これまで数々の難役に挑んできた草彅剛が、新作舞台「家族のはなしPARTⅠ」ではあえて芝居をせず自然体で、犬と“普通の人”役に挑戦する。つかこうへいの「蒲田行進曲」以来、19年ぶりの共演となる小西真奈美へのあふれ出る思い、愛犬クルミを参考に挑む犬としての役作りなど、ユーモアと情熱と好奇心を武器に邁進し続ける、俳優・草彅剛の現在とは? 「人生の波が来てるなって思う」と自身が語る、その真意に迫る。
取材・文 / 熊井玲 撮影 / 金井尭子
衣装協力:エトロ〈エトロ ジャパン〉
クルミが役作りの“ため”になってます!
──草彅さんと小西真奈美さん、池田成志さんが参加された3月下旬の合同取材会では、皆さん、「早く稽古がしたい」とおっしゃっていました(参照:「家族のはなしPART I」に向け、草なぎ剛「飼い犬のことを考えつつ演じたい」)。お稽古は順調に進んでいらっしゃいますか?
いろいろとやることが多いので、1つひとつに挑戦しつつ、楽しみながら作っている感じですね。カンパニーとしては、成志さんと真奈美ちゃん、畠中(洋)さん、(小林)きな子ちゃんと、全員の呼吸が合ってグルーヴ感が出せれば、いい芝居になるんじゃないかな、と。
──本作は、淀川フーヨーハイ作・演出の「わからない言葉」、あべの金欠作・演出の「笑って忘れて」の2本立て公演となっています。第1話「わからない言葉」は、夫婦と飼い犬を軸にした作品で、人間と動物、日本人と外国人など言葉が通じない相手とのコミュニケーションをコミカルに捉えた作品です。草彅さんは、夫婦の愛犬ハッピー役を演じられますね。
犬の役なんてやったことがないので、稽古が始まってからも「お客様はこの作品をどう観るのかな、不思議な感じがするんじゃないかな?」と考えながら演じています。ただ、犬の役だけど特に犬のような仕草をするわけではないし、お客様も最初は「不思議な男がなぜか部屋にいる」と思うくらいなんじゃないかな?
──役作りとして、ご自身の愛犬クルミちゃんを参考にするとおっしゃっていましたが、逆に日常生活の中でクルミちゃんと「通じてるな」と感じることはありますか?
ありますよ。今朝も外出の準備をしていたら、足元にペタッてくっついてくるんですよ。普段は呼んでも寄ってこないのに、僕が荷物の支度を始めると急にかわいらしい感じで……でもその様子が確かにめちゃくちゃかわいい!(笑) 「今日は連れていけないよ」って言うんですけど、わかっててそうしてるんだなってことはこちらにも伝わってくる。やっぱり人のことをよく見てるんですよね。そのことひとつ取っても、クルミは本当に役作りのためになっています。特に1話目は余白が多いと言うか、あまりト書きが書き込まれてはいないから、どういうふうにも演じられる部分があって、“動きは人間だけど感情はクルミ”でやっています(笑)。そうそう、クルミも映像出演するんですよ。で、犬の僕と会話するシーンがあるんです。本当に“クルミ様様”ですね。
真奈美ちゃんと、だからこそ
──第2話「笑って忘れて」では、笑うと記憶を失う奇病にかかってしまった妻とその夫の物語が描かれます。草彅さんは、小西さん演じるえみを寛大な心で支える、夫の弦太郎役を演じられます。
真奈美ちゃんとは19年前の「蒲田行進曲」でヤスと小夏を演じて以来の共演ですが、「笑って忘れて」は、僕と真奈美ちゃんだからこそできるお芝居になっているんじゃないかと思います。と言うのも相手によってすごく印象が変わるお話だと思うし、弦太郎とえみの関係性を、初対面の相手といきなり作り出すのはちょっと難しかったかもしれません。その点、僕と真奈美ちゃんは昔、つかさんの演出で1日10時間ぐらい稽古をやってきた経験がありますからね(笑)。関係性が最初からできあがっていると言うか、特に演じようとしなくても2人の空気感でできるところがあります。あとは僕が、膨大な量のセリフを覚えるだけです……(笑)。
──(笑)。ただ小西さんも、2話のえみ役にはプレッシャーを感じているようでした。
すごく難しいと思いますよ、彼女は記憶障害の役ですからね。ちょっと身内で褒め合ってる感じになりますけど(笑)、真奈美ちゃんが本当に素晴らしくて! そんなに感情の起伏が激しい物語ではないんですが、それでもあふれ出る思いみたいなものを真奈美ちゃんは作品から鋭くキャッチして表現するし、僕にもそれが伝わってくる。すると僕の中からも思いがあふれてきて……この思いは、果たして何なんだろうなって思います。真奈美ちゃんとは、作品に対して持っているイメージや方向性が一緒だなと感じるし、それをそのままお客様に伝えることができたら、本当に素晴らしい舞台になるんじゃないかと思います。
──1話と2話をまとめて「家族のはなし」とタイトル付けられていますが、2つの物語から草彅さんはどんなキーワードが浮かびましたか?
簡単に言えば、愛や家族愛ということになると思うんですけど、さらに突き詰めると、日常の幸せとか人の生き方とか……。この作品をご覧になったお客様が、ご自分の家族のことを思ったり、「私は幸せなのかな」とか「今日は幸せだったな」と、ご自分の日常を振り返っていただく機会になったらいいなと思います。
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達人たちに、僕は僕で返していく