Dance Base Yokohama 唐津絵理インタビュー / “ダンスの拡張”山﨑広太・岡田利規コメント|日本型ダンスハウスが拓く、新たな可能性

DaBYを開放し、ダンスファンを集める

──「あつまる」には、「OpenLab『ダンサー言葉で踊る』」シリーズと「DaBY talk Live」が分類されました。

「ダンサー言葉で踊る」は、作品を観ただけではわからない、作品の成り立ちや動き、思考などのバックボーンを観客の皆さんに知っていただくことで、作品の理解度が上がればと思い、実施しているトークライブです。ダンサーには身体で表現するから必要ないと、言葉で説明することを不得意とする人も多いのですが、自分がやってきたことを自身の言葉で説明していくことも重要だと思っていて、このトークを、話すことに挑戦するきっかけにしてほしいなと。

8月27日に行われる「ダンサー言葉で踊る」vol.2にはヒューストン・バレエ団プリンシパルダンサーの飯島望未さんに出演していただくのですが、彼女はバレエを身近に感じてほしいという思いから、シャネルのアンバサダーを続けているそうなんですね。そういうアピールの仕方は、新しいチャレンジだなと思います。また9月12日のvol.3には島地保武さんにご登場いただきますが、飯島さん、島地さん、そしてホストの小㞍さんにはトークだけでなくデモンストレーションもお願いしているので、そちらもぜひお楽しみに。

OpenLab「ダンサー言葉で踊る」vol.2ビジュアル

OpenLab「ダンサー言葉で踊る」vol.2

2020年8月27日(木)

ゲスト:飯島望未

ナビゲーター:唐津絵理

ホスト:小㞍健太

OpenLab「ダンサー言葉で踊る」vol.3ビジュアル

OpenLab「ダンサー言葉で踊る」vol.3

2020年9月12日(土)

ゲスト:島地保武

ナビゲーター:唐津絵理

ホスト:小㞍健太

DaBY talk Live vol.7ビジュアル

DaBY talk Live vol.7

2020年8月16日(日)※開催終了

出演:湯浅永麻、鈴木竜

観るだけでない、思考するダンスも

──「あつまる」と「むすぶ」の境界線上には、8月15日に第1回が行われ、26日に第2回が控えているOpenLab「子どもダンスワークショップ」と、9月3日に行われるTRIAD INTERMISSION vol.2「『瀕死の白鳥』を解体したソロ」プロセストークがラインナップされました。

「子どもダンスワークショップ」は、せっかく一流のダンサーが集まる場所なので、ぜひ小さな頃から本物の体験をしていただきたいなと思い、夏休みに合わせて企画しました。

TRIAD INTERMISSION vol.2「『瀕死の白鳥』を解体したソロ」プロセストークは、オープニング記念イベントの1つとして5月に予定されていた、TRIAD DANCE PROJECT「ダンスの系譜学」シリーズの1作品を巡るトーク企画です。オープニングに予定していた「TRIAD DANCE DAYS」で中止になった作品も、いつか実現したいと思っていて、アーティストやスタッフと対話を重ねながら、それまでのプロセスを「INTERMISSION=幕間」として、トークやショーイングなどで紹介していくことにしました。

「ダンスの系譜学」は、神奈川出身の女性ダンスアーティストにフォーカスしたプログラムです。安藤洋子さん、酒井はなさん、中村恩恵さんの3人が影響を受けた巨匠振付家のオリジナル作品とご自身の新たな創作という2部構成によって、ダンスの振付をアカデミックに捉え直すことを目的としたプロジェクトで、「瀕死の白鳥」にはダンサーの酒井はなさんとチェルフィッチュの岡田利規さん、チェリストの四家卯大さんが参加しています。実はこのプロジェクトも4月1日から稽古開始予定だったのですが、コロナで公演自体が来年に延期になったため、それ以降、週1のペースでZoomを介して、岡田さんが書いたテキストをもとに実際にはなさんが動いてみる、という稽古を行ってきました。トークでは、はなさんと四家さんのデモンストレーションとそのプロセスに関してお話しいただく予定です。また「瀕死の白鳥」以外にもあと2つ、安藤さん、中村さんのプロジェクトも進行しており、9月24日に開催される中村さんの「TRIAD INTERMISSION」では、イリ・キリアンさんについて語っていただき、彼への特別インタビューも披露いただく予定です。

OpenLab「子どもダンスワークショップ」ビジュアル

OpenLab「子どもダンスワークショップ」

2020年8月15日(土)、26日(水)

講師:小㞍健太

TRIAD INTERMISSION vol.2「『瀕死の白鳥』を解体したソロ」稽古の様子。

TRIAD INTERMISSION vol.2「『瀕死の白鳥』を解体したソロ」プロセストーク

2020年9月3日(木)

ゲスト:岡田利規、酒井はな、四家卯大

ナビゲーター:唐津絵理

目指すのは、ダンスの環境を変えていくこと

──コロナによって、舞台芸術界には厳しく息苦しい状況が続き、これまでのような形で劇場公演を行うことが難しくなってきています。しかしだからこそ、DaBYのようなクリエーションの場が、今後より重要になってくるのではないでしょうか。

唐津絵理

そうですね。これまで私たちは、常にゴールを設定して生きてきたなと思っていて。劇場で作品を観せるということもそうですし、先を見通して何かを行うことが、これまでは重要でした。でも先が見通せない今、この状況下で何をやっていくのか、そしてそれをどういったタイミングで誰とシェアするか……答えは出ないかもしれませんが、問い続けることが重要だと思います。

──公演を最終目的としたクリエーションではなく、継続や実験のためのクリエーションであれば、例えば育児や介護などで思うように自分の時間が作れない人たちにとっても、ダンスを続けていくチャンスが増えそうですね。

これまでのインタビューではまだあまり話してきてはいませんが、アーティストのみならず、ダンスに関わる人たちの働く環境を変えていくことも、目標の1つです。私自身、大学生の子供が2人いますが、2人目が生まれたときは身動きが取れなくなってしまって本当に大変でした。でもここであれば、例えば子供を連れて来てもらっても構わないし、コロナによって遠隔でもできることの幅が広がったと思うので、ダンスに興味がある人が、ダンスに関わり続けられる環境を作っていけたらなって。思いはあるのに、さまざまな理由でこれまで辞めていく女性の制作者もたくさん見てきましたので、彼女たちが仕事を続けていけるようにしていきたいですね。

なんでも1人でオールマイティにこなす日本の制作の在り方には無理があると思っていて、例えば経理が得意な人、文章を書くのがうまい人、クリエイティブなことが好きな人がいるように、DaBYに興味がある方にはぜひ、ここで自分に何ができるかを見つけてほしいなと。実は現在、コロナで留学が延期になってしまった方が何人かDaBYに関わってくれているのですが、その方も留学したらサヨナラではなく、留学先でリサーチしてDaBYの助けとなることだってできるかもしれない。そのように自分の居場所がここにできれば、長く関わり続けることができると思うんです。

この数カ月の間にたくさんの方が興味を持ってくれて、ダンスのために何かしたいとコンタクトしてきてくれています。「やりたい!」と情熱を持っている人材はいるんですよね。そんな若い人たちにダンスの未来を託せる環境を作ることが、私の今後の使命の1つですし、テクニカル面でサポートしてくださる若い方にももっと関わってほしいと思っています。

コロナによってできなかったことや直面した課題はもちろんありますが、新たな可能性を感じることや発見も多く、それらに向き合うことに対して、DaBYは相当ポジティブです!

唐津絵理(カラツエリ)
DaBYアーティスティックディレクター / 愛知県芸術劇場シニアプロデューサー。お茶の水女子大学文教育学部舞踊教育学科卒業、同大学院人文科学研究科終了。1993年から愛知芸術文化センターに初の舞踊学芸員として勤務し、2014年より愛知県芸術劇場シニアプロデューサーに就任。10年から16年まで「あいちトリエンナーレ」でパフォーミングアーツ部門のキュレーターを務めたほか、文化庁文化審議会文化政策部会委員、全国公立文化施設協会コーディネーター、第65回舞踊学会大会実行委員長等を歴任。ネザーランド・ダンス・シアター(NDT)や、バットシェバ舞踊団、ローザス、イスラエル・ガルバン等の海外招聘を行うほか、ダンスオペラ「神曲」(H・アール・カオス、辻本知彦、和栗由紀夫ほか)、「ありか」(島地保武、環ROY)など、ジャンルを横断した新作を企画、再演することで、日本のダンス界の課題に取り組んでいる。これまで200を超えるプロジェクトをプロデュースしてきた。