舞台手話通訳者は“ジョジョのスタンド”?樋口ミユ×加藤真紀子×高田美香×水野里香が挑む、舞台手話通訳付き公演「楽屋─流れ去るものはやがてなつかしき─」 (3/3)

舞台手話通訳はこうして出来上がっていく!
舞台手話オンラインレクチャー

ここでは舞台手話レクチャーを実施。加藤、高田、水野が「凛然グッドバイ」で使われた3つの手話表現を実演と共に動画で教えてくれた。

1つ目は、「在る」「まだ、在る」「また在る」という3つの「在る」というセリフが連続するシーン。「在る」を手話で直訳すると“ここに存在する(開いた手を、指先を相手に突き出す形で静止させたあと、上下に動かす)”という意味だが、そこに「まだ」や「また」のニュアンスが加わると、「在る」の手話表現自体にもさまざまな可能性が生まれてくる。その違いを表現するのが手話通訳者の腕の見せどころだ。

「“まだ在る”は、“ここに存在している”という手話表現ではなく、“まだ(右手を振る)ここに(左手に右手を重ねる)残っている”という表現を使いました。そして“また在る”は、普通は“再び(右手を、手の甲を相手に見せながら横向きにチョキにする)在る”と使いたくなるんですけど、文脈から、“また(胸元に左手を握りしめて置いて)在る(そこに右手を添える)、というような日本語の解釈をしました」(加藤)

続けて、「いつしか、また会う」と「いつか、また会う」。文字面では似た表現だが、手話に翻訳すると大きく表現が変わる。

「“いつしか、また”は、遠い未来。なので、“遠い未来(開いた右手を、親指を握る形で前へ、そのまま手の甲を見せる形でピースサインを左側に向けて突き出す)で会いましょう(両手の人差し指同士を中央で出会わせる)“としました。“いつか”は、近い未来というニュアンス。なので、“いつかまた(開いた右手を二度軽く前後に振ったあと、そのまま手の甲を見せる形でピースサインを右側に向けて突き出す)会いましょうね(両手の人差し指同士を中央で出会わせる)”」(高田)

3つ目は、センのセリフの中で度々登場する「言葉になる前の言葉」という表現。同じフレーズでも、前後の文脈や登場人物の感情により手話表現は異なる。

加藤は、自身が手話通訳を担当したパートでは「言葉(両手の人差し指を口元で動かす)に、なる(左胸から右手指で作った丸を離す)前(右手で右肩後ろを仰ぐ)の言葉(両手の人差し指を口元で動かす)」と表現したが、水野は「言葉(両手の人差し指を口元で動かす)が、心から生まれる(胸に円を書いてそこから手を取り出す)イメージで表現した」そう。こうした翻訳作業では、手話通訳者たちが議論を重ねて、作品に沿った最もわかりやすい表現を模索するのだと言う。「だから台本は書き込みだらけなんです」と高田は楽しげに笑った。

レクチャー後、樋口は「私も一生懸命、俳優と一緒に手話をやったなあというのを思い出しました」と感慨深そうに振り返る。さらに樋口は「あんなに詩的な表現を教わったのに、昨日廣川さんにお会いしたとき、咄嗟に出てきた手話はこれだった(笑)」と、“お疲れ様”を意味する手話(片方の手を握りこぶしにし、腕を2度叩く)を披露。これに加藤、高田、水野は笑顔を見せ、「あと“うれしい(胸元で手を動かす)”とかね(笑)」と日常で使う手話を繰り出す。樋口も「“お疲れ様”の手話は、稽古のあとみんなでやっていたので。やっぱり日常で使っていた表現は、記憶に定着しますね」と笑顔を浮かべた。

左から加藤真紀子(画面内)、樋口ミユ、高田美香(画面内)、水野里香(画面内)。

左から加藤真紀子(画面内)、樋口ミユ、高田美香(画面内)、水野里香(画面内)。

プロフィール

樋口ミユ(ヒグチミユ)

1975年、京都府生まれ。劇作・演出家。1994年から2011年にかけて劇団Ugly ducklingで活動し、2012年にplant Mを立ち上げる。第7・8回OMS戯曲賞大賞、NHK FM「飛ばせハイウェイ、飛ばせ人生」で放送文化基金賞ラジオドラマ部門を受賞。近年の上演作に演劇ユニットnoyR「Beautiful Land」「アイデアル」「重奏 マッチ売りの少女」「ニーナ会議-かもめより-」、Plant M「『君ヲ泣ク』×『ラズベリーシャウト』」など。

加藤真紀子(カトウマキコ)

手話通訳士。TA-net舞台手話養成講座2018年度受講。

高田美香(タカダミカ)

手話通訳士。TA-net舞台手話養成講座2019年度受講。

水野里香(ミズノリカ)

手話通訳士。TA-net舞台手話養成講座2019年度受講。