シネマ歌舞伎「三谷かぶき 月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと) 風雲児たち」松本幸四郎&市川染五郎 対談|三谷幸喜監修のシネマ歌舞伎化で、作品として進化!

「決闘!高田馬場」に続く、三谷幸喜の新作歌舞伎第2弾「三谷かぶき『月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと)』風雲児たち」が、シネマ歌舞伎に登場。鎖国の時代にロシアに流れ着いた17人の漂流者たちが、日本帰還を目指して苦闘する様を描いた本作で、松本幸四郎は船頭の大黒屋光太夫、市川染五郎は水主の磯吉を演じた。本特集では、幸四郎と染五郎に、作品や自身の役に対する思いを語ってもらった。

取材・文 / 川添史子 撮影 / 平岩享
ヘアメイク / (幸四郎)KUBOKI(ThreePEACE)、(染五郎)AKANE
スタイリスト / 川田真梨子
衣装協力 / (幸四郎)ラルフ ローレン、(染五郎)ポール・スミス リミテッド

シネマ歌舞伎で、作品として進化

松本幸四郎

──三谷幸喜さんが作・演出を手がけ話題となった「三谷かぶき」が、ついにシネマ歌舞伎に登場。観られなかった方はもちろん、とにかく印象的な場面が多い作品だけに「もう一度観たい」と思っていらっしゃる方も多いかと思います。

松本幸四郎 三谷さんが監修として映像編集に参加してくださって、シネマ歌舞伎にも関わってくれたというのは、とてもうれしいことです。事前に「新しい『月光露針路日本 風雲児たち』をお目にかけたい」「映画作品として成立するものを」ともおっしゃっていて、さらにすごいことになるだろうという期待と確信はありましたが……自分が出演している舞台で「ほら、やっぱり面白くなったでしょ」と言うのもヘンですけれど(笑)。作品として進化し、舞台を再現するための映像化ではないと感じました。

──染五郎さんは映像をご覧になってどう感じられましたか?

市川染五郎 自分の出ている舞台は記録映像などでは確認しますが、こうして映像作品として観るのは、どこか不思議な感じがしました。舞台に立っていたら自分のお芝居は絶対に観られませんので、客観的に1人の観客として楽しめた気がします。

「三谷かぶき『月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと)』風雲児たち」より。 「三谷かぶき『月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと)』風雲児たち」より。

八嶋智人から染五郎に、毎日課題が……

──原作はみなもと太郎さんの長編歴史ギャグマンガ「風雲児たち」。鎖国で外国との交流がなかった江戸時代後期、乗り込んだ商船が遭難して異国ロシアに漂流し、さまざまな困難・運命と闘いながら故郷日本を目指した大黒屋光太夫のパートが歌舞伎化されました。染五郎さんは17人の乗組員の1人、磯吉役。三谷作品らしい喜劇的な場面やセリフも多い難しいお役に挑んだ息子さんを、幸四郎さんはどうご覧になりましたか?

「三谷かぶき『月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと)』風雲児たち」より。 市川染五郎

幸四郎 公演の前年、三谷さんと2人っきりで食事をしたんですね。そのときに光太夫の話はどうかとご提案いただき、僕自身、三谷さんの考えがベストだと思っていたので、すぐに「それでぜひお願いいたします」とお返事しました。で、そのときに三谷さんが「染五郎くんに出てもらいたい」とおっしゃってくださったんです。今後、染五郎が俳優を続けていくうえで、感情をしっかり動かして役を作る経験ができるといいなと思っていたので、素晴らしい機会をいただけました。三谷さん、そして初日が開いてからは(日本が大好きなロシアの博物学者ラックスマンを演じた)八嶋智人さんが染五郎にいろいろアドバイスをくださって……。(染五郎に)毎日、課題が出ていたんだよね?

染五郎 毎日、ご自分の出番を終えた八嶋さんが、ラストの船の場面に僕が出ていく5分前に「今日はこうしてみよう」と課題を出してくださっていました。いろいろとつきっきりで教えてくださったのが本当にありがたかったですし、千穐楽に「自分が今までやったパターンで一番良いと思ったものをやってご覧」とおっしゃってくださったときは、とてもうれしかったです。

──昨年、高麗屋襲名巡業の口上で、磯吉の淡い恋のお相手アグリッピーナを演じた市川高麗蔵さんが、「舞台の上では私が染五郎さんの初恋の人です」とおっしゃっていたのがほほ笑ましかったのですが(笑)、磯吉はロシア娘と恋愛もし、ロシア語も覚え、どんどん頼もしく成長していきます。染五郎さんご自身も日々舞台の上で成長されていたわけですね。

染五郎 一番年下で、仕事ができなくて、怒られてばかりだった磯吉ですが、僕はいつも一生懸命な磯吉が好きなんです。その懸命さをしっかり出したいと思っていましたし、「日本に帰りたい」という強い意志を持ち続けているところは惹かれる部分で、どうにか表現したかったところです。磯吉は最初の場面では17歳ですが、最終的には27歳になっています。外見的にも内面的にも、この成長を表現するのは一番難しい部分でした。なので、最後の船の場面では一番大きくなった磯吉をお見せしないといけない……見せ場でもあり、プレッシャーもありましたけれど、一番思い出に残っていますし、大好きな場面です。