「ダンステレポーテーション」展トークレポート
8月7日にスタートし、9月13日まで開催中の「『ダンステレポーテーション』展 ~時空を超える振付、浮遊する言葉と身体~」は、ダンスを“展示”するプロジェクトだ。もともとDaBYのオープニング企画として5月に開催予定だった「都市のなかの身体遊園地」が、新型コロナウイルスの影響で中止になったことから企画されたプロジェクトで、振付ディレクターを山﨑広太が務める。本企画では、山﨑がそれぞれに“振付”として書いたテキストをもとに、岩渕貞太、小暮香帆、小野彩加、金子愛帆、木原萌花、久保田舞、栗朱音、ながやこうた、幅田彩加、望月寛斗、横山千穂の11人が作品を制作。会場には11の作品が、山﨑のテキストと共に展示されている。
展覧会の初日前夜、8月6日にDaBYで行われたオープニングトークには、アメリカから来日中の山﨑と、小暮、金子、木原、久保田、幅田、望月、横山が登壇。遠隔で行われたクリエーションを経て、展示の開始を翌日に控えた彼らが思い、語ることとは。ここでは、展示の模様とトークの様子をレポートする。
トークは、サプライズで披露された山﨑の即興ダンスも含めて、10名ほどの観客を前に行われ、その模様はライブ配信もされた。まずDaBYのアーティスティックディレクター・唐津絵理が企画の経緯を説明する。本企画では、山﨑がすべての参加者にまずインタビューを行い、そこから得たインスピレーションを“綴る言葉”として11の詩的なテキストに変換。それぞれのダンサーは、自分に宛てられたテキストに“応答”する形で、映像や写真、テキストなどのメディアを通し作品を作り上げた。唐津は山﨑を「ダンスの既成概念に縛られない活動をされている方」と表現しつつ、「『都市のなかの身体遊園地』は中止になりましたが、多くのアーティストが創作の場所を失っている今、クリエーションを継続させることが重要だと思いました」と語った。
今回、アメリカから遠隔で創作を重ねてきた山﨑は、ダンサーたちと実際に会った印象を「中学時代、好きだった女の子と初めて話すことができたものの、思っていたのと違って、現実に戻されてしまった感じに似ていますね(笑)」と話し、会場の笑いを誘う。続けて「だから最初は違和感があってびっくりしたんですけど、徐々に溶け込んでいきました」と笑顔を見せた。
テキストで“振付”をした経緯を「コレオグラファーとしてできることは何なのか考えた結果、“言葉”を使うことに決めました。このような形式で振り付けるのは初めてだったのですが、書いてみたら意外と書けているな、と(笑)」と冗談交じりに述べる。さらに「驚いたのは、参加したダンサーたちのセンスの良さ。彼らは、いろいろなジャンルのメディアを横断しながらも、“ボディを通して作る”ということを提示してくれました。これは、日本のコンテンポラリーダンスではあまりやられてこなかった取り組みだと思います」とダンサーたちに視線を向けた。
続いて、作品を創作したダンサーたちが完成に至るまでのプロセスを語る。「広太さんのテキスト通りに踊りました」と話す小暮が作ったのは、天井に投影された映像作品「風の踊り」だ。観客は、こちらを見下ろすように踊る巨大な小暮を、下から見上げる形で鑑賞する。小暮は「“風”という言葉をキーワードに、風の強い日に屋上で撮影しました。直接会えないぶん、言葉やテキストをどうやって形に残すか、新しい創作の回路を使いましたね」と手応えを話す。虫を手に這わせたり、桃を握りつぶすなど、触覚に訴えかける映像作品「透過青片」を作った木原は、山﨑のテキストを読んで、透明なスクリーンに思い出が揺らめいているイメージが湧いたと言う。「テキストの、シーンが重なっていく構造を真似して、自分の“踊りたい”という感覚が動くような場面を集めました」と丁寧に意図を説明した。
「“大腿骨建築”というワードに混乱しました……」と、山﨑のテキストの独特な言語感覚に言及した望月は、自身のダンスシーンのほか、木材でオブジェを作る様子を収めた映像作品「重なる骨と空気の通る場所」を発表。「テキストを分解して整理し直したことで、言葉の意味が理解できました」と述べ、「もともと言葉や文字が苦手だったのですが、今回で言葉への壁がなくなった。作りたい映像にできたかと!」と自信をのぞかせる。ここで、トークの司会を務める制作コーディネーター・吉田拓から「望月さんが映像内で作ったオブジェは会場のどこかに置かれていますので、皆さん探してみてください」とアナウンスがあった。
「ダンステレポーテーション」で唯一の写真作品「飛んでいない鳥たち」を手がけた金子は、山﨑のテキストの第一印象を「長っ……と思いました(笑)」と率直に話し、会場を笑いで包む。「テキストから感じた、手触りのある質感や匂いから、撮り直しができない36枚撮りのフィルムカメラで作品を作ろうと決めました。撮影時には、広太さんの言葉が呪文のように頭をよぎり……(笑)。きっと、(山﨑が)リズム感を大事にして書かれていただろうなと想像した結果、リズムや時間の流れも意識しました」と微笑む。久保田は、複数の画面で自身が踊る動画が流れる映像作品「辿」を創作。「映像に身体を落とし込むにはどうしたら良いか、考えながら作りました。流す映像は同じでも、再生するタイミングを変えることで、テキストの過去と現在を行き来するイメージから時間が意識されるようにしたいと思って」と創作のロジックを解説した。
DaBYのアーカイブエリアの一番奥、壁に挟まれるような形で展示されている横山の映像作品「The inner part of a flame.」は、夜景で踊る横山の姿が印象的だ。横山は自粛期間中、自分と対話する時間が長かったことを話しつつ、「昔の記憶や、昔好きだったものを急かされずに思い返しながら、幼い自分が今の自分の中に隠れているイメージで創作しました。まとまりきらないいろいろな記憶を、まとまりきらずに作った作品です(笑)」と創作プロセスに触れた。DaBYの入り口近くに展示されている「落日のテレポーテーション」は、作者の幅田が洞窟のような暗闇で踊っている光景に、レトロなフォントでつづられた山﨑のテキストが重なる、幻想的な映像となっている。幅田はインスピレーションを受けた山﨑のテキストの一部をすらすらと読み上げたあと、「テキストから受けた“落ちる”というイメージを膨らませて、クリエーションでは離れては消えていく感覚を意識したんです」とコメント。また「企画がスタートした段階では、身体が登場をしないダンス作品を作ろうと思っていたのですが、いただいた文章を読んだら、『ああ……これは踊らないと駄目だな』と(笑)。山﨑さんの言葉を通して、振り付けをされている感覚がありました」とテキストが及ぼした影響を語った。
ダンサーたちの発言に対し、終始笑顔で頷きながら耳を傾けていた山﨑は、今回のクリエーションについて「自分のテキストが、“ほかのボディを通じてトランスフォームされていく”ということに、未来的な可能性を感じました。作品は、作ったらその場で消費されて終わりということが多いですが、この作り方であれば、場所も時間も越えて、どんどんつながっていくことができる。展示された作品が、今後どのようにトランスフォームしていくか楽しみですし、本プロジェクトを通して、新しいアートの世界が広がっていく予感がしました」と言葉に力を込めた。
会場には、トークに登壇したダンサーたちの作品のほか、岩渕、栗、ながやによる映像作品、そしてQRコードを利用した小野の作品も飾られている。印象的なのは、すべての作品の身体性だ。山﨑のテキストはいずれも、抽象的な文字の連なりの中に、肉体の感触を彷彿とさせる。そのテキストを元にした作品群にも生々しさが内包されているが、例えばそれは、ぬめった青白い裸体そのものだったり、潰れる果物や虫といった直接的に観客の触覚に訴えかけてくるものだったり、会場内に隠された作品を探し出す、観客自身の身体性だったりと、“生々しさ”の表現方法がダンサーによって大きく異なっている。観客は作品から読み取れる多様な身体感覚を通して、これがダンスの展示であることを体感するのだ。
さらに展示が回遊式であることも、作品の身体性のリアルさを浮かび上がらせる要因の1つとなっている。作品はDaBYのアーカイブエリアにとどまらず、DaBYの入り口前や、エレベーターを降りたBRICK North館1階、建物を出て1分ほど歩いた先にあるBRICK South館にも展示されている。場所を移動することで身体を動かし、五感を働かせながら展示を巡ることで、作品に現れる身体への共感度が増す。これは、ダンサーが街に繰り出すことで、ダンスの“拡張”を狙った前身企画「都市のなかの身体遊園地」のコンセプトに通じるだけでなく、DaBYが設立のミッションとして掲げる“拡張”を具現化しているとも言えるだろう。
TRIAD INTERMISSION vol.1「『ダンステレポーテーション』展 ~時空を超える振付、浮遊する言葉と身体~」
2020年8月7日(金)~9月13日(日)10:00~18:00
休館日:日曜日・月曜日
※最終日の9月13日(日)は開館
ダンスアーティスト:岩渕貞太、小暮香帆、小野彩加、金子愛帆、木原萌花、久保田舞、栗朱音、ながやこうた、幅田彩加、望月寛斗、横山千穂
インスタレーションパフォーマンス
2020年8月16日(日)※開催終了
出演:小暮香帆
2020年8月28日(金)
出演:小暮香帆、久保田舞、栗朱音、望月寛斗