Dance Base Yokohama 唐津絵理インタビュー / “ダンスの拡張”山﨑広太・岡田利規コメント|日本型ダンスハウスが拓く、新たな可能性

ダンスを“拡張”する、山﨑広太・岡田利規インタビュー

DaBY初年度のプロジェクトから、「ダンステレポーテーション」展と「『瀕死の白鳥』を解体したソロ」に注目。どちらとも、DaBYのオープニング作品として上演予定だったが、新型コロナウイルスの影響で上演形態や内容を大幅に変更し、公演時期をずらしての発表となる。「ダンステレポーテーション」展は、アメリカを拠点に活動する振付家・ダンサーの山﨑広太が、11名のダンサーと作り上げたダンス作品を“展示”する企画。一方の「『瀕死の白鳥』を解体したソロ」では、演劇作家の岡田利規がダンサーの酒井はなと共に、バレエ「瀕死の白鳥」を解体・再構築する。それぞれ、オンラインをベースに行われた創作の中で、彼らが発見した“ダンス”や“演劇”の新しい形とは。

身体を通過して発現されたものであれば、ダンスになり得る
山﨑広太(振付家・ダンサー)

──山﨑さんは「ダンステレポーテーション」へのステートメントで、“今回はダンサーとのオンライン対談を発端にしたコミュニケーションから作品を立ち上げていく”と書かれていました。オンラインでのインタビューが、身体的な距離を埋め、親密さを生むことはありましたか?

山﨑広太

やはり、プロジェクトを進めるうえで、僕はバーモント州でダンサーたちは日本にいる、という距離感が厳然としてあり、物理的に同じ時空間を過ごしたわけではないので、オンラインのコミュニケーションを通じて生まれた親密さ、という感覚はないです。ただこんなに離れているのに共存しているという不思議な感覚です。この感覚は、今後、未来に向けてのキーポイントになると思っています。

──「ダンステレポーテーション」は、約1カ月の“展示”として発表されます。観客にとって、どのようなダンス体験になってほしいと思いますか?

僕はムーブメント至上主義の振付家だったのですが、それだと袋小路になる可能性もあります。身体を通過して発現されたものであれば、どんなメディウム、方法を使ってもダンスになり得ることが可能だと今は思っています。それによってダンスの可能性は広がり、また、日常生活にも自然な形で浸透し、潤いをもたらします。それを少なからず体験できると思います。

──ダンサーにとって、DaBYがこれからどのような場所になることを期待していますか。

エスタブリッシュされたコンテンポラリーダンスだけでなく、実験性の高い、既存の価値をひっくり返すような作品や創作リサーチ、プロセスもバランス良くサポートしていける場所になることを望んでいます。それによって文化としてより広がりのある目に見えないコミュニティのようなものができ、柔軟で奥行きのあるプラットフォームとして機能するのでは。今までの劇場にはなし得ない、新しいエネルギーや磁場の創出を期待しています。

山﨑広太(ヤマザキコウタ)
1959年新潟県出身。振付家・ダンサー。舞踏を笠井叡、クラシックバレエを井上博文に師事。1995年から2001年までカンパニーrosy Co.,を主宰し、主にシアターコクーンを中心に国内外多数公演。アメリカ・ニューヨークに拠点を移した2003年にはKota Yamazaki/Fluid hug-hugを設立。2008年に設立された、ダンスを中心としたアーティストが主導するオーガニゼーション・Body Arts Laboratoryではプログラム・ディレクターを務め、ベニントン大学にはゲストアーティストとして所属。1994年に新人振付家の登竜門であるバニョレ国際振付賞(フランス)、2007年にニューヨーク・ダンス・アンド・パフォーマンス・アワード(ベッシー賞)、2013年に現代芸術財団アワードを受賞。2017年にニューヨーク芸術財団フェロー、2018年にグッゲンハイム・フェローに選出された。

“演劇の成立”を突き詰めて考える契機に
岡田利規(演劇作家、小説家)

──「瀕死の白鳥」の解体・再構築にあたり、キーとなった酒井さんの動きや言葉はありますか。

岡田利規©Kikuko Usuyama

はなさんの身体には「瀕死の白鳥」の動きが完全に叩き込まれている。1つひとつのシーンを踊るときに持っているイメージが明確にある。それをもとにしていけば、解体することと、オリジナルの持つ本質のいくら壊しても決して消えることのない部分との両立が可能に思えました。そう思えたことがキーになってます。

──岡田さんはこれまで「『未練の幽霊と怪物』の上演の幽霊」や「消しゴム畑」などの作品もオンラインで創作されてきました。オンラインでのクリエーションの面白さはどこにあると思いますか。

それ自体を、面白いとはさほど思ってないです。ただし、オンラインでクリエーションをせざるを得ない状況は、さまざまな、たとえば「演劇とはどのように成立しているものなのか?」とかそういうことを突き詰めて考えるのには大変な好機でした。その点は、とっても面白かった。

──オンラインを通して、これからさらに挑戦してみたいことがあれば教えてください。

どんなプロジェクトも1人でやるわけではない。その意味で、お金が必要です。オンラインのプロジェクトをお金にするための妙策は、僕には考えられない。誰か思いついてください。それが見つかったら、やりたいことはいくらでもあります。

岡田利規(オカダトシキ)
1973年神奈川県出身。演劇作家、小説家。1997年にチェルフィッチュを立ち上げ、2005年に「三月の5日間」で第49回岸田國士戯曲賞を受賞。2007年にデビュー小説集「わたしたちに許された特別な時間の終わり」を発表し、翌年第2回大江健三郎賞を受賞する。2012年から岸田國士戯曲賞の審査員を務める。2018年にはウティット・ヘーマムーンの小説を原作にした新作「プラータナー:憑依のポートレート」を、タイ・バンコクで共同制作・上演し、フランス・パリ、東京でも公演を実施。同作で第27回読売演劇大賞選考委員特別賞を受賞した。2020年には、新型コロナウイルスの影響で中止となった「未練の幽霊と怪物ー『挫波』『敦賀』ー」の一部をオンライン上演する「『未練の幽霊と怪物』の上演の幽霊」の作・演出を務める。現在、チェルフィッチュと美術家の金氏徹平が共に手がける「消しゴム」シリーズのオンライン版「消しゴム畑」を配信している。