平井優子とパフォーマーたちが語る「Disco on the planet」ダンス×現代サーカスで、劇場を宇宙に (2/2)

生きる身体を感じてほしい

──本作の舞台は、人がいなくなった近未来の惑星です。惑星に“もともといた人”と惑星を“訪れた人”が遭遇し、無人の劇場がディスコになる……といっても、荒涼感や寂寞感はなく、生物やオブジェクトが時を忘れて、静かに場を共有しているような印象を受けました。

平井 ここで舞台としている“planet”つまり惑星は、地球かどうかもわからない場所を想定しています。そこが温暖化なのか寒冷化なのか、誰も住めない場所になってしまって、外では惨事が繰り広げられているのに、ディスコにいる人たちはそれに無関心。だけど宇宙のような広い世界にあこがれている。何かを忘れるように踊りながらも、未来に向かっていく様子を描きたいです。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

──皆さんは作中でどのような役割を担いますか?

堀田 私はもともといる人……側かな? お面をかぶって動物のような生体になるシーンがあるので、人間というよりは生物なんじゃないかと思っています。

吉田 私は乱入者(笑)、になると思います。

一同 あははは!

土屋 “いる人”と“来る人”の遭遇という点では、今回この作品に集まったメンバーとの人間関係がそのまま重なるなって思っていて、それが今回のテーマであったりするのかなって。人間誰しも新しい環境、新しい人間関係と出会ったときに、自分のテリトリーと自分以外のテリトリーという部分を感じるというのは普遍的なことですが、今回は「Disco on the planet」というディスコをモチーフにしているのが面白味の1つと言いますか、イメージを掻き立てるものがあると思うんです。私自身、これまで出会ったことがない人たちとの遭遇を楽しみながら取り組ませていただいております。

平井 土屋さんが言われたように、ここで出会うことが初めての人がほとんどなので、踊りや身体を通して関係性ができていく過程を、ドキュメントのようにリアルに舞台上に載せるのがいいと思っています。なので、きっかけは“先住者と侵略者”みたいな、今分けている関係性になりますが、時間の重ね方や関係性の作り方、衝突の末、どう向かっていくのかということが楽しみだし、クリエーションを進めながら感じるままに出てきたものを構築できたらいいなと。最終地点をあまり決めないで発車している感じですし、いかにポジティブに生きていくのか、生きている強さみたいなものは出したいなと思います。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

──リハーサルを拝見し、ここからさらに発展しそうな作品だなと思ました。「ハレノワから世界基準の作品を」と目指す本作、まずは初演を多くの方に見届けてほしいですね。

土屋 そうですね。岡山に住んでいる方はもちろん絶対に観てほしいですし、県外の方もこの公演をきっかけに岡山へ足を運んでもらえるとうれしいです。岡山でこんな面白いことをやってるということをぜひ知ってほしいです。普段私は舞台とは全然関係ない、ある意味対極にあるような仕事をしていますが、こういう世界があるということをいろいろな人に届けたいと思います。

堀田 私は広島出身なんですけども、このお話をいただいたときすごくうれしくて。地方でこんな大きないい作品は、自分の経験上観られなかったんですね。地方の活性化というか、ハレノワという素晴らしい施設で上演できることがうれしいし、ハレノワのプログラムの中にも非常に表現の幅があるので、「コンテンポラリーはちょっと難しいな」という人にとっても今回は観やすい作品になるじゃないかと思うので気軽に観に来てほしいです。

中川 パフォーマンス作品ではありますが、映画を感じるというか……人生という物語を体感できる作品という印象を感じたので、バレエやコンテンポラリー、サーカスなどパフォーマンスや舞台が好きな方にはぜひ観ていただきたいです。

吉田 今作では舞台機構を見せる演出になっていて「すごくカッコいいな」と思いながら演じさせていただいています。またダンサーの多様さももちろんですが、映像、音楽、照明などいろいろなスタッフワークがこれだけ集結することはすごいことだなと思っています。

平井 そうですね。「ダンスって難しい」とよく言われますけど、この作品はダンスだけじゃない、いろいろな要素がありますし、音楽が好きな方は音楽を楽しんでいただいたり、照明の美しさを感じたり、いろいろなアンテナに引っかかるような作品だと思うので、これまであまり舞台をご覧になったことがない方にもぜひ来ていただきたいです。同時に体感型の作品でもあるので、映像で観ただけではわからない、劇場でしか味わえないものをハレノワの客席でぜひ感じていただきたい。生きる身体をご覧いただけたらと思います。

左から中川愛生、堀田千晶、平井優子、吉田亜希、土屋望。

左から中川愛生、堀田千晶、平井優子、吉田亜希、土屋望。

「Disco on the planet」舞台稽古レポート

「Disco on the planet」の稽古は2025年初夏にスタートした。岡山に拠点を置く平井優子は、岡山芸術創造劇場ハレノワの開館前から劇場と多数の接点があり、今回、ハレノワからの依頼によって新作を立ち上げることになった。“ハレノワから世界基準の作品を”と掲げる本作は、ダンサーとサーカスアーティストがコラボレートするジャンルクロス作品となる。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

夏の稽古では、平井を中心に、パフォーマーたちがそれぞれ普段やっていること、できることをプレゼンしつつ、お互いを“知っていく”ような稽古だったが、9月末に中劇場を使って行われた舞台稽古では、美術、照明、音楽、映像などのスタッフも一堂に会しての壮大な“実験”となった。

9月末に稽古場を訪れると、ちょうど3人のパフォーマーが舞台に立ち、映像と照明のタイミングを合わせているところだった。平井はマイクを持ち、最初は演出席の近くにいたが、そこにじっとしていることはなく、スタッフそれぞれのところに歩いていき何かを確認をしたり、舞台に近づいてパフォーマーに直接声をかけたりと、ずっと動き回っていた。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

宇宙を舞台にした本作では、舞台の闇を生かした暗めのシーンが多い。稽古では、舞台監督の大鹿展明がパフォーマーたちの意見を細やかに聞きつつ、平井とともに、安全性と芸術性の際を攻める調整を繰り返し続けた。たとえば、6本のパイプを立体的な三角形に組んだテトラを使った目黒宏次郎のパフォーマンスでは、テトラの動きがダイナミックになるのに合わせて、照明効果のストロボが光り出す演出だったが、テトラを上に持ち上げたときに手元が見えなくなる可能性があるとわかり、照明の吉本有輝子が目黒や大鹿に何度も確認しながら、光らせるタイミングや照明の位置を根気強く調整した。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

また舞台中央にフープを吊るすエアリアルのシーンでは、13台のライトがフープを囲むように半円形に配置され、エアリアリストの吉田亜希がフープに乗ってテストが行われた。暗闇の中、照明に照らされたフープは金色のリングとして輝き、幻想的な印象を与えたが、それが完璧に美しく輝くようにと、平井と大鹿、リガースタッフが高さを何度も確認したり、照明の吉本が一つひとつのライトの高さをメジャーで測ったり向きを変えたり、綿密な調整が続けられた。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

さらにその日は、照明と音、映像だけのテストも行われた。平井がパフォーマーたちに「このシーンの動きはまだできていませんが、どういうシーンになるか、客席から観ておいてください」と声をかけ、12分間の音と光のパフォーマンスが行われた。日野浩志郎が手がけるスピード感のある音楽、小西小多郎が生み出す立体感のある映像、生き物のように動く照明……ここにパフォーマーたちの身体が加わることで、どんな作品世界が立ち上がるのか、胸が高鳴った。

その日の稽古はそこで終了し、パフォーマーたちは楽屋に引き上げたが、スタッフたちは一カ所に集まって、すぐに“作戦会議”が始まった。「優子さんはあのシーンをどう見せたいか」「こっちのやり方もあるのではないか」などスタッフからさまざまな質問や意見が出るたび、平井は静かにうなずき、穏やかな口調ながらはっきりと自身の意見を伝えていた。それぞれのプロフェッショナルが多彩なアイデアを盛り込む「Disco on the planet」。その幕が上がるのは、もうすぐだ。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

「Disco on the planet」舞台稽古の様子。

プロフィール

平井優子(ヒライユウコ)

1990年代後半から東京を拠点にダンサーとして活動。のちにフランス、現トゥルーズ・オクシタニー国立振付センターにて振付法などを学ぶ。2001年以降、ダムタイプのメンバーとしてクリエーションや世界各都市での公演に参加。その後、高谷史郎(ダムタイプ)や中谷芙二子など他ジャンルのアーティストとのコラボレーションを中心に活動。バレエダンサーのための振付委嘱作品や自身のソロプロジェクト、ミュージシャン、能楽師との共演など活動は多岐にわたる。2016年度第17回福武文化奨励賞受賞。

堀田千晶(ホリタチアキ)

広島県生まれ。金森穣率いるNoismにて2年間研修を経て、2008年からNDTllに3年間所属。2011年からスウェーデンの ヨーテボリオペラダンスカンパニーに3年半所属。2015年バットシェバアンサンブル舞踊団に入団。在籍中Gaga講師の資格を取得。2018年よりバットシェバ舞踊団に入団。2024年退団し現在国内外でフリーランスとして活動中。

吉田亜希(ヨシダアキ)

幼少期からの体操競技の経験を生かし、エアリアルパフォーマンス、ダンスや演劇などの身体表現を学ぶ。2019年からは香川に活動拠点を移し創作も行う。近年ではオリジナルのサーカス器具で現代サーカス作品を創作し、国内外で発表。また他ジャンルのアーティストと共に創作するプロジェクト”RUTeN”、インターナショナルプロジェクト”Crossing”も並行し国内外で共同制作を行なっている。

土屋望(ツチヤノゾミ)

岡山県出身。地方公務員。小学生のころにダンスを始める。岡山大学でダンス部に入部し、コンテンポラリーダンスに取り組む。「アーティスティック・ムーブメント・イン・トヤマ2013」特別賞および「座・高円寺ダンスアワード」選出。「横浜ダンスコレクション2017」新人振付家部門ファイナリスト。現在、岡山を中心に自主公演を行うなど、ダンス活動を行っている。

中川愛生(ナカガワアオ)

5歳よりバレエを始める。2016年、英国王立スコティッシュ芸術大学舞踊科サマースクールにスカラシップで参加。2018年ボリショイバレエ学校サマースクール参加、同年11月から年間留学。出演作に平井優子作品「ボレロ」、中国二期会創立50周年記念オペレッタ「こうもり」など。「アジアングランプリ」(2015年)第4位、「けんみん文化祭ひろしま`23洋舞フェスティバル」(2023年)最優秀賞。C3 QUEST FOR BALLETメンバー。