多数出演されてきました。今回のように“普通の人”を演じる草彅さんは、むしろ新鮮な印象を受けます。

草彅剛

実は今回、芝居をするのをやめようと思っていて。特に2話は、例えば今のように、普通に話している感じでいこうかなと考えているんです。普段は舞台だと、アクティブに動いてお客さんの目線を動かすのが好きなんですけど、今回はそんなに動かないほうが、えみと弦太郎の関係性がより伝わるんじゃないかと。そういった点で、確かにこれまでの舞台とはまったく違うアプローチになっているんですが、ある意味、日常の僕には近いのかもしれないなと思います。

──つか作品で共演されたお二人が、今回は日常的な作品で自然体に夫婦役を演じられるとは、不思議な時の流れを感じます。

そうですね。それこそ、つかさんの舞台は身体を使って階段落ちしたり、床をゴロゴロと転がり回ったりしましたから……。でも実は今回、「蒲田行進曲」のヤスと小夏の関係にちょっとだけつながりを感じている部分があるんです。ヤスは銀ちゃんから小夏の面倒を見ろと言われて共同生活を始め、徐々に狂気に陥っていくわけですけど、その狂気に陥る前、「蒲田行進曲」では描かれていないところで、ヤスと小夏の慎ましやかで幸せな生活もあったんじゃないかと思っていて、それを今回の弦太郎とえみの関係性に感じるんです。そのせいか、演じていると真奈美ちゃんに対してすごく熱い愛情が湧いてくることがあって。本当に縁に感謝と言うか、真奈美ちゃんに感謝と言うか(笑)、こういう芝居は初対面ではできなかったような気がするし、この19年間、僕にとって真奈美ちゃんが気持ちのうえですごく密接にあったからこそできる距離感だと思うので、時間が育て上げるものがあるんだなあと実感していて。やっぱり僕は、つかさんに見出された部分がたくさんあって、そのときに真奈美ちゃんがそばにいて、2人共つかさんが出発点なんですよね。だからこそ19年経った今でも響き合うものがあるんだなって。そういう僕らの気持ちがあれば、あえていろいろ動かなくても伝わるものがきっとあると思うので、2話はストレートに勝負しようと思っています。

──そんな互いを支え合う夫婦に、クセのある登場人物たちが絡んできます。弦太郎は彼らのアクションを、1人で受けて立つ感じになりますね。

そうですね(笑)。きな子ちゃんは、ある日の稽古で急に僕の上に乗ってきたんです。それで覚悟してたら、次はもうやらなくて(笑)。成志さん、畠中さんは職人技ですし……とにかく皆さん上手いので、それを受けて立つのは大変です(笑)。でもライブ感があるお芝居は楽しいですし、“達人”の方がいろいろと仕掛けてくるのを、僕は僕で返していくぞ、という気持ちでやっています。

人生の波を感じる

──コンスタントに舞台出演が続く草彅さんですが、一緒にお仕事される演出家、劇作家の顔ぶれが非常に多彩で、また作品ジャンルも古典から現代劇、さらに音楽劇までと非常に幅広いのは、どのような思いからなのでしょうか?

草彅剛

舞台に限らず、やったことがないことをやりたいと思っています。新しい人に興味があるし、人によってやり方も違うから、彼らによって自分の新しい一面を引き出してもらえると言うか、違った自分になれるんじゃないかと思うんです。それに、冒険するのは楽しいじゃないですか(笑)。「これ、どうなるんだろう?」と迷うことが好きと言うか、最初からゴールや着地点が見えているものは、あんまり自分の中でハネないんですよね。失敗したら失敗したでいいと思いますし……。もちろん以前ご一緒した方ともぜひまたお仕事したいと思うし、僕はいただいた仕事を断ることはほとんどないので、常にいかに自分の間口を広げておくかが大事かなと。

──そういう意味で、今回の「家族のはなしPARTⅠ」は草彅さんの“間口”をさらに広げる作品となりそうです。

そうですね。「バリーターク」や「音楽劇『道(La Starada)』」は非日常的な世界からインパクトを与えてお客さんの感情を揺り動かす芝居だったんですけど、今回は日常の感情の中でお客さんの心を揺り動かしたいです。今回、個人的にもすごく思い入れがある舞台になると思っていて。新しい地図を始めて1年半になりますが、新たな環境の中で2本舞台をやって、そのどちらもとても印象深い作品になりました。今思い出しても最高だったなと思うし、「あのメンバー、今どうしてるかな」とふと思う、かけがえのないものになったんです。今回も何か、そういう人生の波を感じますし、平成が終わって令和になるタイミングで、また真奈美ちゃんと一緒に稽古ができて、こみ上げてくる感情があって、さらに京都で公演ができて……いろいろなタイミングが重なった今、この舞台をやることができて、いい舞台にならないわけがない!(笑) 本当にいろいろな意味で、僕の人生の波が来てるなって思います。

──公演期間の約1カ月、京都での滞在生活で楽しみにされていることはありますか?

うーん、公演がうまく進んで、出演者のみんなで鴨川を見ながらちょっと1杯やれたらうれしいですね。

──5月は季節的にもよさそうですね。ちなみに草彅さんの京都滞在中、クルミちゃんは……?

シッターさんに頼んで留守番かなあ。だから最近、僕よりシッターさんが好きになってしまって(笑)。クルミの中でシッターさんは、ついて行ったらいつも楽しい人。でも僕は留守番させたり、お風呂や歯磨きをしたり、嫌なことをする人という思いがあるみたいで、シッターさんのところへすぐ飛んで行くんですよね(笑)。まあでもクルミはまだ2歳で、ワンちゃんライフは長いですから。「こういうときもあるんだよ、それを踏まえて主人のことを信頼してくれよ」って、クルミにはいろんな経験をさせなきゃと思ってます。

草彅剛