東京芸術劇場「カノン」野上絹代×渡辺いっけい 対談 / キャスト座談会|野田さんとは面白いと思う瞬間が似てる気がする

「東京演劇道場」の軌跡─日々是好日─<その3>

2019年の年末に、リロ・バウアーによるワークショップが行われた。バウアーは、サイモン・マクバーニー率いる劇団コンプリシテの「ルーシー・キャブロルの三つの人生」などの作品に出演している女優・演出家。東京芸術劇場ではこれまでにも、バウアーによる経験者向けの演劇ワークショップが展開されており、今回は道場生を対象に、約2週間にわたって多彩なプログラムが実施された。

リロ・バウアーによるワークショップの様子。(写真提供:東京芸術劇場)
リロ・バウアーによるワークショップの様子。(写真提供:東京芸術劇場)

稽古場を訪れると、道場生たちは3人ずつのグループになって、ストレッチを行っていた。2人が腕と腰を前後に引っ張ると、引っ張られている1人はヒーヒーと声にならない声を上げる。「気持ちいい!」「これは1人じゃできないな……」など、道場生たちが漏らすさまざまな感想を、バウアーは笑顔で聞いていた。

続けてバウアーは「ミニオペラをやってみましょう」と声をかけ、全員で円を作る。1人が円の中心に入って指揮を執り始めると、ほかのメンバーはそれに合わせて、異なるテンポの手拍子と足拍子、ボイスパフォーマンスで“オペラ”に参加した。このワークは非常に盛り上がり、大きな声とリズムが稽古場を満たした。

その後、2つのグループに分かれ、今度は短い小説を用いたワークが展開。数名の人物が集まったある場所に、男が1人やって来る。彼の発言は集団に気まずい波紋を広げ……。セリフはほとんどなく、道場生たちは小説の“地の文”に書かれた些細な情報から登場人物たちの心情を汲み取り、仕草や表情でそれを表現する。バウアーは各グループの発表が終わるごとに、まずはよかったところを褒め、続けて「(ストーリーの)フォーカスをクリアにするには、こういう位置関係にしたほうがよかったのでは」「小道具をこう使ってもいいのでは」とアドバイスを与える。その言葉を道場生たちはうなずきながら聞いていた。

リロ・バウアーによるワークショップの様子。(写真提供:東京芸術劇場)

休憩を挟んで、今度は音に反応して感情のテンションを変える稽古が行われた。掃除や家事、仕事など日常的な動きをしているところで、バウアーが手を叩くと、それぞれの動きに変化が起きる。1回目の合図では異変を感じて辺りを見回し、2回目で心配が募り、3回目はパニック、4回目は大きなリアクションを起こす、という内容だ。バウアーは道場生たちの動きを見ながら「どんな空間にいるのか意識して」「焦りの変化が見えるように」と、道場生たちの意識がクリアになるように声をかける。何度かワークが繰り返されたあとの、「気持ちと同時にフィジカルなテンションを作ることが大事」というバウアーの言葉に、道場生たちは納得の表情を見せた。

演劇ジャーナリスト・徳永京子が語る「芸劇eyes」& 「eyes plus」の10年<その3>

東京芸術劇場が注目する、次代を担う若き才能を発掘するシリーズ「芸劇eyes」「芸劇eyes番外編」「eyes plus」。10年目を迎えた今年度は、「芸劇eyes」に玉田企画、「eyes plus」に贅沢貧乏、鳥公園、ワワフラミンゴ、てがみ座、烏丸ストロークロックがラインナップされた。このコーナーでは、同シリーズに企画立ち上げから関わっている演劇ジャーナリストの徳永京子が、シリーズ10年の歩みと今後について、3回にわたって振り返る。最終回となる今回は、「芸劇eyes」からその先の展望について聞く。

「芸劇eyes」ロゴ
「eyes plus」ロゴ

「芸劇eyes」がスタートして10年が経ち、これまで多くの作・演出家、俳優、スタッフの皆さんに、主にシアターイーストを使っていただきました。その中から、岩井秀人さんや藤田貴大さんのように、プレイハウスでも作品を手がける方たちが出てきてくれたのは、1つの劇場として喜ばしいことだと思います。プレイハウスは座席数が800以上ある劇場ですから、並大抵の演出力では舞台空間を埋められません。藤田さんは20代だった2014年の「小指の思い出」、さらに「ロミオとジュリエット」(2016年)、「BOAT」(2018年)と3作品で経験を積んでいて頼もしいですね。昨年、パルコ・プロデュース「世界は一人」を作・演出した岩井さんは、個人的な体験を繊細に伝える作風で知られていますから、あの広い空間をどう使うのか、実は期待と心配が半々でしたが、心配不要の素晴らしい作品でした。

また、今年11月にモダンスイマーズさんがプレイハウスに初進出されます。前述の藤田さんが初めてプレイハウスで演出されたのは野田秀樹さんの戯曲だったので、劇団の新作戯曲で、しかも出演者が劇団員中心で、というケースは例のないこと。モダンスイマーズ初の時代劇になるそうで、ぜひ応援していただきたいと思います。

「芸劇eyes」のラインナップは劇場の担当者から「ここはどうですか」と名前が挙がってくる場合もありますし、私から提案することもあります。前者の場合、自分がそこを知らなければ観に行って、いいと思えば賛成し、思わなければその理由を伝えて皆さんと協議します。後者の場合は、劇場の担当者の皆さんにご覧いただいたり、戯曲や映像を劇団からお借りして私がプレゼンしたりして決めていきます。私自身が「芸劇eyes」に参加してほしいと思うのは、劇場の個性から、ある程度の広い世代に訴求できる作風と一定のクオリティ、そして“演劇の未来に開いている”ということでしょうか。表現やテーマなど、演劇の新しい可能性に挑戦しているか。その点で、2019年度の「芸劇eyes」にラインナップされた玉田企画さんは、一定のクオリティを持ちつつ、今の空気を感じさせてくれる劇団だと思います。

この連載の第1回でお話した通り、「芸劇eyes」にお声がけする条件には以前、「動員1000人くらいの若手の劇団が対象」というものがありました。でも数年前から芸劇の方に言っているのは、そういう劇団は今、ほぼないということ。若い作り手たちは、「小さい場所でいいから確かなものを伝えたい」という指向が強く、劇場すら使わなくなっています。ですから今後は、アトリエイーストとウエストを会場にするケースなども増やして、「芸劇eyes」自体が変わる必要があると考えています。どうすることが、作り手も観客も含めた若い世代に開いていくことか、皆さんと相談しながらさらに考えていきたいと思います。

まだ観られる、これから観られる「芸劇eyes 」&「eyes plus」

2019年度に上演される「芸劇eyes 」&「eyes plus」を徳永のポイント解説付きで紹介するこのコーナー。今回は、人気作「今が、オールタイムベスト」を3月に新たなキャストで再演する、玉田企画をフィーチャーする。

玉田企画「今が、オールタイムベスト」

2020年3月19日(木)~26日(木)

徳永コメント

玉田企画さんは、現代口語のウェルメイドの1つの形だと思っています。一定のクオリティがあり、お客さんもしっかりと集めることができている。さらに最近は、映画作りやドラマの脚本と活動の幅を広げています。今回は再演なので、好評だった初演をさらに練り上げ、面白いものを見せてくれるはずです。お得意の毒も、芸劇のお客さんにも楽しんでもらえるのではないかと思っています。

玉田企画「今が、オールタイムベスト」

2020年2月28日更新